【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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婚約破棄を告げられました

婚約破棄を告げられました

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 煌びやかな夜会の最中、それはこの国の王子であるジョバンニ・ダッラ・ドルフィーニの宣言によって静まり返っていた。





「ナディア・フォン・サルトレッティ!お前との婚約は今ここで破棄すると宣言する!」





 夜会の会場のど真ん中で、婚約者であるナディアを指さし睨みつける。その傍らには美しいブロンドの髪に空色の瞳をした可愛らしい女性が立っていた。

 王子であるジョバンニはこの国の王太子であり、第一王子である。その姿は誰もが魅了される程に整った顔立ちと、プラチナブロンドの髪。歪めた口元まで絵になる、まさに令嬢の憧れの王子様だ。



 王子と女性の周囲にはジョバンニの側近候補である宰相の息子のダニエル・ルイジ公爵令息、第一騎士団長の息子のジャンカルロ・ボニファシオ侯爵令息、魔術師団長の息子であるエルネスト・ロッシ・ピアネリ伯爵子息がナディアを睨むようにして立っていた。





「宣言、承りましたわ。もうよろしいでしょうか?」

「は?いいわけないだろう!お前がしてきた数々の悪事、今ここで裁いてくれる!」

「畏まりました」

「何で畏まる!?」



「と、言いますか。婚約破棄は構いませんが、その腕にぶら下げてる女性は一体何なんですの?ああ、ひょっとして噂の浮気相手ですか?」

「う、浮気などではない!と言うか何だその噂は!!」

「まあ…婚約者がいる身で別の女性を伴っている時点で浮気でしょうに。そんな事も分からないのですか?」





 至極残念そうな目でジョバンニを見ると、ジョバンニの口元がヒクヒクと引き攣る。それを我慢できないと言わんばかりに騎士団長の息子であるジャンカルロが一歩前に出た。





「貴様!先程からふてぶてしい…!殿下に向かって何だその態度は!無礼にも程がある!」

「何だと申しましても、これが通常運転ですわ。そしてその言葉そっくりそのままブーメランですわね。サルトレッティ公爵家のわたくしに向かってボニファシオ侯爵家の貴方があろう事か『貴様』呼ばわり。失礼極まりないですわね」

「身分を盾にする気か!卑怯な女め!」

「最初に殿下の身分を盾に威張ってたのは貴方じゃないですか。それと殿下が仰る悪事とは一体何の事ですの?」





 コテンと首を傾げて尋ねる。その仕草に周囲の人々はほうっと見惚れていた。



 ナディアはサルトレッティ公爵家の長女だ。美しいシルバーの髪にアメシストの瞳の美少女で、肌も雪のように白い。そんな彼女に憧れる令嬢令息は後を絶たず、王太子殿下の婚約者としても申し分ないと言われる程の才女だ。

 そんな完璧な女性であるナディアを日頃から忌々し気に感じていたジョバンニが、ある日一人の少女と出会ったのだ。



 それが今現在腕にぶら下げている女性、サブリナ・ディ・フェリッリ男爵令嬢だ。

 王子は何を思ったのかサブリナの肩を抱き、そして見せつけるかのようにこちらに不敵に笑みを浮かべた。隣に立っているサブリナは怯えるような表情をしている。





「悪事とはこのサブリナに学園で悪質な嫌がらせをしていた事だ!」

「してませんが」





 即答で否定する。すると王子を含む他のメンバーも一気に殺気立つ。





「しらばっくれる気か!ジョバンニ様の婚約者という立場を利用し、散々悪事を働いておきながら!」

「そうですよ。かわいそうに、サブリナはいつも怯えて過ごしていたんですよ!」

「いくら身分が高くて見た目がいいからってさぁ、性格悪いと台無しだよなぁ!」





 ジャンカルロ、ダニエル、エルネストの三人が口々にナディアを罵る。それを平然とした様子で聞いていたナディアは、チラリとサブリナに視線を向けた。

 するとわざとらしい程にビクッと震えあがり、ジョバンニにぎゅうっとしがみつく。もうこの時点でアウトだ。





「…はぁ、分かりました。では一つずつ解決していきましょう。ですが、多勢に無勢は少々卑怯では?こちらも何人かの証人をお呼びしても構いませんよね?」

「フン、勝手にするがいい。お前の罪を全て暴き、身分を剥奪してやる!いつまでも澄ました顔をしていられると思うなよ!」





 今度はジョバンニがナディアを罵る。なんでもいいが今は王家主催の夜会の最中だ。国王王妃両陛下は中盤にならないと現れない。どうせこのアホ王子が王のいない間に皆の前で断罪し、否が応でも婚約破棄しようという魂胆だろう。浅はかすぎて笑えない。



 そんな事を考えているうちにジョバンニは次々とナディアがしてきたという嫌がらせの数々を言い出した。





「まずは皆が平等で学べる学園で、身分を振りかざしサブリナを罵ったそうだな!未来の国母が聞いて呆れる!」

「まさに今殿下達がわたくしにしている事が身分を振りかざして罵っていると言う事だと思いますが」

「う、うるさい!話を逸らすな!」

「そらしたつもりはございませんが、嫌がらせとは具体的にはどのような事でしょうか?」





 身に覚えのない事を言われ不思議そうにするナディアに、待ってましたとばかりにサブリナが一歩前に出て、健気さをアピールするかのように両手を胸の前で握りしめて口を開いた。





「ナ、ナディア様は私の母が平民出身だった事を酷く馬鹿にしました!」

「貴女に名前で呼ぶ許可はしてませんよ。それと酷く馬鹿にしたと言いますけど具体的にはどんな内容ですか?というかさっきもそう聞きましたよね?」



「ひ、酷いです!あの時も同じように『勝手に名前で呼んでは失礼です』とか高飛車に言いましたよね!それに、私がつい最近まで平民として暮らしていたからと告げれば、そんな事は言い訳にならないとか、貴族になったんならもっと勉強しろとか言って馬鹿にしたじゃないですか!」

「高飛車に言ったつもりはありませんが、今の話は馬鹿にしているのではなく常識を語っただけでは?」

「そういう所が馬鹿にしてるって言ってるんです!」





 何とも気が遠くなりそうだ。このサブリナという少女は頭が大層悪いようだ。今の彼女の発言を聞き、宰相の息子であるダニエルの表情が少し引き攣りました。というか、ちゃんと内容確認せずに断罪しようとしたのか。

 だが一度口にしたら止まらない性分なんだろう。サブリナはさらにナディアに畳みかける。というか、すでに男爵家の令嬢が公爵家の令嬢にこんな風に言い募るのは無礼なのだが、それすら分からないようだ。





「それに私知ってるんです。ナディア様は取り巻きの人達を使って私の教科書やノートを隠したり、皆から無視されるように誘導したり…倉庫に閉じ込めたり階段から突き落としたりもしました!」

「先に言っておきますが、私に取り巻きなんてものはいません。友人をそのように言われるのは不快ですわね。それと貴女の教科書を隠したり倉庫に閉じ込めて私に何のメリットがあるんですか?」

「私がジョバンニと仲がいいから嫉妬したんでしょうっ!?」

「まあ…」





 ザワザワと周囲がざわめく。それもそのはず、公式な夜会の場で王太子であるジョバンニを呼び捨てにしたからだ。

 だがその空気に全く気付かない5人はいきり立っている。サブリナに至ってはまるで悲劇のヒロインのようだった。





「ジョバンニにべたべたするなとか、王子様に不敬だとか。他の3人にも婚約者がいるんだから近づくなとか酷いです!友達なのに一緒にいたらダメだなんて…!」





 うるうると瞳を潤ませて訴えるサブリナにジョバンニ達は気遣わし気な視線を向け、サブリナもジョバンニにすり寄る。その様子を表情を変えずに眺めていたナディアは、スッと目を細めて扇で口元を隠した。





「殿下、確認したい事がございます」

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