R18『千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~』

緑野かえる

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単話『千代子と司の週末』

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 司の一人暮らし時代、殆ど調理をすることがなかった為に冷蔵庫と電子レンジしかなかったキッチンに今は炊飯器とトースターが増えた。
 それでもトースターは千代子が元から持っていた物で、昨今人気のトーストが美味しく焼ける機種。

 在宅仕事が無い日、朝から掃除を済ませて買い物に出ようとする千代子はシューズボックスに並んでいる真新しいパンプスを手にする。
 以前、司とデートした際に買った履きやすいデイリーで使えるプレーンパンプス。すごく高い物ではないけれど履きやすいブランドのそれは千代子のお気に入りになっていた。

 こつ、と小さな靴音。
 これを履くとなんだかお姫様になった気分になって千代子自身も「子供じゃあるまいし」と思ってはいたが嬉しいものは嬉しいので仕方がない。


 今の穏やかな生活は自分の心を癒してくれて……もうそれだけで十分だと言うのに司は忙しい合間を縫って相手をしてくれている。

(でもあの時、司さんの方から一緒に住みたいって……)

 慣れた道筋、軽快に進むヒールの足取り。
 思いがけず再会をしてからあっという間の出来事を振り返りながら当時、千代子はハウスキーパーの仕事として訪れていたとき、疲れていた司から本音がこぼれてしまった日の事を思い出していた。

 ふふ、と淡い口紅が塗られた千代子の口もとが柔らかくほころぶ。あれから時間は少し経って体も、心にも確かな平穏が訪れていた。

 全ては優しい司のお陰。

 だから週末は美味しい物を沢山作って、それで司には。
 デパートのオーガニックブランドのショップで欲しい物を見つけた千代子。そしてそのまま、またしても吸い込まれるように地下の食品スイーツフロアへと降りて行ってしまう。
 自らを手当てするようにとっていた食事から今は相手の体調を思いやる食事に変わっていて、それでも司も千代子が買って帰るお惣菜なども変わらずに食べてくれていた。たとえ司の帰りが遅く、先に眠ってしまっていても冷蔵庫の中に用意してある軽食で通じ合えているようで心地よかった。

 今日はひと品だけ買おう、と心に決めながらも作る事も好きな千代子にとってデパートの地下フロアは非常に魅惑的な場所であり――結局は三色おこわの詰め合わせ、期間限定出店をしているパン屋さんのクルミとレーズンが練り込まれたカンパーニュとドイツソーセージの詰め合わせを買ってしまい、自らの意思の弱さにしょぼしょぼしながらもどうやって食事に出そうかな、と考える。

 どんな物でも、二人で食べると美味しい。
 買ってしまったもののパンもソーセージも日持ちがするので週末はそれを中心にゆっくりランチをして、夜は。

 途端にポッと頬に熱を持つ千代子はもう見慣れた筈の司の素肌を想像してしまって――今更ながら先ほど購入した物で自分は本当に司にしてあげられるのかどうか、迷いが生じる。
 何事も完璧な司に対してやっと思い付いたその勢いで買いに出て来てしまったけれど“マッサージジェル”とはつまりそう、体に直に触れると言う事で。
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