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第一話 ⑦
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夜8時過ぎ。バイトで残業した拓也は集合時間に遅れていた。小走りで二人のいる店へと向かう。
店の名前は"THE SURF"。
海と音楽をこよなく愛するマスターが、自慢の酒を提供している小さなBARである。
お待たせー!と扉を開ける。待ちきれなかった和樹と尚人はジョッキグラスを空けていた。
「集めといて遅刻かよ~」
既にほろ酔いで上機嫌な尚人は、ケタケタ笑いながら拓也を迎え入れた。
「マスター、ビール三つ追加お願いしますー!お疲れさん。で、何よ?話って」
和樹が注文をすませる。そして即座に本題へ触れた。
「あ…とりあえず乾杯しよ?その後ゆっくり話すよ」
拓也は乾杯で話を一旦濁した。誰かさんの激昂に臆病になっていた。
「はい。ビールとお通しね」
マスターはキンキンに冷えたジョッキに並々注がれたビールと冷奴で持て成した。
乾杯!拓也の飲んだ一口目はいつもより苦みの強い喉越しだった。
二人が普段通りに談笑する。その姿を見れば見る程、拓也は伝え辛くなった。居た堪れない思いが膨れ上がる一方である。
きっと怒るよな。そう思いながら恐る恐る話始めた。
それで話なんだけどさ…。と二人の表情に気を付けながら渉脱退について触れた。
すると、さっきまでの笑顔から急転。二人の表情は様変わりした。
まじか…と呟く和樹はビールジョッキを静かに置いた。そして、尚人は言葉を失った。二人共酔いが覚めたかのように固い表情に変わる。
「まぁ…戻れって言ったところで戻らないよな。色々声かけられてたし。辞めちまったもんは仕方ないだろ。それでどーすんの?今日呼んだのは、辞めちゃいましたごめんなさい、って報告で終わりじゃないんだろ?」
今後のプランを聞かせろ。と、拓也に話を続けさせた。
「今日さ、川田さんがボーカル志望の凄腕ギタリスト紹介してくれたんだ。俺はいけるかなと思ったんだけど…歌声まだ聴けてなくて」
それは聞かなきゃダメだろ。と和樹は一蹴。
尚人は依然として沈ったまま。表情一つ変えずに耳を傾けていた。
拓也は、あとね…と何かを言いたげな顔で話を続ける。まだあんのかよ!?と和樹は声を上げた。
「実は……女…なんだよね」
「…………………はぁっ!?」
拓也と同じ反応。その大声は店内に響いた。反響してエコーがかかる。
溜息をつく。そして頭を抱えた。女は流石に無理だって。と顔を歪める。
でもギターの腕前はピカイチだったよ?と、拓也は補足する。
「とりあえず、一緒歌聞いて欲しいんだ」
拓也が二人に提案している時だった。尚人がついに閉じていた口を開いた。
「俺、降りるわ」
渉の後釜が女に務まるわけないだろ。そう言って尚人は席を立ち上がった。
その言葉が、店内の空気を一層重くした。
店の名前は"THE SURF"。
海と音楽をこよなく愛するマスターが、自慢の酒を提供している小さなBARである。
お待たせー!と扉を開ける。待ちきれなかった和樹と尚人はジョッキグラスを空けていた。
「集めといて遅刻かよ~」
既にほろ酔いで上機嫌な尚人は、ケタケタ笑いながら拓也を迎え入れた。
「マスター、ビール三つ追加お願いしますー!お疲れさん。で、何よ?話って」
和樹が注文をすませる。そして即座に本題へ触れた。
「あ…とりあえず乾杯しよ?その後ゆっくり話すよ」
拓也は乾杯で話を一旦濁した。誰かさんの激昂に臆病になっていた。
「はい。ビールとお通しね」
マスターはキンキンに冷えたジョッキに並々注がれたビールと冷奴で持て成した。
乾杯!拓也の飲んだ一口目はいつもより苦みの強い喉越しだった。
二人が普段通りに談笑する。その姿を見れば見る程、拓也は伝え辛くなった。居た堪れない思いが膨れ上がる一方である。
きっと怒るよな。そう思いながら恐る恐る話始めた。
それで話なんだけどさ…。と二人の表情に気を付けながら渉脱退について触れた。
すると、さっきまでの笑顔から急転。二人の表情は様変わりした。
まじか…と呟く和樹はビールジョッキを静かに置いた。そして、尚人は言葉を失った。二人共酔いが覚めたかのように固い表情に変わる。
「まぁ…戻れって言ったところで戻らないよな。色々声かけられてたし。辞めちまったもんは仕方ないだろ。それでどーすんの?今日呼んだのは、辞めちゃいましたごめんなさい、って報告で終わりじゃないんだろ?」
今後のプランを聞かせろ。と、拓也に話を続けさせた。
「今日さ、川田さんがボーカル志望の凄腕ギタリスト紹介してくれたんだ。俺はいけるかなと思ったんだけど…歌声まだ聴けてなくて」
それは聞かなきゃダメだろ。と和樹は一蹴。
尚人は依然として沈ったまま。表情一つ変えずに耳を傾けていた。
拓也は、あとね…と何かを言いたげな顔で話を続ける。まだあんのかよ!?と和樹は声を上げた。
「実は……女…なんだよね」
「…………………はぁっ!?」
拓也と同じ反応。その大声は店内に響いた。反響してエコーがかかる。
溜息をつく。そして頭を抱えた。女は流石に無理だって。と顔を歪める。
でもギターの腕前はピカイチだったよ?と、拓也は補足する。
「とりあえず、一緒歌聞いて欲しいんだ」
拓也が二人に提案している時だった。尚人がついに閉じていた口を開いた。
「俺、降りるわ」
渉の後釜が女に務まるわけないだろ。そう言って尚人は席を立ち上がった。
その言葉が、店内の空気を一層重くした。
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