21 / 31
緑と遭難と知らない少女
しおりを挟む
ジャングルを歩き始めて三十分ほど。
未だに脱出できていないにも関わらず、ついに陽が落ちて完全に夜になってしまった。
月の光をほとんど通さないほど木は密集していて、辺りは真っ暗で見通しが利かず俺の不安を煽る。不幸中の幸いとして、通普の携帯があるため、電波は届かなくともライトを点けることは可能であった。それにより足元を照らして想像よりも楽に移動できた。
「それにしても、ただ歩くだけというのも暇だの。そうは思わんか?」
「…………なあ」
ココア・ブラウンは退屈そうに話しかけてくる。
「何か面白い話でもないのか? 緑よ」
「…………なあってば」
歩き続ける俺と、しゃべり続けるココア・ブラウン。
「おいおぬし、聞いておるのか?」
「…………聞いているのかはこっちのセリフだ! お前は今この状況をおかしいとは思わないのか!?」
「なんだ緑。そんな大声をあげて。もう疲れたというのか? われはまだまだ余裕だというのに、情けない」
「お前が疲れてないのは当たり前だココア・ブラウン! だって俺がお前を背負って歩いてるんだからな!」
ココア・ブラウンが『疲れた』と言いだしたのは、歩き始めてまだ十分もたたない時だった。
『おい緑、大変だ』
『どうした? この状況からさらに大変なことがあったら俺は泣く自信があるぞ』
『疲れた』
『は?』
『だから疲れたと言っておるのだ。もう歩けん』
『おいまだ歩き始めたばっかだぞ……』
『そこでわれから提案がある』
『絶対に嫌だ』
『話を聞け!』
背負え、嫌だ、とどちらも譲らぬやり取りの末、結局俺が根負けし今に至る。
「ていうか、もう休憩できただろ。いい加減降りろ」
「えー、もうちょっとー」
「何がもうちょっとだ! そろそろ自分の足で歩け!」
「うわっ! 振り落とそうとするでない!」
首にしがみついてくるココア・ブラウンを下ろそうと揺らす。
――パサッ
「ん? ココア・ブラウン、何か落としたぞ」
「なに?」
落ちたそれを拾い上げる。
なんだこれ? 手帳? ……いや、生徒手帳か?
「えっと、『大東北高校二年――』」
「……ッ!? それを見るでない!」
「んぐっ!?」
突然ココア・ブラウンが首を締めあげてきた。その拍子に持っていた生徒手帳を落としてしまう。
ココア・ブラウンはすぐに俺から飛ぶように降りると、その生徒手帳をすさまじい速さで拾って服の中に隠した。
「…………見たか?」
「見たって、今の生徒手帳のことか?」
「やはり見たんだな! 忘れろ! 忘れるのだ!」
「うわっ!? やめろ! 見てないって! 確認するより先にお前が回収したって!」
いきなり殴りかかってきたココア・ブラウンに慌てて説明する。人の記憶を消すのになんて原始的な方法を持ち出してくるんだこいつは。
「……本当か?」
「本当だ」
「本当に本当か?」
「ああもう、だから本当だって」
「むぅ、ならばよい」
そう言ってココア・ブラウンはむくれた様子で前を歩き始めた。
その後ろを歩きながら、俺はさっき見たことについて考える。
ココア・ブラウンには見てないと言ったが、それは嘘だ。ばっちり見た。
そこに書かれていたのは学校名、学年、クラス、そして名前だ。あの反応からして、生徒手帳がココア・ブラウンのものであることは間違いないだろう。
しかし、もしそれが本当なら、かなり大きな問題が発生する。
そこには、『大東北高校 二年八組 黒乃(くろの)茶々(ちゃちゃ)』と書かれていた。
大東北高校。それは、俺の通っている学校の名前であった。
そして、二年八組は、俺のクラスだ。
同じ学校で、同じクラスで――――ならばどうして、俺はココア・ブラウンのことを知らないんだ?
未だに脱出できていないにも関わらず、ついに陽が落ちて完全に夜になってしまった。
月の光をほとんど通さないほど木は密集していて、辺りは真っ暗で見通しが利かず俺の不安を煽る。不幸中の幸いとして、通普の携帯があるため、電波は届かなくともライトを点けることは可能であった。それにより足元を照らして想像よりも楽に移動できた。
「それにしても、ただ歩くだけというのも暇だの。そうは思わんか?」
「…………なあ」
ココア・ブラウンは退屈そうに話しかけてくる。
「何か面白い話でもないのか? 緑よ」
「…………なあってば」
歩き続ける俺と、しゃべり続けるココア・ブラウン。
「おいおぬし、聞いておるのか?」
「…………聞いているのかはこっちのセリフだ! お前は今この状況をおかしいとは思わないのか!?」
「なんだ緑。そんな大声をあげて。もう疲れたというのか? われはまだまだ余裕だというのに、情けない」
「お前が疲れてないのは当たり前だココア・ブラウン! だって俺がお前を背負って歩いてるんだからな!」
ココア・ブラウンが『疲れた』と言いだしたのは、歩き始めてまだ十分もたたない時だった。
『おい緑、大変だ』
『どうした? この状況からさらに大変なことがあったら俺は泣く自信があるぞ』
『疲れた』
『は?』
『だから疲れたと言っておるのだ。もう歩けん』
『おいまだ歩き始めたばっかだぞ……』
『そこでわれから提案がある』
『絶対に嫌だ』
『話を聞け!』
背負え、嫌だ、とどちらも譲らぬやり取りの末、結局俺が根負けし今に至る。
「ていうか、もう休憩できただろ。いい加減降りろ」
「えー、もうちょっとー」
「何がもうちょっとだ! そろそろ自分の足で歩け!」
「うわっ! 振り落とそうとするでない!」
首にしがみついてくるココア・ブラウンを下ろそうと揺らす。
――パサッ
「ん? ココア・ブラウン、何か落としたぞ」
「なに?」
落ちたそれを拾い上げる。
なんだこれ? 手帳? ……いや、生徒手帳か?
「えっと、『大東北高校二年――』」
「……ッ!? それを見るでない!」
「んぐっ!?」
突然ココア・ブラウンが首を締めあげてきた。その拍子に持っていた生徒手帳を落としてしまう。
ココア・ブラウンはすぐに俺から飛ぶように降りると、その生徒手帳をすさまじい速さで拾って服の中に隠した。
「…………見たか?」
「見たって、今の生徒手帳のことか?」
「やはり見たんだな! 忘れろ! 忘れるのだ!」
「うわっ!? やめろ! 見てないって! 確認するより先にお前が回収したって!」
いきなり殴りかかってきたココア・ブラウンに慌てて説明する。人の記憶を消すのになんて原始的な方法を持ち出してくるんだこいつは。
「……本当か?」
「本当だ」
「本当に本当か?」
「ああもう、だから本当だって」
「むぅ、ならばよい」
そう言ってココア・ブラウンはむくれた様子で前を歩き始めた。
その後ろを歩きながら、俺はさっき見たことについて考える。
ココア・ブラウンには見てないと言ったが、それは嘘だ。ばっちり見た。
そこに書かれていたのは学校名、学年、クラス、そして名前だ。あの反応からして、生徒手帳がココア・ブラウンのものであることは間違いないだろう。
しかし、もしそれが本当なら、かなり大きな問題が発生する。
そこには、『大東北高校 二年八組 黒乃(くろの)茶々(ちゃちゃ)』と書かれていた。
大東北高校。それは、俺の通っている学校の名前であった。
そして、二年八組は、俺のクラスだ。
同じ学校で、同じクラスで――――ならばどうして、俺はココア・ブラウンのことを知らないんだ?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる