タイム・ジャンプ!

森野ゆら

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3 謎の少女あらわる

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「こんばんは」

 その人影は可愛らしい声で近づいてきた。
 月明りを頼りに目をこらす。

 見たこともない高校生くらいの女の子。
 大きな三角の襟、両側にポケットがある白い奇抜なデザインのワンピース。
 胸には、五角形のエメラルド色したペンダントが下がってる。
 ひざ下まである白のブーツを履いていて、どこかのファッションショーから飛び出してきたみたい。
 腰まである金色の長い髪が冷たい風にたなびき、宝石みたいな紫の大きな瞳が私にじっと向けられている。

「ナンバー3の会員、三条和都様。最近頻繁に時間移動されていますので警告に参りました……って、あれ?」

 女の子は私の顔をじっと見つめた後、目を点にした。

「……? あなたは……和都さまではないですね」

 私の姿を確認したあと、女の子は困り顔。
 この人、だれ? お兄ちゃんの知り合い?

「あの……私は三条和都の妹で未央です」

 答えると、女の子はガバッと頭を下げた。

「失礼いたしました! 未央さま。暗くてよく見えなかったもので……うわ、どうしよう」

 女の子は口を両手で覆いながら、うろたえた様子でブツブツ言ったあと、

「まあ、あとで記憶を消せばいっか……」

 と、なんだか恐ろし気なことをつぶやいて、にっこり笑った。

「あの、あなたはだれ?」

 きくと、女の子はピシッと姿勢を正した。

「申し遅れました。私は時間移動協会のライカと申します。会員様の管理とサポートの仕事をしております」

 そう言って、ライカさんという女の子は恭しくお辞儀をした。
 時間移動協会? なにそれ?
 お兄ちゃん、変なグループに入ってるの?
 とまどう私にかまわず、ライカさんは探るような目を向けてきた。

「それで、和都さまはどちらにいらっしゃいますか?」

「あの、お兄ちゃんは風邪で寝込んでいて……」

「あら! そうなんですか。おかしいな。この間から時間移動した通知が頻繁に来るのですが……」

 ギクッ!

 私は思わず冷や汗をかきながら、時間移動機がついている右手をサッと後ろにまわした。
 後ろ手で時間移動機を外して、ライカさんが小屋の方を見たすきにポケットに入れる。

「ええっと~。お兄ちゃんはその時間ナントカっていう所の会員なんですか?」

 ごまかすように言うと、ライカさんは「はい」とうなずいた。

「今の時点で時間移動協会の会員は五名。和都さまは三番目の会員です」

「えっ。五人しかいないの?」

「はい。時間移動の手段を持った方は、今のところ五名しかいらっしゃいません」

「その時間移動協会ってなんですか?」

「時間移動の手段を持った方のサポートをする協会、と言えば聞こえはいいですが、簡単に言うと監視ですね。会員の方々が不正利用しないように」

「監視……」

「はい。もし時間移動を自由にして、過去や未来に取り返しのつかないほど手を加えてしまったら、歴史もこれからの未来も、今流れている現在も、ぐちゃぐちゃになってしまいます。それは絶対にあってはならないことです」

 厳しい顔つきでライカさんは言ったあと、ポケットを探った。

「少ししゃべりすぎましたね。じゃ、そういうことで。今からあなたの記憶を消します」

 にっこり笑って、ライカさんが近づいてきた。
 手に持っているのは、裁縫セットに入ってるものより二まわりほど太い針!

「そ、それなに?」

「この針に記憶が消える薬が入ってます。今からあなたの腕に刺しますね。そしたら私との記憶が消えますので。大丈夫ですよ。ちょっとだけチクッとするだけですから。この時代の注射みたいなものです」

 ぎゃっ、痛そう! 
 そんな予防接種受ける時のお医者さんみたいなこと言われても!
 しかも、記憶を消す?

「ちょ、ちょっと待って! 記憶を消すって、私の?」

「そうです。他に誰かいますか?」

 ライカさんがかわいく笑う。そのかわいさがかえってコワイ。

「私、絶対人にしゃべらないから、大丈夫だよ」

 後ずさりしながら言うと、ライカさんも一歩二歩と距離をつめてきた。

「と、言われましても、会員様以外に知られてはいけない秘密事項を話してしまったので」

「私、お兄ちゃんの妹だよっ。家族会員サービスとかないのっ?」

「ありません。ご本人様だけです。では」

 サッとライカさんが針をかまえた。

「ままま、待って! お菓子あるんだっ! お茶でもして話しよっ? 話せばわかるよっ。小屋にお兄ちゃんが隠してるお菓子があるのっ」

 両手をブンブン振りながら待ったをかけると、ライカさんの動きがぴたっと止まった。

「お菓子……この時代のお菓子……興味ありますね……」

 ライカさんは少し考えながら、針を持っている手を下げた。

「駅前の有名なお店の限定商品があるよ! すっごくおいしいの! ごちそうするから、ちょっと小屋の方に来て」

 手招きすると、ライカさんは針をしまっておとなしくついてくる。
 よ、よかった。とりあえず大丈夫そう。
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