ミュージック・れいん

森野ゆら

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2章

吹奏楽クラブ

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 すいーっと黒板消しを動かして、国語の本にあった一文を消す。
 しんとした教室。誰もいない放課後の教室って、なんだか特別感がある。
 今日は五時間目で終わりだったから、みんな早く帰っちゃった。当番はつらいよ。
 窓の外は、昨日の雨が嘘みたいにカラカラの晴天。
 あれから、おもちゃの棒は光ることも音符が出てくることもなかった。
 思い切り振ってみても、何も起こらず。
 電池切れかな? 
 って、タクトのすみずみまで見たけど、電池を入れるところはなかった。
 それにしても、あの黒い雲はなんだったんだろう? 
 なぜか、消えたからよかったけど。
 それに、あの男子。
 棒がほしかったのかな? 
 もしかして、あの黒い雲と関係があるとか?
 でもあの子、見たことがある気がするんだよね。何となく。
 もし、近所の子だったら最悪だ。
 呪文唱えて魔法使いごっこしてたのを見られたなんて。
 だって、私、もう五年生だよ? 
 高学年なのに。
 あああ、はずかしすぎる~~。
 もう二度とあの子と会いませんように!
 黒板の字を消し終わった時、窓の外がさわがしくなった。
 人の話し声と楽器の音が聞こえてくる。
 窓からのぞいてみると、運動場に楽器を持った子たちが集まっていた。

 あ、吹奏楽クラブだ。

 吹奏楽クラブは、週に三回ほど放課後に練習してる、この学校の名物クラブ。
 今日も練習日なんだな。
 仲良しのメイちゃんが入ってるから、吹奏楽クラブの話をよく聞くんだけど、夏には、マーチングバンドの大会があるって言ってたっけ。
 吹奏楽クラブってすごいんだよね。
 去年の大会で金賞をとったから、校長先生が力を入れ始めて、今年から外部指導の先生まで来ることになったんだ。

 ……金賞かぁ。

 ふと、まりんのピアノの音が頭に流れた。
 まりんも金賞を狙ってるんだよね。(毎年とってるけど)
 みんな、すごいな。一番めざしてがんばってるんだもん。
 音楽を挫折した者としては、まぶしすぎるよ。
 でも、自分が思うように音を出せたら、きっと楽しいんだろうな。
 ぼんやりそう思ってたら、きゃあっと女子生徒の声が上がった。
 運動場のすみっこにいる女子生徒たちが、熱い視線を朝礼台に向けてる。
 朝礼台の上にいるのは、男の先生。
 背が高くて、短髪。日焼けした肌にきゅっとした顔のライン。
 外部指導の坂下先生だ。
 坂下先生は、若くていわゆるイケメンだから、すっごく人気がある。
 坂下先生が指導で来るから、吹奏楽クラブに入ったっていう子もいるみたい。
 でも、メイちゃんが言うには、すっごく練習が厳しいらしい。
 一音でもずれたら、やり直しとか、マーチングで列が一歩でも乱れたら、初めからとか。
 きいてる分には、結構大変そうなんだよね。
 坂下先生が右手をあげると、列の端の子たちが音を出し始めた。
 パートごとの基礎練習なのかな? 運動クラブでいう、準備体操……みたいな?
 低い音が運動場に響いて、一音、一音、音程が順番に上がっていく。

「こらー! ユーフォ! チューバ! 音がぶれてる! やり直し!」

 坂下先生が大きな楽器を持ってる子に向けて叫んだ。
 注意を受けた子たちの顔が一瞬で固まる。
 でも、すぐに真剣な表情に戻って音を出し始めた。
 吹奏楽クラブの子、すごいなぁ。私、こんな中に入るのは無理だよ。

「あれ? 春名、まだいたのか」

 声がして振り返ると、担任の栗田先生が教室に入ってきたところだった。

「今、当番の仕事が終わったところです」

「そうか。ありがとう。あと、できたらでいいんだけど……頼み事していいかな?」

 先生は申し訳なさそうに頭をかいた後、教卓の下から箱を出してきた。

「これを理科準備室まで持って行ってくれないかな? 先生今から急ぎの出張でさ。電車の時間がやばくて」

「分かりました! お任せください」

 私がドンと胸をたたくと、先生が「頼もしいな」って笑った。
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