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10 寮-Ⅲ
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顔を隠すことすら出来ず、なんとか鋼の拘束から逃れようと腕を引いたり身をよじったり。悪戦苦闘したものの、手首を握る手はビクともしない。それほど力を入れている様子もないのに何故だ!
「くっ、よーくよおぉーーっく、わかったぞ!!お前は一日中、俺をからかっていたんだなっ」
力では叶わない負け惜しみから、頭では負けない!真実を言い当ててやったぞ!!と大げさに得意げな顔を作る千里。鋼はその反撃に意表を突かれて呆けてしまい、力が緩んだ隙きをついて逃してしまった。手首を回しつつ仁王立ちしてみせる千里が楽しげだから良いのだけれど、腑に落ちない。(ちーちゃん、何言ってんだろう?)自分がどれくらい頑張って頑張って耐えていたのか、微塵も伝わってないのはなぜなのか。
「会う度に俺の口にお菓子を突っ込み、自由時間になれば抱きついてきて離れず、初等部前から俺のコバンザメと冷やかされて恥ずかしかったのは俺の方だ!!」
断言された内容も初耳で、鋼は「はぁ」と力無く頷く。そして、一体何が千里に火を着けたのかわからず首も傾げた。千里が、生き生きと話す姿は久しぶりだ。
鋼の預かり知れないところではあるが、『穂高千里のコバンザメ』は鋼の呼び名のひとつだ。鋼が千里にまとわりつき、結果、周りから守っていた力量差の反転した関係。同世代交流会から悪目立ちしていたその様子を揶揄しての呼び名だ。鋼本人には怖くて直接言えないが、千里に対しては「お前のコバンザメは優秀だよな」「コバンザメのおかげで生きてるな」などと容赦なく使われていた。流石に、三冠生徒会長を見事成し遂げた今の千里が言われることはなくなったものの、そうなる前は酷くそのプライドを傷つけられたものだ。幼い頃、一人で立てないのかとバカにされ、千里は自分でやり返していたが負けても鋼には告げ口をしていなかった。もしも鋼が代わりに相手を負かしてしまうと、今度は依存して媚び諂う意味で『笹部鋼のコバンザメ』と自分が呼ばれてしまうとわかっていたからだ。確かに千里は鋼の力を頼ってはいたが、お世辞やおべっかを使ったことは一度もない。自分がこの学園に革新を起こした自負もある。
「ふんっ、今更触らないようにとか、手を繋がないようにとか、抱きしめないようにとか、周回遅れも良いところだ。俺が冷やかされ、恥ずかしいと直接お前に何年言い続けて来たことだと思っている?散々止めてくれなかったのに、何を今になって・・・ん?つまり、嫌がらせでは、無い、のか?」
眼鏡のブリッジをクイッと指で上げ、考え込む千里。すぐにはっと顔を上げた。なにか、無いはずの理由に至ったらしい。二人しかいないのに、内緒話のようにひっそりと確認される。
「そういう、ことなのか?」
(どういうこと?)
わからないけれど、千里から期待されている答えは解ったのでまた頷いてみる。千里も上機嫌になり頷き返してくれた。どうやら正解だったらしい。
「まぁ、お前なりに少しは反省しているということだな。だが、そんな昔の、もう諦めもついている願いを叶えられても、本当に今更過ぎて正直戸惑う。誠意をみせたいのであれば、他の方法にしろ」
真面目な顔で諭されてしまった。どうやら、千里への償いの一環と思われたようだ。(ちーちゃんてば、たまーに思考が飛んじゃって面白いところに着地するんだよなぁ)鋼は、まぁ良いかと誤解はそのまま解かないことに決めた。苦行はもうたくさんだ。ついでに、千里の言葉を逆手に取って、触る、手を握る、抱きつくの3点については(程度は要確認そうだけれど)千里は受け入れてくれるのだなと理解した。それ以降は、徐々に慣れていってもらえれば拒否反応が出ないかもしれない。鋼の自己中ポジティブシンキングが息を吹き返す。
「うん、わかった」
ニコッと目を合わせて笑いかけると、千里も笑顔を見せてくれる。その後、「だいたい、お前は極端すぎるのだ」と流れるように始まった小言は、再び鋼にとっては千里を愛でる時間に戻った。
「くっ、よーくよおぉーーっく、わかったぞ!!お前は一日中、俺をからかっていたんだなっ」
力では叶わない負け惜しみから、頭では負けない!真実を言い当ててやったぞ!!と大げさに得意げな顔を作る千里。鋼はその反撃に意表を突かれて呆けてしまい、力が緩んだ隙きをついて逃してしまった。手首を回しつつ仁王立ちしてみせる千里が楽しげだから良いのだけれど、腑に落ちない。(ちーちゃん、何言ってんだろう?)自分がどれくらい頑張って頑張って耐えていたのか、微塵も伝わってないのはなぜなのか。
「会う度に俺の口にお菓子を突っ込み、自由時間になれば抱きついてきて離れず、初等部前から俺のコバンザメと冷やかされて恥ずかしかったのは俺の方だ!!」
断言された内容も初耳で、鋼は「はぁ」と力無く頷く。そして、一体何が千里に火を着けたのかわからず首も傾げた。千里が、生き生きと話す姿は久しぶりだ。
鋼の預かり知れないところではあるが、『穂高千里のコバンザメ』は鋼の呼び名のひとつだ。鋼が千里にまとわりつき、結果、周りから守っていた力量差の反転した関係。同世代交流会から悪目立ちしていたその様子を揶揄しての呼び名だ。鋼本人には怖くて直接言えないが、千里に対しては「お前のコバンザメは優秀だよな」「コバンザメのおかげで生きてるな」などと容赦なく使われていた。流石に、三冠生徒会長を見事成し遂げた今の千里が言われることはなくなったものの、そうなる前は酷くそのプライドを傷つけられたものだ。幼い頃、一人で立てないのかとバカにされ、千里は自分でやり返していたが負けても鋼には告げ口をしていなかった。もしも鋼が代わりに相手を負かしてしまうと、今度は依存して媚び諂う意味で『笹部鋼のコバンザメ』と自分が呼ばれてしまうとわかっていたからだ。確かに千里は鋼の力を頼ってはいたが、お世辞やおべっかを使ったことは一度もない。自分がこの学園に革新を起こした自負もある。
「ふんっ、今更触らないようにとか、手を繋がないようにとか、抱きしめないようにとか、周回遅れも良いところだ。俺が冷やかされ、恥ずかしいと直接お前に何年言い続けて来たことだと思っている?散々止めてくれなかったのに、何を今になって・・・ん?つまり、嫌がらせでは、無い、のか?」
眼鏡のブリッジをクイッと指で上げ、考え込む千里。すぐにはっと顔を上げた。なにか、無いはずの理由に至ったらしい。二人しかいないのに、内緒話のようにひっそりと確認される。
「そういう、ことなのか?」
(どういうこと?)
わからないけれど、千里から期待されている答えは解ったのでまた頷いてみる。千里も上機嫌になり頷き返してくれた。どうやら正解だったらしい。
「まぁ、お前なりに少しは反省しているということだな。だが、そんな昔の、もう諦めもついている願いを叶えられても、本当に今更過ぎて正直戸惑う。誠意をみせたいのであれば、他の方法にしろ」
真面目な顔で諭されてしまった。どうやら、千里への償いの一環と思われたようだ。(ちーちゃんてば、たまーに思考が飛んじゃって面白いところに着地するんだよなぁ)鋼は、まぁ良いかと誤解はそのまま解かないことに決めた。苦行はもうたくさんだ。ついでに、千里の言葉を逆手に取って、触る、手を握る、抱きつくの3点については(程度は要確認そうだけれど)千里は受け入れてくれるのだなと理解した。それ以降は、徐々に慣れていってもらえれば拒否反応が出ないかもしれない。鋼の自己中ポジティブシンキングが息を吹き返す。
「うん、わかった」
ニコッと目を合わせて笑いかけると、千里も笑顔を見せてくれる。その後、「だいたい、お前は極端すぎるのだ」と流れるように始まった小言は、再び鋼にとっては千里を愛でる時間に戻った。
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