【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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婚約破棄を告げられました

調査報告書と王子の処分

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「婚約者とは婚姻をする予定の相手だ。つまりお前とナディアはいずれ夫婦になると約束された間柄であろう。夫が他の女にうつつを抜かしていれば、制裁を加えるのは当然ではないか。浮気したお前も、そして浮気相手のあの男爵令嬢もナディアにとっては悪だ。違うか?」

「それはっ…!で、ですがサブリナは…!」

「あの女が何だと言うのだ?お前は一体学園に何をしに行ったのだ?婚姻を前に自由に恋愛を楽しむ為か?それでナディアが同じように他の男といれば、それを不貞と罵るのか?お前はそれほど偉いのか?」

「し、しかし…!」

「まだ反論するのか。お前は自分のした事が全く悪くないと胸を張って言えるのか?不貞を犯し、自分の婚約者をないがしろにし、浮気相手の言葉を鵜呑みにして婚約者の話を聞かず、挙句の果てに夜会で断罪だと?自分を神か何かと勘違いしておるのか?」

「…そんな事は…」





 段々と冷静になってくるジョバンニは、ようやく自分のしでかした事の大きさに気付く。さっきまでは愛しいサブリナの為にナディアを懲らしめてやろうと、その事しか頭になかった。そして盛大に大勢の前で婚約破棄を言い渡せば、さすがに覆す事はできないだろうと思った。





「お前があの男爵令嬢と結ばれたいと言うのであればそれもよかろう。ただし、王族から籍を抜いてからにはなるだろうがな」

「な、何故ですか!?」

「そんな事も分からぬのか。まあ、あの女がお前が王子でなくなっても同じ様に愛を返してくれるかは分からんがな」

「サ、サブリナは俺を愛してくれています…」

「そう思うのなら宰相が持っているその調書を隅々まで読むがいい」


 国王がそう告げると、宰相であるルイジ公爵が調書をジョバンニに手渡した。
 恐る恐る調書をめくり、その内容に目を通す。


「…!そ、そんな…嘘だ…!」

「嘘であるはずがなかろう。それは王家が正式に調査をした結果だ。お前がその調書を疑うのであれば、それは王家ひいては我が国の調査機関そのものを否定するのと同じだと心得よ」

「そんな…嘘だろう…」



 ガックリと項垂れるジョバンニを見ていた側近候補の三人が恐る恐るジョバンニに近付く。



「で、殿下…我々も見ていいでしょうか…」



 ダニエルがそう尋ねると、ジョバンニは無言で調書をダニエルに渡した。
 それを三人で一緒に覗き込むように確認する。


「な、何だよこれ…!」

「嘘だよね…」

「こんな…」



 そこに書かれていたのは、サブリナが複数の男性と関係を持っていた事実だけではなく、その相手の名前や逢瀬の場所、そしてサブリナがナディアを貶める為にした自作自演の虐めについて、詳細に書かれていた。


 4人が愕然としていたところに、ルイジ公爵がもう一冊の調書を投げ捨てる。



「それはお前達の調査結果だ」



 そう言われて目を瞠り、自分達の調査結果を確認する。
 自分達が婚約者を蔑ろにし、サブリナにどれだけ貢いできたのか。どれだけの時間を彼女に捧げ、婚約者に嘘をついてきたのか。そしてそれを一つも悪いと思わずに今まで過ごしてきたのか。

 文字に起こされて初めて、いや、改めて自分達のしてきた事の酷さが浮かび上がった。



「お前達はそれだけ一人の女に入れあげたあげく、それぞれの婚約者や家族達を欺き、享楽にふけっていた。その自覚も罪悪感もなく、ただあの悪女に言われるがまま自分達の婚約者を貶め、挙句の果てに大勢の貴族が集まるこの夜会でサルトレッティ公爵令嬢を糾弾した。それも男4人で一人の女性をだ」

「虐めていたのはお前達の方だ」



 国王陛下と宰相に告げられた言葉に4人が完全に意思消沈してしまったようだ。
 そんな4人を見てナディアは扇子で口元を隠しながらも、笑いをこらえているらしくプルプルと震えている。


「ジョバンニ。お前の王太子の地位を剥奪する」

「そんな!ですが父上、私の他に王子はいません!」

「王子はおらんが王女はいるではないか」

「え…!?いや、しかしヴェロニカはまだ子供です…!それに王家を継ぐのは…」

「王女が継ぐことになにが問題なのだ?」
「え…」



 驚いたまま固まるジョバンニに、国王は静かに告げる。



「別に女王が即位しその夫が王配としても問題はない。そういった過去もあるのだからな」

「そんな…」


 その場に力なく崩れ落ちたジョバンニに、最早ナディアを糾弾しようとしていた時の勢いはない。顔を青くし、微かに震える様はナディアにとって滑稽で、それでいて無様だった。

 そんなジョバンニにナディアは静かに歩み寄り、しゃがんで目線を合わせる。それを警戒したように訝し気な視線をジョバンニが向けると、ナディアはフフッと楽しそうに微笑んだ。


「殿下。盛大なブーメラン、楽しかったですわ。だから人の話はきちんと聞いてくださいと再三申し上げたのですよ」

「ナディア…」

「あら、いけませんわ。私達はもう婚約者ではございませんから、そのように名前で呼ばないでくださいませ」

「くっ…」


 非常に悔しそうに歯噛みするジョバンニを満足気に眺め、ナディアが立ち上がる。そして国王と王妃両陛下に美しいカーテシーを見せた。


「国王陛下、王妃陛下。今まで大変お世話になりました。私が至らないばかりに殿下のお心を他の女性に奪われてしまい、言い訳のしようもございません」

「ナディア、そなたのせいではない。そのように頭を下げる必要は…」

「いいえ。喧嘩両成敗と言うではありませんか。殿下が王太子の位を剥奪されるのであれば、私は領地に戻り二度と王都に足を踏み入れる事はいたしません」

「そんな!ナディアがそんな事をする必要はないわ!」



 王妃が悲しそうな顔で叫ぶ。その時ずっと黙って聞いていたサルトレッティ公爵、つまりナディアの父が重い口を開いた。



「こんなクズみたいな王子がいる王都にいたら、ナディアの為にならんだろうが。悪いが娘を連れて明日にでも領地に帰らせてもらう」

「ええ、そうしましょう。ナディア、辛かったわね。さあ、帰りましょう」

「お父様、お母様」



 ナディアが少し驚いたような顔をする。まさか両親がこんな場でそんな事を言い出すとは思わなかったからだ。
 そしてふと振り返り、ジョバンニに視線を向ける。



「殿下…」

「…何だ」



 心配そうに声をかけられたのが意外だったのか、ジョバンニが少し間を開けて返事をした。
 けれどナディアはそんなジョバンニの反応を気にする事なく再びジョバンニに近付き、今度こそ屈託のない笑顔をジョバンニに向けた。


「今までありがとうございました。フェリッリ男爵令嬢の罪が許されるのであれば、彼女と末永くお幸せになってくださいませ」

「な」



 ニッコリと、綺麗に微笑むナディアに周囲の人々は見惚れる。
 そしてその笑顔を向けられたジョバンニは呆気に取られていた。


 サブリナはたった今衛兵に連れられ、地下牢へと放り込まれているだろう。
 その瞬間をナディアも見たはずだ。5年の刑期を言い渡され、その後は修道院行きだ。それなのにサブリナと幸せになれと言うのはどういう事だ。

 それにすでに彼女の素行の悪さは調書でも知ってしまった。側近候補の3人ともそれなりの関係だったようで、全員がさっきから気まずい空気を出している。
 
 それでもナディアは綺麗な笑顔を浮かべてこんな事を言うのか。



「殿下も、王太子という重責から解放されて幸せでしょう?王家の枷がなくなれば男爵家のご令嬢とも問題なく結ばれるでしょうし、殿下とフェリッリ男爵令嬢が頑張れば彼女が釈放される未来があるかもしれませんわよ。それに私も愛のない結婚から解放されましたもの」



 ― ハッピーエンドですわよね ―



 そう言って笑うナディアは今までで一番のいい笑顔を浮かべ、ジョバンニを見つめていた。
 そして立ち去る寸前にもう一度振り返り、扇子で口元を隠しながら



「それと、他人を蹴落とす時は盛大なブーメランが返ってくる事を想定する事が大事ですわよ」



 と捨て台詞を吐いた。
 その時のナディアの表情は、いたずらの成功した子供のような顔をしていたのだった。





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