【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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公爵令嬢の婚約事情

王弟殿下VS宰相

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 ナディアが立ち去るのを背後の気配から察したエラディオは、宰相であるゴメス公爵に向き直る。その視線は冷ややかなもので、視線を向けられたゴメス公爵も一瞬息を飲んだ。


「それで?俺をわざわざ引き留めてナディアと離した理由を教えてもらおうか?」


 ピタリと足を止めたエラディオは、城の回廊の真ん中で尊大に腕を組んでゴメス公爵を睨みつける。しかし相手は腐っても一国の宰相だ。エラディオの威圧に臆する事なく進言した。


「場所を変えませんか?このような誰もが通る場所で話すような内容ではございませんので」

「そんなに重要な話であれば、謁見の間で兄上の前で話せばいいだろう。こんな場所でわざわざ引き留めて言うのであれば、正式にその場を設けてから出直せ」

「…分かりました。ではここで構いません」


 諦めたように溜息をついたゴメス公爵は、その視線に剣呑な色を浮かべてエラディオを見据え、そして周囲には聞こえないくらいの声でエラディオに発言をした。


「自国の王族から婚約破棄をされた令嬢は、王弟殿下である貴方様に相応しくない」


 ハッキリと告げたゴメス公爵は、エラディオの言葉を待つようにじっとこちらを伺っている。そんなゴメス公爵の意見など鼻で笑い飛ばしたエラディオは、ヤレヤレといった様子で溜息をついた。


「では誰であれば俺に相応しいんだ?お前の娘か?ハッ、笑わせるな」

「いくら殿下でも我が娘を愚弄しないでいただきたい」

「ならお前も我が婚約者を愚弄するな」

「しかしかのご令嬢は…」

「どこまで調べたのか知らんが、そんな情報はとっくに知ってるさ。何しろ俺がドルフィーニ国で直接見聞きしてきたんだ。それを理由にした所で何も覆らないぜ」

「では猶更ではないですか!いくら見目が麗しくても傷物令嬢である女だ!一体私の娘のどこが気に入らないと言うのです!?」

「全部だね」

「…は?」


 我慢できなくなったゴメス公爵が声を荒げるが、エラディオは静かに否定する。
 一瞬何と言われたのか理解できなかったのか、ゴメス公爵は目を丸くして首を傾げた。


「聞こえなかったのか?全部気に入らねぇな。いや、気に入らねぇとかじゃない。眼中にない」

「なっ…!何故ですか!?」

「うるせぇな。この前も言ったがナディア以外の女を選ぶくらいなら、生涯誰とも婚姻を結ぶことはねぇよ」

「…なぜそこまであの女にこだわるのです?」


 ゴメス侯爵の言葉にエラディオの表情が一気に消える。そして身震いする程の冷たい空気を放ち、エラディオがゴメス公爵を見た。


「さっきから傷物令嬢だとかあの女だとか、大概な物言いだな。お前も宰相なら俺の立ち位置も分かってるだろう?いい加減妙な野心を持つのはやめとけよ。でねぇとその地位も失うぜ」

「…それは脅しですか?」

「脅しじゃねぇよ。起こりうる未来だ」

「…」


 エラディオの言葉にゴメス公爵が押し黙る。そして、エラディオも話す事はないとばかりに踵を返して歩き出そうとする。


「王弟殿下」

「何だ、まだなんか用か?」

「…いえ、ご無礼をお許しください。ただ、これだけは言わせてもらいたい」

「何だよ?」

「私は国王陛下に忠誠を誓っております」

「それは良かった。なら今後も兄上とこの国の為に励んでくれ」

「…畏まりました」


 恭しくお辞儀をするゴメス公爵を横目に、エラディオは足早にその場を立ち去る。そしてナディアが向かった先を途中に配備されている騎士達に聞き、庭園へ足を踏み入れた。

 少し歩くと庭園の一角にナディアの護衛であるオブライエンとチャドの姿が目に入る。その先にナディアのシルバーブロンドの髪が見え、近付こうとしたのだが。


「婚約者はわたくしよ!そう最初から決まっているのよ!!」

「…!」


 ナディアに向かって罵っているリシュアの姿が視界に入った。


(あの女、まだあんな事言ってんのかよ…)


 リシュアの姿にエラディオも額を押さえる。
 さっきはゴメス公爵にあんな事を言ったが、実際は野心でエラディオに近付こうとしているとは思っていなかった。
 ゴメス公爵が娘であるリシュアに甘い事は社交界で有名だ。そして自身の立場から、娘がそれを利用している事も知っていた。だが知っていてもそれを黙認し、あまつさえ応援する事もしばしばだ。

 政治手腕は舌を巻く程の腕前だが、子育ては全くと言っていい程向いていない。
 それがゴメス公爵に対する世間の評価だ。
 公爵の妻が病気で他界した事も、娘を甘やかす理由の一つだろうが、ここまでくると困りものだ。

 どうしたものかとエラディオが思案していたが、ふいにナディアの声が耳に届いた。


「リシュア・ファン・ゴメス公爵令嬢。貴女はエラディオ様を愛しておられるのですか?」

「は…?」

「お慕いしているのかと、そう聞いてますのよ」

「そ、そんな事貴女に言う必要があるかしら!」

「ありますわね」


 ぐっと言葉を詰まらせナディアを睨みつけているリシュアは、まさかエラディオがこの場を目撃しているとは思っていないようだ。
 普段エラディオに見せる表情とは違い、妙に人間臭くて醜い。だがアレこそが彼女の本性だろう。
 そう思ってどこか他人事のように観察していた。

 それなのに、ナディアがとんでもない台詞を口にした。


「だって私の夫になる方を奪おうとしてるんですもの。ご自分の為に利用しようとされてるのでしたら、私は貴女を絶対に許しませんわ」

「…!!」


 思わず声を上げそうになり、エラディオがグッと堪える。
 すると前方にいたチャドとオブライエンが、視線だけこちらに向けている事に気付いた。


「…」


 チャドは相変わらず無表情だが、オブライエンはニコリと微笑んでいる。
 何となく気恥ずかしくなったが、エラディオは気を取り直して表情を取り繕った。

 すると再びナディアがエラディオが驚くような言葉を次々と発する。


「貴女がエラディオ様を心から愛し、そしてエラディオ様の為なら身分を捨ててでもついて行くとおっしゃるのなら、エラディオ様のお気持ちを優先しますが身を引く事も考えましょう」

「なら…」

「ですが」


 何かを言おうとしたリシュアを遮り、ナディアが不躾に扇子をリシュアに向けて指す。


「ほんの少しでも嘘偽りを言ったのなら、私は持てる力の全てを使って貴女を潰します」

「…!」

「その覚悟がおありですか?」

「…な、何よ…!そんな事言っても貴女だって、エラディオ様が身分を捨てたら…!」

「あら?勿論ついて行きますわよ?」

「う、嘘よ!」


 信じられないと醜く顔を歪めて罵る。が、ナディアは美しく微笑み、そしてリシュアに告げる。


「私、退屈が嫌いなんですの。ですがエラディオ様と一緒であれば、例え身分を捨ててもきっと楽しいですわ。ですので身分が邪魔だと仰られたら、躊躇いなく捨てましょう」


 惚れた女にここまで言われて、黙っていられる男がいるか?
 何よりナディアの気持ちをこんな形で知る事ができて、エラディオの胸に何とも言えない喜びが込み上げる。


「そりゃあ嬉しいね」

「え」


 突然背後から声をかけられ、ナディアが驚いて振り返る。


(ああ、その表情すら愛おしいな)


 この後ナディアをどうしてやろうかと、そんな事を考えながら彼女に近付く。


(ゴメス公爵や他の貴族達には悪いが、俺はナディア以外はいらねぇ)


 
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