ヒロインに転生したけど地味に生きたい

さといち

文字の大きさ
5 / 63

4 グランツアーside

しおりを挟む

俺は実力社会のこの国で、暇を持て余していた。

何かを始めると、たいていの事はそつなくできてしまい、すぐに興味が失せてしまう。

クレーズ国随一であるこの学園で教師になったのも、ただの暇つぶしだった。

侯爵家の生まれだが、俺は次男で、家は2つ上の兄が継ぐことになっている。

俺が教師などできるのも、そのおかげだろう。


それもただ淡々と退屈に教員職を過ごす俺に、友人のキリクから頼みごとをされた。









キリクとは幼少期からの付き合いで、お互い本音で話せる気心の知れた友人であり、腐れ縁だ。


病弱だったキリクの妹とは面識はなかったが、妹の話になるとキリクは悲痛な表情をする。

妹に何もしてあげられなくて、自分は無力だと。

その妹は年々病状が悪化していくようで、治る見込みがないと言われていた。


それでもキリクは妹のためにと、せめて妹が寂しくなったりしないようにと、よく傍に寄り添っていた。

自分にはこれくらいしか出来ることがないからと。


どうか元気になってほしいと、教会で祈りもしていた。


だがそんな思いも虚しく、彼女はそれから数年で儚く逝った。



その後のキリクは見ていることもできないほど憔悴しきっていて、俺はそんなキリクをただ見ている事しか
できなかった。碌にキリクの妹のことを知らない俺が何かを言った所でどうにもならない。

キリクが自分で立ち上がるしかないと思った。


そうしてそれからちょうど1年位たったころだろうか。

それまでずっと瞳に何も感情を乗せなかったキリクが、見違えるように変わった。

もちろん良い意味でだ。何か良いことでもあったのかと、何時か聞いてみれば、妹が出来たんだと。

それは嬉しそうに笑っていた。そうか、フェリス夫妻にまた新たな命ができたのか。

そう思っておめでとうと伝えると、キリクは一瞬虚を突かれた顔したが、すぐに違う違うと首を振る。


よくよく話を聞けば、孤児院にいた少女を養女にしたのだとか。

キリクはその少女を溺愛しているようで、目に入れても痛くないと、

いつも可愛い可愛いと、もうウザイくらいになっていた。


まあ、あの何も無関心な目をしていたキリクに比べれば、多少鬱陶しくてもましだろう。


今は俺もキリクもお互い成人し、キリクはフェリス公爵の補佐をしながら仕事を手伝っている。


そんなキリクの外面は氷の貴公子と呼ばれている。


病弱な妹が生きていたころから、そして亡くなってからの1年あまり、キリクは妹に笑いかけることはあっても、
外では全く笑わなかった。

俺ですら見たのは妹のためを思って無理して笑っているところくらいで、見ていて痛々しかったものだ。

養女にしたという少女が現れたころには、キリクにはすでに氷の貴公子、所謂笑わない貴公子として
名が広がってしまっていた。


その後、養女となった少女によってキリクは変わっていくが、社交界ではやはり笑わないままとなっていた。

本人にそのことを聞けば、今更取り繕ったところで何も変わらないし、面倒の一言だった。


キリクらしいと言えばそうだが、何とももったいないとも思う。

少しでも笑いかければ、もっと人付き合いもスムーズだろうに。


そんな笑わないキリクにも、元がかなり良いためか、縁談の申し込みは絶えないらしい。

それでも婚約者を作らないあたり、よっぽどその妹が大事で仕方がないのだろう。






そうしてキリクの妹が学園に入学することになったとキリクから連絡があった。それに頼みごとがあるのだとも。


その頼み事は俺を退屈から抜け出すのには充分で、二つ返事で了承した。


ここだけの話だからと、彼女が聖女候補だと聞いた時には驚いたが、まさかそれで養女にしたのかと聞けば、
キリクは微笑う。その無言が肯定だろう。


まあいいか。まだ会ったこともないが、キリクがこれほど入れ込むんだ、悪い娘ではないはずだ。

俺は楽しめれば何だっていいのだから。










そうして迎えた入学式、キリクの妹であろう、ユリーナ・フェリスの姿を見た俺はまたも驚いた。

あの恰好は…何故?まさかキリクがそうさせたのか?

余りの貴族らしからぬ姿に俺は一瞬茫然とするも、すぐに平静を取り繕う。


そういえばキリクから彼女は目立ちたくないと聞いていた。おそらくそのためだろうが…

だが逆に目立ってないか?ククっ、面白い娘だな。



とりあえず、キリクの願い通り、数日彼女の様子を見ていた。

そして、ふと彼女の周辺にほとんどの確率である人物がいることに気付いた。

あれは確か、平民枠の、奨学金で入ってきたというエリアナとか言ったか。

髪色が黄金色に近いことから、聖女候補と噂されている。

確かに魔力は強いようだが、何故かあの髪からは嫌な気配がするのは気のせいか。



気を付けて見ていると、エリアナは常にユリーナを敵視し、張り合っているように見える。

当のユリーナ本人は全く気付いていないが。


何もなければいいんだが…まあ何かあってもキリクがどうにかするだろうが。

シスコンも度を過ぎているがな…


それからユリーナが学園生活に多少慣れてきたところを見計らい、放課後、ユリーナのいる
教室へと向かう。


教室へ入ってユリーナを呼べば、ちょうど帰ろうとしていたのか、鞄を持って席を立ったところだった。

初対面の俺に向かって嫌そうに引き攣った顔を向けるユリーナ。

大体の女生徒は媚を売ってくることが多い俺にそんな表情をするとはな。

目立つのを嫌がるくらいだからそうなるのも仕方がないのかもしれない。


そう思いつつ、話があるからとユリーナを図書室へと誘導する。

その時ユリーナの背後から強い視線を感じて目を向ければ、あの奨学生のエリアナが憎悪のこもった目でユリーナを睨んでいた。

ユリーナはその視線に気付いていない。あんなにキツイ視線なのに気付かないとか、この子はどんだけ鈍感なんだ?と思わなくもないが、
とりあえずユリーナに話をするのが先だろうと、そのまま教室をあとにする。




ユリーナに生徒会へ入ってほしいことを告げる。案の定彼女は慌て、辞退しようとしたが、
強制だからと、半ば強引に引き受けさせた。まあ実際強制なのだから仕方がない。


途中、ユリーナの聖女発言に何故国の重要機密でもあるそのことを知っているのかと疑問に思ったが

そういえばフェリス公爵の娘だったということを思い出す。そしてキリクの妹でもある。

普段ユリーナが令嬢とは逸脱した姿をしているせいか、彼女が公爵令嬢だということを忘れそうになるのだ。



一応、聖女の史実は貴族だけでなく、平民にも広く伝えられているが、その聖女の条件等は限られた者にしか伝えられていない。

エリアナ本人は平民なのだから知らないはずだが、ユリーナは公爵令嬢。ユリーナ自身の事でもあるためきっと公爵が話したのかもしれない。

そう思いつつも、ちょっと意地悪がしたくなって己の本性を見せてみれば、ユリーナは脅えたように一歩下がった。


少しいじめ過ぎたか?

可哀そうになって宥めるが、ユリーナの警戒は解けない。

その後も話をしたが、ユリーナは最後まで解けないままだった。


やはりやりすぎだったか…

まあでも、収穫はあった。ユリーナは自分を楽しませてくれる。彼女と一緒なら退屈な時間も退屈ではなくなるのではないか?
自分がそんな風に思うのは初めての事で、これはやばいかもな…なんて考える。


後日、ユリーナの事を報告にキリクへ話に行けば、キリクは俺を恋敵の様に睨んだ。

「ねえ、グラン、君にユリーナは渡さないよ?」

「へえ?、だが俺は諦めるのは苦手でね。悪いな。」

ただユリーナが無事に生徒会へと入ったことを告げただけなのに、なぜかキリクに牽制されたことに驚いたが、俺は負けじと返した。

いくらキリクに渡さないと言われても、ユリーナを振り向かせればキリクも諦めざるを得ないだろう。


本当は、ただユリーナを面白い生徒だとしか思っていなかった。確かに嵌りそうだとも思ったが。

だがその思いはキリクへ向けた自分の発言で間違いだったと気づく。

気付かないうちに本気になっていたのだと。



5つ下の娘に男二人が振り回されて、おかしなものだなと、俺は薄く微笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。 小説家になろう様でも投稿しています。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...