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第一部:皇帝の黎明と絶対王政の再臨
王家の血脈、権力の座へ
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1826年1月。
1825年の金融恐慌による飢餓と失業は、パリの民衆の不満を増大させていた。
新王シャルル10世は、自らの王座を守るため、新たな手を打った。
「……ルイ・ナポレオンよ。もはや、そなたの『知略』と『黄金』なしには、このフランスは保たん」
チュイルリー宮殿の密室。シャルル10世は、17歳になったルイに告げた。
王が提示したのは、ボナパルト家を公式に王族として迎え入れるための、究極の懐柔策――「ブルボンの血」との婚姻であった。
ルイに宛がわれたのは、亡きベリー公の遺児であり、フランスの至宝と謳われるルイーズ・ド・ブルボン王女。
そしてルイはサン=クルー公爵に任命され、王家の全権を委託された「国家摂政公爵」へと叙任された。
「……ようこそ、私の館へ。ルイーズ殿下」
婚礼の夜。
シュタイン子爵邸を改装した「摂政公邸」に足を踏み入れたルイーズ王女と、彼女に付き従う五人の名門貴族出身の女官たちは、緊張に身をこわばらせていた。
彼女たちの前には、冷徹な美貌を湛えたゾフィーが、指導役として立ちはだかっていた。
「殿下。そして女官の皆様。今夜から、あなたたちが信じていた『王族の誇り』は、新たな役割へと変わります」
ゾフィーの冷たい声が響く。
ルイ・ナポレオンは、上座から彼女たちを見下ろしていた。
「ルイーズ。君を妻に迎えたのは、血筋だけが目的ではない。……君という『ブルボンの象徴』を、私の政治的な影響下で動かすためだ」
「……っ、そんな……。わたくしは、フランスの王女です……!」
「いいえ。君は今日から、私の政策を民衆に受け入れさせるための『重要な役割』を担うことになる」
ルイは立ち上がり、ルイーズに近づいた。
緊張に震える王女の瞳。そして、その背後で不安に顔を歪める女官たち。
ルイは、彼女たち全員に、かつてゾフィーへ施したのと同様の、あるいはそれ以上に徹底的な『指導』の開始を宣言した。
政治学、外交術、そして権力の構造。
名門の血筋を誇る女官たちが、一人、また一人と、ルイの戦略を理解し、その手足となっていく。
彼女たちは、表舞台では王家の威厳を保つ貴婦人として振る舞いながら、裏ではルイの命に従い、情報を収集し、政敵の動向を探る「権力の担い手」へと成長していった。
「……ルイ様。……わたくしを、お使いください……」
数ヶ月後。
かつて高潔だったルイーズ王女は、夜の帳の中で、ルイの前に立ち、新たな役割への覚悟を示していた。
その隣には、主人の指示を待つ女官たちが、控えている。
1826年。
ブルボン王朝は、自ら招き入れた「摂政」によって、その内部構造を大きく変えられていた。
玉座に座るシャルル10世は、まだ気づいていない。
自らの孫娘も、宮廷を彩る貴婦人たちも、すべてがルイ・ナポレオンの掌中で動く「政治的な力」へと成り果てたことを。
1826年末。
「サン=クルー公爵」となったルイ・ナポレオンの広大な領地は、今やフランスで最も「危険で先進的」な実験場と化していた。
ルイは、未来知識で「数年後のフランス軍を背負って立つ逸材」を特定し、公爵の権限とロスチャイルドから吸い上げた莫大な資金を用いて、彼らを次々とサン=クルーへ招致した。
「……若き顧問殿。いや、公爵閣下。これほどの持て成しを受ける筋合いはありませんな」
不遜な態度で現れたのは、後にアルジェリア征服で名を馳せる剛直な軍人、ブジョー。そして、冷徹なカヴェニャック、野心家のシャンガルニエ、そして後にルイ(史実のナポレオン3世)のクーデターを支えることになるサン=タルノー。
現役の貴族軍人たちが旧態依然とした戦術に固執する中、ルイは、まだ日の目を見ていない彼ら「実力主義の若手・中堅」を、最高級のワインと、軍人なら誰しもが喉から手が出るほど欲しがる「未来の戦術書」で迎え入れた。
「諸君、私が求めているのは、ブルボンのために死ぬ騎士ではない。……新しい時代の『戦争』を執行する専門家だ」
ルイは彼らに、サン=クルーの秘密演習場で「新兵器」を披露した。
それは、史実より数十年早く開発された「雷管式のライフル銃」と、初期型の「施条砲(ライフル砲)」であった。
「……な、なんだこの射程と命中精度は! これまでのゲベール銃が玩具に見える!」
ブジョーたちは驚愕し、ルイの手に握られた「未来の暴力」に魅了された。ルイは彼らに惜しみなく最新理論を教え込み、彼らを「サン=クルー派」という名の、自分に忠実な軍事エリート集団へと作り変えていった。
しかし、彼らが「世界の頂点」だと信じ込まされたその技術でさえ、ルイにとっては「二世代前の古物」に過ぎなかった。
深夜、サン=クルーの最も深い地下区画。
そこでは、ルイがスイス亡命時代から密かに育て上げてきた、ボナパルト家直属の「黒衣の親衛隊」が訓練を行っていた。
彼らが手にするのは、ブジョーたちに与えた先込め式ライフルではない。
未来のボルトアクション銃のプロトタイプ、そして電信網と連動した「リアルタイム戦術指揮システム」。
「……いいか。ブジョーたちに与えた技術は、あくまで既存の列強を圧倒するためのものに過ぎない」
ルイは、傍らに控えるゾフィーと、親衛隊の隊長を見つめた。
「彼ら軍人は、常に裏切りの可能性を孕む。だからこそ、彼らが『自分たちが最強だ』と自惚れているそのさらに上を、我々は行かねばならない。……彼らが万が一、私に銃口を向けたその瞬間、自分が持っている武器がいかに旧式であるかを、死を以て知ることになるだろう」
サン=クルーの森には、二種類の銃声が響いていた。
一つは、フランス軍を掌握するために貸し与えられた「偽りの最新」。
もう一つは、ルイ・ナポレオンだけが握る、世界を終わらせるための「真の暴力」。
1826年。
フランス軍の背骨(エリートたち)は、ルイの甘美な誘惑に絡め取られた。
彼らは自らが「最強の猟犬」になったと信じて疑わなかったが、その首輪を握る少年が、すでに自分たちを射殺するための「さらに強力な猟銃」を隠し持っていることには、まだ誰も気づいていなかった。
1825年の金融恐慌による飢餓と失業は、パリの民衆の不満を増大させていた。
新王シャルル10世は、自らの王座を守るため、新たな手を打った。
「……ルイ・ナポレオンよ。もはや、そなたの『知略』と『黄金』なしには、このフランスは保たん」
チュイルリー宮殿の密室。シャルル10世は、17歳になったルイに告げた。
王が提示したのは、ボナパルト家を公式に王族として迎え入れるための、究極の懐柔策――「ブルボンの血」との婚姻であった。
ルイに宛がわれたのは、亡きベリー公の遺児であり、フランスの至宝と謳われるルイーズ・ド・ブルボン王女。
そしてルイはサン=クルー公爵に任命され、王家の全権を委託された「国家摂政公爵」へと叙任された。
「……ようこそ、私の館へ。ルイーズ殿下」
婚礼の夜。
シュタイン子爵邸を改装した「摂政公邸」に足を踏み入れたルイーズ王女と、彼女に付き従う五人の名門貴族出身の女官たちは、緊張に身をこわばらせていた。
彼女たちの前には、冷徹な美貌を湛えたゾフィーが、指導役として立ちはだかっていた。
「殿下。そして女官の皆様。今夜から、あなたたちが信じていた『王族の誇り』は、新たな役割へと変わります」
ゾフィーの冷たい声が響く。
ルイ・ナポレオンは、上座から彼女たちを見下ろしていた。
「ルイーズ。君を妻に迎えたのは、血筋だけが目的ではない。……君という『ブルボンの象徴』を、私の政治的な影響下で動かすためだ」
「……っ、そんな……。わたくしは、フランスの王女です……!」
「いいえ。君は今日から、私の政策を民衆に受け入れさせるための『重要な役割』を担うことになる」
ルイは立ち上がり、ルイーズに近づいた。
緊張に震える王女の瞳。そして、その背後で不安に顔を歪める女官たち。
ルイは、彼女たち全員に、かつてゾフィーへ施したのと同様の、あるいはそれ以上に徹底的な『指導』の開始を宣言した。
政治学、外交術、そして権力の構造。
名門の血筋を誇る女官たちが、一人、また一人と、ルイの戦略を理解し、その手足となっていく。
彼女たちは、表舞台では王家の威厳を保つ貴婦人として振る舞いながら、裏ではルイの命に従い、情報を収集し、政敵の動向を探る「権力の担い手」へと成長していった。
「……ルイ様。……わたくしを、お使いください……」
数ヶ月後。
かつて高潔だったルイーズ王女は、夜の帳の中で、ルイの前に立ち、新たな役割への覚悟を示していた。
その隣には、主人の指示を待つ女官たちが、控えている。
1826年。
ブルボン王朝は、自ら招き入れた「摂政」によって、その内部構造を大きく変えられていた。
玉座に座るシャルル10世は、まだ気づいていない。
自らの孫娘も、宮廷を彩る貴婦人たちも、すべてがルイ・ナポレオンの掌中で動く「政治的な力」へと成り果てたことを。
1826年末。
「サン=クルー公爵」となったルイ・ナポレオンの広大な領地は、今やフランスで最も「危険で先進的」な実験場と化していた。
ルイは、未来知識で「数年後のフランス軍を背負って立つ逸材」を特定し、公爵の権限とロスチャイルドから吸い上げた莫大な資金を用いて、彼らを次々とサン=クルーへ招致した。
「……若き顧問殿。いや、公爵閣下。これほどの持て成しを受ける筋合いはありませんな」
不遜な態度で現れたのは、後にアルジェリア征服で名を馳せる剛直な軍人、ブジョー。そして、冷徹なカヴェニャック、野心家のシャンガルニエ、そして後にルイ(史実のナポレオン3世)のクーデターを支えることになるサン=タルノー。
現役の貴族軍人たちが旧態依然とした戦術に固執する中、ルイは、まだ日の目を見ていない彼ら「実力主義の若手・中堅」を、最高級のワインと、軍人なら誰しもが喉から手が出るほど欲しがる「未来の戦術書」で迎え入れた。
「諸君、私が求めているのは、ブルボンのために死ぬ騎士ではない。……新しい時代の『戦争』を執行する専門家だ」
ルイは彼らに、サン=クルーの秘密演習場で「新兵器」を披露した。
それは、史実より数十年早く開発された「雷管式のライフル銃」と、初期型の「施条砲(ライフル砲)」であった。
「……な、なんだこの射程と命中精度は! これまでのゲベール銃が玩具に見える!」
ブジョーたちは驚愕し、ルイの手に握られた「未来の暴力」に魅了された。ルイは彼らに惜しみなく最新理論を教え込み、彼らを「サン=クルー派」という名の、自分に忠実な軍事エリート集団へと作り変えていった。
しかし、彼らが「世界の頂点」だと信じ込まされたその技術でさえ、ルイにとっては「二世代前の古物」に過ぎなかった。
深夜、サン=クルーの最も深い地下区画。
そこでは、ルイがスイス亡命時代から密かに育て上げてきた、ボナパルト家直属の「黒衣の親衛隊」が訓練を行っていた。
彼らが手にするのは、ブジョーたちに与えた先込め式ライフルではない。
未来のボルトアクション銃のプロトタイプ、そして電信網と連動した「リアルタイム戦術指揮システム」。
「……いいか。ブジョーたちに与えた技術は、あくまで既存の列強を圧倒するためのものに過ぎない」
ルイは、傍らに控えるゾフィーと、親衛隊の隊長を見つめた。
「彼ら軍人は、常に裏切りの可能性を孕む。だからこそ、彼らが『自分たちが最強だ』と自惚れているそのさらに上を、我々は行かねばならない。……彼らが万が一、私に銃口を向けたその瞬間、自分が持っている武器がいかに旧式であるかを、死を以て知ることになるだろう」
サン=クルーの森には、二種類の銃声が響いていた。
一つは、フランス軍を掌握するために貸し与えられた「偽りの最新」。
もう一つは、ルイ・ナポレオンだけが握る、世界を終わらせるための「真の暴力」。
1826年。
フランス軍の背骨(エリートたち)は、ルイの甘美な誘惑に絡め取られた。
彼らは自らが「最強の猟犬」になったと信じて疑わなかったが、その首輪を握る少年が、すでに自分たちを射殺するための「さらに強力な猟銃」を隠し持っていることには、まだ誰も気づいていなかった。
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