【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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公爵令嬢の婚約事情

ザクセンの国王に謁見

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 何だかんだでザクセンの王都に一度戻ってきたナディア達だったが、今現在王宮の謁見室だ。
 目の前にはエラディオの兄であるザクセン国の国王が、とてもにこやかな笑顔でナディアを眺めていた。


「ふむ、そなたがエラディオの言っていたご令嬢か」

「国王陛下に拝謁いたします。ドルフィー二国サルトレッティ家のナディアと申します」


   美しいカーテシーをし、ナディアが自己紹介をする。その横顔は緊張した面持ちで、それを珍しそうにエラディオは眺める。


「何だよ、緊張してんのか?」

「当たりまえですわ。エラディオ様に言われるがまま城に連れて来られたと思ったら、いきなり国王陛下に謁見だなんて・・・きちんとした服装でもありませんのよ」

「急だったしナディアは旅行中だから仕方ねぇよ。なあ、兄上?」


   ニヤリと笑ってエーベルハルトに意見を求めると、エーベルハルトもエラディオと同様に不敵な笑みを浮かべてナディアを見た。


「構わんさ。俺もエラディオに君を連れてくるよう言っていたしな。それよりも本当にこいつでいいのか?兄の俺が言うのもなんだが、相当に放蕩者だぞ?」

「おい、兄上」


   国王がニヤリと笑みを浮かべてナディアに尋ねる。それを不服そうにエラディオが何かを言おうとしたが、ナディアがそれを遮った。


「それはこちらのセリフですわ。ご存知かと思いますが私はドルフィー二国の王太子であったジョバンニ殿下に婚約破棄をされた傷物でございます。私の方こそエラディオ様に相応しくありません」

「おいナディア」

「ほう?ならばエラディオからの求婚は断ると言う事か?」

「おい兄上!」


   片眉を上げてナディアを見据える。が、動揺する素振りも見せずにナディアが不敵に微笑んだ。


「相応しくはありませんが、お受けしようと思っております」

「は!?それ、今言うのかよ!」

「ほう、相応しくないのに受けるとは、随分と図々しいのだな」

「おい兄上!いい加減にしねぇと怒るぜ!」

「お前は黙っていろ」


   いちいち反応して突っかかるエラディオを手で制し、国王はナディアをじっと見つめる。ナディアはその視線を逸らすことなく、悠然と微笑んで見つめ返した。


「相応しくないのと、エラディオ様を手放すのは別のお話ですわ。相応しくないのであれば、相応しい存在になればいいだけの事。ただそれには少しお時間をいただく事になりますが」

「ふっ・・・」

「兄上・・・?」


   突然俯いて肩を震わせる国王を怪訝な目でエラディオが眺めると、我慢の限界がきたらしく大声で笑いだした。


「ふははははは!いいな、ナディア嬢!エラディオが気に入るはずだ!」

「おい兄上・・・」

「いいじゃねぇか、エラディオ!身分、見た目、立ち振る舞い、そして度胸。どれを取っても一流の女だ」

「え」


   突如笑いだした国王にナディアがきょとんとするが、エラディオは疲れたようにため息をつく。


「下衆な言い方はやめろって。それに褒めても兄上にはやらねぇぞ」

「誰もくれとは言ってねぇだろ。それに俺には妃がいるしな。たが話には聞いていたが、面白そうなお嬢さんだ」

「あ、ありがとうございます・・・?」


   一応褒められているようなのでお礼を言うが、どうしても疑問形になってしまう。
   それがまたおかしかったのか、国王はケラケラと笑い続けた。
   心配になったナディアがエラディオを見ると、エラディオはやれやれと言った様子で苦笑している。
   どうやら問題ないようで、ナディアもホッと胸を撫で下ろした。


「それで、これからドルフィー二国へ行くのか?」

「ああ。ナディアに他国の王族から求婚がきてるからな」

「ならば馬車と護衛を用意してやろう」

「恩に着るぜ」

「なぁに、可愛い弟の為だ。せいぜい面白い土産話を待ってるさ」

「絶対それが目的だろ」


   この兄は弟の婚約話に随分と楽しみを抱いているようで、いたずらっ子のような顔をしている。
   仲がいいのはナディアから見ても十分わかったが、こんなあっさりでいいのだろうかと疑問に思った。
   それを目ざとく気付いた国王がナディアに問う。


「何か気がかりなのか?」

「あ、はい。陛下は反対しないのですか?」

「反対?」

「さっきも言いましたが、私は自国の王太子から婚約破棄をされた傷物ですので、その・・・」

「ああ、その事なら問題ない。は向こうの落ち度だろう?」


   エラディオから報告を受けていたのか、全てを知っている顔で答えた。
   そうであれば何も言う事はない。ナディアは恭しくお辞儀をし、国王にお礼を述べた。


「ありがとうございます。私からは何も言う事はありませんが、そう仰っていただけると助かりますわ」

「うん、潔いいのも気に入った。エラディオ、お前本当にいい女を見つけたな」

「だからその言い方をやめてくれって。ナディアをその辺の女みたいに扱ったら許さねぇぞ」

「はははは!そんな事をする訳がないだろう。これは褒め言葉だ」

「ったく、国王の癖に上品さがねぇよな」

「お前には言われたくないね」


   ナディアからすれば似た者兄弟だろう。
   彼らのやり取りを見ていると、こちらが微笑ましくなってくる。


「ナディア嬢、こう見えてもコイツはこの国ではモテるんだ。ライバルは多いが大丈夫か?」

「何余計な事言って…」

「王族の方と縁を結ぶので当然でしょう。ですが、私はエラディオ様が陛下の弟君でなくても構いませんわ」

「それはどういう意味だ?」

「身分を捨てられても着いて行きますので」

「だから何で今それを言うんだ!?」


   さっきからエラディオが不服そうに文句を言う。その度にナディアは笑いそうになるが、ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべてエラディオを見つめた。


「言う機会が今でしたので」

「あ、あのなぁ…そういうのは先に聞きたかったっつぅか…」

「クスクス、申し訳ありません。元々ひねくれた性格ですので、ちょっとだけエラディオ様を虐めたかったんです」

「やっぱ嫌がらせじゃねぇか!」

「わははは!」


   二人のやりとりを見て国王も再び笑い出す。
   こうして国王との謁見は和やかに終わる事ができたのだが。
   謁見を終わらせて謁見室から退室すると、前方から一人の男性がエラディオに近付いてきた。


「王弟殿下、少しよろしいですか?」


   声を掛けてきたのは宰相のゴメス公爵だった。
   声をかけられた事に不快そうな顔をしたエラディオだったが、一応ゴメス公爵に向き直る。


「何だ?俺は今忙しいんだが」

「申し訳ありません、ですが・・・」


   チラリとナディアを横目で一瞥し、エラディオに視線を戻す。
   どうやら邪魔だと思われているらしい。
   ナディアは気付かれないようにため息をつくと、エラディオのそでをそっと引いてニコリと微笑んだ。


「私は少し外しますわ。エラディオ様はお話をしてきてください」

「は?そんな必要は…」

「大丈夫ですわ。少しお庭を散策していますので」

「はぁ、わかった。ゴメス公爵、少しだけだ」

「ありがとうございます。では…」


   フンと鼻であしらう様にナディアを見た後、ゴメス公爵はエラディオを連れて行ってしまう。
   姿が見えなくなったのを確認した後、ナディアは謁見室の外で待機していたチャドとオブライエンを連れて庭に出た。
   オルガは買い出しに行っているようで、姿は見えない。

   オブライエンがナディアに問いかける。


「国王陛下との謁見はどうでした?」

「ええ、エラディオ様とよく似てらしたわ」

「そういう事ではなく」

「ふふふっ、帰国に際して護衛をたくさん付けてくれるそうよ。それと、王家の馬車も出してくれるって」

「それはそれは」


   不敵に笑うオブライエンにナディアも微笑む。チャドは相変わらず無表情だが、当然とばかりに頷いていた。
   すると突然、見知らぬご令嬢が前方から現れ、ナディアの目の前で立ち止まった。
   邪魔かと思い横に避けるが通り過ぎる気配はない。
   ただじっとナディアを睨むように見つめ、そして口を開いた。


「貴女がエラディオ様を唆した他国の令嬢ですの?」

「…」


   驚いて無言でいると、不機嫌そうに眉を顰める。


「何とか仰ったらどうですの?」

「あの、失礼ですがどなたでしょう?」

「は?わたくしを知らないの?」

「ええ。何分他国の者ですので。申し遅れましたわ。私はドルフィー二国サルトレッティ公爵家が娘、ナディアと申します」

「…っ!」


   ニッコリと妖艶に微笑み美しいカーテシーをする。
   この無礼なご令嬢をどう料理してやろうかと、そんなことを考えながら、ナディアは美しい笑みを崩さなかった。


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