13 / 50
第二章 使用人を懐柔せよ!
第12話 第一使用人発見!
しおりを挟む
「う~ん。どうしたのかな? ちょっと見せてね~」
アリスは泣き続ける子供に手を伸ばし、抱き上げた。一瞬泣き止んだ子供だったが、すぐにまた泣き出してしまう。
「多分七~八ヶ月くらいよね。熱はなさそう……」
子供の額に手を置いて確認するも発熱ではなさそうだった。アリスはさらに確認すべく子供を再びベッドに下ろし、服を脱がせた。
「あ、おむつかな~。濡れているわね。替えは……あった」
アリスはベッド脇のカゴの中に着替え一式を見つけ手に取った。子供のオムツを慣れた手つきで素早く交換する。
「よし、できたよ~。スッキリしたね~。君は男の子かあ、名前はなんていうのかしらね~」
着替えを済ませた子供を抱き、ゆらゆらと揺れながら、優しい口調で話しかける。
よかった、以前の記憶が役に立った。アリスは泣き止み自分に体重を預ける子供に安堵した。
アリスの前世、立花ありさは保育士の仕事についていた。彼女は定員百名を超える大きな保育園の乳児クラス統括主任をしており、子供の世話にも慣れていた。この世界では今後母親になったとき役立てようと思っていたが、まさかこんなところで役に立つとは——。
「ジャクソンお待たせ……!!」
突然、小屋のドアが開き、メイド服姿の女性が入ってきた。彼女は子供を抱くアリスを見て肩を吊り上げ、目を見開いた。それからみるみるうちに顔が青ざめていく。
誘拐犯と間違われたのかもしれない。アリスは慌てて小刻みに首を振った。
「あ、私は、怪しいものではないわ! 領主ウィリアム・サウードの妻でアリスと言いますっ」
「お、奥様……。申し訳ございません! どうか、どうかお許しを……」
女性はその場で膝をつくと泣きながらアリスに謝罪の言葉を口にした。
アリスは一旦子供をベッドに下ろし、彼女に駆け寄る。
「落ち着いて。私はあなたに危害を加えるつもりはないわ」
アリスは女性をソファに座らせ、まずは名前を聞いた。
「私はサウード家のメイド、エミリーと申します」
「エミリー、よろしくね。あの子はあなたの子供?」
アリスの問いかけにエミリーがこくりと頷いた。彼女はアリスと同世代と思われる若い女性で、ファハドやピエールと同じ黒髪に黒い瞳、褐色の肌をしていた。涙を拭きながらベッドの方に視線を送っている。
「あの子はジャクソン、私の息子です」
「そう。ここはあなたの部屋なのかしら?」
エミリーは目元を伏せ「いいえ」と首を振った。深呼吸をしたのち話を続ける。
「私の正式な部屋は使用人棟にあるのですが、ジャクソンの泣き声で周りに迷惑がかかってしまうのでこの小屋を使っています。勝手に使用してしまい、申し訳ございません」
「いいえ、それはかまわないの。ただ仕事中に小さな子供を一人にするのは心配ね。ご主人やあなたの親御さんは何をしているの? 面倒を見てもらうのは難しいのかしら?」
アリスの言葉にエミリーの表情は暗く澱んでしまう。彼女は唇を一文字に引き締め上を向くと、静かに目を閉じた。一呼吸おいて目を開き、ゆっくりと語り始める。
「私は孤児院で育った孤児です。親は幼少の頃に病気で——。夫は出稼ぎでアラービヤに来ていた異国の人で、私が身籠ったと告げると「両親に話してくる」と言って帰国したきり、戻っては来ませんでした。孤児院に引き取ってもらうことも考えたのですが、どうしてもジャクソンと離れたくなくて……っ」
「そうだったの……」
アリスは時折涙声になるエミリーの話に相槌を打ちながら、彼女の背中を優しく撫で続けた。そういえばまだ領地のことは詳しく教わっていない。もしかすると、エミリーのような状況の女性がこの領地には多いのではないか?
そう思いながら、まずは目の前にいるエミリーの問題を解決すべく、アリスは考えた。うまくいけば彼女を足がかりに、使用人たちとコミュニケーションが取れるようになるかもしれない。
「ねえエミリー、よかったらあなたが働いている時間、ジャクソンのお世話を私に任せてくれないかしら?」
「え? 奥様がジャクソンを? そんな、さすがに気が引けます……」
一瞬期待に瞳を輝かせかけたエミリーは、すぐに両手を胸の前で横に振った。アリスはそんな彼女の手を取り、しっかりと握りしめた。
「ここにひとりで居させる方が私は心配。小さな子供のお世話なら経験があるから任せて!」
アリスは迷い瞳を揺らすエミリーをエメラルドの双眼で捉え、にっこりと微笑んでみせた。
(やっぱり仕事で大事なのは、福利厚生よね!)
>>続く
アリスは泣き続ける子供に手を伸ばし、抱き上げた。一瞬泣き止んだ子供だったが、すぐにまた泣き出してしまう。
「多分七~八ヶ月くらいよね。熱はなさそう……」
子供の額に手を置いて確認するも発熱ではなさそうだった。アリスはさらに確認すべく子供を再びベッドに下ろし、服を脱がせた。
「あ、おむつかな~。濡れているわね。替えは……あった」
アリスはベッド脇のカゴの中に着替え一式を見つけ手に取った。子供のオムツを慣れた手つきで素早く交換する。
「よし、できたよ~。スッキリしたね~。君は男の子かあ、名前はなんていうのかしらね~」
着替えを済ませた子供を抱き、ゆらゆらと揺れながら、優しい口調で話しかける。
よかった、以前の記憶が役に立った。アリスは泣き止み自分に体重を預ける子供に安堵した。
アリスの前世、立花ありさは保育士の仕事についていた。彼女は定員百名を超える大きな保育園の乳児クラス統括主任をしており、子供の世話にも慣れていた。この世界では今後母親になったとき役立てようと思っていたが、まさかこんなところで役に立つとは——。
「ジャクソンお待たせ……!!」
突然、小屋のドアが開き、メイド服姿の女性が入ってきた。彼女は子供を抱くアリスを見て肩を吊り上げ、目を見開いた。それからみるみるうちに顔が青ざめていく。
誘拐犯と間違われたのかもしれない。アリスは慌てて小刻みに首を振った。
「あ、私は、怪しいものではないわ! 領主ウィリアム・サウードの妻でアリスと言いますっ」
「お、奥様……。申し訳ございません! どうか、どうかお許しを……」
女性はその場で膝をつくと泣きながらアリスに謝罪の言葉を口にした。
アリスは一旦子供をベッドに下ろし、彼女に駆け寄る。
「落ち着いて。私はあなたに危害を加えるつもりはないわ」
アリスは女性をソファに座らせ、まずは名前を聞いた。
「私はサウード家のメイド、エミリーと申します」
「エミリー、よろしくね。あの子はあなたの子供?」
アリスの問いかけにエミリーがこくりと頷いた。彼女はアリスと同世代と思われる若い女性で、ファハドやピエールと同じ黒髪に黒い瞳、褐色の肌をしていた。涙を拭きながらベッドの方に視線を送っている。
「あの子はジャクソン、私の息子です」
「そう。ここはあなたの部屋なのかしら?」
エミリーは目元を伏せ「いいえ」と首を振った。深呼吸をしたのち話を続ける。
「私の正式な部屋は使用人棟にあるのですが、ジャクソンの泣き声で周りに迷惑がかかってしまうのでこの小屋を使っています。勝手に使用してしまい、申し訳ございません」
「いいえ、それはかまわないの。ただ仕事中に小さな子供を一人にするのは心配ね。ご主人やあなたの親御さんは何をしているの? 面倒を見てもらうのは難しいのかしら?」
アリスの言葉にエミリーの表情は暗く澱んでしまう。彼女は唇を一文字に引き締め上を向くと、静かに目を閉じた。一呼吸おいて目を開き、ゆっくりと語り始める。
「私は孤児院で育った孤児です。親は幼少の頃に病気で——。夫は出稼ぎでアラービヤに来ていた異国の人で、私が身籠ったと告げると「両親に話してくる」と言って帰国したきり、戻っては来ませんでした。孤児院に引き取ってもらうことも考えたのですが、どうしてもジャクソンと離れたくなくて……っ」
「そうだったの……」
アリスは時折涙声になるエミリーの話に相槌を打ちながら、彼女の背中を優しく撫で続けた。そういえばまだ領地のことは詳しく教わっていない。もしかすると、エミリーのような状況の女性がこの領地には多いのではないか?
そう思いながら、まずは目の前にいるエミリーの問題を解決すべく、アリスは考えた。うまくいけば彼女を足がかりに、使用人たちとコミュニケーションが取れるようになるかもしれない。
「ねえエミリー、よかったらあなたが働いている時間、ジャクソンのお世話を私に任せてくれないかしら?」
「え? 奥様がジャクソンを? そんな、さすがに気が引けます……」
一瞬期待に瞳を輝かせかけたエミリーは、すぐに両手を胸の前で横に振った。アリスはそんな彼女の手を取り、しっかりと握りしめた。
「ここにひとりで居させる方が私は心配。小さな子供のお世話なら経験があるから任せて!」
アリスは迷い瞳を揺らすエミリーをエメラルドの双眼で捉え、にっこりと微笑んでみせた。
(やっぱり仕事で大事なのは、福利厚生よね!)
>>続く
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
54
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる