【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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婚約破棄後の公爵令嬢

王弟殿下は意味不明

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 屋敷に戻るとレイナードが出迎えてくれた。
 どうやら知らない間に出かけていたのを心配していたようだった。

 けれどナディアの後ろから知らない男が付いて来たので、レイナードの表情が険しくなる。
 そう言えばレイナードはエラディオに会った事がない事を思い出し、ナディアが苦笑しながら紹介した。


「レイナード、こちらはザクセン国の王弟殿下よ」

「エラディオ・ファン・ザクセンだ。よろしくな」

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。僕はレイナード・フォン・サルトレッティです」

「ナディア嬢の弟君か。いい面構えだな」


 そう言って屈託ない笑みをレイナードに向けるが、レイナードはまだ警戒しているようだ。訝し気にエラディオを眺めながらもナディアに問いかける。


「姉上、何故こちらに隣国の王弟殿下が?」

「帰国途中に立ち寄ったそうよ」


 エラディオがそう言っていたのだが表向きはそういう事にしているのだろう。それにしても確かにザクセン国とはエルシオン領は隣接しているが、正規のルートとは言い難い。そもそもザクセンに行くのにエルシオンを通るのが普通なのであれば、この領地はもっと発展しているだろう。


「ザクセン国に帰るのにエルシオン領を通るのですか?それは不思議ですね」

「ああ、放浪癖があるんだよ」


 飄々とした態度にナディアが溜息をつく。いつまでもホールで立ち話はいけない。
 いつの間にか現れたクエントに目配せをし、エラディオやその従者達が滞在できるよう客室を整えさせた。


「ザクセン王弟殿下、もしよろしければ今夜はここで滞在されてはいかがですか?エルシオン領にはあまり高級な宿はございませんので、殿下さえよければお部屋をご用意しますわ。そちらの従者の方達も」

「それは有り難いな。なら遠慮なく滞在させてもらおう」

「ちょ、姉上!」

「ではザクセン王弟殿下とそのお付きの方をお部屋にご案内して」

「畏まりました」


 侍従達に指示を出すと、すかさず部屋へ案内する。エラディオが立ち去る姿を横目に確認すると、エラディオが立ち去り際にナディアの耳元で囁いた。


「俺の名前、忘れてねぇんなら名前で呼べ」

「…!」


 ナディアが目を見開いて振り返ると、エラディオは手をヒラヒラさせながら歩いている。そして彼らが見えなくなると一気に脱力感がナディアを襲い、盛大に息を吐いた。


「…姉上、どういう事か説明してもらいますよ」

「う…わかってるわ」


 ジト目で睨まれナディアが思わずレイナードの視線を避けるように横を向くが、レイナードがそれを許すはずもなく追及する。
 結局場所を移動し、さっきまでの事を説明するはめになった。
 一通り話し終わるが、レイナードがそれでも納得いかない顔をしている。


「偶然会ったと言いますが、結局話を纏めるとザクセン王弟殿下は姉上を探していたって事ですよね?」

「…そうは思いたくない今日この頃…」

「何馬鹿な事言ってるんですか。完全に姉上目当てでここに来てますよ。どうするんですか、これから?」

「どうするって、ジョバンニ殿下とは別れて来たみたいだし、私を探してたかもしれないけどザクセンに帰るって言ってたから大丈夫じゃない?」

「何を呑気な…。ザクセンの王都に戻るのにわざわざこんなエルシオンなんて辺鄙な所に寄るはずないでしょう?ここにいる事をジョバンニ殿下に言われたらどうするんですか?」

「その時はまた違う領地に移動するわよ」


 いつまでも逃げても仕方がないが、今のジョバンニとは何も話したくない。どうせ謝罪を受け入れろとしか言わないのだから、会ってもしょうがない。何しろナディアは謝罪を受け入れる気は全くないからだ。


「姉上がそんな感じだから心配なんですよ。ジョバンニ殿下は薬の影響がほぼなくなってる状態です。あのフェリッリ男爵令嬢も、貴族裁判で生涯牢獄かもしくは鉱山での労働かの二択になってるようですし、それについての異議も唱えていないようですからね」

「え、そんな重い罰になっちゃったの?」

「当然ですよ。王族を薬で惑わせたんですから重罪です。公爵令嬢を冤罪で陥れた事もですが、あの女は罪を軽く見すぎですよ」

「それでジョバンニ殿下は?」

「一応フェリッリ男爵令嬢と面会はしましたが、王太子じゃなくなったのならもういらないと言われたようですね」

「…ちょっと可哀そうすぎるわね」

「浮気したんですから可哀そうではないです。姉上、お人好しすぎですよ」


 ナディアの言い分にレイナードは残念そうな顔をして溜息をついた。そしてスッと書類の束を渡す。


「姉上の婚約破棄からの結末までが書かれてあります。気が向いたら目を通してください」

「え、また?というか、結末までいっちゃったの?まだまだ物語は続くのかと思ったわ」

「何をアホみたいな事を…。いいですか?序列二位に位置するサルトレッティ公爵家の公女を冤罪で陥れ、王太子を惑わし王家に名を連ねようとした事は大罪です。そしてサルトレッティ公爵家そのものを陥れようとしたカサレス公爵も、父上が直々に証拠を掴んだので爵位を取り上げられました」

「え!?そっちも解決しちゃったの!?」


 レイナードから話を聞いてからまだ一月も経っていないのに、怒涛の展開だ。とは言っても婚約破棄騒動からは2か月以上経っているのだが。


「当然ですよ。まあ、これにはアホ王子の手助けもありましたが。姉上に謝罪を受け取ってもらう為に必死な様子は笑えますがね」

「…」


 レイナードが何だか黒い。ナディアにすればもう過去の事だが、レイナードにはそうではないらしい。
 二人が温度差のある会話をしていると、クエントが声をかけてきた。


「ナディア様、レイナード様。ザクセン王弟殿下が応接室でお待ちです」

「わかった、今行くわ」

「仕方ないな」


 二人は立ち上がり、応接室へと移動する。そこにはエラディオがすでに座っており、その横にエラディオの従者らしき男が立っていた。


「お待たせして申し訳ございません、ザクセン王弟殿下」

「いや、俺も今来たところだ。それよりもナディア嬢、紹介しておく。こいつは俺の従者のバルテルだ」


 紹介を受け、バルテルがスッとお辞儀をする。


「バルテル・コーレインでございます」


 名前を聞いたナディアが驚いたように小さく目を瞠った。


「コーレイン…ザクセン国の侯爵家の方ですか?」

「さすがナディア嬢、その通りだ」

「確かコーレイン侯爵家と言えばザクセン国の騎士の家系ですよね?そのご子息ですか?」


 レイナードが興味津々に問いかけると、バルテルがコクリと頷いた。


「はい。私は次男ですので家を継がずにエラディオ様にお仕えしております」


 何故だかレイナードの目が心なしかキラキラしているように見える。レイナードはしっかりしているがやはり男の子だ。どうしても剣術や武術に興味があるようで、騎士の家系のコーレイン家と聞いてそわそわしているようだ。


「レイナード、コーレイン様にお話があるのなら後程お時間をもらったら?」

「そうですね。ではコーレイン様、後で少しお話を聞きたいのですが」


 レイナードに問われてバルテルがチラリとザクセンを見ると、ザクセンもニヤリと笑みを浮かべて頷いた。


「構わねぇぜ。その代りナディア嬢、俺との時間を作ってくれるよな?」

「え?」

「は?」


 ナディアとレイナードが同時に声を上げる。が、エラディオは隠す様子もなくニヤニヤと笑っている。


「それとこれとは…」

「もうわかってると思うが、俺がエルシオン領に来たのはナディア嬢に会う為だ。彼女と話す目的が達成されなければザクセンに帰る事はない」

「そこまでして姉に何の話があると言うのです?そもそも、ジョバンニ殿下とご友人の貴方に姉が話す事等なにもありません」

「ちょっと、レイナード!」


 突然火花を散らしだしたレイナードとエラディオにナディアも焦る。レイナードをなだめるように見つめるが、冷えた視線をエラディオに向けるのを止める様子もない。
 そんなレイナードを冷静に見ていたエラディオは、急に苦笑を漏らす。


「クッ、クククッ…、こりゃあ随分と姉思いの弟だ。信用してもらえるか分からねぇが、ジョバンニに何かを言うつもりはねぇよ」

「それをどうやって信じろと?」

「バルテル、アレをくれ」

「はい」


 アレと言われてバルテルが何かを取りに部屋を出る。そしてすぐに戻って来たバルテルが手にしていたのは、何かを入れた箱のような物だった。


「どうぞ」

「ああ、悪いな」


 箱を受け取ったエラディオは、中から何かを取り出した。そして徐にナディアの前に移動し、そっとその手を取った。


「え、な、何ですか」

「これを貴女に」


 急に畏まった様子で目の前に跪いたエラディオがナディアの手に何かを乗せた。


「え…ちょ、ちょっと待ってください!コレはどういう事ですか!?」

「どういうって、プレゼントだが?」

「いやいや、ですからどういう流れ!?そもそもジョバンニ殿下に内緒にしておく証明がコレですか!?」

「十分じゃねぇか?」


 キョトンとした表情で立ち上がったエラディオは、今度は何を思ったのかナディアの隣に腰を下ろす。それを見てバルテルは呆れたように首を振り、小さく溜息をついている。
 何を渡されたのか分からないレイナードは、首を傾げてナディアの手の上にある物を見ようと覗き込んできた。


「姉上、一体何を渡されたんで…すか…」


 言い終わる前に物を確認し、レイナードが固まる。
 それもそのはず、ナディアの手に乗っているのはザクセン王家の紋章が描かれた美しいブローチだった。


「こ、これはさすがに受け取れません」

「何でだ?」

「何でって、王家の紋章が入ってるんですよ?婚約者でもないのにおかしいじゃないですか!」

「あ、言わなかったっけ?」

「・・・何をでしょう?」


   ポリポリと頭をかきながらエラディオが一瞬視線を逸らす。そしてチラリとナディアを見た後、とんでもない事を口にした。


「惚れたんだよ、お前に。だからジョバンニなんかに渡さねぇよ」


   そう言って晴れやかに笑うエラディオを見たナディアとレイナードの脳裏に浮かんだ言葉は、偶然にも一致した。


(意味不明すぎる…)


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