Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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4 笹部家食卓

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 叶わない、叶えてはならないと分かっていても、願ってしまう。自分が作ったオムライスを、千里に食べさせたい。姉のために料理をすることがこれだけ嬉しいなら、相手が千里だったらもっともっと嬉しいに決まっている。けれど、もしも市販品では無く自分の気持ちがたっぷりこもった料理が千里の口に入ったら、なんて。考えただけで鋼の頭は千里まみれになり沸騰する。その場で周りの制止を無視して襲いかかり、その口に含んだものを唇ごと奪い飲みこみ、千里をΩに変えて、いや、それでは止まらず番にするまで離してやれないだろう。

 ーーー突然鋼に唇を奪われ、舌が割って入ってくる感触に目を見張る千里。拒む間もなく、口内に残ったオムライスの欠片を舌で探られ驚き、慌てて鋼を突き飛ばそうとするがもう遅い。鋼の喉が鳴ったと同時に意識が薄れて身体から力が抜けていく。変異の副作用で熱を帯びた瞳に映るのは牙を剥く鋼の顔。

 想像しただけで、鋼の背筋はゾクゾク震える。千里を自分のΩにするその瞬間の高揚に、心が歓喜で満たされて、だ。これは想像では終わらない可能性の一つ。鋼にはその力がある、出来てしまえる。その事実が、現実を想像に引き寄せてしまえば良いと誘ってくる。もしもΩに出来たなら、囲って繋いで自分の番になるまで決して離れない。番にした後も、死ぬまで千里のために牙を捧げて生きていく。精通した鋼は誘ってくる女子生徒を何人も相手していたが、そんなときさえ頭の中で思い浮かべているのは千里なのだ。
 鋼にとって、出会ってから千里はずっと特別であり続けていた。
 けれど、鋼の希望に染められた想像は長く続かない。笹部の血で変えられた運命を呪い、自死の道を選んでこの世を去った数多の変異種Ωが眠る名なき墓標が頭を過る。αやβとして生まれた人間が、孕むことしか脳がないと卑下されるΩに自分が変わったことを受け入れるのは容易では無い。Ω堕ちが家族にばれ、自分の家から切り捨てられ、帰る場所まで失うのが常だ。Ωが家から出たことを忌避する傾向はαもβも変わらない。
 笹部の血を憎み、これまで数多の人間が怨嗟を吐いて亡くなっていた。自分のΩになって欲しい、笹部一族の身勝手な願いの犠牲者だ。今の時代、変異種Ωは受け入れられない。例えどれだけ尽くすと頭を垂れ、ともに生きて欲しいと願っても、相手がその手を取ってくれる確率は限り無くゼロに近い。
 それを意識しただけで、鋼はまるで冷水を頭上からぶっかけられたように我に返った。
 秋から生徒会に入り、前よりずっと身近になった分千里を自分のΩにしたい気持ちが鋼の中で増している。抱えきれないくらいに、大きく深く膨んで、鋼は千里にお菓子を渡すだけでは足りずにどうにかなりそうだけれど。
 千里をこの世から消したいとは思わない。
 鋼が把握している千里の性格であれば、その道を選びかねないことを自分が一番よくわかっている。(ちーちゃんの一番近くにいるだけで、満足しないと)鋼は自分に言い聞かせ、パチンっと両手で頬を叩くと、気持ちを切り替えボウルに卵を割り入れた。
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