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第二章公爵として
不運な人ノース辺境伯エリオット
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「突撃!魔物共を殲滅せよ!」
ネリーキア王国の北方最強貴族ノース辺境伯エリオットは配下の騎士や歩兵、雇われの冒険者達、総勢五千人を率いて更に北のエラクレス公爵の領地との間に位置する山脈で魔物殲滅作戦を実行していた。
エリオットは32歳の第二王子ラントの祖父ザラーフ侯爵の派閥に属する人で、エラクレスの見張りを秘密裏に命じられていた。最初はエラクレスがノース辺境伯の領地を通る時に護衛兵としてスパイを送り込もうとした。
しかし、エラクレスがテレポートを使ったり、陸路を大岩で塞いだことにより失敗。
「では、岩を砕く!」
…と言って職人や領民も動員して取り掛かった。
だが、作業の最中に魔物の襲撃が相次ぎ作業どころではなかった。
だが、それでもエリオットは諦める訳にはいかない。派閥長から命じられた事、しかも10歳の少年一人の監視さえも果たせなかったら派閥内での地位が大きく下がるだろう。
更に新年の挨拶に向うために王都に行かなくてはならない。だから、これを放置したままでは留守の間に領地が荒らされてしまうかもしれない。
「それに元々貴族自体が各地の魔物に対抗するために設けられた身分だからな!」
故に魔物が闊歩しているなど貴族としての誇りが許さない。たとえ監視を命じられていなくても彼は今回の殲滅作戦を実行しただろう。
道を配下の騎士が通り、その両脇には冒険者や歩兵を配置している。
自らも鉄の鎧兜を纏い、騎士の誇りである長槍『ランス』を手に持ち、自身が跨る馬にも馬鎧を着させての出陣である。
ちなみにこの世界の馬は地球ではポニーと呼ばれる程度の大きさだが、侮るなかれ。足はとても太くそのため怪我をし難く、足場が悪くても体制を崩さない。スピードはサラブレッドより遅いが、体が小さく小回りも効きやすいうえに持久力が豊富でバリバリの戦闘向きだ。そして体重は約250kg。これが多数突撃してくるのである。その破壊力はやばい。
「この先、多数のゴブリンを確認!およそ百!」
「突撃だ!その程度では相手にならん!」
「「「オオー!!!」」」
突撃の命令を受けた騎士達は馬を加速させ、密集陣形をとる。
「あれだ!」
一人の騎士がゴブリンの群れを発見。
「構え!」
エリオットの命令で各々ランスを前に突き出す。いわゆる騎士の必殺技『ランスチャージ』である。
「グエ?」
「ガッガッ!」
ゴブリン達も気付いたようで矢を射かけたり投石をしてきた。
「ふん!そんなものでは騎士の鎧は砕けん!」
騎士達は陣形を崩すことなく遂に…衝突!
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
それは戦いと呼べるものではなく、騎士による蹂躙であった。このたった一回の突撃で百体いたゴブリンは30体程まで減少し、敗走した。
「追撃はしなくて良い!まだ始まったばっかりだ!馬を休ませろ!」
「「「はっ!」」」
騎士達は馬を止まらせた。馬は騎士の鎧と馬鎧の重さを支えているため疲労しやすい。
一方で道の脇に配置された冒険者達もそれぞれ奮闘し、戦果を上げた。
「そっち!」
カン!
「あいよ!」
ザシュ!
冒険者達は5人一組になって集団戦術を取っていた。ゴブリン達も同様だったが、腕前は冒険者達が上だった。
「しっかしな…惜しい」
「何がだ?」
「ゴブリン達が持っている武器、防具はゴブリンの死と共に消滅しちまう。」
「ああ、たしかにな。さっき良い装備した奴が居たな。あいつらが手を離しても死ねば武器も消えるかな。生きたまま捕えて武器の消滅を防ごうにも人間が武器に触れてしばらくしたら消えてしまう…。」
「そうかと言ってゴブリンが触れている時に人が触れたら武器破壊できるわけではないしな…どっかの学者の研究ではゴブリンは武器を奪われるのを防ぐため何か仕組んでいるらしい。」
「はあ、神様ってのは不親切な御仁だ。」
そうボヤキながらも着実にゴブリンを捌いていく。彼らも冒険者として生計を立てているだけあってプロだ。前述の通り、この世界の真理的(神の意志)にゴブリンからオリハルコン製の武器がドロップすることはない。
その頃…
「グウ…。」
ここはゴブリン軍の本陣そこにはエラクレス配下のゴブリンキングのゴブキンがいた。部下からの報告を聞いて思案していた。
ゴブキンは稀に生まれる特異種のゴブリンであるため知能が普通のゴブリンとは比べ物にならないほど高い。更にゴブリンキングと呼ばれるまで進化してきた。つまり戦歴も長い。
その彼が出した答えは…
「ムッリ」
無理である。
「ガグッ!ガガガ!ガウ!」
「カン!」
ゴブキンは各地のゴブリンに撤退命令を出した。そして彼はもう一つ伝令を走らせる。
場所は再びエリオットに戻る。
「なに!そこも撤退している!?」
エリオットは偵察をさせてゴブリンの正確な位置を探り、見つけしだい騎士の突撃をするつもりだった。
だが、各地のゴブリンは北へ北へと撤退しているという情報が次々に舞い込んだ。
(我らの数と練度を見て戦意を失ったか?それともこれは追撃を誘う罠か?)
エリオットは悩んだ。だが、それを周囲の息子達と騎士達は責めた。
「父上!何を迷っておられますか!逃げられてしまえば今回の殲滅作戦は失敗ですぞ!」
「兄上の仰る通り!今は北に追い出すことはできてもいずれ奴らは戻って来ます!」
エリオットの二人の息子は追撃を主張する。
「しっかしな…これは罠ではないか?」
エリオットは慎重論を唱える。
「領主様!たかだかゴブリンごときにどれほどの知恵がありましょうか!たとえ撤退が罠であってもそれを食い破って見せましょう!何をお悩みですか!」
「そうです!騎士の誇りにかけて魔物共は全滅させます!」
「領主様の御命令がなくとも我らは追撃します!」
周りの騎士達も追撃に賛成のようだ。
個人の名誉と戦果を求めて共闘を忘れ、バラバラに戦ってしまう…これが騎士達の弱点である。
(そうか…それもそうだな…。この士気の高さを損なうことこそ愚かだな。)
「わかった…全軍!道を塞ぐ大岩を目指せ!あの辺りはゴブリンが多く出没していた!大きな基地、または多数の拠点があるに違いない。歩兵はそれを徹底的に破壊!騎士はゴブリンの追撃をする!」
「「「オオーー!!!」」」
エリオットは遂に追撃を決意した。
大岩付近にたくさんゴブリンが居たのなら撤退するゴブリンも多数だとエリオットは考えたのだ。
(それを全滅させる!)
騎士と言えばフルプレートアーマーや馬鎧、ランスのような長槍をイメージするだろうがエリオットは騎士達に追撃の速度を上げるため馬鎧を外し鎧も一部取り外し軽装になるように命令した。
彼は追撃戦に移るため騎士の重装甲による防御力と衝突時の衝撃力よりもスピードが命になると判断した。
「行くぞ!こいつに馬を与えろ!案内させる!」
「はっ!」
エリオットは斥候に馬を与え大岩までの案内をさせた。その道中も拠点らしきものはいくつか発見されたが、ゴブリンは一体も居なかった。
「着いたか…」
一行は大岩まで到着した。
「領主様!こちらに多数の足跡があります!大きさからゴブリンと推測されます!」
「探知魔法に反応あり!その数多数!」
騎士に同行していた魔法使いが言った。
「よし!我に続け!」
道を外れて木々が生い茂る道なき道を進んだ。
(だんだん、気配が近づいてくる。)
「敵は近い!槍!構…「領主様!」何だ!?」
探知魔法を使っていた魔法使いが正に血の気が引いた顔をして言う。
「そ、空です…。空から接近してくる魔物を探知!」
「何!何故今になってようやくわかったのだ?!」
「そ、それが…陸の探知に全力を尽くして見失わないようにしていたので…。」
これが普通の魔法使いである。エラクレスみたいに陸も海も地中も空も一人で完全に探知できる人はいない。
それに、他のゴブリンの基地を破壊している歩兵部隊などに探知魔法を使える者を割いたのも失敗だった。本来なら前後左右、そして上空を分担して探知するのが当たり前だった。だが、追撃に囚われた騎士達の思考はそんな事を忘れてしまって
『取り敢えずゴブリンさえわかればいい』
…となってしまった。
「数は?」
「ど、どんどん増えています。30は居ます!」
「正体は?」
「もう少し近づけば…。」
「ええい!それでは正体がわかったときには手遅れになってしまうかもしれん!」
「し、しかし、ここでゴブリンを取り逃して良いのでしょうか?」
エリオットは『はぁ~。』とため息をついて…
「しかたなかろう。計画通りにいけば何の苦労もないのだから。撃退出来ただけでも良しとするしかない。」
(これで王都から戻るまでは流石のゴブリン共も大人しくなるだろう。)
彼は引き際を心得ている良き司令官であった。
「全軍撤退!」
ブルル!!
エリオットが撤退命令を出すとほぼ同時にいきなり彼の馬が走り出した。
「おい!コラ!」
エリオットは怒ったが…
ドゴーン!
少し前まで彼が居たところにとんでもない衝撃波が落ちた。
それは一箇所だけではなかった。
ドゴーン!
ドゴーン!
ドゴーン!……
「うわあ!」
「ギエ!」
「アガ!」
至る所で衝撃波が落ち、騎士を薙ぎ払った。
「超遠距離からこれだけの衝撃波を放てる…これは…竜だ!風竜だ!」
エリオットは風竜とも戦ったことがある。その時は一体であったため百人で戦い、撃退に成功した。だが、今回は数がその時の比ではない。
降り注ぐ衝撃波の中を必死になってエリオット達は駆け抜けた。
「「「く、空間魔法『障壁』」」」
探知魔法は使えなくともバリアを張れる魔法使い達が必死でエリオットを守ろうとする。
衝撃波に驚いた馬によって振り落とされた騎士も居た。
衝撃波によって馬ごとやられた騎士も居た。
最初の頃は騎士は凡そ千騎いたが、風竜の強襲で四百ほどに減ってしまった。
この逃避行の最中には気づかなかったが、エリオットの二人の息子もやられていた。
実は風竜は最初に探知された時の30頭から300頭にまで増えていた。
バリン!
「がぁ…」
障壁が割れて魔法使いの一人が衝撃波を受けた。
馬と風竜のスピードはわずかに風竜の方が速いというくらいの差であってほぼ同じ速さだったが、風竜は相変わらず多数の衝撃波を無数に飛ばしてくる。
逃走する騎士の数が一人…また一人と姿を消す…。
障壁も度重なる衝撃波によってどんどん割られていく。魔法使いも少なくなっていく。
「うがっ!」
遂に衝撃波の一つがエリオットの背中を直撃!
(こ、こんな…所で…。みんな…すまん…)
衝撃波は彼の体を貫通…即死だった。
ドスッ!
彼の体は馬から転げ落ちた。
「「「領主様!!!」」」
騎士達の悲鳴が響き渡った。
「くっ!おのれ!風竜共…許さんぞ!」
「せめて一矢報いる!」
「主君を守れずして何が騎士だ!」
「主君をみすみす死なせながら自らは生き延びる道は騎士道に非ず!」
騎士達は激昂し槍を構えて風竜に立ち向かった。
もちろん彼らとて無謀であることは百も承知だ。
しかし、彼らはそこに勝機を見出したからではなくそこに騎士道を見出したから突撃するのだ。
数秒後…彼らの槍は遂に届かなかった。
全滅である。
ちょうどその頃…冒険者達も苦戦を強いられた。撤退したと思われていたゴブリンがとんでもない群れをなして逆襲してきたのだ。
「くっそ!ジェネラルが見える範囲でもこんなに!」
「ああ、間違いない」
「ここにはキングもいる!」
最初こそ威勢良くゴブリンの基地を破壊していた冒険者達だったが、彼はだんだん功名心が抑えきれなくなった。
彼らとて生活があり、それはノース辺境伯から貰える賃金だけで生きていけないことはないが、とても暮らしが良くなるとは言えなかった。
ゴブリンを倒せばそのドロップ品である角や牙、そして魔石を手に入れてそれを売り、儲けることができる。
『ちょっとくらい良いか。』
『こんなにたくさん動員されているんだしちょっと大きな群れに手を出したってどうにかなるさ。』
などと言う空気が蔓延した。そのため深入りする冒険者が次々に現れてしまった。
だが、彼らは知らなかった。まさか2万を超えるゴブリンが一体のゴブリンを中心に動いていることを。
その一体のゴブリンこそ『ゴブキン』である。
ゴブリン達を撤退させたり、迷宮に待機させていたゴブリンまで呼び寄せたりして戦力を集中できた彼は囮が騎士を引き付けている内に冒険者を潰そうと総勢2万のゴブリンに一斉反撃を命じた。
なお、この2万のゴブリンが探知されなかった理由はとにかく離れた場所にいたため探知魔法の範囲の外にいたからであり、逆にエリオットが追いかけた方は大岩からあまり離れていなかったから、探知にかかりやすかった。
ちなみにエリオットが追いかけていた方(囮)にもゴブリンが1万体は居たためそれも合わせれば3万である。
次々に現れるゴブリンを前に冒険者達は疲労を蓄積していく。
もし、この世界に『レベルアップによりHP全快』とか『ステータスの数値アップ』とか『経験値』があれば良いレベリングとかになったかもしれない。だが、この世界にそんなものはない。
また、苦戦の理由には武器と防具の差があった。冒険者達の殆どが鉄製の武器で、鉄製の鎧兜または革製だった一方でゴブリン達は武器も鎧兜もこの世界最高のオリハルコン製である。
ガキン!
「け、剣が…」
「くっそ!矢が貫通しねー!硬すぎだろ!」
「何で出来ているんだあの武器は!」
したがって当然ながら武器を失う冒険者があとを絶たない。
しかもそれを使用しているのが、通常ゴブリンから知性と外見以外では人間とあまり変わらないジェネラルまで全てのゴブリンである。
「怯むな!反撃しろ!」
エリオットの家臣達が必死に檄を飛ばし、冒険者達などの歩兵を励ます。彼らはエリオットが戦死し、その麾下の騎士が全滅したことをまだ知らない。全滅したため伝える人がいないからだ。
(領主様が戻られるまで死守せねば…領主様が孤立してしまう…。速く退いてもらわなくては…。)
彼は己の不甲斐なさを嘆きながらエリオットに退却を要請する使者を出した。
それから数分の間に多くの冒険者や家臣達が命を落とした。逃亡者もあとを絶たない。
更に…
「大変です!」
「何だ!?」
「は、背後から、ふ、風竜が…多数あ…。」
怯えすぎて最後の方が聞こえなかった。だがそれだけで十分だった。
「は?背後から?!ふ、風竜だと?!多数だと?!馬鹿な!?では!領主様は?!領主様に苦戦と至急お戻りいただくように伝えた伝令は?!」
「………。」
おそらく両名とも風竜の大軍によって討たれたのであろうが…報告に来た兵士は何も答えなかった。
「報告!背後から新手のゴブリンが!」
「「………。」」
更に悪い事が重なった。囮になってエリオットを引き付けていたゴブリンが背後を突いたのである。
「全軍撤退…。」
家臣は言った。
「全軍撤退!」
撤退命令により一斉に撤退を始めたが、背後を塞がれおまけに空からも攻撃されて歩兵の4千人はほぼ全滅である。
ただし、女性200人だけは生きて(五体満足ではない人が多いが)囚われた。
今回の戦いはゴブリン側も多くの損害を被った。そのため彼女達には今回の戦いで減ったゴブリンを増やしてもらわなくてはならない。ゴブキンはそう考えている。
その少し後、ゴブリン軍の総本陣にはエラクレスが居た。
【お気に入り登録していただきありがとうございます!もしまだの方がいらしたらぜひとも登録をお願いいたします。】
ネリーキア王国の北方最強貴族ノース辺境伯エリオットは配下の騎士や歩兵、雇われの冒険者達、総勢五千人を率いて更に北のエラクレス公爵の領地との間に位置する山脈で魔物殲滅作戦を実行していた。
エリオットは32歳の第二王子ラントの祖父ザラーフ侯爵の派閥に属する人で、エラクレスの見張りを秘密裏に命じられていた。最初はエラクレスがノース辺境伯の領地を通る時に護衛兵としてスパイを送り込もうとした。
しかし、エラクレスがテレポートを使ったり、陸路を大岩で塞いだことにより失敗。
「では、岩を砕く!」
…と言って職人や領民も動員して取り掛かった。
だが、作業の最中に魔物の襲撃が相次ぎ作業どころではなかった。
だが、それでもエリオットは諦める訳にはいかない。派閥長から命じられた事、しかも10歳の少年一人の監視さえも果たせなかったら派閥内での地位が大きく下がるだろう。
更に新年の挨拶に向うために王都に行かなくてはならない。だから、これを放置したままでは留守の間に領地が荒らされてしまうかもしれない。
「それに元々貴族自体が各地の魔物に対抗するために設けられた身分だからな!」
故に魔物が闊歩しているなど貴族としての誇りが許さない。たとえ監視を命じられていなくても彼は今回の殲滅作戦を実行しただろう。
道を配下の騎士が通り、その両脇には冒険者や歩兵を配置している。
自らも鉄の鎧兜を纏い、騎士の誇りである長槍『ランス』を手に持ち、自身が跨る馬にも馬鎧を着させての出陣である。
ちなみにこの世界の馬は地球ではポニーと呼ばれる程度の大きさだが、侮るなかれ。足はとても太くそのため怪我をし難く、足場が悪くても体制を崩さない。スピードはサラブレッドより遅いが、体が小さく小回りも効きやすいうえに持久力が豊富でバリバリの戦闘向きだ。そして体重は約250kg。これが多数突撃してくるのである。その破壊力はやばい。
「この先、多数のゴブリンを確認!およそ百!」
「突撃だ!その程度では相手にならん!」
「「「オオー!!!」」」
突撃の命令を受けた騎士達は馬を加速させ、密集陣形をとる。
「あれだ!」
一人の騎士がゴブリンの群れを発見。
「構え!」
エリオットの命令で各々ランスを前に突き出す。いわゆる騎士の必殺技『ランスチャージ』である。
「グエ?」
「ガッガッ!」
ゴブリン達も気付いたようで矢を射かけたり投石をしてきた。
「ふん!そんなものでは騎士の鎧は砕けん!」
騎士達は陣形を崩すことなく遂に…衝突!
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
それは戦いと呼べるものではなく、騎士による蹂躙であった。このたった一回の突撃で百体いたゴブリンは30体程まで減少し、敗走した。
「追撃はしなくて良い!まだ始まったばっかりだ!馬を休ませろ!」
「「「はっ!」」」
騎士達は馬を止まらせた。馬は騎士の鎧と馬鎧の重さを支えているため疲労しやすい。
一方で道の脇に配置された冒険者達もそれぞれ奮闘し、戦果を上げた。
「そっち!」
カン!
「あいよ!」
ザシュ!
冒険者達は5人一組になって集団戦術を取っていた。ゴブリン達も同様だったが、腕前は冒険者達が上だった。
「しっかしな…惜しい」
「何がだ?」
「ゴブリン達が持っている武器、防具はゴブリンの死と共に消滅しちまう。」
「ああ、たしかにな。さっき良い装備した奴が居たな。あいつらが手を離しても死ねば武器も消えるかな。生きたまま捕えて武器の消滅を防ごうにも人間が武器に触れてしばらくしたら消えてしまう…。」
「そうかと言ってゴブリンが触れている時に人が触れたら武器破壊できるわけではないしな…どっかの学者の研究ではゴブリンは武器を奪われるのを防ぐため何か仕組んでいるらしい。」
「はあ、神様ってのは不親切な御仁だ。」
そうボヤキながらも着実にゴブリンを捌いていく。彼らも冒険者として生計を立てているだけあってプロだ。前述の通り、この世界の真理的(神の意志)にゴブリンからオリハルコン製の武器がドロップすることはない。
その頃…
「グウ…。」
ここはゴブリン軍の本陣そこにはエラクレス配下のゴブリンキングのゴブキンがいた。部下からの報告を聞いて思案していた。
ゴブキンは稀に生まれる特異種のゴブリンであるため知能が普通のゴブリンとは比べ物にならないほど高い。更にゴブリンキングと呼ばれるまで進化してきた。つまり戦歴も長い。
その彼が出した答えは…
「ムッリ」
無理である。
「ガグッ!ガガガ!ガウ!」
「カン!」
ゴブキンは各地のゴブリンに撤退命令を出した。そして彼はもう一つ伝令を走らせる。
場所は再びエリオットに戻る。
「なに!そこも撤退している!?」
エリオットは偵察をさせてゴブリンの正確な位置を探り、見つけしだい騎士の突撃をするつもりだった。
だが、各地のゴブリンは北へ北へと撤退しているという情報が次々に舞い込んだ。
(我らの数と練度を見て戦意を失ったか?それともこれは追撃を誘う罠か?)
エリオットは悩んだ。だが、それを周囲の息子達と騎士達は責めた。
「父上!何を迷っておられますか!逃げられてしまえば今回の殲滅作戦は失敗ですぞ!」
「兄上の仰る通り!今は北に追い出すことはできてもいずれ奴らは戻って来ます!」
エリオットの二人の息子は追撃を主張する。
「しっかしな…これは罠ではないか?」
エリオットは慎重論を唱える。
「領主様!たかだかゴブリンごときにどれほどの知恵がありましょうか!たとえ撤退が罠であってもそれを食い破って見せましょう!何をお悩みですか!」
「そうです!騎士の誇りにかけて魔物共は全滅させます!」
「領主様の御命令がなくとも我らは追撃します!」
周りの騎士達も追撃に賛成のようだ。
個人の名誉と戦果を求めて共闘を忘れ、バラバラに戦ってしまう…これが騎士達の弱点である。
(そうか…それもそうだな…。この士気の高さを損なうことこそ愚かだな。)
「わかった…全軍!道を塞ぐ大岩を目指せ!あの辺りはゴブリンが多く出没していた!大きな基地、または多数の拠点があるに違いない。歩兵はそれを徹底的に破壊!騎士はゴブリンの追撃をする!」
「「「オオーー!!!」」」
エリオットは遂に追撃を決意した。
大岩付近にたくさんゴブリンが居たのなら撤退するゴブリンも多数だとエリオットは考えたのだ。
(それを全滅させる!)
騎士と言えばフルプレートアーマーや馬鎧、ランスのような長槍をイメージするだろうがエリオットは騎士達に追撃の速度を上げるため馬鎧を外し鎧も一部取り外し軽装になるように命令した。
彼は追撃戦に移るため騎士の重装甲による防御力と衝突時の衝撃力よりもスピードが命になると判断した。
「行くぞ!こいつに馬を与えろ!案内させる!」
「はっ!」
エリオットは斥候に馬を与え大岩までの案内をさせた。その道中も拠点らしきものはいくつか発見されたが、ゴブリンは一体も居なかった。
「着いたか…」
一行は大岩まで到着した。
「領主様!こちらに多数の足跡があります!大きさからゴブリンと推測されます!」
「探知魔法に反応あり!その数多数!」
騎士に同行していた魔法使いが言った。
「よし!我に続け!」
道を外れて木々が生い茂る道なき道を進んだ。
(だんだん、気配が近づいてくる。)
「敵は近い!槍!構…「領主様!」何だ!?」
探知魔法を使っていた魔法使いが正に血の気が引いた顔をして言う。
「そ、空です…。空から接近してくる魔物を探知!」
「何!何故今になってようやくわかったのだ?!」
「そ、それが…陸の探知に全力を尽くして見失わないようにしていたので…。」
これが普通の魔法使いである。エラクレスみたいに陸も海も地中も空も一人で完全に探知できる人はいない。
それに、他のゴブリンの基地を破壊している歩兵部隊などに探知魔法を使える者を割いたのも失敗だった。本来なら前後左右、そして上空を分担して探知するのが当たり前だった。だが、追撃に囚われた騎士達の思考はそんな事を忘れてしまって
『取り敢えずゴブリンさえわかればいい』
…となってしまった。
「数は?」
「ど、どんどん増えています。30は居ます!」
「正体は?」
「もう少し近づけば…。」
「ええい!それでは正体がわかったときには手遅れになってしまうかもしれん!」
「し、しかし、ここでゴブリンを取り逃して良いのでしょうか?」
エリオットは『はぁ~。』とため息をついて…
「しかたなかろう。計画通りにいけば何の苦労もないのだから。撃退出来ただけでも良しとするしかない。」
(これで王都から戻るまでは流石のゴブリン共も大人しくなるだろう。)
彼は引き際を心得ている良き司令官であった。
「全軍撤退!」
ブルル!!
エリオットが撤退命令を出すとほぼ同時にいきなり彼の馬が走り出した。
「おい!コラ!」
エリオットは怒ったが…
ドゴーン!
少し前まで彼が居たところにとんでもない衝撃波が落ちた。
それは一箇所だけではなかった。
ドゴーン!
ドゴーン!
ドゴーン!……
「うわあ!」
「ギエ!」
「アガ!」
至る所で衝撃波が落ち、騎士を薙ぎ払った。
「超遠距離からこれだけの衝撃波を放てる…これは…竜だ!風竜だ!」
エリオットは風竜とも戦ったことがある。その時は一体であったため百人で戦い、撃退に成功した。だが、今回は数がその時の比ではない。
降り注ぐ衝撃波の中を必死になってエリオット達は駆け抜けた。
「「「く、空間魔法『障壁』」」」
探知魔法は使えなくともバリアを張れる魔法使い達が必死でエリオットを守ろうとする。
衝撃波に驚いた馬によって振り落とされた騎士も居た。
衝撃波によって馬ごとやられた騎士も居た。
最初の頃は騎士は凡そ千騎いたが、風竜の強襲で四百ほどに減ってしまった。
この逃避行の最中には気づかなかったが、エリオットの二人の息子もやられていた。
実は風竜は最初に探知された時の30頭から300頭にまで増えていた。
バリン!
「がぁ…」
障壁が割れて魔法使いの一人が衝撃波を受けた。
馬と風竜のスピードはわずかに風竜の方が速いというくらいの差であってほぼ同じ速さだったが、風竜は相変わらず多数の衝撃波を無数に飛ばしてくる。
逃走する騎士の数が一人…また一人と姿を消す…。
障壁も度重なる衝撃波によってどんどん割られていく。魔法使いも少なくなっていく。
「うがっ!」
遂に衝撃波の一つがエリオットの背中を直撃!
(こ、こんな…所で…。みんな…すまん…)
衝撃波は彼の体を貫通…即死だった。
ドスッ!
彼の体は馬から転げ落ちた。
「「「領主様!!!」」」
騎士達の悲鳴が響き渡った。
「くっ!おのれ!風竜共…許さんぞ!」
「せめて一矢報いる!」
「主君を守れずして何が騎士だ!」
「主君をみすみす死なせながら自らは生き延びる道は騎士道に非ず!」
騎士達は激昂し槍を構えて風竜に立ち向かった。
もちろん彼らとて無謀であることは百も承知だ。
しかし、彼らはそこに勝機を見出したからではなくそこに騎士道を見出したから突撃するのだ。
数秒後…彼らの槍は遂に届かなかった。
全滅である。
ちょうどその頃…冒険者達も苦戦を強いられた。撤退したと思われていたゴブリンがとんでもない群れをなして逆襲してきたのだ。
「くっそ!ジェネラルが見える範囲でもこんなに!」
「ああ、間違いない」
「ここにはキングもいる!」
最初こそ威勢良くゴブリンの基地を破壊していた冒険者達だったが、彼はだんだん功名心が抑えきれなくなった。
彼らとて生活があり、それはノース辺境伯から貰える賃金だけで生きていけないことはないが、とても暮らしが良くなるとは言えなかった。
ゴブリンを倒せばそのドロップ品である角や牙、そして魔石を手に入れてそれを売り、儲けることができる。
『ちょっとくらい良いか。』
『こんなにたくさん動員されているんだしちょっと大きな群れに手を出したってどうにかなるさ。』
などと言う空気が蔓延した。そのため深入りする冒険者が次々に現れてしまった。
だが、彼らは知らなかった。まさか2万を超えるゴブリンが一体のゴブリンを中心に動いていることを。
その一体のゴブリンこそ『ゴブキン』である。
ゴブリン達を撤退させたり、迷宮に待機させていたゴブリンまで呼び寄せたりして戦力を集中できた彼は囮が騎士を引き付けている内に冒険者を潰そうと総勢2万のゴブリンに一斉反撃を命じた。
なお、この2万のゴブリンが探知されなかった理由はとにかく離れた場所にいたため探知魔法の範囲の外にいたからであり、逆にエリオットが追いかけた方は大岩からあまり離れていなかったから、探知にかかりやすかった。
ちなみにエリオットが追いかけていた方(囮)にもゴブリンが1万体は居たためそれも合わせれば3万である。
次々に現れるゴブリンを前に冒険者達は疲労を蓄積していく。
もし、この世界に『レベルアップによりHP全快』とか『ステータスの数値アップ』とか『経験値』があれば良いレベリングとかになったかもしれない。だが、この世界にそんなものはない。
また、苦戦の理由には武器と防具の差があった。冒険者達の殆どが鉄製の武器で、鉄製の鎧兜または革製だった一方でゴブリン達は武器も鎧兜もこの世界最高のオリハルコン製である。
ガキン!
「け、剣が…」
「くっそ!矢が貫通しねー!硬すぎだろ!」
「何で出来ているんだあの武器は!」
したがって当然ながら武器を失う冒険者があとを絶たない。
しかもそれを使用しているのが、通常ゴブリンから知性と外見以外では人間とあまり変わらないジェネラルまで全てのゴブリンである。
「怯むな!反撃しろ!」
エリオットの家臣達が必死に檄を飛ばし、冒険者達などの歩兵を励ます。彼らはエリオットが戦死し、その麾下の騎士が全滅したことをまだ知らない。全滅したため伝える人がいないからだ。
(領主様が戻られるまで死守せねば…領主様が孤立してしまう…。速く退いてもらわなくては…。)
彼は己の不甲斐なさを嘆きながらエリオットに退却を要請する使者を出した。
それから数分の間に多くの冒険者や家臣達が命を落とした。逃亡者もあとを絶たない。
更に…
「大変です!」
「何だ!?」
「は、背後から、ふ、風竜が…多数あ…。」
怯えすぎて最後の方が聞こえなかった。だがそれだけで十分だった。
「は?背後から?!ふ、風竜だと?!多数だと?!馬鹿な!?では!領主様は?!領主様に苦戦と至急お戻りいただくように伝えた伝令は?!」
「………。」
おそらく両名とも風竜の大軍によって討たれたのであろうが…報告に来た兵士は何も答えなかった。
「報告!背後から新手のゴブリンが!」
「「………。」」
更に悪い事が重なった。囮になってエリオットを引き付けていたゴブリンが背後を突いたのである。
「全軍撤退…。」
家臣は言った。
「全軍撤退!」
撤退命令により一斉に撤退を始めたが、背後を塞がれおまけに空からも攻撃されて歩兵の4千人はほぼ全滅である。
ただし、女性200人だけは生きて(五体満足ではない人が多いが)囚われた。
今回の戦いはゴブリン側も多くの損害を被った。そのため彼女達には今回の戦いで減ったゴブリンを増やしてもらわなくてはならない。ゴブキンはそう考えている。
その少し後、ゴブリン軍の総本陣にはエラクレスが居た。
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