皇帝再誕 ~もしもルイ・ナポレオンが少年期に近代知識に目覚めていたら~

ぱふもふ

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第一部:皇帝の黎明と絶対王政の再臨

王の黄昏、皇帝の黎明

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1824年9月。
パリ、チュイルリー宮殿。国王ルイ18世の寝室は、死の臭いと重苦しい沈黙に支配されていた。
肥大した肉体は壊疽(えそ)に腐り落ち、かつての啓蒙君主としての知性も、終わりのない激痛の中に溶け去ろうとしていた。
その沈黙を破ったのは、許可なき足音だった。
「……誰だ。アルトワ伯(次期国王)か? それとも死神か……」
老王の掠れた声。枕元に立ったのは、16歳の少年、ルイ・ナポレオンであった。その背後には、冷徹な美貌を湛えた影、ゾフィー・フォン・シュタインが控えている。彼らが居るのは明らかに政治的に場違いであるが、どうしてここにいるのか…言わなくても想像がつくだろう。
「陛下。……苦痛を終わりにしましょう」
ルイの合図で、ゾフィーが小瓶を取り出した。未来の薬理知識から精製された強力な鎮痛剤が、王の喉を通り、数分後には奇跡のような静寂をもたらした。数年ぶりに「思考の自由」を取り戻したルイ18世は、驚愕に目を見開いた。
「……痛みが、消えた……。魔法か? お前は一体……」
「魔法ではありません。……フランスの『未来』です、陛下」
ルイは、電信で刻々と更新される「未来の歴史書」とも言うべき報告書を王の眼前に突きつけた。そこには、王弟アルトワ伯が即位した直後に強行しようとする『極右反動政策』の全貌が、地獄の予言書のごとく綴られていた。
「な……っ……!? なんだ、この狂った政策は!」
ルイ18世は、死の床にあることも忘れ、身を乗り出して叫んだ。

「ボナパルトの小僧が言うことを信じるのですか?」

「全!然!信じるとも!弟のことは余がよく知っている!あ~もう!考えないようにしてたのにぃぃい!」

(シャルル10世…信用ゼロまじかよwww)

亡命生活で培った彼の鋭い政治的直感は、その紙に書かれた内容が、ブルボン王朝の「死刑執行書」であることを瞬時に理解した。
「検閲の復活、亡命貴族への十億フラン贈与、そして議会の解散……。アルトワ伯め、正気か!? こんなことをすれば、パリの民衆は再び武器を手に取り、我々をギロチンへ送るぞ!」
「左様です。1830年、ブルボン家は自らが招いた憎悪の炎で、パリから叩き出される。それが『未来』です、陛下。……あなたが守ろうとしたフランスは、無知な弟の手で、再び血の海に沈む」
「……ああ、神よ……!」
老王は、壊疽で腐りかけた指先で紙を握りしめ、震えた。
啓蒙君主として、革命の傷跡を必死に縫い合わせようとした彼の努力が、死後わずか数年で身内の手によって灰にされる。その絶望は、病の激痛よりも鋭く王の心臓を抉った。

「叔父ナポレオンは武力で世界を壊した。ですが私は、知略でこの国を『保存』しに来た。……陛下、私を国家最高顧問として承認する密勅を。……私がブルボンという看板を守りつつ、民衆も、そしてあなたの愚かな弟さえも、完璧に調教してみせましょう」
ルイ18世は、目の前に立つ少年の瞳を見た。
そこには、かつてのナポレオンが持っていた野心を超えた、もっと底知れぬ、冷徹な「支配の完成形」が宿っていた。
「……恐ろしい少年だ。お前は……ナポレオンではない。……再臨した、より冷酷な魔王か」
震える手で、ルイ18世は筆を執った。
それは、ボナパルト家の帰還を認め、国家の全実権を「シュタイン子爵の背後の影」に譲り渡すという、ブルボン家最期の、そして最大の敗北の署名であった。しかし、このままでは王位どころか血脈さえも怪しい。家長としてなさねばならぬことだった。
1824年9月16日。ルイ18世、崩御。
新王シャルル10世の即位に沸くパリ。その喧騒をよそに、ルイ・ナポレオンは宮殿のバルコニーで、ゾフィーの肩を抱きながら、手に入れた密勅を月光に透かした。
「……これでいい。看板(王)は誰でも構わない。……この国の『脳』と『神経』は、今この瞬間から、私のものだ」
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