最強の魔道師に成り上がって、人気者のアイドルをやってるんですけど、燃え尽きて死んじゃうぐらいやらないとダメな前のめりな性格なんです。

ちちんぷいぷい

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暗雲

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渓谷の空が暗雲で、覆い尽くされていく。

相手は神だ。

神の怒りが空に満ちることを
わかっていながら、歯向かう傲慢さを許した
真の相手が誰かを、全て見透かしていないわけがない。

「デュラン様、はじまりましたな」
「ああ、わかっている」

「どういたしますか」
「とにかく、急ぐんだ」

「失礼ながら、何を、急がれるのでしょうか」
「いつまでも、渓谷を塞いで置くわけにもいくまい」

「たしかに、渓谷は重要な交通路ですな」
「そうだ、まずは我々が成すべきことを最優先するんだ」

「あの不気味な空については……」
「アリア達に、全て任せるしかないな、いくぞ」

「はっ」

デュランは、あの白い髪をした
少年の顔を思い出していた。

デュランもアリアと同じで
エリサニア帝国時代の物とされている
正式な魔道師の衣装を知っていた。


渓谷の空を覆い尽くしても
広がる暗雲の勢いは衰えない。

エリサニアの全てを
異様な暗闇が、支配していく。

ラーラントは、ガリバルドだけでなく、貴族達から
末端の兵士に至るまで
全ての者が、命がけだった、戦いと同じように
献身的に尽くすように、与えられた責任を、果たしていた。

「ガリバルド様」
「なんだ」

「ベルナルド様とソフィア様は、無事戻られるのでしょうか……」
「巫女殿のことは気になるが、もうアリア殿に、任せるしか手があるまい」

「そうですが……」
「今は自分達ができることに集中するのだ」

「ですが、余りにも傷ついた者が多すぎて」
「弱音を吐くな、援軍がくるまでの辛抱だ」

ガリバルドの傍には、ミストラルの若い騎士がついている。

「援軍が遅れましたことは、誠に申し訳なく……」
「リオルド殿、そんなことは後でいいのだ、今は成すべきことをいたしましょう」

「はい、このリオルド、全てを賭けるつもりです」
「まあ、そう気負わんでくれ、人手が足りないのはどうにもならんからな」

「次の戦いに向け、勇敢な兵士を集めるためにも、ここは手は抜けません」
「そうだな、後始末を間違うと、せっかくの勝ちも負けになってしまう」

「命がけで手柄を競っている、兵士達の不満は馬鹿には出来ません」
「評価を下すのは、戦うよりも、ある意味で困難ですからな」

「監視役に頼らず、出来る限りは自分の目で見て、聞いておかないと」
「それは、怠れませんな、戦いのすぐ後で、大変ではあるが……」

騎乗しているガリバルドと、空を見上げたリオルドの
頭上にも、暗雲が垂れ込め、光が遮られてしまっている。

「私にもっと才があれば……」
「リ、リオルド殿は、よくやってくれているぞ、嘘ではないぞ」

「戦乱の世をどうすることもできない、己の無力さを常に恥じています」
「私もだ…… だがどうすることもできない、それが現実だ、認めねばならん」

「はい、どうにもなりません」
「我らは所詮、人だ、全ては思い上がりが招いた結果なのかもしれんな」

「はいーー」

一人の兵士が、息をしなくなってしまった。

「助かりそうなやつから、最優先にしろ」

兵士達への指示が、鳴り響く。

「くそ、許してくれよ…… 手がまわらねえ」
「あいつ、かみさんもらったばっかりだったな」

「ああ、むごい話だ」
「子供も、出来る前だからな」

「なんで、こうなっちまうんだよ」
「さあな、神様が決めたことだというしか」

倒れていたのは、見知っている仲間だが
何もしてやれなかった。

「おい、あそこだ、もう少しだ」
「へっ、お前こそ、くたばるなよ」

傷ついたもの同士で、肩を貸し合って
支え合い、近くに見つけた
負傷者達の列に、なんとか
たどり着いて、並んだ兵士達がいた。

「なんとか…… ついたぜ……」
「ああ…… だな…… 後は待つだけだ」

「いっ、いてえ~」
「おい、大丈夫かよ」

「ああ、痛みは酷いがな」
「魔道師の癒しさえ受ければ、楽になるさ」

苦痛に顔をゆがめ、足を引きずりながらも
一人でたどり着いた兵士は
歩いてくるのに、疲れ果てたのか
大柄で丈夫そうな身体に似合わず
並んだ、その場で、すぐに座り込んでしまう。

「いてえよ、はやくしてくれ」
「おい、静かに待ってろよ!」

「はやく、帰りてえよ、この足じゃ…… くそっ」
「おっ、俺だって、そうだ、我慢しろ」

「ところで、お前、傭兵だな」
「まあ、そうなんだが、なんだよ」

「傭兵にも、ラーラントは良くしてくれるだろ」
「ああっ、目先の報酬だけで、着く相手を決めないでよかったぜ」

痛みを我慢して、多くの兵士が待ちわびている。

ミストラルの魔道師達は、疲れも見せようとせずに
休息もとらず、黙々と掌をかざし、癒しを続けている。

「真っ暗闇だな……」
「王国を信じて戦ってきたが、この先、どうなっちまうんだろうな」

「とにかく傷を癒して、帰ろう、家族が待ってる」
「そうだな、帰ったら、また畑仕事に、せいを出すさ」

「おまえんとこは、たしか酷え、不作だったそうだな……」
「女、子供を食わせるためには、もう戦争で、人を殺して、稼ぐしかねえさ」

「ああ、そうだな、食い詰めれば、仕方がねえ」
「相手も同じようなもんだ、殺すも、殺されるも、お互いさまだ」

傷ついて、何もできなくなり
今は、休むしかできなくなった者達は
王国の未来と、そこで暮らしているはずの
自分と家族に何が待っているのかを、考えてしまう。

何が起こってるか、掴むことすらできない
末端の兵士達は、異様な閉塞感を前に
暗雲を毅然と見つめている者もいるが
ますます、不安なって、耐えられなくなり
空を見上げるのを、辞めてしまった者達の方が大勢だ。


戦いの後始末のために、渓谷に留まらざるを得ない
ラーラント軍の苦しい状況を把握した後
デュランの下に、隊長のリオルドに指示された
決死隊の騎兵が、報告の為に舞い戻っていた。

「リオルドの報告どおり、酷いな……」
「さすが、リオルド様ですな、デュラン様」

「ヴィラルに任せている、飢えた狼どもよりは楽な相手なのが救いだ」
「この場を、はやく、片付けませんとな」

交易路を襲う侵略者、ウルクスとの戦いの最前線を
任せているのが、デュランが最も信頼を置く、老貴族のヴィラルだ。

「戻ってまた、あのウルクスに、痛い目をみせてやりましょう」
「常に、私が陣頭指揮を、取れればいいのだが、そうもいかんのだ」

「戦いはご老人に任せ、デュラン様は国内のことに専念されるしかありませんからな」
「リオルドの様な、次を担う、若者を育てなければな……」

「ともかく、この場を治め、急いで、公国へ、舞い戻りましょう」
「ヴィラルもかなりの歳だ、無理をさせると、体が持つか心配だ、急ぐぞ」

「はっ」
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