ミュージック・れいん

森野ゆら

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3章

タクトが選んだのは

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「どうして私が選ばれたの?」

「それは……知らん」

 コハクが半分目を閉じてつぶやいた。
 私は心の中で「知らんのかーい」ってツッコミを入れる。

「しかーし。やっと、オトダマ食い退治に本腰を入れられるってことだな」

 コハクと佐倉くんが顔を見合わせて、ニッと笑った。

「あのー、そのことなんだけど。私、バケモノを退治するなんてできないと思うんだよね。別に特殊能力を持ってるわけじゃないし、だからその……」

「タクトに選ばれたっていうだけで、オトダマ食いを退治できる力を持ってると思う」

「きゃきゃっ。ぼくたちにとったら、待ちに待った救世主が現れたようなものだ」

 コハクまで腕組みしながら、うんうんうなずく。
 いや、そんな風に言われても困るんですけど。
 コハクがカウンターの下から、分厚い本を出してきた。
 けっこう、古くてボロボロ。カビくさくて変色してる。

「ここ、ここに書いてあるんだ」

 コハクが真ん中あたりを開いて、ポンと手をやった。
 って言っても、コハクのケモノの手は、どこを押さえてるのか分かんない。
 しかも、この文字、何を書いてあるかさっぱりだよ。
 佐倉くんがひょいとのぞきこんできた。

「選ばれし者が、タクトを振った時、光の音が現れ、オトダマ食いを消滅させる」

 佐倉くんの低い声が、何書いてるか分かんないみみず文字を読み上げる。

「ええっと……私? がタクトを振ったら、光の音っていうのが現れて、オトダマ食いを退治できるってこと?」

「そーいうこと」

 コハクがあくびをしながら、うなずいた。
 光の音っていうのは、振った時に出てきたあのキラキラした音符だよね。

「うーん、でもさ。あれから家で何回かタクトを振ったけど、何もならなかったんだよね。ほら、こんな風に」

 えいっとタクトを振るけど、ブンッと風を切る音がするだけ。
 ほら。やっぱりただのおもちゃじゃないの?

「今はオトダマ食いがいないし、タクトが無駄な力を使いたくないんじゃないかな」

 佐倉くんが本に目を落としたままつぶやいた。

「じゃあ、この前みたいに黒い雲がいたら、タクトから光の音っていうのが出てくるの?」

「たぶん、そうだと思う」

 佐倉くんは答えるけど、なんだか自信なさげ。
 なんだかんだ言って、コハクも佐倉くんもいまいちタクトのこと、分かってないんじゃ?

「でも、この前はオトダマ食いになる前のものだったから、消せたけど……」

 佐倉くんはそこまで言って、いったん私から目をそらした。

「けど?」

「……春名さんの今の力では、たぶん本当のオトダマ食いは消せない」

「? どういうこと?」

「きゃきゃきゃっ。タクトの力は、操る者の音楽の力とリンクするらしいからな」

 コハクがバシバシと開いたページをたたくから、ぼむぼむとホコリが舞い上がった。

「音楽の力?」

「あぁ。音楽の知識、演奏する力、音感……音楽のいろんなものが合わさった力だ」

 コハクはホコリに鼻をむずむずさせながら答える。

「そんなの、私にあるわけないじゃん! 私、音楽嫌いだし」

「え? お前、音楽嫌いなのか? よくタクトに選んでもらったなー?」

 コハクが口をあんぐり開ける。
 いや、こっちがききたいよ。よりによって、どうして私を選んだわけ?
 握ってるタクトをじっとにらむけど、何も言わない。
 これは、ミスだ。タクトの人選ミス!
 私より音楽の力を持ってる人なんて、たくさんいるのに。
 クラリネットをやってるメイちゃんや、毎年金賞をとるまりん。
 吹奏楽クラブに入ってる人。それに、佐倉くんだって、カリンバ弾いてたし、かしこそうじゃん! どーして、私なんか選んじゃったのかなぁ?

「あのさぁ。タクトがもう一回、人を選び直せばいいんじゃない?」

 ポンと手を打つと、コハクがブルブルと顔を横に振った。

「いいや。タクトが主人を選ぶのは、一度限り。と書いてある」

「え……じゃあ」

 じいいっとタクトを見つめる。主人は私で変えられないってこと……?

「とりあえず、選ばれたんだから仕方ない。大物のオトダマ食いが現れた時のために、れいんの音楽の力を高めておかないと!」

 コハクがきゃきゃっと笑って、またカウンター下にもぐった。
 どさっ。コハクが出してきたのは、何冊もの分厚い本。

「よしっ。今日から勉強だ! ますは、音楽に関する知識を身につけるところから!」

「えええっ」

 目の前に積まれた本に後ずさる。
 い、いやだ。ただでさえ、学校の宿題も勉強も嫌いなのに、音楽の勉強もだなんて。

「まずは、音楽の歴史から勉強するか? それとも、作曲家……」

 コハクがなぜだか楽しそうに本を次々と出してくる。
 ぼん、ぼん、ぼん。コハクの顔が見えないくらいに本が積みあがっていく。

「むむむ、無理―――!」
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