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第五章 交差する陰謀
142、エルという名の虚像(前編)2
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「え、リタさんの?」
「はい、週末にリビー様とも行く店ですが、とても美味しいんです」
「ぜひ! そこにしましょう!」
エルはリタに連れられ、広場の近くの二階建ての店にやってきた。レンガ造りで趣がある。
「いらっしゃいませ。リタ様、ようこそおいでくださいました」
「ポールさん、こんにちは。今日、オーナーは……」
「今日は用事があり不在です。ご安心を。さあ、天気がいいので二階のテラスへどうぞ」
「ありがとうございます」
ポールと呼ばれた男性店員がリタと話したあとエルに丁寧にお辞儀をして、二階のテラス席に案内した。
ランチタイムから時間がずれていたためか、テラスには他の客は一組しかいなかった。女性二人だったが、彼女たちは会話に夢中なようでこちらを見ることはなかった。
「お決まりの頃、おうかがいいたします」
「はい」
ポールがメニューを置いてテラスを去った。エルは彼がリタにばかり目配せをしていたことがなんとなく気になった。しかし気にしないそぶりでメニューを眺める。
「リタさん、素敵なお店ですね。おすすめはなんでしょう?」
「そうですね、全部美味しいですが……キッシュとサラダですね。色鮮やかで盛り付けが綺麗なんです。野菜はポールさんのご実家で育てているものでこだわりがあるんですって」
「へえ……。じゃあ、僕はそのおすすめをいただきます! あとはハーブティーで」
「いいですね。私も今日はそうします」
その後、ポールがちょうどいいタイミングでやってきて注文を取り、少し待つとお茶、次に料理を運んでやってきた。
「うわあ、本当にきれい……。色鮮やかな野菜ですね」
「ありがとうございます。」
「ポールさん、いただきます」
「リタ様も素敵なお連れ様も、ごゆっくりお過ごしください」
「え! ポールさん!」
「失礼いたします」
ポールは笑顔で一礼し、階下へ降りていった。
「なんかこの野菜、味がとても濃いですね。キッシュもすごくおいしい」
「エルの口にも合ってよかったです。私もリビー様もこのキッシュが大好きなんですよ」
「素敵なお店に連れてきてくれて、ありがとうございます!」
「いいえ、いつものお礼です。野菜を使ったデザートも美味しいので、あとで頼みましょう」
「はい!」
リタが嬉しそうに目を細める。よほど気に入った店なのだろうとエルは思った。そして、ほんの少し胸がチリチリと痛むように感じる。原因に心当たりはある。
エルは食後にデザートを頼み、待っている間のんびりとお茶を飲みながらリタとの会話を楽しんでいた。彼女が急に姿勢を正し、かしこまったので不思議に思い首を傾げた。
「エル、あの……」
「リタさん、どうしましたか?」
「前に、外では髪を下ろしている理由をお聞きしましたよね」
「はい、そうですね」
リタがわずかに顔を伏せ、申し訳なさそうに話を始めた。エルは急かすことなくゆっくり次の言葉を待ち彼女に微笑みかける。
「ずっと考えていたのです。エルがいつか、人目を気にすることなく、自由に外を歩けるようになればいいと。せめてそんな場所はないかと……」
「リタさん……」
前髪でリタからは見えないだろうが、エルは驚いて目を見開いていた。あの日、なんの気なしに言ったことを彼女はずっと気に留め、理解し、共感し、必死になって考えていたのだ。
「エル、あったのです。そんな場所が」
「え?」
少し顔を前に出し語るリタに、エルは眉を上げ少し間抜けとも言える高い声で返事をした。
>>次話へ続く
「はい、週末にリビー様とも行く店ですが、とても美味しいんです」
「ぜひ! そこにしましょう!」
エルはリタに連れられ、広場の近くの二階建ての店にやってきた。レンガ造りで趣がある。
「いらっしゃいませ。リタ様、ようこそおいでくださいました」
「ポールさん、こんにちは。今日、オーナーは……」
「今日は用事があり不在です。ご安心を。さあ、天気がいいので二階のテラスへどうぞ」
「ありがとうございます」
ポールと呼ばれた男性店員がリタと話したあとエルに丁寧にお辞儀をして、二階のテラス席に案内した。
ランチタイムから時間がずれていたためか、テラスには他の客は一組しかいなかった。女性二人だったが、彼女たちは会話に夢中なようでこちらを見ることはなかった。
「お決まりの頃、おうかがいいたします」
「はい」
ポールがメニューを置いてテラスを去った。エルは彼がリタにばかり目配せをしていたことがなんとなく気になった。しかし気にしないそぶりでメニューを眺める。
「リタさん、素敵なお店ですね。おすすめはなんでしょう?」
「そうですね、全部美味しいですが……キッシュとサラダですね。色鮮やかで盛り付けが綺麗なんです。野菜はポールさんのご実家で育てているものでこだわりがあるんですって」
「へえ……。じゃあ、僕はそのおすすめをいただきます! あとはハーブティーで」
「いいですね。私も今日はそうします」
その後、ポールがちょうどいいタイミングでやってきて注文を取り、少し待つとお茶、次に料理を運んでやってきた。
「うわあ、本当にきれい……。色鮮やかな野菜ですね」
「ありがとうございます。」
「ポールさん、いただきます」
「リタ様も素敵なお連れ様も、ごゆっくりお過ごしください」
「え! ポールさん!」
「失礼いたします」
ポールは笑顔で一礼し、階下へ降りていった。
「なんかこの野菜、味がとても濃いですね。キッシュもすごくおいしい」
「エルの口にも合ってよかったです。私もリビー様もこのキッシュが大好きなんですよ」
「素敵なお店に連れてきてくれて、ありがとうございます!」
「いいえ、いつものお礼です。野菜を使ったデザートも美味しいので、あとで頼みましょう」
「はい!」
リタが嬉しそうに目を細める。よほど気に入った店なのだろうとエルは思った。そして、ほんの少し胸がチリチリと痛むように感じる。原因に心当たりはある。
エルは食後にデザートを頼み、待っている間のんびりとお茶を飲みながらリタとの会話を楽しんでいた。彼女が急に姿勢を正し、かしこまったので不思議に思い首を傾げた。
「エル、あの……」
「リタさん、どうしましたか?」
「前に、外では髪を下ろしている理由をお聞きしましたよね」
「はい、そうですね」
リタがわずかに顔を伏せ、申し訳なさそうに話を始めた。エルは急かすことなくゆっくり次の言葉を待ち彼女に微笑みかける。
「ずっと考えていたのです。エルがいつか、人目を気にすることなく、自由に外を歩けるようになればいいと。せめてそんな場所はないかと……」
「リタさん……」
前髪でリタからは見えないだろうが、エルは驚いて目を見開いていた。あの日、なんの気なしに言ったことを彼女はずっと気に留め、理解し、共感し、必死になって考えていたのだ。
「エル、あったのです。そんな場所が」
「え?」
少し顔を前に出し語るリタに、エルは眉を上げ少し間抜けとも言える高い声で返事をした。
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