Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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6 会議室

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 カチャッ

 軽い音を立て、目の前の扉が内側へ引き寄せられていく。豆村の両手は箱をしっかりと握りしめているため、ノブには手の触れようがない。「ふぇ」と、豆村の口から間抜けな音が漏れていた。心の準備がまだ出来ていないのにと焦る気持ちより、なんで開いてしまったんだ?と驚きに瞬きを繰り返す。会わなければならない千里と自分の間を隔てる最後の砦。まだそこにあって欲しかったのに、自動で開くなんて止めてほしい。心の準備が整うまでもっと時間が欲しくて、今すぐ扉を閉め直したくなるくらい豆村は追い込まれていた。しかし。
「何やってんだよ?」
「・・・や、やぁ、笹部君」
 開いた扉の向こうから、鋼が平らな目をして豆村を眺めていた。呆れた視線が突き刺さる。どうやら、自分がここで立ち往生していたのはバレていたようだ。背中まで伸びた髪を毛先で緩く束ねた制服姿は見慣れたもの。自分をあまり教師扱いしてくれないのも慣れていた。鋼は、どの教師に対してもこの調子。口調も態度も同級生と教師を何ら変えない。けれど、それが鼻につかず許せてしまう雰囲気がある。
「お待たせしてごめんね」
 鋼の奥に千里がいた。ソファから立ち上がり、頭を下げられる。見た目は今までと変わらない。制服を着崩している鋼と違い、千里はシャツの一番上のボタンまでしっかりと閉じて正当性のある着方をしている。その佇まいは、変異種Ωになっていると分かっていてもαにしか見えない。鋼の警告混じりの従属フェロモンが、その周りを固めているのも変わらない。
 (良かった・・・見てるだけじゃ案外わからないんだな。激変していたら、流石に今まで通りと意識しても対応に困るし)硬い表情の千里と目があったのでなんとか微笑んでみた。千里も少し困った顔だったが微笑み返してくれている。(よし、なんとか頑張ろう。統括理事長から預かってるコレも渡さないとね)手の中の箱を意識した途端、つい目が千里の首に引き寄せられてしまった。そこに巻かれた番避けを見てしまい、ピクピク口角が若干引きつってしまったのは見逃しておいて欲しい。
 廊下から中へ入ると、鋼が扉を閉めてくれた。あまりそういったことは自分でせず、周りのナンバーズにさせていたのに珍しいなと豆村は違和感を覚えた。追い抜きざま、首に腕を引っ掛けられ、ボソッと耳元で脅されたことでこれが本題だったかと納得。
「おい、豆。
 俺のちーちゃんに手ぇだしたら殺すぞ」
 そんな物騒なセリフを笑顔で吐かれ、豆村は乾いた笑いで返した。豆村の身長は、180cm近い鋼と変わらないので顔が近い。いつもなら、もう少し声のトーンが明るく豆呼びされるのだが本気の脅迫を含んで呼ばれると見下げられているようでイラッとする。
 (誰がΩに手を出すか。好きでこちらも関わるんじゃないぞ)
 豆村の緊張は、良い感じに解けていた。
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