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単話『これからも、ずっと』
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2023/12/18 このお話を持ちまして『千代子と司』の完結処理をさせていただきます。
全11話、合計約20000字でクリスマスまで毎日更新となります。お気に入りやしおりなどもしていただきとても嬉しいです。どうかこのまま最後までお付き合いしていただければ幸いです。
・・・・・・
リビングのローテーブルに置いてある雑誌に目がいった司。
今は夜、千代子はお風呂に入っていていない。
女性向けの雑誌など読む機会もなく、千代子と暮らすようになってからそれを初めて手に取る。
何となくページを捲っていれば大々的に組まれているクリスマスの特集ページ。パートナーとの過ごし方や人気のスポットにプレゼントが云々とそれはそれは煌びやかな特集が組まれていたが――当の司はそのことについてずっと悩んでいた。
千代子は何と言うか、倹約的と言うか……いや違う、と考える。
女性とはまあ、それなりの付き合いもした事はあっても結局は千代子の事が忘れられずにいた為に女性に対して価値のある物や値の張るプレゼントなどした事がなかったし、こうして暮していても千代子が欲しがる事はなかった。
遠慮をしている訳でも無さそうで、素朴な千代子の性格なのだろうと司も思っていたがやはり、これは自分の気持ちを伝える術の一つでもある。
二人で工房に作りに行ったペアリングが光る。細身のシンプルな物だからこそ司は未だに自らの左手薬指にそれが填まっている事に気づかれない事の方が多かった。
ページを捲ればディナーの特集ページ。
高級ホテルやレストランの名がひしめき合っていて千代子とこうしたディナーをするのも悪くはないけれど、と考える。
司は、千代子と静かに過ごしたい気持ちもあった。
もちろん、大人の女性の姿にドレスアップした“千代子さん”の魅力的な姿もまた見たかったけれど――悩んで、自分一人で決めるよりは千代子と相談した方が良いかな、と思っている内に髪を乾かす音がする。
暫くすれば寝間着にロングのもこもことしたルームカーディガンを羽織ってリビングにやって来た千代子。
「ちよちゃん」
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注いで持ってくる千代子に声を掛ける。
ソファーに座っていた司の膝の上にあった雑誌に珍しそうな表情を向ける千代子も隣に着席する。
「クリスマス、どうしよっか」
「ローストビーフとかぼちゃのキッシュ風とミルクシチューと」
もうメニューは決まっていたようだ。
隣に座りながら開かれているページに視線を落とした千代子。
「ホテルのディナーには到底かなわないですけど、美味しいものを沢山作ろうかなって」
「それはすごく楽しみなんだけど……どこか行きたい所ってあるかな。今なら芝山に仕事の調整をして貰えるから」
「そうですね……うーん、どうしよっかな」
やっぱり、行きたい所があったらしい。
自分からは言い出さない、千代子の控えめ過ぎる部分を言葉で補う事を学習した司。
「クリスマス当日は色々と混んでしまうと思うので少し前の日にお仕事を早めに終わらせて貰えたら、その……クリスマスマーケットに行きませんか」
千代子からの提案に快諾をする司は手元の私用のスマートフォンで軽く検索をしてみれば確かに、千代子の好きそうな雰囲気の会場がいくつか。
大きな公園の特設会場で夜までやっていると言うそこは仕事帰りのカップルが寄るには丁度いい場所だった。
「日にちが決まったら行こう」
ね、と千代子が遠慮をしてしまわないように念を押す司だったが暮れに近づくにつれて仕事と言うよりも食事会や人付き合いの方がどうしても多くなってしまう。それは仕方のない事だとしても千代子とは朝食でしか会えなくなってしまう日が増えてしまう。
いくらメッセージアプリで連絡を取り合っていても、寂しい。
それでも、寝室を別にしていた。
眠っている千代子を起こしてしまうのは可哀想だから、と。
全11話、合計約20000字でクリスマスまで毎日更新となります。お気に入りやしおりなどもしていただきとても嬉しいです。どうかこのまま最後までお付き合いしていただければ幸いです。
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リビングのローテーブルに置いてある雑誌に目がいった司。
今は夜、千代子はお風呂に入っていていない。
女性向けの雑誌など読む機会もなく、千代子と暮らすようになってからそれを初めて手に取る。
何となくページを捲っていれば大々的に組まれているクリスマスの特集ページ。パートナーとの過ごし方や人気のスポットにプレゼントが云々とそれはそれは煌びやかな特集が組まれていたが――当の司はそのことについてずっと悩んでいた。
千代子は何と言うか、倹約的と言うか……いや違う、と考える。
女性とはまあ、それなりの付き合いもした事はあっても結局は千代子の事が忘れられずにいた為に女性に対して価値のある物や値の張るプレゼントなどした事がなかったし、こうして暮していても千代子が欲しがる事はなかった。
遠慮をしている訳でも無さそうで、素朴な千代子の性格なのだろうと司も思っていたがやはり、これは自分の気持ちを伝える術の一つでもある。
二人で工房に作りに行ったペアリングが光る。細身のシンプルな物だからこそ司は未だに自らの左手薬指にそれが填まっている事に気づかれない事の方が多かった。
ページを捲ればディナーの特集ページ。
高級ホテルやレストランの名がひしめき合っていて千代子とこうしたディナーをするのも悪くはないけれど、と考える。
司は、千代子と静かに過ごしたい気持ちもあった。
もちろん、大人の女性の姿にドレスアップした“千代子さん”の魅力的な姿もまた見たかったけれど――悩んで、自分一人で決めるよりは千代子と相談した方が良いかな、と思っている内に髪を乾かす音がする。
暫くすれば寝間着にロングのもこもことしたルームカーディガンを羽織ってリビングにやって来た千代子。
「ちよちゃん」
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注いで持ってくる千代子に声を掛ける。
ソファーに座っていた司の膝の上にあった雑誌に珍しそうな表情を向ける千代子も隣に着席する。
「クリスマス、どうしよっか」
「ローストビーフとかぼちゃのキッシュ風とミルクシチューと」
もうメニューは決まっていたようだ。
隣に座りながら開かれているページに視線を落とした千代子。
「ホテルのディナーには到底かなわないですけど、美味しいものを沢山作ろうかなって」
「それはすごく楽しみなんだけど……どこか行きたい所ってあるかな。今なら芝山に仕事の調整をして貰えるから」
「そうですね……うーん、どうしよっかな」
やっぱり、行きたい所があったらしい。
自分からは言い出さない、千代子の控えめ過ぎる部分を言葉で補う事を学習した司。
「クリスマス当日は色々と混んでしまうと思うので少し前の日にお仕事を早めに終わらせて貰えたら、その……クリスマスマーケットに行きませんか」
千代子からの提案に快諾をする司は手元の私用のスマートフォンで軽く検索をしてみれば確かに、千代子の好きそうな雰囲気の会場がいくつか。
大きな公園の特設会場で夜までやっていると言うそこは仕事帰りのカップルが寄るには丁度いい場所だった。
「日にちが決まったら行こう」
ね、と千代子が遠慮をしてしまわないように念を押す司だったが暮れに近づくにつれて仕事と言うよりも食事会や人付き合いの方がどうしても多くなってしまう。それは仕方のない事だとしても千代子とは朝食でしか会えなくなってしまう日が増えてしまう。
いくらメッセージアプリで連絡を取り合っていても、寂しい。
それでも、寝室を別にしていた。
眠っている千代子を起こしてしまうのは可哀想だから、と。
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