最強の魔道師に成り上がって、人気者のアイドルをやってるんですけど、燃え尽きて死んじゃうぐらいやらないとダメな前のめりな性格なんです。

ちちんぷいぷい

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最強の魔道師

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ミストラル公国の宝物として
伝説の時代から
大切に守られてきたとされている
強力な魔力が込められている白いローブ。

「フェステル」

「うむ、遠慮なされるな」

アリアは、フェステルの魔法で
宙に、浮かんでいる
銀で装飾された白いローブを
手に取ると、聖なる水で
清められた身体に、纏(まと)う。

フェステルが、白銀のティアラを
目の前で、宙に浮かせている。

「巫女」
「はい」

両手でしっかりと持ったまま
頭に乗せて、被ったティアラには
まるで、水の持っている生命力が
満ち溢れているような
美しく繊細な装飾が、なされている。

ティアラは、古代エリサニア帝国で
全ての魔道師達の頂点に立っていた
伝説の魔道師と呼ばれるアーク・ギリアムが
最初の巫女の一人である
水の巫女アイリスに、特別に授けた物とされている。

ティアラも、白いローブと同じで
人が施したとは思えない
強力な魔力が込められている。

「では、いきます」

ローブとティアラを
身につけたアリアが
魔法の詠唱のため
祈りを捧げはじめると
信じられないような勢いで
魔力が、高まっていく。

「なんと、凄まじいかな、巫女」

大河ヴィーズを、永遠のように流れていく
生命を育む、清らかなる、水の流れが
水の巫女であるアリアを助け
集中による、魔力の増幅を
さらに限りなく、高めていく。

「アレクシス様、ロッドを……」

「……」

フェステルの魔法が解除され
再び、世界がはっきりと、見えるようになった
アレクシスは、宙に浮いていたロッドを
自らの手で、渡そうとして手に取っていた。

「どうかなさいましたか?」

白銀のティアラをつけ
銀で装飾された、白いローブを纏い
背後から差し込む、光が当たって
輝いているような、アリアの神々しさに
アレクシスは、少し戸惑っているようだ。

「ーーくっ」

だが、アレクシスはミストラルの君主だ。

「ミストラルの命運がかかっている、アリア頼むぞ」

「全て、アリアにお任せ下さい」

1000年の時を超え
主の手に再び、白銀のロッドが手渡された。

シルバーロッドも、ティアラと同じで
伝説の魔道師アーク・ギリアムが
水の巫女アイリスに
特別に授けたものだとされている。

シルバーロッドには
青い魔石が埋め込まれているが
不思議な事に、黒く濁ってしまい
輝きを失ってしまっていた。

おそらく、ロッドの魔石にも
人を超えた存在のアーク・ギリアムが
輝きを簡単には、失う事はないはずの
強力な魔力を、込めていたはずだ。

魔石が輝きを失ってしまった理由は
伝えられてはいなかった。

遠い過去に強力な古代魔法が
執行されて魔力を使い果たしたのだろうが
今も、どんな魔法を、何のために使ったのかは
謎となったままだ。

アリアは、永き眠りについていた
シルバーロッドを
両手で掴み、しっかりと握り締め
目を閉じ、傍を流れていく
清らかで、命の育む力が満ちている
水の流れを頭に、想い描く。

自分が巫女として、目標にして来た聖女アイリスへの憧れ。

自分が救えなかった数え切れない人々への想い。

自分の手を握り返して、力を失った、小さな手への想い。

最後にソフィアへ想いを込めながら、呪文の詠唱が、今、はじまる。

「セース セース ターン 
囚われしヴェール 運命の花束 
廻りくる水の流れ 命の源
清らかなる美しき主(あるじ) ステイアよ
復活の息吹を 我が癒し手に託さん」

命を賭け、神の力を行使する
古代魔法の執行が宣言されようとしている。

アリアの指には
青く透き通った魔石の見える
指輪が差し込まれている。

ロッドの魔石の力は、失われていても
この、指輪にある澄み切った青い魔石が
きっと助けてくれるはずだ。

それでも、不安は残されている。

詠唱される古代魔法は
魂が身体から
抜け去った者までを
救う力はないはずだ。

あくまで、まだ息のある者が
神によって、理不尽に定められた
死の呪いを、浄化する魔法だ。

だが、大切なはずの指輪を差し出した
白い髪をした少年が、青く透き通った瞳で
見つめていた顔が浮かぶと
全てが、うまくいくような
安心感がし、最後の躊躇(ためら)いが
消えてなくなる。

「リーインサーフィケーション」

指に差し込まれている、白銀の指輪が
青く輝く、まばゆい光を放つ。

瞳が、光を感じることができなくなっていき
意識が少しづつ、遠くなっていく……。

足元を、ふらつかせながら
宙に浮いたままのソフィアに、近づいていき
しっかりと手を取ろうとするが
身体に力が入らなくなっていき
差し出した、両手が思ったとおりに動かない。

「ソ……フィ…ア…… きっと…… また…… あ……」

最後の力を振り絞り、強く輝く青い光を頼りに
必死で掴んだ、ソフィアの手を包み込んだ瞬間
目の前の全てが見えなくなり、世界が暗闇に閉ざされてしまう。

魔法の執行が宣言され、魂が冥界に向かったアリアは
永遠の時の流れの中に、溶けていくように、堕ちていく。

「あれ…… すごく …… 心地いいな……」

ずっと束縛されていた、つまらない何かから解放され
これまで感じたこともないような、幸福感が満ち溢れている。

「貴方は誰なの…… ギル…… ギリアムって
あれ、同じだね、アーク・ギリアムーー」

子供の頃、寂しくて、一人で泣いていたとき
ソフィアに教えてもらって
二人で一緒に読んだ、物語を思い出す。

ウィザードの称号を名乗る事を
皇帝カイザルから、只、一人だけ許され
銀で装飾された白いマントを纏っていたと
伝えられている、魔道師の伝説だ。

人を超えた力で、神とさえ戦い抜き
人々を神々が定めた運命の苦しみから
救済してくれる救世主として描かれ
無力な人である苦しみの前に
巫女になった者の多くが
生涯ずっと、恋焦がれて続けてきた存在。

「フェステル、アリアを助けるぞ、いいか」

「駄目じゃ、アレクシス様は、主として、しっかりと、ご覧なされよ」

「えっ、あれ、うわあ!」

アレクシスは身を挺して、アリアを支えるために飛び込もうとして
止められてしまい、足がもつれて、倒れてしまった。

「あいたたたた……」

しっかりと手を掴んだアリアは
取った手を辿(たど)って、近づくと
そのままソフィアを抱きしめながら、意識を失う。

「お見事にござりまする、巫女!」

「し、しかと見届けたぞ、あれが巫女の力なのだな、フェステル」

「そうにござりまする、巫女の力とは魔法のことでは、ありません」

アリアは
ソフィアの身体を
放さないようにしっかりと抱きしめていた。

魂が、冥界へ旅立った、アリアの身体も
フェステルが魔法で、宙に浮かして
傷つかないように、護っている。

倒れたままのアレクシスの声は
少し下の方から聞こえてくる。

「フェステル、空が……」
「うむ、はじまりましたぞ」

「あれは、闇の支配者の仕業なのか」
「そうに、ござりましょうな」

晴れ渡った空に、突然、不気味な暗雲が現れ
異様な暗闇が、ステリオ渓谷を支配していく。

フェステルが、闇に遮られ
光を失い始めた空を見上げると
まるで、神が定めた世の理に、逆らう事への
怒りを、露にしているようだ。

「闇の冥王コーディアルが、怒っておりまするな」
「一体、これからどうなるんだ」

「フェステルにも、まるで、わかりませぬ」
「ふ、封印されたはずじゃなかったのか……」

「封印されたとて相手は神ですぞ、アレクシス様」
「すごい力なんだな、神というのは」

「死の世界の支配者で冥王に、ござりまするからな」
「並の神ではないということだな」

「そうにござりまする」
「……」

見上げた空で始まった
強力な力を持っている神が見せる
怒り狂ったような
異様な光景に、さすがのフェステルも
恐れおののいている。

「ところで、おばば、こっちも魔法で……」
「アレクシス様は自分でお立ちなされよ」

「そこをなんとか、おばば」
「おばばでは、ありません!」

大変な時なので、子供であっても
頼りにしたい君主なのに
場の雰囲気を読み違えている
相手にフェステルも
さすがに怒っている。

「悪かった、許せ、フェステル」
「おわかりで、あるならかまいませぬが」

アレクシスも、さすがに
ふざけている場合ではない事はわかっている。

怖がっているのを、必死で隠しているのだ。

信頼している、宮宰のデュランから教わった通り
臣下達の前で、震える姿を見せないように
ピエロの様に、おどけているだけだ

「戦いの場では、しっかりなされますように」
「しっかり、受けとってはいるだろ」

「たしかに……」
「ここは、主を、褒めないのか、おばば」

「フェステルにございます!」

ソフィアを抱きしめたまま
意識を失っているアリアの足元で
一人の少年が倒れ込んでいる。

倒れているのは
ふらついていたアリアを見て
将来の騎士らしく、身を呈して
支えるため、慌てて、飛びこもうとして
足をもつらせてしまった
ミストラルの若すぎる主君、アレクシス公だ。

だが、倒れているのは、無意味ではなかったのだ。

アレクシスは、フェステルの魔法が間に合わず
アリアの手から落ちた大切な
ミストラルの宝物であるシルバーロッドを
しっかりと受け止め
その手で、放さないようにしっかりと掴んでいた。
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