【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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ザクセン国の王弟殿下

何となく恥ずかしい

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 ナディアにプレゼントを贈ってから数日後、本人からお礼の手紙が届いた。
 それを手にしたエラディオは急に色々と恥ずかしくなってしまい、いまだに手紙を開封できずに眺めていた。


「開けないのですか?」


 セルゲイが不思議そうにエラディオを眺めていたが、当のエラディオは何だか気まずそうだ。


「いや…開ける、開けるんだが…」

「何か問題でも?」


 何を躊躇っているのか全く分からないセルゲイだったが、エラディオがとうとう重い口を開いた。


「…何が書かれているか見るのが怖い」

「は?」


 一瞬、エラディオが何と言ったのか理解できずにセルゲイが首を傾げる。そんな執事の様子が不満だったのか、エラディオが不機嫌そうな顔をしてセルゲイを睨んだ。


「何だよ、悪いか?ああそうだよ、俺は臆病モンだよ。だってそうだろ?よくよく考えたら手作りのアクセサリーだとか気持ち悪いじゃねぇか。重いだろ?重いに決まってるぜ!ああああ、気持ち悪いとか書かれてたら俺は即刻死ねる」

「はぁ…そんな事を…」


 どうやらエラディオは満を持して手作りのアクセサリーを贈ったはいいが、後から考えたらとんでもなく恥ずかしい事をしたと後悔したらしい。
 けれど送ってしまった後ではどうしようもない。ものすごく落ち込んでいた所にナディアからの手紙が来たのだ。
 恐ろしくて中身を確認できないようで、ずっと手に持って眺めていた。

 正直エラディオのこんな姿は珍しい。と言うか、まったくもってエラディオらしくない。
 最初はちょっと興味を示した女性が出来たくらいだろうと高を括っていたセルゲイだったが、主人のこんな姿を見てしまうともうこれは確信してしまう。

 エラディオはナディアに本気で惚れているのだろうと。


「どれ、エラディオ様が見れないとおっしゃるのであれば、この私がお手紙を拝見しましょう」


 とてもいい笑顔でエラディオから手紙を奪おうとすると、エラディオが咄嗟に手紙を後ろに隠す。


「…エラディオ様、どうかなされましたか?」

「いい!俺が見る!セルゲイは部屋の外へ行け!」

「畏まりました」

「全く…」


 ペコリとお辞儀をしたセルゲイがあっさりと退室し、部屋の中には自分一人だけになる。
 そしてすぅーっと深呼吸した後、ゆっくりとナディアの手紙を開封した。


『エラディオ様へ

 夏の暑い日が続いておりますがお元気でしょうか?
 突然エルシオンへお越しになったと思ったら、風のように去って行かれたのがつい昨日の事のようです。

 そして婚約のお申込みがサルトレッティ公爵家に届いた時は、本当に驚きました。
 
 ですが、私がエラディオ様に相応しいかどうか、今でも悩んでおります。
 共に過ごした時間も短く、エラディオ様の事は知らないままですので。
 もっとお互いを知りたいと言った事をお忘れでないのでしたら、また私とのお時間を取っていただければ嬉しいです。
 
 あ、それと一緒に送ってくださった髪飾りですが、とても素敵ですね。
 エラディオ様の手作りだとお伺いしましたが、本当に素晴らしい腕をお持ちで感動いたしました。
 何より、私を想って作ってくださった事が嬉しく思います。
 本当にありがとうございます。

 最後に、昨日からジョバンニ殿下がサルトレッティ公爵領にまた来てます。
 今度は元側近候補だったご令息達も一緒なんですが、会いたくないのでどこかに逃げようかと思っております。

 もしもエラディオ様がこちらにいらっしゃる予定でしたら、その時私はサルトレッティ公爵領にはいないかもしれませんので、お知らせしておきますね。

 それでは、お体を壊さないようお大事にしてくださいませ。


 ナディア・フォン・サルトレッティ 』


「…」


 読み終わったエラディオが魂の抜けたような顔をしてソファにドサリと座り直す。そして両手で顔を覆い、そのまま頭に手を回して自分の髪をぐしゃぐしゃにした。


「だああああああっ!」


 色々と突っ込みどころ満載の手紙だった。
 が、エラディオは手作りの髪飾りをとても喜んでくれている文面に見悶えていた。

 そして騒ぐだけ騒いで落ち着いた頃、改めて手紙を読み直す。


「ジョバンニのヤロー…」


 まだナディアの周辺をうろついているのかと怒りさえ湧いてくる。しかも今度はあの婚約破棄の際に、ナディアを一緒に糾弾した令息達まで連れてきているとは。


「あいつらは領地で絞られてるんじゃなかったのか?」


 後から聞いた話だが、彼等も惚れ薬の効果がすっかり切れたらしく、当然自分達のした事に青ざめたらしい。そして自分達の両親にナディアに謝りたい旨を伝えたが、最初は勿論却下されていた。
 けれど何度も熱心に頼み込む様子を見た親達が国王陛下にお伺いをたてた所、殺される覚悟で行くのなら許可すると言われたそうだ。
 とは言っても監視付きだ。そして滞在期間は一週間、その間にナディアに会えなければ諦めろとの事だった。

 どうやら国王はサルトレッティ公爵に、彼等への仕返しの機会を与えたようだ。
 謝罪に来た令息達をどう扱っても構わないとの通達が、彼等に内緒でサルトレッティ公爵家に届いていたそうで、彼等の両親達も黙認しているそうだ。

 けれどこの手紙を受け取った時のエラディオは、その情報はまだ掴んでいない。
 ただただ身勝手な令息達とジョバンニに腹が立ち、思わずナディアの手紙を握りつぶしそうになった。


「おっと、危ねぇ。危うくナディア嬢からの手紙を台無しにする所だったぜ…」


 何といっても初めてのナディアからの手紙なのだ。大切に保管しておかないと。
 そう思って手紙を封筒にしまうと、丁度いいタイミングでノックの音がした。


「入れ」


 入室を許可すると、待機していたセルゲイがドアを開ける。


「エラディオ様、手紙を届けたサルトレッティ家の使いの者がエラディオ様にお話があるそうです」

「サルトレッティ家の?…わかった、応接室に通せ」

「畏まりました」


 手紙を届けるだけの使いがサルトレッティ公爵から何か伝言でも頼まれたのか。
 不思議に思いつつも応接室に向かうと、使いの者が頭を下げて立っていた。出で立ちから女性だと言う事が分かる。女性の後ろにももう一人女性が立っており、護衛らしき男も二人いた。


「待たせたな。顔を上げてくれ」

「はい」


 小さく返事をした女が顔を上げる。


「は…?」


 その顔を見て驚いたエラディオは、思わず間抜けな声を出して固まった。
 そんなエラディオの様子を見た女はクスクスと笑う。それを不敬だととらえたセルゲイが怒りを込めた目で使いの女性を睨んだ。


「何を笑ってらっしゃるのですか?我が主に対して不敬では…」

「いい、セルゲイ。やめろ」

「は?いえ、しかし…」

「いいからやめろ」


 珍しく強く言われ、セルゲイが言葉を止める。そして不思議そうにエラディオに視線を向けると、エラディオは信じられないといった様子で微笑んでいる女性を凝視していた。
 するとようやく笑い終えた女性が優雅に微笑み、美しいカーテシーをする。


「お久しぶりです、エラディオ様」

「ああ…ナディア嬢」


 悪戯っぽく笑っているその女性は、ナディア・フォン・サルトレッティ公爵令嬢当人だった。


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