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前日譚(黒曜&雅)
出会い2
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あせった俺の頭の中で、過去の走馬灯が過ぎる。
いや、引き出されていた。
全然俺が思い出せなかったような、父さんに握らされた石の色や形。
母さんの服の模様から、教科書の一文、めまぐるしく変わる町の様子。
鮮明に、詳細に。
まるで、たった今見てきたようなリアルさ。
次々と叩きつけられる記憶の嵐。
頭の中が、破裂しそうで悲鳴を上げる。
「うわぁぁぁぁぁーーーーーーーーッ」
大男は、全く気にも留めず。
俺の頭の中は真っ白に弾けるまでそれを続けて、ようやく手を離した。
グシャリと、床に倒れる俺は、指一本動かせない。
さっきまでの金縛りとは違う。
全部の力をもってかれて、だるくて力が入らない。
「随分鬼が数を減らしたか、それともいなくなったのか・・・」
頭の上で、まだ独り言が続いていた。
コイツ、なんなんだよ。
「仕方ないな」
再び、今度は胸倉をつかまれ持ち上げられ。
それでも全然抵抗も出来ずにすくみ上るしかない。
「ヒッ」
怖くて、どうしようもなくて。
敵う気がしない俺は、惨めだけど震えるしかなくて。
不意に。
ガブリと首を噛まれ、息を呑む。
喰われるのか・・・俺。
まだ、もっといろいろしたいことだってあったのに!
そのまま肉を食いちぎられると覚悟していた俺の予想に反し。
「ヤッ、ヤメっ、んンンッ」
冷たく氷でも押し当てられたような唇の内側に、俺の血液が抜かれていく。
ゾワゾワ背筋を走るむず痒い感覚は、不快というよりもどちらかと言えば安心して目を閉じたくなるようなおかしなもの。
抵抗できずに力の抜けた俺に、新たな刺激が追加されて漸く我に返った。
ねっとりとぬるい舌に首筋を舐められ心臓が跳ねる。
「な、なにして・・・」
「しばらく我はココを動けない。
食糧を先ずは確保する」
一度俺の首から顔をどけ、初めてソイツと正面から目があった。
「動けるギリギリの量を、毎日だ。
貴様が来なければ、他の人間を襲う。
大切にしている仲間が、この近くにはたくさんいるようだしな」
これが後に、俺の契り鬼となる黒曜との出会い。
首に餌の証をつけられたのにも気付かず、初めて俺に向かって笑った大男に。
俺は目を奪われて、息を呑んでいた。
鬼は、糧となる極上の人を呼び寄せるために、力があればあるほどその容姿が美しく変貌していく。
最強クラスの黒曜は、それこそ、男も女も魅了する顔で、身体で。
そんなことは全然知らない俺は、ただ、その笑顔に見とれていた。
恐怖で高鳴っていた心臓の音、が、うるさい。
俺は、恐怖と驚きともろもろ全部。
ひっくるめてぐちゃぐちゃになった感情が。
どうしようもなく、その命令を聞かなきゃヤバイという結論に立たせていた。
黒曜に言わせると。
あのとき自分の状況は、封じられていた鎖を無理やり引きちぎり。
食糧があると感じた場所目指して、一度飛ぶのが精一杯。
人間をむやみに襲って再び封じられるよりも。
全く鬼の知識が無い、変わった血をもつ俺を。
力がつくまで手駒にしておこうと思っていたらしい。
でも、出会い方はどうあれ。
俺と黒曜の、長い付き合いがここから始まった。
いや、引き出されていた。
全然俺が思い出せなかったような、父さんに握らされた石の色や形。
母さんの服の模様から、教科書の一文、めまぐるしく変わる町の様子。
鮮明に、詳細に。
まるで、たった今見てきたようなリアルさ。
次々と叩きつけられる記憶の嵐。
頭の中が、破裂しそうで悲鳴を上げる。
「うわぁぁぁぁぁーーーーーーーーッ」
大男は、全く気にも留めず。
俺の頭の中は真っ白に弾けるまでそれを続けて、ようやく手を離した。
グシャリと、床に倒れる俺は、指一本動かせない。
さっきまでの金縛りとは違う。
全部の力をもってかれて、だるくて力が入らない。
「随分鬼が数を減らしたか、それともいなくなったのか・・・」
頭の上で、まだ独り言が続いていた。
コイツ、なんなんだよ。
「仕方ないな」
再び、今度は胸倉をつかまれ持ち上げられ。
それでも全然抵抗も出来ずにすくみ上るしかない。
「ヒッ」
怖くて、どうしようもなくて。
敵う気がしない俺は、惨めだけど震えるしかなくて。
不意に。
ガブリと首を噛まれ、息を呑む。
喰われるのか・・・俺。
まだ、もっといろいろしたいことだってあったのに!
そのまま肉を食いちぎられると覚悟していた俺の予想に反し。
「ヤッ、ヤメっ、んンンッ」
冷たく氷でも押し当てられたような唇の内側に、俺の血液が抜かれていく。
ゾワゾワ背筋を走るむず痒い感覚は、不快というよりもどちらかと言えば安心して目を閉じたくなるようなおかしなもの。
抵抗できずに力の抜けた俺に、新たな刺激が追加されて漸く我に返った。
ねっとりとぬるい舌に首筋を舐められ心臓が跳ねる。
「な、なにして・・・」
「しばらく我はココを動けない。
食糧を先ずは確保する」
一度俺の首から顔をどけ、初めてソイツと正面から目があった。
「動けるギリギリの量を、毎日だ。
貴様が来なければ、他の人間を襲う。
大切にしている仲間が、この近くにはたくさんいるようだしな」
これが後に、俺の契り鬼となる黒曜との出会い。
首に餌の証をつけられたのにも気付かず、初めて俺に向かって笑った大男に。
俺は目を奪われて、息を呑んでいた。
鬼は、糧となる極上の人を呼び寄せるために、力があればあるほどその容姿が美しく変貌していく。
最強クラスの黒曜は、それこそ、男も女も魅了する顔で、身体で。
そんなことは全然知らない俺は、ただ、その笑顔に見とれていた。
恐怖で高鳴っていた心臓の音、が、うるさい。
俺は、恐怖と驚きともろもろ全部。
ひっくるめてぐちゃぐちゃになった感情が。
どうしようもなく、その命令を聞かなきゃヤバイという結論に立たせていた。
黒曜に言わせると。
あのとき自分の状況は、封じられていた鎖を無理やり引きちぎり。
食糧があると感じた場所目指して、一度飛ぶのが精一杯。
人間をむやみに襲って再び封じられるよりも。
全く鬼の知識が無い、変わった血をもつ俺を。
力がつくまで手駒にしておこうと思っていたらしい。
でも、出会い方はどうあれ。
俺と黒曜の、長い付き合いがここから始まった。
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