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第一部:皇帝の黎明と絶対王政の再臨
泥にまみれた誇り
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シュタイン子爵家の豪奢な広間。
数日前まで、この場所はルイ・ナポレオンに対する嘲笑と侮蔑の言葉で満ちていた。だが今、そこに流れているのは、墓場のような静寂と、むせ返るような絶望の気配だけだった。
広間の中央、かつて子爵が座っていた最上等の革椅子に、13歳の少年が深く腰掛けている。
ルイ・ナポレオン。
その膝元には、シュタイン子爵とその息子たちが、まるで敗残兵のように泥にまみれて跪いていた。
「……顔を上げなさい、子爵。そんな無様な姿を見に来たのではありません」
ルイの声は、冷徹な刃のように広間を切り裂いた。子爵は震える首を動かし、血が滲むほど唇を噛み締めながら少年を仰ぎ見た。その瞳には、憎しみと、それを上回る底なしの恐怖が宿っている。
「ボナパルト卿……借用書の通り、領地も、城も、山林も……すべてあなたの手に渡った。もう満足だろう。我々には、何も残っていない……」
「いいえ。まだ残っていますよ。あなたの『命』と、家族の『将来』が」
ルイは手元にあった分厚い束を、子爵の目の前に放り投げた。
それは、子爵が裏で行っていた不正な土地取引と、公金横領の決定的な証拠であった。史実の知識を持つルイにとって、この時代の貴族が抱える「闇」の在処を突き止めるなど、呼吸をするよりも容易い。
「これを法廷に持ち込めば、あなたは処刑台か、さもなくば終身刑だ。……だが、私は慈悲深い。あなたたちが私の『家臣』として、忠誠を誓うなら、不問に付してあげましょう」
「家臣だと……! 貴様、ナポレオンのまがまがしい血筋の分際で!」
子爵の息子が逆上して立ち上がろうとしたが、ルイの背後に控えていた屈強な護衛が、容赦なくその背を蹴り飛ばした。
「静かに。主人が話している最中ですよ」
ルイの視線は、その横で震える子爵令嬢に向けられた。
かつてルイを嘲笑った高慢な子爵令嬢。今やその瞳は涙で濡れ、屈辱に震えている。
「子爵。あなたたち家族が生き永らえられるかどうかは、あなたがどれだけ私に忠実に、……献身的に仕えるかにかかっている。わかりますね?」
「……っ……ああ……」
子爵は絶望のあまり声を漏らした。
彼のプライドは、今この瞬間、かつてバカにしていた少年の権力の下で、完膚なきまでに粉砕されたのだ。
しかし、彼はゆっくりと、泥を舐めるような思いでルイの足元に這いつくばり、頭を下げた。
「子爵。あなたの忠誠は受け取りました。ですが……老いたあなたの言葉だけでは、私の疑念を晴らすには足りない」
ルイの視線が、子爵の背後で震える長女、子爵令嬢ゾフィー・フォン・シュタインに向けられた。
彼女は、かつてルイが林で泥水を飲まされていた際、扇子で口元を隠しながら「敗北者の血を引く野良犬には、泥水がお似合いだわ」と冷笑した、あの少女だ。
「ゾフィー。君もこちらへ」
ルイの声に、ゾフィーの肩が激しく跳ねた。彼女は絶望に染まった目で父を見、それから逃げ場のないルイの瞳を見つめた。
「……嫌。わたくしが、あなたのような……」
「ゾフィー、いけない!」
子爵が悲鳴を上げた。「ルイ様、娘はまだ幼く……!」
「黙りなさい。選ぶのは彼女だ」
ルイは懐から一枚の書類を取り出した。
「ここに、あなたの父を監獄へ送り、シュタイン家を今日中に路頭に迷わせる命令書がある。私が指を鳴らせば、君の兄も暴力罪で憲兵に引き渡されるだろう。……だが、君が私の『傘下』に入ると誓うなら、すべてを白紙に戻してあげよう」
ゾフィーの顔から血の気が引いた。
プライドか、家族か。
彼女の美しい唇が、屈辱で小刻みに震える。
「……わたくしが、あなたの……傘下にいれば、家族を、助けてくださるのね?」
「傘下? 違うな。君は私の『従者』、そして『手足』になるんだ。君の意思も、プライドも、今日この瞬間から私の許可なく使うことは許されない」
ルイはわざとらしく、椅子に座ったまま自分の足を軽く投げ出した。
「跪きなさい、ゾフィー。かつて私が飲まされた泥水の味を思い出しながら……私の足元に忠誠を誓うんだ」
「っ……ああ……!」
ゾフィーは、死ぬよりも辛い屈辱に顔を歪めた。
だが、背後の護衛に押さえつけられた兄の呻き声と、這いつくばる父の姿が彼女を追い詰める。
彼女はゆっくりと、まるで魂が削られるような足取りでルイの前へ進み出ると、ドレスの裾を汚しながらその場に膝をついた。
かつて見下していた「亡命者の少年」の足元へ。
彼女は震える手でルイの靴に触れ、額を床に近づけた。
「……わたくしの……すべてを、ルイ・ナポレオン様に……捧げます。……どうか、わたくしを、お好きに……」
「よく言えましたね、ゾフィー。その悔しさに濡れた瞳……これまでのどの宝石よりも美しいですよ」
ルイは彼女の顎を強引に持ち上げ、その潤んだ瞳を至近距離で覗き込んだ。
13歳の少年の顔には、一族を再興させんとする覇気と、獲物を完全に支配した征服者の歪んだ悦びが混在していた。
「さあ、子爵。そしてゾフィー。今日から君たちは私の影だ。君たちの『名前』と『力』を、私の帝国の礎として徹底的に使い倒してあげましょう」
数日前まで、この場所はルイ・ナポレオンに対する嘲笑と侮蔑の言葉で満ちていた。だが今、そこに流れているのは、墓場のような静寂と、むせ返るような絶望の気配だけだった。
広間の中央、かつて子爵が座っていた最上等の革椅子に、13歳の少年が深く腰掛けている。
ルイ・ナポレオン。
その膝元には、シュタイン子爵とその息子たちが、まるで敗残兵のように泥にまみれて跪いていた。
「……顔を上げなさい、子爵。そんな無様な姿を見に来たのではありません」
ルイの声は、冷徹な刃のように広間を切り裂いた。子爵は震える首を動かし、血が滲むほど唇を噛み締めながら少年を仰ぎ見た。その瞳には、憎しみと、それを上回る底なしの恐怖が宿っている。
「ボナパルト卿……借用書の通り、領地も、城も、山林も……すべてあなたの手に渡った。もう満足だろう。我々には、何も残っていない……」
「いいえ。まだ残っていますよ。あなたの『命』と、家族の『将来』が」
ルイは手元にあった分厚い束を、子爵の目の前に放り投げた。
それは、子爵が裏で行っていた不正な土地取引と、公金横領の決定的な証拠であった。史実の知識を持つルイにとって、この時代の貴族が抱える「闇」の在処を突き止めるなど、呼吸をするよりも容易い。
「これを法廷に持ち込めば、あなたは処刑台か、さもなくば終身刑だ。……だが、私は慈悲深い。あなたたちが私の『家臣』として、忠誠を誓うなら、不問に付してあげましょう」
「家臣だと……! 貴様、ナポレオンのまがまがしい血筋の分際で!」
子爵の息子が逆上して立ち上がろうとしたが、ルイの背後に控えていた屈強な護衛が、容赦なくその背を蹴り飛ばした。
「静かに。主人が話している最中ですよ」
ルイの視線は、その横で震える子爵令嬢に向けられた。
かつてルイを嘲笑った高慢な子爵令嬢。今やその瞳は涙で濡れ、屈辱に震えている。
「子爵。あなたたち家族が生き永らえられるかどうかは、あなたがどれだけ私に忠実に、……献身的に仕えるかにかかっている。わかりますね?」
「……っ……ああ……」
子爵は絶望のあまり声を漏らした。
彼のプライドは、今この瞬間、かつてバカにしていた少年の権力の下で、完膚なきまでに粉砕されたのだ。
しかし、彼はゆっくりと、泥を舐めるような思いでルイの足元に這いつくばり、頭を下げた。
「子爵。あなたの忠誠は受け取りました。ですが……老いたあなたの言葉だけでは、私の疑念を晴らすには足りない」
ルイの視線が、子爵の背後で震える長女、子爵令嬢ゾフィー・フォン・シュタインに向けられた。
彼女は、かつてルイが林で泥水を飲まされていた際、扇子で口元を隠しながら「敗北者の血を引く野良犬には、泥水がお似合いだわ」と冷笑した、あの少女だ。
「ゾフィー。君もこちらへ」
ルイの声に、ゾフィーの肩が激しく跳ねた。彼女は絶望に染まった目で父を見、それから逃げ場のないルイの瞳を見つめた。
「……嫌。わたくしが、あなたのような……」
「ゾフィー、いけない!」
子爵が悲鳴を上げた。「ルイ様、娘はまだ幼く……!」
「黙りなさい。選ぶのは彼女だ」
ルイは懐から一枚の書類を取り出した。
「ここに、あなたの父を監獄へ送り、シュタイン家を今日中に路頭に迷わせる命令書がある。私が指を鳴らせば、君の兄も暴力罪で憲兵に引き渡されるだろう。……だが、君が私の『傘下』に入ると誓うなら、すべてを白紙に戻してあげよう」
ゾフィーの顔から血の気が引いた。
プライドか、家族か。
彼女の美しい唇が、屈辱で小刻みに震える。
「……わたくしが、あなたの……傘下にいれば、家族を、助けてくださるのね?」
「傘下? 違うな。君は私の『従者』、そして『手足』になるんだ。君の意思も、プライドも、今日この瞬間から私の許可なく使うことは許されない」
ルイはわざとらしく、椅子に座ったまま自分の足を軽く投げ出した。
「跪きなさい、ゾフィー。かつて私が飲まされた泥水の味を思い出しながら……私の足元に忠誠を誓うんだ」
「っ……ああ……!」
ゾフィーは、死ぬよりも辛い屈辱に顔を歪めた。
だが、背後の護衛に押さえつけられた兄の呻き声と、這いつくばる父の姿が彼女を追い詰める。
彼女はゆっくりと、まるで魂が削られるような足取りでルイの前へ進み出ると、ドレスの裾を汚しながらその場に膝をついた。
かつて見下していた「亡命者の少年」の足元へ。
彼女は震える手でルイの靴に触れ、額を床に近づけた。
「……わたくしの……すべてを、ルイ・ナポレオン様に……捧げます。……どうか、わたくしを、お好きに……」
「よく言えましたね、ゾフィー。その悔しさに濡れた瞳……これまでのどの宝石よりも美しいですよ」
ルイは彼女の顎を強引に持ち上げ、その潤んだ瞳を至近距離で覗き込んだ。
13歳の少年の顔には、一族を再興させんとする覇気と、獲物を完全に支配した征服者の歪んだ悦びが混在していた。
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