追放、転生、完璧王子は反逆者!!!

ぱふもふ

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第三章反逆王子

獣王国対ネリーキア王国3

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「来た…か…。」

辺りは静寂に包まれていた。物音は僅かもしなかったが、ヴァムード公は何かに気づいたように起き上がった。高級将校である彼は温かい部屋で休むことができていたというのに体が震えている。

起き上がって親衛隊に目配せをしていると程なく夜襲を知らせる警鐘が辺りに響く。

しかし、兵士たちの動きは鈍い。久しぶりの勝利を労うために将官にはワイン、兵士にはビールを振る舞ったのが響いているのか。

「む?!」

ガキン!

親衛隊の一人が虚空から繰り出された刃を受け止める。

刃はすぐに虚空へと引き下がった。

「今のは…一体…。」

未だ警戒を解かない親衛隊。

「ふむ、これをご覧ください。」

親衛隊の一人が剣の先で何かを掬い上げ、手にとってヴァムード公の前に差し出す。

「髪の毛?かなりの剛毛…そんで、黒…なるほど…」

ヴァムード公はすぐに理解した。

「どうやったのか分からんのじゃが、確かに闇夜に紛れやすい黒で、尚且つそれが布を纏うのではなく、身体に生えた毛なら動きが阻害されることもなく敏捷さも保てるな。」

(大したものじゃ。まさかこの短時間で儂のとこまで斬り込まれるとは…)

だが、いかに夜の闇を味方につけたとしても関所の上では動きが限られている。それに限られた範囲なら魔法で照らし炙り出すのもわけはない。

ゴゴゴゴゴ…

突然、地響きのようなものが聞こえた。

「「「ま…まさか…」」」

場所は違えどヴァムード公、第2騎士団長、第3騎士団長は同時に震え上がった。

それは聞こえてはならないものだった。周囲を固める親衛隊も寒いなか、汗が止まらない。

ヴァムード公は城壁から落ちそうなほど身を乗り出して門の方へ顔を向けた。間違えであってくれ…と願いながら。

だがしかし、彼の願いは届かず…

……ガコン!

一際大きな音がして音は止まった。

(な…なぜ…大門が開いたのだ!)

エルキュール関ほどデカい関所ともなれば、平時の交通に配慮していくつか門が作られている。大門とは文字通り大きい門のこと。つまり一度に通れる人数も多いから、今、そこが開かれることの重大さは説明に及ばない。

「門の守備兵は!何をやっておったのじゃ?!儂自ら…」

『自ら塞ぎ直してくれん!』と言い切る前に関所の外から鬨の声が上がり、関所に殺到する。

「な…なぜ…こんなはやく…」

何度目かの驚愕がヴァムード公を襲う。さっきから…否、昼間から歴戦の老将であっても分からないことの連続であった。

「「「ヴヴォォォォォ!!!」」」

独特の雄叫びを上げて突撃する狼人。

対するは…

「も、門が~」

「に…逃げろ」

「ひぇ?……うわわわ…」

「関が落ちた~!陥落だー!」

門の内側に陣取るザラーフ侯爵派ネルキン派の諸侯と傭兵たちだ。

だが、様子がおかしい。

昼間の激戦による疲労と酒が回っていたのか、全体的に動きが鈍い。こちらでは門が開いた後にようやく警鐘が鳴り始める始末。頭が働いてる者さえも関所が陥落したのだと思って戦意を喪失している。何より一番致命的だったのが指揮する立場の騎士や貴族は身分が高い事もあり、頭がドップリ酒に浸ってしまい、指揮系統が機能しなかった。

いくら普段は勇壮な者たちでも、そんな状態では覚悟を持って敵中に突っ込む狼人の相手になる訳もなく、押されていた。

「余は狼王エカチェリーナ・ベルナドットである!我が夫にして獣王陛下の命により貴様らをバラバラにしてやる!」

エラクレスの前で恥をかかされたと思っているエカはエラクレスが止めるのも聞かず門が開くやいなや
先陣切って突撃していた。

「『赤毛の青狼』が嫡子!『パウル・ヴァーサ』!参るぞ!」

彼女の隣に控える狼王国の現摂政グスタフの息子のパウルはその最前線で血風を巻き起こしていた。

『赤毛の青狼』とは彼の父、グスタフの威名である。全身を返り血で真っ赤に染めて帰ってくるグスタフを狼人は当初、彼の毛色になぞらえて『血染めの青狼』と呼んだが、『それでは見たまんま』、『普通すぎる』、『グスタフの不気味な雰囲気が表現されていない』ということで誰が呼んだか…気づけば『赤毛』と『青狼』という相反するものを組み合わせて『赤毛の青狼』と呼ばれていた。ちなみに『ヴァーサ』はエラクレスより与えられたグスタフの一族の姓である。

そんな偉大な父を持ったパウルは実はグスタフよりも優秀ではないかと一部では噂になるほどの人物だ。獣王エラクレスが色々と規格外なせいでその実力を示す機会がなくて隠れてしまっていたが…今日この日、それを証明する機会となるであろう。

「グゴォ…グゴゴゴ…」

パウルが奇妙な唸り声を上げる。乱戦だというのに何故かパウルの周りには空間ができていた。突然の襲撃とパウルの圧にネリーキア軍は完全に呑み込まれてしまっていた。

それもそのはず今のパウルは軍議で見せた落ち着いた面持ちは欠片もなく、今のパウルは舌を垂らし、牙を剥き出し目は焦点を捉えず鼻と耳が反応するままに敵を薙ぎ倒す『バーサーカー』状態であった。

「逃げろー!」

「ちょ…邪魔だ!」

「どけぇぇぇ!」

直接襲撃を受けなかった後方のネリーキア軍には何とか迎撃の構えをとる隊もあったが、前線から敗走した兵士が次々に押し寄せてくるので陣を落ち着かせる事は出来ず、その様子に恐怖をおぼえた、または『こりゃ、だめだ』と諦める兵士が増加してさらなる敗走の波を引き起こしていた。

<エルキュール関>

「やむを得ん!階段を塞ぎ関内部に侵入した敵から防衛せよ!いつ敵がなだれ込んでもおかしくないぞ!」

関の混乱を鎮めるべく親衛隊と共に奮闘するヴァムード公。

「「「ぐわぁぁぁ!!!」」」

「何奴?!」

急いで指揮棒を鎧の中にしまって槍を構える。突然、親衛隊が4、5人一気に吹き飛ばされてしまったのだ。

「そなたがこの関の大将か?」

ヌゥっと暗闇からその生き物は姿を現した。よく見えないが数人は連れがいるようだ。

(何たる威力!なんたる巨躯!何たる巨大なメイス!名のある狼人に違いない。)

ツー…

冷や汗が止まらない。強い圧迫感のせいで声も出しにくいが、そこは歴戦のヴァムード公。槍を突きつけ、堂々と応対する。

「違うな。我が甥っ子にしてネリーキア王国第2王子、ラント殿下じゃ!」

「なら用はない。とは言え貴族なのは間違いない。生け捕りにし、奴隷にしてやろう。」

そんなヴァムード公の勇気を全く知らないその狼人はあっさりと言い放った。

「何を申すか?!」

「愚弄すのも大がi…」

憤慨した親衛隊が狼人に突っ込むが…

ゴブン!

狼人は巨大なメイスを横薙ぎに振るう。受け止めようとした親衛隊は武器ごと弾き飛ばされる。しかし、その横薙ぎをヴァムード公、他数名の親衛隊は姿勢を低くして回避し、狼人がメイスを構え直す前に槍で突き出す。

しかし、狼人はそれらの槍を時に避け、時に柄で払い、時に配下に弾かせ、ヴァムード公の槍は避けた後に自身の脇に挟んだ。

「ぬ…ぬぅぅ…」

ヴァムード公は抜けないことがわかると槍を離して素早く距離をとり剣を抜く。

「ぐ、グギャヴ!」

「は!」

「てりゃ!」

その間も親衛隊と狼人の双方入り乱れた戦いが繰り広げられる。

戦況は互角…なわけなかった。巨躯を誇る狼人とその配下の狼人の実力は親衛隊をも圧倒的した。

それでもヴァムード公は逃げずに粘ることを決めた。彼には勝算があった。

(内側のネリーキア軍や第2騎士団や第3騎士団もまだ戦っているじゃろう。彼らが来るまで耐えるのじゃ!関所を守る主将として真っ先に敗れるわけにはいかんのじゃ!)

しかし現実は残酷だ。彼が頼りにしたネリーキア軍は既に敗走している。

それにより、関所には外から内から狼人がどんどん這い上がってきているため気付かないうちに兵力差が広がってしまっていた。

これでは第2騎士団、第3騎士団と言えども苦戦を強いられ、ヴァムード公に救援を差し向けることも困難だ。

「ぬぅ…」

バリン!

ドン!

一人また一人と親衛隊は討ち取られていき、遂に追い詰められたヴァムードは剣でメイスを受け止めたものの叩き折られてしまい、そのまま城壁に叩きつけられた。

「ぐ、ぐふ…」

意識が朦朧とする中、何とかしようとするが腕が上がらない。そして立てない。

老体であることを考慮すると叩きつけられても命があるのは奇跡かもしれない。

「勝負あったな。」

大柄の狼人がメイスを突きつける。動けないヴァムード公に狼人が近づき彼を拘束する。

「敵将!ひっ捕らえたり~!」

「「「おおおおおお!!!」」」

大柄の狼人の宣言を聞いた狼人たちは勢いを増して
さらに攻勢を強めた。

その勢いの前には何人も抗えず、第2騎士団ならびに第3騎士団も降伏するしか無かった。

これによってエルキュール関は陥落した。

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