Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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6 会議室

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 豆村 信輔まめむら しんすけ44歳。母校である優生学園高等部の養護教諭になって二十年と少し。OBしか採用しない統括理事長の方針で、強い仲間意識と個々の能力の高さが内外定評のある教師陣に囲まれ、進級で生徒の顔ぶれが変わり問題が起こっても、余裕を持って取り組めるベテランの域で生徒の指導にあたっていた。
 しかし、ここ数年、その指導内容が大きく変わった。場当たり的な怪我の治療が激減し、ひとりひとりの生徒についてじっくり話を聞いてケア出来る時間が増えた。三冠生徒会長である穂高 千里が、初等部から順に学園改革を行ったおかげだ。特に卒業を控えた今年度は、流血を伴う決闘が未だ一件も教師に報告されていない。学園全体が平穏な空気に満ちていた。
 教師も万能ではないため、見落としている可能性はある。血気盛んな高校生が集まり、実際にゼロということは無いのだろうが、職員会議での諍いを見かけたという話の続きは、どれも「穂高ナンバーズがすぐ仲裁に入り和解していた」で終わる。生徒の自主性を重んじる学園では、生徒間で解決した問題について教師があとから口を出すことは原則ない。代わりに、表向き解決しても納得していない生徒が駆け込む先、それが豆村のいる保健室だった。そのため、三冠生徒会長の実績について豆村は誰よりも感じる立場にいる。
 穂高について、「このままずっと在籍してくれれば良いのになぁ」と教師の慰労会で冗談半分、願い半分の話のネタになっている。豆村は、品行方正な穂高が留年をしなければ起こり得ないことをネタにしても意味がないと、その輪に積極的に加わったことは無かった。しかし、教師として戻ってきてくれる可能性がないか、それとなく本人に探りを入れたことはある。結果は芳しくなかったが、穂高ほど人を導き統べることができるならどの分野に進んでも楽しみだとその未来に大いに期待していた。
 豆村は歴代の生徒の中でも、穂高ほど教師陣から全幅の信頼を得ている生徒はいないと断言出来る。高等部での穂高のαとしての力は、高く見積もっても上の下。フェロモンの強さが個体の価値を決めるα社会において、穂高の高い評価は珍しいものだった。
 それが、である。
 豆村は、両手を添えている薄い長方形の箱をカタカタ震わせながら胸に押し当てる。一昨日、急に統括理事長から呼び出しを受けメモを取ることが許されない面談をされてしまった。内容を思い返すだけで、手の中のカタカタ音が激しさを待つ。
 (れれれれれれれれれぃ、れぃせぇ、れれぃせぃ、れーせぃにぃっっ)冷静であらねばと繰り返せば繰り返すほど、目的から外れて気持ちが乱気流に飲み込まれる。採用試験の最終面接以来のド緊張。相手を待たせているというのに、目の前の扉を開けずに終わらせる方法がないか、つい無駄な悪あがきをしたくなる。
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