【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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公爵令嬢の婚約事情

素行調査

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 ※※※





「はぁぁぁぁ…」

「溜息長いですよ、お嬢様」


 サルトレッティ公爵邸の自室でようやく一人になったナディアだったが、何だか力が抜けたように溜息をつく。
 あそこでジョバンニが出て来るとは思ってもみなかったが、それ以上にジョバンニに再び求婚されるとは思わなかった。
 実に不愉快だったが、それを邪魔するように三人の王族の乱入も頭痛のするものだった。


「それにしてもジョバンニ殿下には困ったものだわ」

「まさか恥知らずにもお嬢様に再び婚約を迫るなんて!大体惚れ薬の効果が切れてもフェリッリ男爵令嬢を愛してらっしゃるんじゃなかったんですか!?」

「その辺は分からないけど、あの見栄っ張りがまさか復縁をせまるなんて驚いてしまったわ」

「そんなもの、自分の足元を安定させたいからに決まってます!」


 それはそうだろう。実際ジョバンニと対面しても、彼の視線に自分への恋情は感じられなかった。
 ただ、少しだけ寂しそうではあったが。


(それも自業自得よ)


 サブリナは美少女だ。彼女の外見に惑わされたのは、他でもないジョバンニだ。惚れ薬云々は後付けにしかならない。
 ようはジョバンニは最初からサブリナに一目ぼれしていただけだ。そこに惚れ薬が入った事によって、盲目的にサブリナだけを信じてしまったのだが。

 そしてここにきて他国の王族からの婚約の打診。
 今ドルフィーニ国に訪問しているのはザクセン王弟殿下のエラディオと、サーシス国第一王子殿下のローデウェイク、そしてコルト国大公殿下のマティアスの三人だが、他にも隣国の小国の王族からも婚約の打診が来ているそうだ。
 頭が痛い話だが、そちらはすでにお断りの手紙を送っていると、ナディアの母であるルディアから教えてもらっていたが。
 エラディオとローデウェイクとマティアスに関しては、相手が大国だと言う事と本人が押しかけて来た事で、何とも言えない状況になっているそうだ。
 とは言ってもエラディオに関してはナディアに直接会いに行き、婚約の了承までこぎつけたのだからさすがとしか言いようがないが。


「ロイ…ローデウェイク殿下は一体私のどこが良かったのかしら?私の記憶が間違っていなければ、結構コテンパンにしたはずなんだけど…」

「サーシス第一王子殿下はドMなのでは?」

「オルガ、それ絶対外で言っちゃだめよ」

「勿論です」


 しかしあながち間違っていないような気もしないでもない。
 それにマティアスの方もだ。


「カイラモ大公殿下もだけどね。あの方もジョバンニ殿下との喧嘩を目撃されたのが気まずくて、より丁寧な対応をしただけだったのよ…」

「それが落とし穴でしたね。お嬢様の魅力が発揮され過ぎて、さすがの大公殿下も恋と言う沼にはまってしまったのでしょう」

「…オルガ、あなたさっきから楽しんでない?」

「楽しんでます!ええ、勿論ですとも!我がお嬢様の魅力にやられた麗しき殿方達が繰り広げる、愛憎にまみれた戦い!楽しくて仕方ありません!」

「はい、ちょっと落ち着きなさい」


 オルガが目をキラキラさせて拳を高々と突き上げている。
 そんなに楽しいのかは分からないが、ナディアにとっては面倒くさい事この上ない。
 何故ならナディアはすでにエラディオを選んでいて、それを覆す気はない。そう彼等にも伝えているのに、一向に聞こうとしてくれないのだ。


「王族ってみんな人の話を聞かないわよね。あんなので政治ができるのか、甚だ疑わしいわ」

「辛辣ですが的を得てます。ですがサーシス国第一王子殿下はまだ王太子ではございませんし、カイラモ大公殿下も言わずもがな。ザクセン王弟殿下も継承権を放棄されてますので、あんな感じでもやっていけるのでは?」

「貴女も十分辛辣よ、オルガ」

「ありがとうございます」

「…褒めてないわ」


 疲れたように頭を押さえると、オルガがとてもいい笑顔で何かの資料を手渡して来た。訝し気にソレを眺め、オルガを見る。


「コレは?」

調です。クエントがエルシオンから送って来ました」

「暇なの!?ねえ、暇なんでしょ!!」

「いいえ。クエントも私と同じくお嬢様命ですので」

「クエントの場合はただの金蔓と思われてるような気がするけど」


 実際エルシオンン領で作った『女王蜂の秘蜜』は、王都の社交界で飛ぶように売れているそうだ。お陰でエルシオン領の今年の収益はうなぎ登りだとレイナードから聞いている。
 女王蜂の秘蜜は高価なサプリメントだが、『女王蜂シリーズ』として売り出した化粧品の売り上げも上々だ。
 品種改良した薔薇で作った石鹸は、意外な事に香水よりも売れているらしい。なんでもわざとらしくなく香るのがいいそうだ。
 薔薇を使った化粧品も蜂蜜の化粧品と同等の売り上げを上げている。
 それもこれもクエントの手腕のお陰だろう。


「まあ、とりあえずは見てみましょう」


 ぱらりと報告書をめくる。そこに書かれている文字を目で追い、ゆっくりと読み進める。
 時間にして15分程した頃、ナディアが報告書の束を机に置いた。


「なるほどね」

「お嬢様、何と書かれてたのですか?」

「三人の女性関係について書かれてるわ。まあ、ローデウェイク殿下はまだ学生だけど、カイラモ大公殿下はもういい大人でしょう?それにエラディオ様も」

「まさか…ザクセン王弟殿下も何か…」


 オルガが心配そうに見つめていたが、実はそれほど問題になるような事は書かれてなかった。クエントいわく、三人とも素行に問題ないそうだ。


「さて、一人ずつ片付けましょうか」


 ニヤリと笑みを浮かべるナディアを見てオルガがハッとする。
 あの顔をする時は、何か悪巧み…というか、悪戯を考えている時だからだ。


「お嬢様。勿論一枚噛ませてくれますよね?」

「勿論よ。オルガは私の後ろ、つまりは特等席で見せてあげるわ」


 そう言いながら報告書の一番上の紙をつまみ上げる。
 そしてハラリと床に落とすと、そこに書かれていた名前がオルガの視界にも入ってきた。


「これは…カイラモ大公殿下の…」

「ご本人は清廉潔白と仰ってるけれど、相手はそう思っていないようね」


 円満に別れたらしいご令嬢の情報だ。
 コルト国の伯爵家のご令嬢とマティアスは長きにわたり恋人関係だったようだ。
 けれど大公殿下としての役割が邪魔をし、二人は婚姻を結ぶ事はなかったと書かれている。

 そして決定的なのは、あのドルフィーニ国への訪問の直前だ。
 使者としてドルフィーニに訪問する前、マティアスはかのご令嬢に正式に別れを告げたようだが、相手のご令嬢は納得いかずにそれを了承しなかった。
 けれど一方的に別れを告げ、そして隣国へと出立してしまい、かのご令嬢は泣きながら過ごしていたと。


「そのご令嬢の名前がキャンディス・D・モンセン伯爵令嬢ですか。お嬢様に求婚した事を知ったら怒り狂いそうですね」

「すでに怒り狂ってるようよ。コルト国にのこのこ来るようなら殺してやると言ってるみたい」

「めちゃくちゃ怖いお嬢様ですね…。なんで別れたのかそこら辺を明確にしてもらいましょうよ」

「その辺もコレに書いてるんだけど…」


 前国王の王弟の息子で、現在のコルト国王の従兄弟であるマティアス。御年25歳の独身で見た目も極上の男性だ。地位も見た目も申し分ないマティアスと恋人関係にあったモンセン伯爵令嬢は、いつかマティアスと結婚できる事を信じ、自身の友人達にもそう自慢していた。
 だが、肝心のマティアスはと言えば。


「…残念ながら本気ではなかったようね。お互いに干渉しない、割り切った関係だと思ってたらしいわ」

「アホですね。相手は娼婦でもなく貴族令嬢ですよ?そんな訳ないでしょうに。あわよくば既成事実を作って結婚にこじつけようとしていたくらい、見てなくても分かりますよ」

「あら、本当に愛していたから一緒にいたのかもしれないわよ?」

「それでもですよ。猶更体を張って繋ぎとめていたんでしょうね。そのご令嬢は今後婚姻は難しくなるでしょうし、必死だったと思いますよ」

「それがカイラモ大公殿下にも伝わったようね。大使としてこちらに向かうのも、そろそろ婚約者を決める為も兼ねていると言ったとかどうとか」

「うわぁ…終わってますね…」


 控えめに言っても最低だ。同じ女性としてモンセン伯爵令嬢の気持ちを思えば、何食わぬ顔をして婚約者を連れて帰って来るのは腸が煮える思いだろう。


「どうします、お嬢様?」

「そうねぇ…」


 ナディアがうーんと考える素振りをする。
 そしてニッコリと笑ったかと思うと、机の引き出しから便箋を出した。


「手紙を書くんですか?」

「ええ」

「どなたに?」

「勿論、キャンディス・D・モンセン伯爵令嬢よ」

「え!」


 まさかの渦中の人に手紙を書くとは。それも面識が一切ない相手だ。


「大丈夫よ。ちゃんとコルト国の王家を通して送るから」

「は!?え、そんな事をしたらコルト国王が中を検分しますよ!…って、まさか…」

「うふふふふ、やっぱり自分のしてきた事にはきっちりと責任を取るべきでしょう?ええ、大丈夫よ。ちゃんと王妃陛下を通して送りますから」

「そ、それって我が国の王妃経由でコルト国の王妃に…って事ですか?それからモンセン伯爵令嬢の手に行くって事は、両国の王妃が一旦中身を読んでからようやくカイラモ伯爵令嬢に辿り着くって事ですよね?」


 オルガが恐る恐る尋ねると、ナディアはニンマリと笑みを浮かべて頷く。


「さあ、モンセン伯爵令嬢。ブーメランの時間ですわよ」


 そう呟くナディアは恐ろしく生き生きと美しい表情をしていた、らしい。(オルガ談)

 


 




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