【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約？ ついでに国も救ってみます〜

第二章 王都にお引越し！ クラスメイトは王子様

５４、口よりも早く１

「オリビア様！　そのお顔、どうしたのですか？　ついにやったかクソジョージ！」

「うわ、痛っ！　何するんだよ脳筋女！」

　オリビアがジョージと女子寮に到着すると、建物の前ではリタが心配そうに立っていた。彼女は主人の目元が赤いことにすぐに気がつき、女に目がない同僚の腹に右ストレートを決めた。

「ちょっとリタ！　やめてちょうだい！」

　リタの鉄拳を食らったジョージが体をくの字に曲げて苦痛に顔を歪めたので、オリビアは慌てて彼女を制止する。

「私の問題よ。ジョージは関係ないわ」

「え、コイツのせいではないのですか？」

　次の一発のために拳を握りしめていたリタは眉を上げ惚けた表情で体の力を抜き拳を解いた。
　二発目を免れたジョージはなんとか直立し、殴られた腹を手で摩っている。

「おい、いいかげんにしろよリタ。お前、俺なら何してもいいと思ってるだろう。このガサツ女」

「そこまで言うことないだろう！　お前こそ日頃から信用されるような行動をしないからこうなるんだ」

「ちょっと！　ふたりともいい加減にしなさい！」

　本格的な喧嘩に発展しそうなリタとジョージの間に入るオリビア。
　注意された二人は何か言いたそうな不満げな表情をしていたが、オリビアはそれを許さなかった。リタとジョージは大きく息を吐くにとどまった。
　こんなに息ぴったりなのに、なぜすぐ喧嘩になるのか。主人としては不思議でならない。

「リタ、いくらなんでもいきなり殴るのはいけないわ」

　オリビアが嗜めると、リタは「申し訳ございません」と肩を丸めて頭を下げた。
　次に、その視線はジョージに向かう。

「ジョージ。災難としか言いようがないけど、あなたもリタを悪く言わないように」

「へいへい」

　ジョージはいまだに不満げな表情は崩さなかったが、渋々といった様子で頷いた。なんとか仲裁したオリビアは息を吐く。

「さあ、もう疲れたし今日は解散しましょう！」

「わかりました。お疲れっす」

　こうしてオリビアとリタは女子寮の中へ、ジョージは男子寮へと帰っていった。

「オリビア様、先ほどは申し訳ありませんでした。すぐにお茶を用意いたします」

「ありがとう。ジョージとやり合うのはほどほどにね」

　部屋に戻り改めて自分に頭を下げお茶の準備を始めたリタに、オリビアは胸を撫で下ろした。ソファに腰掛け、クッキーをつまみながら紅茶が差し出されるのを待つ。

　程なくして「お待たせいたしました」というリタの声とともに、自宅から持ってきたお気に入りのティーカップが目の前に現れる。
　ふわりと紅茶のいい香りがオリビアの気分を和らげた。

「いい香り。落ち着くわ……あ！」

　オリビアはゆっくりと目を閉じて紅茶の香りを楽しんでいると、ふと忘れていたことを思い出した。リタが顔を覗き込んで「どうなさいましたか？」と様子をうかがってくる。
　オリビアはティーカップを片手に持ったまま、目を見開いた。

「明日は木曜でしょう？　リタ、あなたお休みの日よね？　ジョージに伝えるの忘れてたわ！」

＞＞続く