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単話 『千代子とチョコ(バレンタインデー話)』
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翌朝、千代子はキッチンで軽い朝食の支度をしていた。
司の書斎兼寝室はリビングと通じているのでキッチンで作業をしている千代子の視界にその部屋の扉があった。
昨日は遅かったからまだ寝てるかな、とコーヒーを淹れながらテレビで流れている朝のニュースを遠巻きに見ている千代子の姿はすっかり、部屋に馴染んでいる。
それに今日は……司とデートだ。
昨夜、自分の部屋に寝に行く前に司から「買い物がてらお昼ご飯食べに行こうか」と提案をされていた千代子。休日の司は専属のドライバーを呼ぶことは無く二人で歩いて駅まで行って電車に乗って、とありふれた恋人同士の休日を一緒に過ごしてくれていた。
長らく電車通勤をしていた千代子の方が沿線に何があるのかよく把握していて、それをゆったり話しながらデートをすると言うのも二人には楽しいことだった。
まだ少し眠そうに「おはよう」と起きてくる司の髪が奔放に散っている姿なんてきっと誰も知らない。
そのまま顔を洗いに行く司に「コーヒーにしますか」と問えば「うん、お願い」と返って来る何でもない恋人同士の朝。
リビングに差し込むいつもよりちょっとだけ遅く起きた朝の日差し、コーヒーの香り……とテーブルにはチョコレートの箱が二つ。お茶の時に司と一緒に食べようと思って昨日買って来たチョコレートを置いておいた千代子とそれに気づいた司。
「昨日、ちよちゃんが好きそうなお店を松戸に教えて貰ってさ。今日はそこに行こうと思うんだけど、いいかな」
コーヒーの入ったカップを二つ手にしていた千代子の輝く瞳に司も緩く笑う。
不安の影が差していた硬かった表情の面影は消え、嬉しい時に眉尻を下げてふにゃっと笑う千代子が可愛くてしょうがなかった。
どんな所なんですか?と椅子に座りながら聞いて来る千代子に部屋から持ってきたスマートフォンで「少し路地に入ったお店らしくて」と松戸に教えて貰った食事とスイーツビュッフェのあるお店を見せる。ここならデザートが食べたい分だけ食べられる。大きなホテルのビュッフェにも連れて行きたかったが先の長い予約と自分の休日が合わなくなる可能性を考慮して……の松戸からの提案。
開店と同時に行けば並ばないから、との話なので今日はそこを目指しながら出掛けようと言う司に千代子も頷く。
「それ、気になりますか」
ふふふ、と笑って司がちらちらと見ていたチョコレートの箱を見る。
「二人で食べようと思って、買ってきました」
手のひらサイズの小さめな箱と、それより二回りほど大きい小包装のチョコレートが沢山入っている透明の箱の二つ。司が小さい箱の方を手に取り、眺める。
「前にリンゴのお酒を買ってきてくれた時の事を思い出したんです。それで司さんが持っている方はオレンジリキュールと紅茶のリキュールが入っているボンボンショコラで」
千代子が自分の好きな物についてプレゼンを始めてくれるのをうんうんと頷きながら聞いている司の表情は松戸と芝山が見たら卒倒しそうな程に惚気た……甘い顔をしている。司自身は気づいていないようだったが千代子と暮らすようになって彼もまた、表情がとても柔らかくなっていた。
ただ、そんな彼の姿に千代子以外の者たちが惹かれてしまうのは無理もない話。それが少し、千代子にとっては気がかりであった。何よりモテるに決まっている……覚悟の上での同棲ではあったがいざ、自分の愛している人が素敵なチョコレートの贈り物を持って帰ってきたら、切ない。
なんて言葉で表現したら良いか分からないが胸がきゅっとしてしまう。
入籍の話は順調に進んでいる。自分の両親とも一月の終わりに会って、改めて話をしてくれた。その時に隣に座っていた千代子はいつも冷静沈着な司が少し焦ったような素振りを見せたのがとても意外で、嬉しかった。
そして千代子も近い内に司の両親と会う事になっている。
司によく似た父親とはとんでもない出会いをしてしまったが将来、義母となる母親とはどういう会話をしたら良いんだろうと考えてはどきどきしている。司曰く「父も当時、私と似たようなものだったらしい」と教えてくれていた。それなら恋愛結婚?と千代子も考えていたが親子で何となく、端々が似ているらしい。
それなら大丈夫かな、といつも悩み過ぎてしまっていた千代子の心も少し、軽くなった。
「今日行く所もチョコレートフェアをしているみたいだから楽しみだね」
コーヒーも大体飲み終わった所で洗濯機のアラームが鳴ると司が「干してる間にお風呂掃除しておくね」と役割分担を申し出るので千代子も「洗剤が少ないかもなので足しておいて貰えると」と言づける。
司の書斎兼寝室はリビングと通じているのでキッチンで作業をしている千代子の視界にその部屋の扉があった。
昨日は遅かったからまだ寝てるかな、とコーヒーを淹れながらテレビで流れている朝のニュースを遠巻きに見ている千代子の姿はすっかり、部屋に馴染んでいる。
それに今日は……司とデートだ。
昨夜、自分の部屋に寝に行く前に司から「買い物がてらお昼ご飯食べに行こうか」と提案をされていた千代子。休日の司は専属のドライバーを呼ぶことは無く二人で歩いて駅まで行って電車に乗って、とありふれた恋人同士の休日を一緒に過ごしてくれていた。
長らく電車通勤をしていた千代子の方が沿線に何があるのかよく把握していて、それをゆったり話しながらデートをすると言うのも二人には楽しいことだった。
まだ少し眠そうに「おはよう」と起きてくる司の髪が奔放に散っている姿なんてきっと誰も知らない。
そのまま顔を洗いに行く司に「コーヒーにしますか」と問えば「うん、お願い」と返って来る何でもない恋人同士の朝。
リビングに差し込むいつもよりちょっとだけ遅く起きた朝の日差し、コーヒーの香り……とテーブルにはチョコレートの箱が二つ。お茶の時に司と一緒に食べようと思って昨日買って来たチョコレートを置いておいた千代子とそれに気づいた司。
「昨日、ちよちゃんが好きそうなお店を松戸に教えて貰ってさ。今日はそこに行こうと思うんだけど、いいかな」
コーヒーの入ったカップを二つ手にしていた千代子の輝く瞳に司も緩く笑う。
不安の影が差していた硬かった表情の面影は消え、嬉しい時に眉尻を下げてふにゃっと笑う千代子が可愛くてしょうがなかった。
どんな所なんですか?と椅子に座りながら聞いて来る千代子に部屋から持ってきたスマートフォンで「少し路地に入ったお店らしくて」と松戸に教えて貰った食事とスイーツビュッフェのあるお店を見せる。ここならデザートが食べたい分だけ食べられる。大きなホテルのビュッフェにも連れて行きたかったが先の長い予約と自分の休日が合わなくなる可能性を考慮して……の松戸からの提案。
開店と同時に行けば並ばないから、との話なので今日はそこを目指しながら出掛けようと言う司に千代子も頷く。
「それ、気になりますか」
ふふふ、と笑って司がちらちらと見ていたチョコレートの箱を見る。
「二人で食べようと思って、買ってきました」
手のひらサイズの小さめな箱と、それより二回りほど大きい小包装のチョコレートが沢山入っている透明の箱の二つ。司が小さい箱の方を手に取り、眺める。
「前にリンゴのお酒を買ってきてくれた時の事を思い出したんです。それで司さんが持っている方はオレンジリキュールと紅茶のリキュールが入っているボンボンショコラで」
千代子が自分の好きな物についてプレゼンを始めてくれるのをうんうんと頷きながら聞いている司の表情は松戸と芝山が見たら卒倒しそうな程に惚気た……甘い顔をしている。司自身は気づいていないようだったが千代子と暮らすようになって彼もまた、表情がとても柔らかくなっていた。
ただ、そんな彼の姿に千代子以外の者たちが惹かれてしまうのは無理もない話。それが少し、千代子にとっては気がかりであった。何よりモテるに決まっている……覚悟の上での同棲ではあったがいざ、自分の愛している人が素敵なチョコレートの贈り物を持って帰ってきたら、切ない。
なんて言葉で表現したら良いか分からないが胸がきゅっとしてしまう。
入籍の話は順調に進んでいる。自分の両親とも一月の終わりに会って、改めて話をしてくれた。その時に隣に座っていた千代子はいつも冷静沈着な司が少し焦ったような素振りを見せたのがとても意外で、嬉しかった。
そして千代子も近い内に司の両親と会う事になっている。
司によく似た父親とはとんでもない出会いをしてしまったが将来、義母となる母親とはどういう会話をしたら良いんだろうと考えてはどきどきしている。司曰く「父も当時、私と似たようなものだったらしい」と教えてくれていた。それなら恋愛結婚?と千代子も考えていたが親子で何となく、端々が似ているらしい。
それなら大丈夫かな、といつも悩み過ぎてしまっていた千代子の心も少し、軽くなった。
「今日行く所もチョコレートフェアをしているみたいだから楽しみだね」
コーヒーも大体飲み終わった所で洗濯機のアラームが鳴ると司が「干してる間にお風呂掃除しておくね」と役割分担を申し出るので千代子も「洗剤が少ないかもなので足しておいて貰えると」と言づける。
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