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単話『ハロウィーンのその前に』
(4/5)※
「司さん、ちょっと」
それは……とソファーの上で身を引いてしまっている千代子の素足を膝に置いて自らはラグの上に胡座で座っている司。その手には千代子が今、貼ろうとしていた靴擦れ用の厚みのある小さな保護テープのパッケージがあった。
「自分で貼りますから」
終始緊張していたせいかまだ眠気が訪れていなかった千代子は体からお風呂の熱が引いた頃合いにそれを貼ろうとしていて今に至る。
「痛くない?」
「ええ、あの……わりと女性と言うのは靴擦れしやすいと言うか」
「だからこう言うのをちよちゃんも持って……」
知らない事を知る司と、千代子にとってはそこまで特異な事ではない靴擦れ。化粧ポーチに常に二枚入れている女性だっている。
「……今日は、楽しかったです」
ふと、千代子からこぼれた言葉に司は顔を上げる。
「色んな方と交流があるんですね」
遅く帰って来る理由を知る事が出来た。
そして司が、あんなにもはっきりと「私のパートナーです」とまるで言いふらすみたいに説明をしていて、気恥ずかしさがちょっと勝ってはいたけれどエスコートをしてくれる手のひらに安心した。
そう、いつだって司は真摯で、優しい。
「あ、そのテープって手のひらで温めると柔らかくなるんですよ」
こうやって、と手のひらを合わせる千代子に見様見真似で実践する司は「帰って来た時、無理させちゃったかな……って思ったんだ」と心の内を打ち明ける。
「誰でもそうですよ。皆さん役員職の方とか経営されている方とか、知らない世界でした。それにサロンで髪の毛をセットして貰うのってなかなかないですから、それもちょっと楽しかったし」
司の体温で柔らかくなった小さなテープがぺたり、とかかとの赤くなっている部分に貼られる。
もう片方も、と司に取られる足先。
「綺麗だった」
どこか、しみじみと言う司に千代子ははにかむように口角をあげる。
「人の目があったからあまり言えなかったけど“私の千代子さん”は相変わらず魅力的だったよ」
呼ばれ慣れていない“千代子さん”と言う呼び方、もう貼り終わったから足を引っ込めようとしたのにどうしてだろう。
動かない。
「あ、あの司さん?」
いくらお風呂上りとは言え。
司の手が、寝間着のロングワンピースの裾の中にゆっくりと滑り込む。
「あ……、っ」
撫でる手つきに熱が込められているのが嫌でも分かってしまって千代子はこれ以上身を引けないくらいにソファーのクッションに埋もれてしまった。
足の間を割り開いて、恥ずかしい恰好だからと閉じようとする足に挟まれつつも司は身を乗り出して千代子を大きなソファーに優しく組み敷く。
「疲れてる、かな」
このままこの先の事をしても良いか問う司だったが千代子が断れる理由を先に提示してくれている。
大丈夫だと小さく首を横に振れば黙って重なる唇と唇。ふわふわと優しい口づけにとろけてしまいそうになる千代子。
今日は長いな、と苦しさからぎゅ、と司の腕を掴んでもびくともしない。
「ん、く」
そしていつのまにか首筋へ流れたキスは薄い皮膚を滑って、時々ちゅ、と音が立つ。痕を残そうとしている訳ではないけれど、甘噛みされる首筋からじんわりと全身に淡い疼きが広がってゆく。
丸め込まれるように、包み込まれるように――司の下で吐息だけで喘ぐ千代子は寝間着の上から胸の先を探されて、そのくすぐったさに肩を竦めれば「余裕ないかも」と珍しい事を言う司にうん、と一つ頷く。
・・・
久しぶりだからと丁寧過ぎる愛情で撫で拡げらてしまった千代子は瞳に涙を滲ませて肌着を脱いだ司の素の体を見る。
上半身を巡る墨色がベッドサイドにある小さなテーブルの引き出しに傾いて、何かを探るように腕を伸ばせば……それはこれからもっと深く愛し合うことの合図のようで。
怖くなってしまうかも、とあまり見ないようにしている司の熱情を今日はなぜだか知りたくなってちら、と見てしまえばやっぱり自分には大きい気がしてならない。
司がふふ、と笑った気がした。
「触ってみる?」
以前に、司ばかりが自分の体を愛してくれている事に千代子も司の熱に手を伸ばし、触れてみようとした事があった。その時は華麗に「その気持ちだけでいいよ」と躱されてしまったが。
指先だけが、司に触れる。
スキン越し――しかもほんの数秒の出来事でも顔を真っ赤にさせて黙ってしまった千代子に司の心情はもう、制御できるのか危うくなっていた。
綺麗とか可愛いとか、好きとか愛しているとか、そう言う感情がすべてぐちゃぐちゃになって白く濁って湧き上がる。
「は……っ」
息を整えなければならない。
それは千代子も同じだった。今、指先で初めて触れたものが自分の中に入って来て、それで。
それは……とソファーの上で身を引いてしまっている千代子の素足を膝に置いて自らはラグの上に胡座で座っている司。その手には千代子が今、貼ろうとしていた靴擦れ用の厚みのある小さな保護テープのパッケージがあった。
「自分で貼りますから」
終始緊張していたせいかまだ眠気が訪れていなかった千代子は体からお風呂の熱が引いた頃合いにそれを貼ろうとしていて今に至る。
「痛くない?」
「ええ、あの……わりと女性と言うのは靴擦れしやすいと言うか」
「だからこう言うのをちよちゃんも持って……」
知らない事を知る司と、千代子にとってはそこまで特異な事ではない靴擦れ。化粧ポーチに常に二枚入れている女性だっている。
「……今日は、楽しかったです」
ふと、千代子からこぼれた言葉に司は顔を上げる。
「色んな方と交流があるんですね」
遅く帰って来る理由を知る事が出来た。
そして司が、あんなにもはっきりと「私のパートナーです」とまるで言いふらすみたいに説明をしていて、気恥ずかしさがちょっと勝ってはいたけれどエスコートをしてくれる手のひらに安心した。
そう、いつだって司は真摯で、優しい。
「あ、そのテープって手のひらで温めると柔らかくなるんですよ」
こうやって、と手のひらを合わせる千代子に見様見真似で実践する司は「帰って来た時、無理させちゃったかな……って思ったんだ」と心の内を打ち明ける。
「誰でもそうですよ。皆さん役員職の方とか経営されている方とか、知らない世界でした。それにサロンで髪の毛をセットして貰うのってなかなかないですから、それもちょっと楽しかったし」
司の体温で柔らかくなった小さなテープがぺたり、とかかとの赤くなっている部分に貼られる。
もう片方も、と司に取られる足先。
「綺麗だった」
どこか、しみじみと言う司に千代子ははにかむように口角をあげる。
「人の目があったからあまり言えなかったけど“私の千代子さん”は相変わらず魅力的だったよ」
呼ばれ慣れていない“千代子さん”と言う呼び方、もう貼り終わったから足を引っ込めようとしたのにどうしてだろう。
動かない。
「あ、あの司さん?」
いくらお風呂上りとは言え。
司の手が、寝間着のロングワンピースの裾の中にゆっくりと滑り込む。
「あ……、っ」
撫でる手つきに熱が込められているのが嫌でも分かってしまって千代子はこれ以上身を引けないくらいにソファーのクッションに埋もれてしまった。
足の間を割り開いて、恥ずかしい恰好だからと閉じようとする足に挟まれつつも司は身を乗り出して千代子を大きなソファーに優しく組み敷く。
「疲れてる、かな」
このままこの先の事をしても良いか問う司だったが千代子が断れる理由を先に提示してくれている。
大丈夫だと小さく首を横に振れば黙って重なる唇と唇。ふわふわと優しい口づけにとろけてしまいそうになる千代子。
今日は長いな、と苦しさからぎゅ、と司の腕を掴んでもびくともしない。
「ん、く」
そしていつのまにか首筋へ流れたキスは薄い皮膚を滑って、時々ちゅ、と音が立つ。痕を残そうとしている訳ではないけれど、甘噛みされる首筋からじんわりと全身に淡い疼きが広がってゆく。
丸め込まれるように、包み込まれるように――司の下で吐息だけで喘ぐ千代子は寝間着の上から胸の先を探されて、そのくすぐったさに肩を竦めれば「余裕ないかも」と珍しい事を言う司にうん、と一つ頷く。
・・・
久しぶりだからと丁寧過ぎる愛情で撫で拡げらてしまった千代子は瞳に涙を滲ませて肌着を脱いだ司の素の体を見る。
上半身を巡る墨色がベッドサイドにある小さなテーブルの引き出しに傾いて、何かを探るように腕を伸ばせば……それはこれからもっと深く愛し合うことの合図のようで。
怖くなってしまうかも、とあまり見ないようにしている司の熱情を今日はなぜだか知りたくなってちら、と見てしまえばやっぱり自分には大きい気がしてならない。
司がふふ、と笑った気がした。
「触ってみる?」
以前に、司ばかりが自分の体を愛してくれている事に千代子も司の熱に手を伸ばし、触れてみようとした事があった。その時は華麗に「その気持ちだけでいいよ」と躱されてしまったが。
指先だけが、司に触れる。
スキン越し――しかもほんの数秒の出来事でも顔を真っ赤にさせて黙ってしまった千代子に司の心情はもう、制御できるのか危うくなっていた。
綺麗とか可愛いとか、好きとか愛しているとか、そう言う感情がすべてぐちゃぐちゃになって白く濁って湧き上がる。
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それは千代子も同じだった。今、指先で初めて触れたものが自分の中に入って来て、それで。
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