人を洗脳してはいけません!

からぶり

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緑と緑色とその正体

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 生徒指導週間。

 それは生徒の学校生活をよりよく改善するために、指導が強化される一週間のことである。
 例えば授業中の居眠り、不用品の持ち込み、制服の着崩しなどなど。

 その指導にはもちろん、遅刻も含まれる。

「……で、只野に通普。遅刻した理由を聞こうか?」
「しまった……今日の門番は鈴(りん)ちゃんだったか……っ」

 校門で俺たち二人を待ち構えていたのは、生徒指導主任の久(く)具(ぐ)鈴(りん)先生であった。
 生徒指導主任だなんて肩書を聞くと怖そうなイメージが湧くが、実際にはそんなことはない。鈴ちゃんの基本的にいつも気だるげなその表情からは、怒っているというよりも、面倒くささが滲み出ている。

 そうは言っても先生を、しかも生徒指導主任をちゃん付けで呼ぶのは恐れ多いことかもしれないが、しかし身長が百四十センチあるかないかの、下手したら小学生と間違われるこの人は『先生』よりも『ちゃん』で呼んだ方がしっくりくる。とてもアラサーには見えない人だ。

「まあまあ鈴ちゃん、遅刻ぐらいでそんなにカリカリするなって」
「貴様ら……何の躊躇いもなく鈴ちゃんと呼ぶな」

 鈴ちゃんは額に手をやり、ため息をつく。
 むっ、そんな呆れたような態度を取られるとは心外だ。通普のバカはともかく、俺が遅刻してしまったのはやむを得ない事情があったというのに。

「いや、遅刻した理由はちゃんとあるんですよ」
「ほう、言ってみろ」
「実は登校中に不審者に遭遇しまして」
「おい緑、なぜ俺を見る」

 さて何のことやら。

「はぁ、もういい。遅刻とはいえ時間もギリギリだったことだし、このぐらいで勘弁してやろう。早く教室に行きなさい」

 おっとラッキー。指導の対象になった生徒は反省文を書かされるって聞いてたけど、口頭注意だけで済むとは。

「はい、すみませんっした」
「それじゃ、鈴ちゃん!」
「通普は放課後生徒指導室に来なさい」

 あっ、通普の目が死んだ。


 ○


「はぁ……なんか最近ついてないな……」

 学校からの帰り道。そんなことを呟きながら歩いていた。

 今朝の遅刻もそうだが、ついていないと言えば、それは昨日からそうだ。
 いきなり変態に絡まれたと思ったら追いかけられ、助けを求めれば来たのはヒーローではなく新たな変態。

 ついてない。いやこの運の無さは、むしろ憑いているとも言えるが。
 さすがは占い最下位と言うべきか。信じていないとは言っても、ここまでくると占いのせいにもしたくなる。

 ――いや待てよ? これらが占いの言う通りだとすれば、運気を回復させるには占いが言っていたことに従えばいいのか?

 確か通普が言っていたラッキースポットは墓場、心霊スポット、ピラミッド、公園だ。
 墓地……却下。心霊スポット……論外。ピラミッド……無理。
 よし公園で決まりだ。

 帰り道からは少し外れているが、確か近くにあったはず。
 久しく行ってないが、たまにはいいだろう。

 横道に逸れ、普段は使わない道を通って公園へと向かう。
 そうしてたどり着いた久しぶりの公園に、少しワクワクしながら足を踏み入れる。

「おお……懐かしいな……」

 この公園に来たのは小学生以来だが、それでも目の前に広がる光景は記憶に残っているままだった。
 滑り台に砂場とアスレチックツリー、後は掃除用具の入った倉庫と植え込みくらいしかない小さな公園は、夕日に照らされて思い出以上に美しく見えた。

 初めは占いが言っていたからという理由だけで訪れた公園だが、今の俺にはそんなことは関係なかった。ただ今は、この懐かしさに浸っていたいだけだった。

 ああ、懐かしい。
こうやって放課後をゆっくりと過ごすのも、たまにはいいのかもしれない。
ああ、本当にいいものだ。本当に本当に…………


 ――変態さえいなければ……っ!


「はーっはっはっは! そこにいるのは緑ではないか!」

 滑り台の上。
 見覚えのある緑色の正義の味方(変態)が、そこにいた。

「なんでこんなところにお前がいるんだ!」
「ふっ、そんなことはどうでもいいだろう」

 格好つけながら滑り台から降りてくるシンプル・グリーン。

「いやー、しかしこんなところで緑に出会うとは。おっと緑、みなまで言うな。私にはすべてわかっている」

 変態が上機嫌で近づいてくる。仮面をしているため表情はわからないが、おそらく満面の笑みを浮かべていることだろう。そのくらいテンションが高い。

 しかし……すべてわかっているとは、一体何のことだろうか。

「私の仲間になりたいのだな!」
「んなわけないだろうがぁっ!!」

 なんて勘違いしてやがるこいつ!

「誰がお前の変態仲間になんてなるかっ!」
「違う、そっちの仲間ではない! そして私は変態ではない!」
「全身タイツの奴が何を言っている! 弁明の余地は無い!」
「だから違うと言っているだろう! 話を聞いてくれ緑!」
「変態の話なんか誰が聞くか! それにどこの誰かもわからない奴の仲間になる人がいるわけないだろ!」
「いや、どこの誰かもわからないということはないだろう」
「えっ?」

 いやいや、それはないだろう。こいつは俺の名前を知っているし、つまり俺自身のことを知っているのだろうが、俺はこの変態を知らない。片方だけが知ってれば問題ない、なんてことを言っているわけではないだろうが、そもそもそんな理不尽は認められない。

「知ってるって、それはお前が一方的に知ってるだけだろ」
「……え、まさか緑、本当にわかってないのか?」
「おい何のことだ」

 何だろう、すごく嫌な予感がする。
 例えるなら、泥沼に引きずり込まれるような、これ以上進んでしまえば後戻りできなくなってしまうような、そんな予感が。

「――あぁ、もしや仮面をしているせいで気づけなかったのか」

 シンプル・グリーンは納得がいったという様子で仮面に手を伸ばす。

 何だ、何なんだ。
 一体どうしてこんなにも逃げ出したい気持ちなんだ。

「しかし緑もひどいな。顔がわからないとはいえ、気づいてくれてもいいだろうに」

 仮面を外し、その素顔が露わになる。

 能天気な印象を受けるその顔は。
 腹が立つほどいい笑顔を浮かべたそいつは。


「この私――俺のことを!」


 見知った顔がそこにあった。
 シンプル・グリーンの正体は、通普了宮だった。
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