【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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婚約破棄後の公爵令嬢

弟が会いに来ました

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 ナディアがエルシオン領に滞在してから3週間が経った。
 最初の一週間は本当にのんびりと過ごしていたのだが、一週間が経った後は何かしら領地で色々と動いていた。

 クエントが持ち込む書類も、実は最後のサインだけすればいい状態になっていて、それ程大変でもなかった。
 どうやら領地経営の勉強の一環として、どういった案件が領主には上がってきて、それをどう処理するのかを見せる為だったそうだ。

 そうは言ってもナディアがサルトレッティ公爵家を継ぐことはない。クエントにそう告げたが、知識は邪魔にならないでしょうとだけ言うと、毎回最後の決済だけになった書類を持って来たのだった。

 そうなるとやはり性格上ナディアは書類をくまなく読むし、そしてその処理の仕方も勉強してしまう。
 そして気になる部分があるとクエントに質問し、現地へ足を運んで地元の住民と会話もした。


「はぁー、今日もよく働いたわ」

「お疲れ様です」


 オルガがナディアにお茶を入れ、ナディアもそれを飲んで一息つく。
 最初の頃は仕事を持ってくるクエントにオルガが食って掛かっていたが、最近では無駄だと諦めたのか何も言わなくなった。
 それどころか仕事が終わった後にこうしてお茶を入れるのは勿論だが、肩や背中や足などをマッサージして労ってくれるので、ナディアにとって今は至福の時間だ。

 そういう訳でナディアがお茶をしている間にオルガがマッサージの準備をしていたが、扉をノックする音が聞こえた為入室を許可した。


「失礼いたします」

「クエント様、今日のお仕事は終わりですよ」


 クエントが顔を出すとオルガがすかさずそう告げる。が、いつもの胡散臭い微笑みのまま「違いますよ」と言うと、ナディアの方へ視線を向けた。


「お嬢様。公爵様からの使いが来ております」

「お父様から?お手紙じゃなくて人が来たの?」

「さようでございます」

「…分かったわ。オルガ、準備するわよ」

「せっかくマッサージ…」

「それは後でお願いするわね」


 ニッコリと微笑むとオルガも渋々準備を手伝う。まだ部屋着に着替えていなかったので、髪を少し整えてから応接室へと向かった。

 先にクエントが入室し、ナディアが続いて応接室に入る。
 ナディアの気配を察知したのか、訪問者は立ち上がって笑顔をこちらに向けて来た。


「姉上!ご無沙汰しています」

「レイナードじゃない。え、どうしてここへ?」


 振り返った男性の顔を見てナディアは驚く。それもそのはず、他国に留学中の弟であるレイナード・フォン・サルトレッティが万面の笑みで立っていたのだ。


「姉上、婚約破棄の件聞きました。本当に良かったですね」

「…どうして皆して婚約破棄を喜ぶのかしら」


 普通に考えて婚約を白紙にしたのならまだしも、一方的な破棄はナディアの経歴に傷がつく。釣書は沢山来ているようだが、一応は傷物令嬢のレッテルを貼られるのだから、不名誉な事なのだが。
 けれどそんな事は些細な事だと言わんばかりにレイナードは笑顔を浮かべている。


「当然じゃないですか。姉上を蔑ろにするあんなアホ殿下なんて、こっちから願い下げですよ。それに姉上もアホ殿下の事別に好きじゃなかったでしょう?」

「アホ殿下って…、まあ好きではなかったけど、そんなに嫌ってもなかったと言うか…」

「ですがあの婚約破棄された夜会で、姉上は殿下に好きだった事は一度もないと言ったんでしょう?」

「売り言葉に買い言葉よ。それよりも貴方が直接訪ねて来るなんてどういう事?」

「ああ、そうでした」


 今思い出したと言わんばかりに手をポンと叩く姿がわざとらしい。が、いちいち突っ込んでいたら話が進まないので、ナディアはぐっと我慢して弟の次の言葉を待った。


「まず殿下の元側近候補の令息達ですが、最近発作が激しく医者に診てもらった所、薬の禁断症状に似た症状が現れたようですね。時期的にアホ殿下が我が領地から戻る際に発作を起こしたのと同時期だと思います」

「禁断症状って、もしかして」

「ええ、姉上も聞いていると思いますが、男爵令嬢に盛られた惚れ薬ですね。あれから詳しく調べた所、男爵令嬢の部屋から惚れ薬のレシピが書かれた紙と、その原材料が見つかりました。男爵を問い詰めましたが全く知らない様子でしたね」

「じゃあ男爵からの指示ではないって事?」

「まあ元々男性ハーレムを作ろうと思っていたらしいので、そんな事を父親が許可するはずもないでしょうね」


 そう言って呆れたように溜息をついていた。レイナードにしてもバカげた動機だと感じるのだろう。


「男爵令嬢に尋問しましたが、惚れ薬のレシピは人から貰ったと言っていましたよ。誰からか聞いても知らない人としか言わないそうです。ただ、男爵令嬢は複数の男性と関係を持っているようで、その中の一人から貰ったと見ています」

「その男性は何の為に彼女にそんなものを渡したのかしら…」

「それが…どうやらここからが複雑なんですが」


 レイナードが一旦言葉を止める。そして意を決したようにナディアを見つめ、話を続けた。


「まだ正確には把握できていませんが、どうやらその男はカサレス公爵家の元従者だったらしくて」

「何ですって?」


 カサレス公爵家はサルトレッティ公爵家に次ぐ序列三位の家だ。だがそれもナディアとレイナードの母であるルディアが嫁ぐ前、つまりサルトレッティ家が序列二位になる前は、カサレス公爵家が序列二位の位置にいた。


「ここに来て何だか陰謀説が浮かんで来たわね」

「そうですね。カサレス公爵は若い従者を使い、王太子殿下と年齢が近くて見目のいい娘を探していたそうです。王都の商業地区でアクセサリーを売る店があるんですが、そこで貴族のご令嬢を対象に『恋がかなう』と言って惚れ薬のレシピを渡していた疑いがあるんですが…」

「そんなに沢山ばらまいていたの?なのにどうしてフェリッリ男爵令嬢だけが惚れ薬を使ったのかしら」

「そこはやはり賢いご令嬢達は胡散臭いと思っていたらしく、貰ったレシピを捨てた人が大半でした。実際レシピの材料に使うのを躊躇う物もあったので」

「何それ?」

「自分の体液ですね」

「は?」


 つまり自分の体から出る液体であれば、血でも涙でも唾でもいいらしい。さすがにそれは躊躇うだろう。けれど自分に惚れさせる為には専用の薬草に自分の体液を混ぜないといけないそうで、そんな胡散臭いレシピを信用する女性はいなかったようだ。


「ですがかのご令嬢は喜んで惚れ薬を作成したようですね。出来上がった惚れ薬を瓶に保存し、毎日手作りのお菓子を男爵家の料理人に作らせて、そこに惚れ薬を入れるよう指示していたそうです」

「え、ちょっと待って。え、あのお菓子ってフェリッリ男爵令嬢の手作りじゃなかったの!?」

「違いますよ。彼女は料理は全くできないそうです。大方自分が作ったと言えば好感度が上がるとでも思ったんでしょうね」

「ええええ…何だかショックだわ…」

「何で姉上がショック受けるんですか」


 だってそのせいでジョバンニには随分と馬鹿にされたのだ。サブリナは料理ができて、しかも美味しいのだと。ナディアはそのせいで少し悔しい思いをしたのだ。


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