お願い! 猫又先生!

たんぽぽ。

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不思議な呪文でかニャえてくれる?

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「少し埃っぽいが、やっぱり娑婆シャバは最高だな」

 猫はダミ声でそう言って、ハテナマークで頭がはち切れそうな僕にかまわず背伸びをしている。さっきのダジャレを言ったのもこの猫みたいだ。

 僕は驚きすぎて何も言うことが出来なくて、ただ突っ立って猫を見つめていた。喋らなければ普通の可愛い三毛猫なんだけど。猫は背伸びが終わると僕の方を向いて、

「ひょっとして、万事休しちゃってる臭プンプン系?」

と意味不明な発言をした。

「……今はとりあえずギリギリ万事休しちゃってないけど、今後万事休するかもしれない。というかなんで猫がここにいて、しかもしゃべるの?」

 僕はやっとのことで口を開いた。

 猫は今度は腹を見せて寝っ転がって話し出した。僕が子どもだからこんなに警戒心がないのかな?

「長い話になるが、聞いてくれ。オレは昔、浜辺でノラやってたんだ。見ての通りオレはオスの三毛猫だろう? 非常に稀少で、3万匹に1匹しかいないそうだ。そのせいでオレはチヤホヤされて調子に乗ったんだな。浜辺の野良猫グループの掟を破ってしまった。つまり、魚屋から魚を盗んで食っちまったんだ」

「……そう言えば、僕のひいじいちゃんは魚屋だったって前に聞いた事がある。何か関係あるのかな?」

 ひいじいちゃんの息子であるじいちゃんは魚屋を継がなかったそうだ。お父さんは普通の会社員だ。

「お前もしかして、ウオズミって名前か?」

「うん」

 僕の名前は魚住コウタだ。

「やっぱりな。オレはお前のひいじいちゃんだかひいひいじいちゃんだかの店からノドグロを失敬したのさ。そうしたら魚屋は激怒して、浜辺の野良猫に餌を与えなくなった」

「ふぅん」

 ノドグロって確か高級魚だよな……。それは怒って当然だ。

「オレは仲間にも迷惑掛けたって事で、魚屋の倉庫にあった骨董品の急須に閉じ込められてしまったんだ」

「浜辺の野良猫グループにそんな能力が……⁈」

「あいつらハンパねぇぞ。砂に封印の魔法陣とやらを書いて、オレはその真ん中に箱座りさせられて、『ニャロイムニャッサイム』とか何とか長老猫が唱えてたな。そうしたら魔法陣が光って……『マジで光りやがった‼︎』とか悲鳴が聞こえて……気付けば急須の中だった」

「それって実験台にされたんじゃ……」

 猫は後ろ脚で顔をかいている。何だか緊張感がないヤツだ。

「急須の中にあった取扱説明書トリセツにオレの置かれている状況が詳しく説明してあって、さらに『困った時は』の項に、封印の解き方がご丁寧に書いてあった。急須を最初にこすったヤツの3つの願いを最終的に叶えてやれば、晴れて自由の身なんだってよ」

 思ったほど長い話じゃなかったし、その話どこかで聞いた事があるような……。それに「最終的に」ってのが引っかかる。直接叶えて欲しいんだけど。

 でも仕方ない。さっそく頼んでみよう。

「僕、『ヨウコの小洒落たイヤリング』が欲しいんだ」

「ヨウコ? ヨウコにも色々種類があるだろう。荻◯目洋子お◯のめようこ、オ◯・ヨーコ、秋◯暢子あ◯のようこ真◯◯きよう子に具◯堅用高ぐしけんようこ◯……たくさんいるぞ。 フルネームで言ってくれないと対処の仕様がないだろう」

 猫は前脚を組んで小首をかしげた。猫なのに芸能界に何故かすごく詳しいみたいだ。

「……」

 僕は言葉につまった。便宜的にヨウコと言ってただけで、浮気相手のフルネームなんて知らないし、そもそも浮気している可能性自体が低い。

 僕の困った様子を見てかわいそうに思ったのか、猫は助け舟を出してくれた。

「ヨウコのイヤリングをどうするんだ?」

「イヤリングをネタにお父さんを強請ゆすって、お金をもらう。そのお金で『ニワトリッチ』を買う」

「つまり、『ニワトリッチ』とやらを手に入れる事が最終的な目的なんだな?」

「つまりそう言う事だね」

「なるほど、わかった」

 猫はうなずいた。

「ホント⁈ じゃ、『ニワトリッチ』出してくれるの⁈」

 急須から出て来てしゃべるくらいだから、そのくらい簡単にできるのかも。

「オレは国民的アニメの青ダヌキみたいに甘くはない。目的を達成する手助けをするだけだ。ちょっと待ってろ、考えるから」

 そう言って猫は目をつむりあぐらをかいて、滝に打たれて修行する人みたいなポーズをとった。するとポクポクポクポクとお坊さんがお経を唱える時に鳴る音がどこからか聞こえてきた。

 年若い僕は、元ネタが何なのかサッパリわかんないや!

 やがて「チーン!」という音が鳴って、猫は目をかっぴらいた。ちょっと怖い。それから目をかっぴらいたまま、呪文のようなものを唱え出した。

「ネコネコアザラク、ネコネコザメラク……」

 ……何だか不気味だ。

「これで良し。お前の母親を、手伝いをすると小遣いをくれるタイプの母親にカスタマイズした」

「そんな事できるの!」

「オレは長く急須の中にいたからな、ほら」

猫はそう言って後ろを向いた。今まで気づかなかったけど、しっぽが2つある!

「猫又になってからオレは人語を話せるようになり、このくらいの事もお茶の子さいさいになったんだ」

「すごい! でも、手伝いをしなきゃいけないのか……何だかまどろっこしいな」

「文句言うな。まぁ、頑張れよ。2つ目の願い事が決まったらまた急須をこすれ」

「うん。ありがとう」

 励ましてもらったし、僕はとりあえずお礼を言っておいた。

 猫又はスゥ~ッと急須の中へ吸い込まれていった。ためしにフタを開けてみようとしたけど、固くてなかなか開かない。

 しばらくすると豪快なイビキと「ポンと蹴~りゃ、ニャンと鳴~く♪」という楽しそうな多分寝言が聞こえてきた。マゾなのかな?

 僕は急須を元の箱に戻して押入れにしまった。
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