愛していました。さようなら。~私が愛した貴方はもういない~

さといち

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2 幼少期



私は、物心が付く歳にはすでに、前世の記憶を思い出していた。


自分が悪役令嬢だと気付いたのは、自国の王子と初めて顔を合わせた時で、

最初は婚約者にならないよう、あの手この手で妨害したものだった。

でも結局、王子に気に入られ、私は断れないままに婚約者となってしまったのだ。



__まあ、なってしまったのは仕方ない。

それならそれで、破滅にならないよう生きていくことにしようと、

どう生きようか考えながら自邸の庭園を散歩している時だった。



“__ファルナ”


庭園の奥の森から、自分を呼ぶ声がする。


“……ファルナ、ファルナ”


森の更に奥の方から、淡い光がもれ出ていた。


“__我らの大切な、ファルナ。こちらへおいで。”


ただ聞いているだけなら、何処の誘拐魔だよ、と笑うような話だが、


私はそうでない事を

いつの間にか目の前に姿を現した、眩しい生命体に視線を向けた私は、困ったように微笑わらい、

弛く首を左右に振った。


“__何故”

“どうして……”

“我らの、私達の……”


気が付けば、眩しい生命体は更に増え、庭園そのものが眩しくなるほどだった。


「__ファルナ!!」


「……お父様」


庭園の異変を感じとったのか、この国の宰相でもあるお父様が、脇目もふらず、一直線に駆け寄って来る。

その後ろには、お母様や、2つ上のお兄様、さらに邸の侍女達や執事まで、

邸に住んでいる殆どの人たちがいた。

皆、心配そうな顔でお父様に抱き締められている私を見つめている。


『……ちょうど良い。そなたらにも聞いて貰おう』




厳かな声が聞こえたと思ったら、私達は次の瞬間、見たことのない、美しい場所にいた。




「……わあ、綺麗……」

「此処は一体………」

「我々は公爵邸の庭園に居たはずでは……」



使用人たちから口々に言葉が飛び交っているが、私にはが何だか懐かしい場所に思えて、涙が出そうになっていた。


「……ファルナ?どうした?」


一人だけ様子のおかしい私を見て、お父様が心配して顔を覗きこんでくる。


「……いえ、何だか、前にも来たことがあるような気がして……」



私の言葉にお父様は怪訝な顔をしたが、何を思ったのかまた私をぎゅっと抱き締めた。




『__此処は、精霊界と人間界を繋ぐ狭間の世界だ』


此処へ来る直前に聞こえたあの声が、頭上から響き渡り、私達は声の方へと視線を向ける。


其処には、およそ神と言っても可笑しくないような、白く長い髭を生やした、神々しい姿の精霊が私達を見下ろしていた。


「……精霊界……、まさか本当に存在していたとは……」


「ですが、何故私達は此処へ?」


『我は精霊女王に仕える者。そなたらは今世の女王に一番近しい者達故に、この狭間へと招き入れたのだ』


「……女王…?確かに私達一族は、祖先に精霊と生を共にしたと逸話がありますが……」

そう、私達アドラー公爵家には、精霊を伴侶にしたという過去がある。

元々公爵家は、この土地に居を構えておらず、王都に住んでいたのを、
精霊と婚姻を結んだことにより、精霊界と地上を結ぶ狭間のある森の近くへと移り住んだのだ。

ただその史実はもう何百年も前の話のため、今では只の昔話、最早作り話ではないかとさえされていた。

子孫に受け継がれている筈の精霊の血の力も、長い年月のうちに殆ど消えてしまったことも関係あるのだろう。


『そなたらには、大分薄まってはいるが、確かに我ら同胞の血が流れている。その血脈が、我らの亡き女王を甦らせたのだ』


言いながら、その精霊は私を優しい目で見つめていた。

いつの間にか、先ほど森で見た眩しい生命体__沢山の精霊も姿を現しており、
お父様に抱き締められたままの私の周りをぐるぐると取り囲んでいた。



「………女王、とは、まさか……」


お父様が抱き締める腕に更に力を込めながら、震えるような声で呟いた。


『__そうだ。そなたの娘、ファルナが女王の生まれ変わりであり、………数多の精霊を統べる者__今代の精霊女王陛下であらせられる』



「……な……、」

お父様だけでなく、周りの人全てから息を呑む音が聞こえるも、

皆からの視線を一身に浴びながら、私は自分の事なのにどこか他人事のようにぼんやり考えていた。



(…女王……?生まれ変わり?小説ではそんな設定はなかった筈だけど……。
ていうか、生まれ変わる前は生粋のバリバリ日本人ですがね)


元々、悪役令嬢である私のキャラにはとてつもない精霊魔力が備わっている。

だから、私には、記憶を思い出す前から精霊も見え、
更に力も使うことが出来ていた。


王子の婚約者に選ばれたのも、最初は精霊魔力が強いからという理由もある。


まあ、小説では異世界からやって来た聖女の方が力が強くて、聖女に王子の心を奪われる。

というありがちパターンなのだが。


『…ファルナ、そなたが女王として覚醒するには、神々との誓約を全うしなければならぬ。』


「……神々の誓約……?」



『覚えておらぬのも無理はない。………誓約とは、人として生まれ、人として最期まで生を全うするという事だ。……ただ……』


私はそもそも自分が女王だなんて思ってもいないし、只ちょっと魔力が強いだけの悪役令嬢だ。

人として最期まで生きる事など、今さらというか、当たり前過ぎて、何を言っているのかと思ってしまった程。

だが精霊の言葉は未だ終わってはいない。


『………ファルナ、このまま人として生き続けるという事は、未来、その身に降りかかる不幸も、受け止めねばならないだろう。』


我らは苦しむそなたを見ていたくはないのだ__。




悲しそうに語りかけるその表情は、まるで自分が苦しんでいるかのように悲痛だ。

彼らは私の苦しむ姿を見たくないから、私に精霊界で生を全うしようと言っているのだ。



だけど、と思う。


私は、未だに抱き締める腕を離そうとしないお父様、少し離れた所にいるお母様やお兄様、邸で働いている人たちの顔を順々に見渡した。


「…私は、、幸せです。お父様とお母様の子供に生まれて、お兄様や邸の皆、沢山の人達に優しくしてもらってるんです。」


精霊は私の言葉を遮ることもなく静かに聞き続けている。


「こんなに幸せな子供、中々いないと思います。

なのに、その幸せを態々捨てるような真似、私には出来ません。」


例え、未来、王子に婚約破棄されようとも。


「人が生きて行くのに、苦しみがある事など当たり前ではありませんか?

私は、苦しみがあるからこそ、人は成長していけると思います。」

(まあ、日本で人並みには人生経験ありますからね。)


『………それが、絶望する程の苦しみでもか?』


「………それは、わかりません。」


『__わからない?』


「絶望する程の苦しみなんて、経験したことがありませんから。……実際にその時にならないとわからないでしょう。」

でも__と、私は続ける。


「どんなに苦しくても、私を愛してくれるお父様達の為にも、人の世で、生きて行きたいと思っています。」


だって、今の私は、女王ではなく、公爵家の娘ーーファルナ・アドラーなのだから。


『___そうか、………そなたらしいな。』


何処かホッとしたように微笑みを浮かべている精霊に、何か違和感を感じたが、続けた精霊の言葉で霧散してしまった。


『…………ならば、心して聞くが良い。』



私を精霊に渡してなるものか、と、私を心配する皆に抱き締められていると、精霊は最後に優しく告げたのだ___





◇◇◇◇


__ファルナ父side


ファルナが昔から聡明な子だというのはわかっていたことだった。


その事を抜きにしても、ファルナは私達にとってとても可愛い娘だということは変わらない。


魔力が人より強いことで、いつか王太子の婚約者に選ばれた時も、涙を飲んで了承したものだった。


そんな、目に入れても痛くないほど愛するファルナが精霊女王の生まれ変わりだという。


俄には信じられなかった。



我がアドラー公爵家は、代々王家に仕えながらも、精霊の恩恵を一番受けている家系であり、

その力で王家に仇なさぬよう、囲い込まれているともいえる。

私ですらたまに精霊を見掛ける位の、

今では血も薄れてそんな力も殆どないというのに、可笑しな話だ。



とはいえ、今代の現王は中々の賢王であり、民にも慕われている。

王家にとっては目の上のたんこぶとも言える我が公爵家のことも、本来なら力に畏怖し、忌むべき対象となってもおかしくないはずなのに、

まるで己の家族のように寛容なのだ。

学生時代に、当時王太子であった彼とは親友だったことも大きいだろう。

その彼が王で有る限りは、この国は良い治世となり、繁栄する事だろう。


そういう見解の中で、

精霊の言う“絶望する程の苦しみ”など本当に起こりうるのだろうか?

ファルナ自身は、
聡明過ぎて年相応に見えない時もあるが、それを除けば

家族にも、邸の使用人達にも心優しく思いやりのある娘なのだ。

そんなファルナが人々に好かれるのは必然であり、誰しもが、将来ファルナは幸せになるだろうことを疑わないだろう。


だから、例え人とはかけ離れた超上的存在でも、人1人の未来を知る事など出来る筈がないと、


私は、いや、きっと私達全員が、ファルナに身に降りかかる苦しみの未来を信じはしなかった。




まだ10にも満たない幼いファルナが、まるで大人のような考えですらすら言葉を紡ぐ事に驚きつつも、

それがファルナの本心なのだという事を、表情でわかった私は、本当に嬉しかった。


大切な、大切な、私達の愛しい娘。
精霊の生まれ変わりだから何だと言うのだ。

そんな事でファルナを手離してたまるかと、抱き締める腕は決して離すまいとしていたら、

いつの間にそばに来ていたのか
妻やファルナの兄である息子が、私と一緒にファルナを抱き締める。

周りを見れば使用人達も近くまで寄り、私達を優しく見守っていた。


ああ、皆、気持ちは一緒なのだ。




この選択が、ファルナにとって本当に良かったのか、この時の私達には知る由などありはしない。

ただ、ファルナの為には此が正解なのだと、皆がそう思っていたのは間違いなかった。






___一体誰が、本当にファルナに残酷な未来が待っているなどと気付けるというのか。


後に私は、ファルナが嫌がっても精霊界へと渡すべきだったと、ファルナを助けられずに罪悪と後悔で苛まれる事になる____




















『人として生きている間は、ファルナの運命に我らは介入出来ず。また、ファルナ自身で抗う事も出来ぬだろう。』





精霊がファルナに向けた最後の言葉。

何故こんなにも無情なのだと、思わずにはいられない。



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