皇帝再誕 ~もしもルイ・ナポレオンが少年期に近代知識に目覚めていたら~

ぱふもふ

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第一部:皇帝の黎明と絶対王政の再臨

幕間:籠の中の青い鳥 ―ゾフィーの手記より―

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1823年4月。パリ、サン・ジェルマンの邸宅にて。
鏡の中に映る自分を見るのが、最近は恐ろしい。
かつてシュタイン子爵家の長女として、スイスの山々を気高く見下ろしていたゾフィー・フォン・シュタインは、もうどこにもいない。
そこにいるのは、首元に目立たぬよう薄い絹の布を巻き、主人の命を待つ一匹の「猟犬」だ。
ルイ様――あの十四歳の少年を、私は今やそう呼ばずにはいられない。
週に一度、真夜中に行われる『教育』の時間。それが近づくたびに、私の指先は屈辱と恐怖で震え、同時に、胃の奥が焼けるような奇妙な疼きに襲われる。
「ゾフィー、こちらへ」
彼の声は、常に静かで、慈悲がない。
あの日、父と兄の命を天秤にかけられ、彼の足元に跪いた時から、私の魂は彼に買い取られたのだ。
『教育』の内容は、多岐にわたる。
列強諸国の複雑な権力構造、未来の経済理論、そして――人を欺き、誘惑し、精神を破壊するための残酷な心理術。
彼が語る知識は、この時代のどんな碩学も及ばないほどに鋭く、論理的だ。
「いいですか、ゾフィー。愛などという不確かなものに頼ってはいけない。恐怖と利益、そして『依存』。それだけが、人を永遠に縛り付ける鎖となる」
彼は私の髪をゆっくりと梳きながら、耳元で毒を流し込む。
最初、私は彼を憎んでいた。泥水を飲まされた復讐を果たす、卑小な亡命者の子供だと蔑んでいた。
けれど、どうだろう。
彼の語る「未来」が一つ、また一つと現実になるたびに、私の憎しみは、逃れられない絶望へと塗り替えられていった。
神に背くような彼の独裁思想。
「民衆は家畜であり、王は神であるべきだ」と断じるその冷酷な唇が、私の耳朶に触れるたび、私は自分が「特別な部品」として彼の中に組み込まれていく悦びに震えてしまう。
あの方は、私のすべてを知っている。
私が何を恐れ、何を欲し、どこを触れられれば思考が止まるのかまで。
「……様、ルイ様……っ」
気がつけば、私は彼の足元で、自分でも聞いたことのないような甘ったるい声を漏らしている。
屈辱なはずなのに。
かつて泥水を飲ませた少年を、今は私が、ひれ伏して見上げている。
彼の手が私の頬を打てば、私は家族の安泰を思い出し、安堵する。
彼が私の功績を褒め、その冷たい指先で私を慈しめば、私は自分がパリで最も価値のある「道具」になれたことを誇らしく感じてしまう。
自由?
そんなものは、あの混沌としたフランス革命が残した「不潔なゴミ」に過ぎない。
私は今、この黄金の籠の中で、かつてないほどの充足を感じている。
あの方――私の皇帝が、いつか世界を平らげるその日まで。
私は彼の最も鋭い牙となり、最も美しい影として、その褥(しとね)を汚し続けよう。
例えその先に、破滅しかないとしても。
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