R18『サマーネイビーブルー』

緑野かえる

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夏の終わりに

桃と穂高と筋トレ(1/3)

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 確実に運動不足なのだと申告した私に対して穂高さんは「まだ暑いから、家で出来るやつから始めよう」と提案してくれた。
 確かに、雑貨屋さんとかに行くと流行りの筋トレ用のグッズが沢山ある。どれが自分に合っているか分からなかったので……買っても絶対に持て余してしまうのが目に見えていた。

 今日は穂高さんと映画を見に行った帰り。
 繁華街に出て来たついでにちょっと寄ってみようかと言う話になって一緒にスポーツ用品専門のお店に入る。運動が嫌いなわけじゃなくて、都会のアパートで出来る物が分からなくて。夜のランニングもちょっと怖いし、かと言って会員制のジムは私にはまだ早いと思う。

 私にとっては未開の地。
 行こう、と先導してくれる穂高さんについて行けば自分が思っていた以上に色々な物があるのだと初めて知る。
 それにウエアもなかなか可愛い。部屋着となんら変わらないような物も沢山売っていた。

「桃さんはどこを中心に鍛えてみたい?」

 鍛えると言うか、その……穂高さんと付き合うにあたって、私の全体的な体力が足りないと言うか、終わる頃にはへとへとになってしまう自分が情けなくて――と言えずに「お腹、かな」と言う。鍛えるならとりあえずそこなんじゃないかな、と。

「それならまずは痛くならないように厚手のマットを一枚、かな」

 ああ、やっぱり恥ずかしい。
 穂高さんと夜を過ごす体力が無いから鍛えたいって、確かにこの年齢になってから腰回りのもたつきとか気になってはいた。ウエストを掴まれた時、どうしても気になっちゃって。
 だって穂高さんの腰回り、凄いから……。

「桃さん?」
「は、はい!!」
「可愛い柄のとかこっちにあるよ」

 桃さん好きそう、と勧めてくれるのは確かに私好みの物。

「厚みも色々なんですね……」
「厚すぎても取り回しが悪くなるからこの辺りのが良いかな」

 真剣に選んでくれている穂高さんの隣で意識を切り替えてどれにしようかと幾つか手に取る。
 相談して良かった、と思うくらいに商品棚は筋トレやエクササイズ用品で溢れていた。

「これにしようかな」
「じゃあ今日はこれだけ」
「え、」
「他にもおすすめしたい物はあるんだけどまずはマットがあるだけで十分。初心者の桃さんでも続けられそうなトレーニング動画とかあったら送るから」
「ありがたいです……ちゃんと続くかどうか、あやしくて」

 笑っている穂高さんは私が抱えていたロール状になっているそのマットを引き抜いて「これは俺からのプレゼント」と言わせてしまった。いやいや、自分で買います、と問答を始めそうになってその意図に気が付く。

 もしかして穂高さん、私が絶対に続けられないのを分かっていて、自分がプレゼントした物なら強制的にトレーニングするように……そんな、そんなことないよね、と目を向ければどうやら私の考えは当たっていそうでちょっと目元が細められていた。

 仕事が終わってくたびれていても、彼が教えてくれた私でも出来そうなトレーニング……よりももっと軽い体をほぐしたりするストレッチの動画を見て、真似をする。勧めてくれたマットがあると足も踏ん張りがきくし、丸めて隅に置いておけるので出し入れも面倒じゃない。何より、初めてプレゼントしてもらったのがこのマット。頑張って、使い倒したくなる気も出て来る。


 そんな話を夏帆にする。
 そうしたら最近、くまさんも穂高さんと同じジムに通い出したそうで。

「くまさんの体、そのうち凄い事になっちゃうんじゃない?」
「と、言うと」
「え……え、いや……その、」

 夏帆がぐふふ、と大好物の海老せんべいを渡した時みたいに変な声で笑ったのが悔しい。
 いいよ、言うよ。言えば良いんでしょ。

「彼、結構着痩せしてたの。それで」
「うん。詳しくは聞かないからそこまでで良いよ」
「……いい、言う」
「いいって」
「じゃあ言わない」
「そうしといて」

 ふう、と互いに息を吐く。
 夜の話については流石の親友とは言え、あまりにもプライベートな部分にはちゃんと干渉しない。
 しかしながら季節限定のスイカ味のアイスドリンクを互いに飲みながらの女二人の会話はだらだらと続いてしまう。

「くまさんは見ての通り、じゃん?」
「うん」
「私も正直、びっくりするような事があってね」
「この夏帆を……びっくり……」

 元気、活発、の夏帆を。
 くまさんどんなことしちゃってるの、と次に会った時にまともに見られないかもしれない。

「私、性欲強い方なんだけどさ」
「まだお昼よ、夏帆さん」
「そうでした、モモさん」

 流石にもう話題を変えよう、と今度は以前、私と穂高さんとで会社帰りのまま小旅行をした時の話をし始める。遅いチェックイン……レイトチェックインに対応している宿泊施設や夕飯をどうしたかとか。
 夏帆もくまさんを誘って行きたい、と言っていたのでその時の様子を伝える。

「色々込みの宿泊パックになってるやつもあるし、悩んじゃったら初回はそっち使った方が早いかも」

 瞳を輝かせ、テーブルに出して置いた私のスマートフォンの画面を覗き込みながら興味津々で話を聞いてくれる夏帆。
 くまさんの事が大好き、って雰囲気が伝わって来て安心する。
 そしてくまさんも、夏帆の事を理解してくれていて、本当に良かった。
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