最強の魔道師に成り上がって、人気者のアイドルをやってるんですけど、燃え尽きて死んじゃうぐらいやらないとダメな前のめりな性格なんです。

ちちんぷいぷい

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決意

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アリアは、ソフィアの手を取り
癒しの魔法に、力を注ぎ続けていた。

主君でもある、アレクシスが
心配そうな顔で、見つめている。

「……」

今にも目を開けて、息を吹き返しそうなぐらい
ソフィアの顔色が、よくなっているのが
つらくなってしまい、アリアを苦しめる。

このまま、魂が去ってしまった
身体に、癒しの魔法を続けても
目を開ける事が、永遠にない事はわかっているからだ。

これ以上何もできないなら、いつものように
救いとして差し出した手を離し
あきらめて、顔をうつむけなければならない。

抜きん出た癒しの力は
命を見捨てる選択を、アリアに強いてきた。

並の魔道師達は
魂が去ってしまえば、身体も癒すこともできなくなり
神の定めた運命の前に、諦めるしかなくなってしまう。

己の力のなさを正当化し
神に罪をなすりつけることは、悪しき闇の救いだ。

アリアは常に苦しんできた、力が届かない自分の罪に。

自分が、デュランに、必要だと願い出た
1000年の時を超えて、守り抜かれてきた
貴重な宝物が、全て、ここに揃っている。

戦いが、終わっているとはいえ
たしかな秩序が、あるわけもない戦場に
主君のアレクシスが、勇気を振り絞り
自らの意思で、初めて立っている。

天馬に乗り、主が目の前にいるのは
自ら宝物を運ぶと、周囲を驚かせる
決断をしてみせた事で
反対する臣下を、全て黙らせたのだろう。

少し怖がりな所があるのを
主が必死で隠しているのは、わかっている。

戦いの場に、防具一つ、着けずに来たのは
自分の無茶な願いを、叶えるために
急いで、来てくれたのだ。

「……」

誰が降らしたかも、わからない雪は
水の精霊の力を操る、水の巫女アリアでさえ
驚くほどの、限りなく、白く、美しい結晶を見せていた。

ソフィアばかりに集中していたが
空を見ると、自分が、到着するのを待っていたかのように
舞散るの、止めつつあった雪が
アリアの決意を促すように、今は完全に止んでいる。

雪を降らしたのは、指輪を差し出してくれた
白い綺麗なマントを着た、少年なのかもしれない。

右手の中指には
青く澄みきった美しい魔石が埋め込まれた
白銀の指輪が、差し込まれている。

指輪を差し出して
ソフィアを救うために
協力してほしいと願いでた
少年から、受け取ったものだ。

少年との約束を果たさなければならない。

貴重な宝物として、守り抜かれてきた
伝説の古代エリサニア帝国時代ものとされる
魔道師の服装は、秘密にされていて
同盟国のラーラントでさえ、本物を
一度も、見せた事は無い。

儀式用のレプリカは、正式な物とは異なっているのだ。

本物は、見た目だけでなく
人間とは思えない、何者かが、強力な力を吹き込んだ
魔法の糸で、全てが、編みあげられていて
纏う者の魔力を、最大限まで高めてくれる。

少年を最初に見たときに
敵の魔道師ではないと判断したのは
シーザリアには、伝わっていないはずの
秘密にしていた、宝物と特徴がそっくりな
銀で装飾された、白いマントをギルが、纏っていたからだ。

「はじめます」

「巫女…… 魂を奪った死の支配者に
この魔法が立ち向かえるかは、わかりませんぞ」

「全て承知の上です、フェステル」

運命の死を迎えてしまった者の魂を
取り戻そうとすれば、神の怒りに触れてしまうのは
フェステルでなくても、わかる事だ。

運命を定めた神の意思に、真っ向から逆らう者には
何らかの厳しい罰が下される事は想像がつく。

取り戻そうとした命と同等のもの……。

アリアのたった一つの命ーー。

「アリアさま、ここは、慎重に考えるべきです」
「やはり無茶です、どうか、お辞めください」
「火の巫女を、救われたい、お気持ちはわかりますが、しかし……」
「アリアさま、まで、失う事になれば、我らはどうすれば」

魔道師達は、執行しようとする古代魔法の結果に
興味もあり、少し興奮気味になり、結果を確かめたいと思っていた。

しかし、冷静になると、魂が完全に抜け去った者までを
救うという、困難さに、目を向け、気付かざるを得ない。

「ありがとう、でも、構いません」

決して、譲らないという、決意を秘めている
アリアを、誰も止めることはできないと感じた
フェステルが、魔道師達の意見を遮った。

「全ては、巫女が決められた事、黙りなされ」

少しでも、気に迷いが生じているのなら
フェステルは、辞めさせるつもりだったが
アリアの決意は硬い。

フェステルは新たな指示を魔道師達に行った。

魔道師達も、最長老のフェステルが
毅然とした意思を、示したことで
アリアを止めるのは無理だと判断して、諦めたようだ。

静かに礼をした後、別行動を取っていた
ミストラルの魔道師達と合流して
傷ついた兵士達への癒しを
行うために、近くの馬に乗り、この場から離れて行く。

渓谷に降る、雪は完全に消え去り
少し前まで、白くなっていた、息は限りなく、透き通っていた。




ステリオ渓谷を流れている、大河ヴィーズは
川幅が狭くなっているため
流れも早く、長い時間の中で
川底が削られていき、渓谷の中でも
深く窪んだ、低い場所を流れている。

行き交う者達を潤し
給水や、水浴をして、疲れを癒せるように
少し急な下り坂となっている
坂道が、はるか昔からあり
水辺へ近づけるようになっている。

聖なる大河の流れは
まるで、死者の住まう、冥界の入り口のようだ。

死者が生まれかわるためには、記憶を消す
冥界に流れる川の水で、喉を潤さなければならない。

死者の国へ向かう場所が、川だというのは
全てを忘れたはずの魂の記憶が
蘇ってしまったかのように、いつの時代も同じだ。

「ベルナルド様、ソフィアの身体を運んでください」

「ヴィーズまで、ですね、アリア様」

「はい、清らかな水の力を、借りねばなりません」

「わかりました」

「誰よりも強く、ソフィアのことを、想いつづけて、下さい」

アリアは死者の国にいる魂の記憶を
つなぎとめるためなのか
ヴィーズまでの、短くない道のりを
ソフィアの身体を運んでいる間も、強い想いを込めつづけ
自分の足で、歩いて欲しいと願いでる。

「殺しても死なねえ、不死身の男とやりあうとか、死神も運がありませんぜ」

大勢の敵を前にして、たった一人の戦いを耐え抜いた事について
ベルナルドから、何が起きていたのか聞いていた
ラッセルも、いつもどおりで、こういうときは常に強気だ。

「ああ、いってくるぞ、ラッセル、必ず、二人で戻ってくるからな」

「ベルナルド、巫女殿を必ず取り戻して、来るのだ」

「そのつもりです、叔父上」

「ふむ、我らは何もできませんが、お頼みします」

「全て、我らの巫女に任せて下され」

「ふむ、王子、アレクシス様が、お待ちのようですぞ」

宝物のシルバーロッドを大切に胸に抱きかかえた
アレクシスが、ベルナルドが来るのを待っている。

「では、いきましょうベルナルド様」

「はい、アリアさま」

自らの王国を護るための、決戦を終え
鎧を脱ぎ去った若者が
大河ヴィーズの水辺に
たどり着けるように、作られている
死者の魂が歩んでいくような、坂を降りていく。

ラーラントの王太子ベルナルドの
両腕には、大切な人の身体が、抱きかかえられている。

坂を降りていく、列の先頭には
宝物である、シルバーロッドを落とさないように
大事そうに、両手と、胸で抱きしめている
ミストラル公国の君主である、アレクシス。

その後ろには、白銀のティアラを
上に置いて、織りたたまれている
白いローブを下から両手で
大切そうに支えて、持っているフェステル。

フェステルは、前を歩いている
アレクシスが、宝物のシルバーロッドを
落としそうになった時には、魔法でなんとかしようと
注意を払いながら、歩いているようだ。

そして、目の前には先ほど、ソフィアを運んでくれるよう
願い出たアリアが、時々、後ろで抱きかかえられている
ソフィアの様子を伺いながら、坂を降りていく。

ソフィアの顔色は、今にも目を開けても
不思議はないぐらい、良くはなっているが
魂は、もうそこにない。
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