タイム・ジャンプ!

森野ゆら

文字の大きさ
28 / 38

4 謎の少女とティータイム

しおりを挟む
 小屋のドアを開けて、ライカさんに入ってもらった。

「どうぞ。汚いけど……そこのイスに座って」

「おじゃまします。……相変わらず汚いですね」

 相変わらず? ライカさんは小屋に入ったことあるのかな。
 汚い件に関しては、お兄ちゃんに言ってください。と、心の中で思ってると、ライカさんはちょこんと回転イスに座った。
 よほどお菓子を期待してるのか、おとなしく待ってる。

「確かこの辺に……」

 作業台下の扉をぱかっと開ける。
 ふふふ。お兄ちゃんはここにいつもお菓子を隠しているのを私は知ってるのだ。

「ほらっ、パンプキンパイ、それからココアクッキー!」

 次々とライカさんの目の前にお菓子の包みを出していった。
 すると、ライカさんはきゅっと眉根をよせる。

「未央さま。分かってますよ。そうやって時間稼ぎをして記憶を消されるのを回避しようと考えてるのでしょう? そんなものでつられるわたくしでは……」

 ぐうう。
 ライカさんのおなかが鳴る。

「……ですが、おいしそうですね……」

 チラチラとお菓子を見るライカさん。
 やっぱり、お菓子は食べたいんだ。

「あの、お茶もいれるよ? この前ご近所さんからもらった高級な紅茶があるんだ」

「高級紅茶……」

「なんとっ、お兄ちゃん大好物の大福も! 日本茶もいれちゃうよっ」

「ダイフク? あの食物データにあったダイフク……?」

 ライカさんはしばらく考えこんで口を開いた。

「……し、仕方ないですね。オカシ、ダイフクをいただきましょう」

「了解っ♪」

 やった。これでしばらくは記憶を消されないですみそう!
 お兄ちゃんの小屋は、こう見えていろいろそろっている。
 ポットに電子レンジ、お皿にカップまで。
 ティーポットにお湯をそそぐと、紅茶のいい香りがふんわりとただよった。
 ライカさんがくんくんと鼻を動かす。
 ガラクタを横に追いやっただけのテーブルの空き場所に、温かいカップを二つ並べ、お菓子がのったお皿を出した。

「どうぞ」

 ライカさんは、ココアクッキーを一つ口に入れて目を輝かせた。

「おいしい……です!」

「でしょ? お兄ちゃん、こっそり自分だけ駅前のお店でお菓子買ってきて隠してるんだよね」

 残念ながら私にはバレてるけど。

「この時代のオカシは美味ですね。何個でもいけちゃう」

 そう言ってライカさんがパンプキンパイに手を伸ばした。

「あとで日本茶と大福も出すからね」

「はいっ」

 ライカさんは紫の瞳をキラキラさせる。
 こんなにおいしそうに食べるなんて、ライカさん、よっぽどおなかすいてたのかな。
 しかも、「この時代のお菓子」って言ってた。
 一体、どこから来た人なんだろう。実は未来とか?
 ライカさんに二杯目の紅茶をいれながら、ふと思いついた。
 ……そうだ。

「あの、良かったらこれからもお茶とお菓子を用意しておくよ」

「本当ですか?」

 ライカさんの顔がぱあっと明るくなった。

「でも、記憶を消されちゃったらお菓子を用意できなくなるなぁ」

 仕方なさそうに言ってみると、ライカさんがむむっと考える顔になった。

「……そうですね。お菓子がいただけないのは、残念すぎます……和都さまの妹ですし信頼はできるかも……いや、でも本部にバレたら大変なことに……でもお茶とお菓子が……」

 一人でブツブツ言いながら、百面相してる。

 数分悩んだあと、ライカさんがバッと私の手をつかんだ。

「先ほど私が話したこと、だれにも言わないと約束してくれますか?」

 ライカさんの瞳の紫がぐっと濃くなった。

「もちろん!」

 手を握り返すと、ライカさんがにっこり笑った。

「分かりました。では、記憶を消すのはやめておきます。信じてますよ、未央さま」

 ……よし。うまくいった!

 心の中でガッツポーズ!
 記憶を消されるなんて、イヤだもん。
 しかし、お菓子でうまく丸めこめるなんて、意外だったなぁ。
 何でも言ってみるものだよ。
 と、その時ライカさんのペンダントがチカチカ光った。

「あ、いけない。本部からの呼び出しです。もう戻らなきゃ。ダイフク……残念ですが……」

「また、用意しておくよ。いつでも食べにきて」

 笑って言うと、ライカさんが口をモグモグさせながらうなずいた。

「それでは、私は失礼しますが……なにを伝えに来たかと言うと、これ以上時間移動するのはダメってことです。次、時間移動したら時間警官隊が来ますからね……と和都さまにお伝えいただけますか?」

「時間警官隊?」

 きき返すと、ライカさんの表情がかたくなった。

「時間警官隊の名を出せば、和都さまもこれ以上、時間移動をしようとは思わないでしょうから」

 ライカさんは、ペンダントの側面のボタンをカチッと押したと思ったら、光とともに消えてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299
児童書・童話
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。 「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」 秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。 ※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記) ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記) ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベル、ツギクルに投稿しています。 ※【応募版】を2025年11月4日からNolaノベルに投稿しています。現在修正中です。元の小説は各話の文字数がバラバラだったので、【応募版】は各話3500~4500文字程になるよう調節しました。67話(番外編を含む)→23話(番外編を含まない)になりました。

処理中です...