【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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公爵令嬢の婚約事情

公爵令嬢VS公爵令嬢

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 ナディアが不敵に微笑むと、相手の令嬢は悔し気に表情を歪める。
 よく見れば背後に侍女が一人とメイドが数人、そして護衛が数人付き従っている。これを見るだけでも高位貴族の娘だと分かるのだが。


「お名前を教えてくださらないのですか?」


 ナディアが不思議そうに首を傾げると、令嬢はグッと言葉を詰まらせ吐き捨てるように自己紹介をした。


「ザクセン国の宰相であるゴメス公爵家のリシュア・ファン・ゴメスですわ」

「まあ、宰相様のご息女でしたの」

「フン、これだから他国の人間は無知で困りますわね」

「そうですわね。私もザクセンについてもっと勉強しなくてはと思っていますわ」

「…っ!貴女がエラディオ様の婚約者だなんて認めませんことよ!」

「あら」



 手に持っている扇子をギリギリと締め付け、今にも折ってしまいそうな勢いでこちらを睨みつける。その反面、ナディアは凪いだような笑みを浮かべてリシュアを眺めていた。


「ゴメス公爵令嬢、そのように力を込めてはせっかくの美しい扇子が折れてしまいますわよ」

「余計なお世話ですわ。そんな事よりもどんな汚い手を使ってエラディオ様の婚約者を奪ったのか教えていただきたいわ」

「汚い手と言われましても、手はいつも清潔にしておりますし」

「比喩に決まってるでしょう!頭が悪いのかしら!?」

「まあ、こちらも冗談に決まってますわ」


 クスクスと笑えばリシュアの顔色がどんどん怒りで赤くなっていく。そしてそれを煽るようにナディアは追い打ちをかけた。


「それにという表現は間違っておりますわね。だってエラディオ様は誰とも婚約してませんでしたもの。例えば…そう、ゴメス公爵令嬢と婚約関係にあったのであれば、その表現は正しいですが」

「嫌な女ね。こんなに性格が悪い事をエラディオ様はご存知なのかしらね。ああ、そうそう。貴女確か王太子殿下の元婚約者でしたわよね?下賤な平民上がりの男爵令嬢に奪われたとか」


 今度はリシュアがクスクスと馬鹿にするように笑い出す。が、今度はナディアが表情を消し、口元を扇子で隠して目を細めた。


「今、下賤と申しました?」

「それが何か?」

「ゴメス公爵令嬢は、国民をと呼ばれるのですね。驚きましたわ」

「それがどうかして?何も間違っていないでしょう?」


 何が一体悪いのだといった表情でナディアを睨む。だが背後に控えていた侍女やメイド達の表情が硬い。護衛達はさすがに無表情だが、彼等の心証はどのようなものかと伺いたい。

 ナディアはリシュアのこの発言にあからさまに溜息をついた。


「はぁ、国で王家の次に身分が高い公爵家のご令嬢が、そのように国民を見下げているなんて世も末ですわね」

「どういう意味かしら?」

「そんな事も分からないの?貴族の何たるかをもう一度基礎から学んでから出直していらっしゃい、?」

「…ッ、無礼な!!」


 リシュアが手に持っていた扇子を振り上げ、ナディアを殴ろうとする。
 ぎょっとした護衛がリシュアを止めようとその手を掴んだが、リシュアは恐ろしい形相で護衛を睨みつけた。


「放しなさいッ!無礼者!!」

「落ち着いてください!他国のご令嬢に手を上げる等、問題になります!」

「そうです!しかも王弟殿下の婚約者様ですよ!」

「婚約者はわたくしよ!そう最初から決まっているのよ!!」

「誰が決めたのです?」

「はあ!?」


 ナディアが問うとリシュアがジロリと睨みつける。


「貴女がエラディオ様の婚約者だと、誰が決めたのです?国王陛下ですか?それとも王妃陛下?それともエラディオ様と将来の約束を交わされていたのですか?」

「そんな事!宰相の娘であるわたくし以上に相応しい女はいないじゃない!ルシア・シルバーバーグもアイリス・ミナージュも、わたくしに勝てるはずがありませんもの!」

「はぁ、そのルシア・シルバーバーグ侯爵令嬢やアイリス・ミナージュ伯爵令嬢がリシュア・ファン・ゴメス公爵令嬢に劣っている点は爵位だけですわよね?他は大して変わらないと思いますけど」

「なっ…!」


 ニヤリとナディアが笑みを浮かべる。
 この女は最初から自分が誰でどういう立ち位置なのか、エラディオに対して過剰なアプローチをしている令嬢がわざと知らないふりをしたのだ。


「…貴女なんかにエラディオ様は渡さない」

「そうですか」

「貴女なんかよりもわたくしの方がずっとエラディオ様を知っていますのよ!」

「そうでしょうね」

「ですから!わたくしに返しなさい!」

「そもそもゴメス公爵令嬢のものではないですよね」

「生意気よ!」

「生意気と言われましても、私も身分は公爵令嬢ですので。それと、ドルフィーニ国はザクセン国と友好国ですわ。その友好国の公爵家の一員である私を貶めるような発言は褒められませんわね。ザクセンの宰相の娘とあれば猶更」


 サッとリシュアの顔色が悪くなる。その様子からして、それ程頭が悪いわけでもないようだとナディアが察する。
   だがそれとこれとは別問題だ。
   噛み付いてくる相手はキッチリと仕返しするのが主義なのだ。


「貴女がどう思おうと関係ありませんが、すでにザクセン国王の名のもとに我が国の国王陛下へ向けて、エラディオ様から婚約の申し込みが正式にされております。王家が決めた事に異を唱えられる程、貴女に権限はありますか?」

「…っ!」

「それと」


   一歩 、リシュアに近付く。そして表情を消してナディアが彼女を見据える。


「リシュア・ファン・ゴメス公爵令嬢。貴女はエラディオ様を愛しておられるのですか?」

「は…?」

「お慕いしているのかと、そう聞いてますのよ」

「そ、そんな事貴女に言う必要があるかしら!」

「ありますわね」


 ぐっと言葉を詰まらせ、ナディアを睨みつける。それをフンと鼻であしらうように笑い、ナディアはぱちんと音を鳴らして扇子を閉じた。


「だって私の夫になる方を奪おうとしてるんですもの。ご自分の為に利用しようとされてるのでしたら、私は貴女を絶対に許しませんわ」

「なっ…!」


 ナディアにすればこんな挑発乗る必要はないのだ。けれど許せないのは、エラディオがまるで自分のもののように考えているリシュアの無神経さと我儘さだ。
 彼女を見ていると、周囲の男性は全て自分のもののように扱っていたサブリナを思い出す。むしろ、サブリナの方が上手く立ち回っていた。


「貴女がエラディオ様を心から愛し、そしてエラディオ様の為なら身分を捨ててでもついて行くとおっしゃるのなら、エラディオ様のお気持ちを優先しますが身を引く事も考えましょう」

「なら…」

「ですが」


 何かを言おうとしたリシュアを遮り、ナディアが不躾に扇子をリシュアに向けて指す。


「ほんの少しでも嘘偽りを言ったのなら、私は持てる力の全てを使って貴女を潰します」

「…!」

「その覚悟がおありですか?」

「…な、何よ…!そんな事言っても貴女だって、エラディオ様が身分を捨てたら…!」

「あら?勿論ついて行きますわよ?」

「う、嘘よ!」


 信じられないと醜く顔を歪めて罵る。が、ナディアは美しく微笑み、そしてリシュアに告げる。


「私、退屈が嫌いなんですの。ですがエラディオ様と一緒であれば、例え身分を捨ててもきっと楽しいですわ。ですので身分が邪魔だと仰られたら、躊躇いなく捨てましょう」

「そりゃあ嬉しいね」

「え」


 突然背後から声をかけられ、ナディアが驚いて振り返る。するとそこにはニヤニヤと笑みを浮かべながらもどこか嬉しそうな顔をしたエラディオが、真っすぐにナディアに向かって歩いて来ていた。



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