56 / 89
公爵令嬢の婚約事情
キャンディス・D・モンセン伯爵令嬢
しおりを挟む
コルト国の王宮にてキャンディス・D・モンセン伯爵令嬢は、身に覚えのない呼び出しに困惑の表情を浮かべて謁見の間に現れた。
「王妃陛下に拝謁いたします。キャンディス・D・モンセンでございます」
「顔を上げなさい」
「はい」
ゆっくりと顔を上げ、コルト国王妃に視線を向ける。
意志の強そうな焦げ茶色の瞳に、きゅっと結ばれた唇。緩やかなウェーブがかかった黒髪は美しく輝いている。
婚約者のいないまま今年で22歳を迎えたと聞いているが、まだいくらでも求婚者が現れそうな美しい女性だ。
「今日そなたを呼び出したのは他でもない、隣国の公爵家からそなた宛の手紙を預かったからです」
「隣国の公爵家…?すみません、心当たりはございませんが…」
隣国の公爵家に知り合いなんていない。
キャンディスは首を傾げていたが、王妃は口元に薄っすらと笑みを浮かべ、侍従に手紙を手渡しキャンディスに届けさせた。
「モンセン伯爵令嬢、こちらを」
「え、ええ。ありがとう…」
恐る恐る手紙を見つめる。
「今ここで読みなさい」
「え」
「読み終わるまで待っています」
「は、はい」
意味が分からずに手紙を開封する。と言っても一度検分されているようで、封は開いていた。王妃を経由して送ってくると言う事はそういう事なので、キャンディスも特に何も思わずに手紙に目を通した。
「…!え、これは…!」
差出人を見てキャンディスは絶句する。
それもそのはず、マティアスが求婚していると言う、隣国の憎き公爵令嬢だったからだ。
差出人を確認したキャンディスは、王妃が見ているのも忘れて食い入るように手紙を読み進める。
そして全て読んだ後、手紙を封筒にしまい、そして王妃に視線を向けた。
「…読み終わりました」
「そう」
スッと目を細めて王妃が扇子で口元を隠す。
その視線が自分を値踏みしているようで、とてつもなく居心地が悪かった。
「そなた、マティアスと関係があったのね」
「…っ、も、申し訳ございません…!」
「責めているのではないわ。それで、いつからでしたの?」
「…わ、私の成人の儀からです…」
つまり4年間もの間、マティアスとそういう関係だったと言う事だ。
「少し調べたのだけど、そなたはマティアスと結婚できるとお友達に言っていたそうね」
「…!」
「そして、マティアスに捨てられた後、マティアスがドルフィーニ国のご令嬢に求婚していると知った」
「…は、はい…」
ダラダラと嫌な汗をかく。
何も悪い事はしていないが、咎められるような発言は何度もしている自覚がある。
だがそんなキャンディスの思惑とは別に、王妃がニッコリと微笑んだ。
「他国から婚約者を連れて帰って来たら、その女性を殺してやるとまで言っていたそうね」
「そ、それは…!た、確かに言いました…けど!でも本当にそうするつもりは…」
「わかってるわ」
「え…」
キャンディスがキョトンとすると、王妃はクスクスと笑い出した。
「ねぇモンセン伯爵令嬢。マティアスに仕返ししたいと思わない?」
「仕返し…」
実はナディアの手紙にも同じような事が書かれていた。
自分は大使として訪問したカイラモ大公殿下のホストをしただけで、婚約を申し込まれるような覚えはない。
よく知らない相手なので、失礼ながら大公殿下の事を調べてみる事にしたと。
そうしたら長年恋人として過ごしてきたご令嬢に一方的に別れを告げた事を知り、一方的に婚約破棄をされた自分と重なってしまったと言うのだ。
「…マティアス様は社交界でエスコートは決してしてくださいませんでした。王太子殿下が成人し、婚約者の方と婚姻するまでは自分は誰とも添うつもりがないからだと。けれど王太子殿下がご結婚されれば、その後は自由だと仰っていたので、待っていれば自分を選んでくださると信じてました…」
「言いにくい事を聞くけれど、体の関係はあったの?」
その質問には無言で頷く。
キャンディスの様子を見て王妃は深く溜息をついた。
「王族と閨を共にすると言う事は、婚姻が前提と言う事になっています。勿論例外はありますよ?例えば相手が娼婦だった場合など。ですがそなたは伯爵家のご令嬢です。マティアスが悪いのは分かっていますが、そなたも少々軽はずみだったと理解してますか?」
「も、申し訳ありません!ですが…私はマティアス様を心から愛しておりました!だから彼の一時の恋人でも構わないと、思い出が欲しいと欲深い事を…」
「その気持ちを知ってそなたと関係を持ったのなら、マティアスは質が悪いわ。いいですか、キャンディス・D・モンセン伯爵令嬢。私は何もそなただけを責める気はありません」
「え…」
驚いて顔を上げると、王妃が再び侍従に何かを手渡す。
そしてソレをキャンディスに差し出した。
「こ、これは…」
「間もなくドルフィーニ国で行われる建国祭のパーティーの招待状よ」
「え」
「今回は私と陛下と、それに付き添う私の話し相手を急遽募集しているのよねぇ…」
チラリとわざとらしくキャンディスを見る。
キャンディスは震える手で招待状を握りしめ、意を決して王妃に進言した。
「で、では!その募集に応募させてください!勿論きちんと務めを果たしますので!」
「いいでしょう。では、エスコート役もこちらで用意させてもらうわ」
「エスコート…?で、ですが…」
困惑した様子のキャンディスに王妃はニンマリと笑みを浮かべて見せる。
「マティアスが逃がした魚は大きいと思わす必要があるのよ。それと確認だけど…」
「は、はい」
「そなたはまだマティアスを好いているのかしら?」
「えっ…そ、それは…」
驚いて目を瞠るキャンディスを王妃はじーっと見つめる。
その視線に観念したのか、キャンディスは視線を下げて白状した。
「…はい、まだ大公殿下を愛しております…。生半可な気持ちで全てを捧げた訳ではございませんので…」
「そう、それを聞いて安心したわ。もういいわ、入ってらっしゃい」
「えっ」
急に王妃がそう告げると、謁見の間に一人の男性が入ってきた。
その人物を見てキャンディスが目を瞠る。
「あ、貴方は…」
「こうして会うのは初めてですね。ガブリエル・ホセ・ブラスタです」
「あ、キャンディス・D・モンセンです…」
「フフフ、ブラフタ侯爵とは面識はないのかしら?」
「そ、それは当然です!だってブラスタ侯爵は…」
「マティアスのライバルですものね」
「ライバルだなんておこがましい。ですが…そうですね、そう言ってもらえるお陰で麗しのご令嬢を紹介していただけるのは幸運だと思ってますが」
「え?え、と、王妃陛下…あの、一体どういう…」
目の前に現れたのはコルト国の若き侯爵、ガブリエル・ホセ・ブラスタだった。
ガブリエルはマティアスと同じ年齢で、社交界で人気を集めている人物だ。
その理由はまず彼の見た目。
マティアスが妖艶な魅力溢れる男性とすると、ガブリエルは対極を行く男性的な容姿だ。
ガブリエルはコルト国の第三騎士団の騎士団長を務めていて、男性からの人気もすこぶる高い。
騎士団長と言う事もあり、体は筋肉質で背も高く、そして短く切りそろえた髪は男らしさを強調している。
顔つきも精悍で、キリッとした目で見つめられると、マティアスと違った意味で心臓を撃ち抜かれる。
そんなコルト国でも二大美男と言われるガブリエルがキャンディスの目の前にいて、自分を見て微笑んでいるのだ。
「モンセン伯爵令嬢。そなたのエスコート役はこのブラスタ侯爵に頼んだわ。そなたもブラスタ侯爵に見劣りする事なく美しく磨き上げて、完璧な状態でマティアスと対峙するがいいでしょう」
「え…で、ですがそれではブラスタ侯爵に申し訳ないです!侯爵様の本来のお相手の方が嫌な気分になるかと…」
「俺に決まった相手はいませんよ。それにこの件に関しては、王妃陛下からお話があった時に喜んでお受けしたので」
「え?」
「麗しのモンセン伯爵令嬢の手を取れる絶好の機会を、みすみす逃すはずもありませんよ」
「え…!」
そっとキャンディスの手を取りガブリエルが膝をつく。そしてその手の甲に静かに口づけを落とした。
「!!!!」
「できるならドルフィーニ国へ行くまでの間、できる限り俺との時間を取っていただきたい。そして、貴女の頭の中からカイラモ大公殿下を追い出して、俺でいっぱいにしてもらうよう努力しよう」
「ええええええ」
「モンセン伯爵令嬢、少し落ち着きなさい」
まるで告白のようなセリフにキャンディスの顔が一気に真っ赤になる。それもそのはず、キャンディスは今の今までマティアス一筋だったのだ。他の男性の付け入る隙等全く作らず、何も言ってくれないマティアスにただひたすら尽くして来た。
そこへ来て突然の別れと絶望。
持て余した気持ちの行方をどうする事もできずにくすぶらせていたのだ。
「そ、そんな事を仰られても、急には無理です!それに私は侯爵様を利用して、マティアス様を取り戻したいと思ってるんですのよ!?」
「それでも構わない。このチャンスを逃さないように努力するのは俺なのだから」
「う…いえ…そう言われましても…」
「ブラスタ侯爵、浮足立つのは分かりますけど貴方も少し落ち着きなさい」
「申し訳ございません、少し気が急いてしまいました」
「モンセン伯爵令嬢、そなたもですよ」
「は、はい…」
ようやく手を放してもらったキャンディスは、少しだけガブリエルから距離を取って姿勢を正す。その姿を微笑ましそうに見つめ、そしてガブリエルも王妃に向き直った。
王妃は二人の様子に頷き、そして笑みを浮かべる。
「マティアスはもう少し自分への評価を落とすべきね。この件に関しては陛下にも許可をいただいております。モンセン伯爵令嬢、そなたはただ美しく自身を磨き、そして最高のパートナーを伴ってパーティーに出ればいいのです。そして、マティアスに会ったらただ微笑んであげなさい。少しも貴方に未練はないと、今はもう次の人と楽しんでいると思わせるようにね」
「…わかりました」
「その時にマティアスがそなたを追いかけるか無関心なのかは分かりませんが、パートナーがブラスタ侯爵であれば内心穏やかではないでしょう」
「あの、それは何故なのでしょう…?」
キャンディスは自分がガブリエルと共にパーティーに出たからと言って、マティアスがこちらを気にするとは思えないのだ。
だからこそ、この二人のやろうとしている事が理解できない。
するとガブリエルが王妃に対して進言した。
「王妃陛下、俺から説明してもよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ」
コクリと頷くと、ガブリエルは再びキャンディスに向き直った。
「モンセン伯爵令嬢、貴女が成人した時のデビュタントで貴女に一目ぼれした男性は数多くいました」
「え」
「その中の一人が俺です」
「え」
まさかのガブリエルの告白に、キャンディスはただ目を丸くして彼を凝視したのだった。
「王妃陛下に拝謁いたします。キャンディス・D・モンセンでございます」
「顔を上げなさい」
「はい」
ゆっくりと顔を上げ、コルト国王妃に視線を向ける。
意志の強そうな焦げ茶色の瞳に、きゅっと結ばれた唇。緩やかなウェーブがかかった黒髪は美しく輝いている。
婚約者のいないまま今年で22歳を迎えたと聞いているが、まだいくらでも求婚者が現れそうな美しい女性だ。
「今日そなたを呼び出したのは他でもない、隣国の公爵家からそなた宛の手紙を預かったからです」
「隣国の公爵家…?すみません、心当たりはございませんが…」
隣国の公爵家に知り合いなんていない。
キャンディスは首を傾げていたが、王妃は口元に薄っすらと笑みを浮かべ、侍従に手紙を手渡しキャンディスに届けさせた。
「モンセン伯爵令嬢、こちらを」
「え、ええ。ありがとう…」
恐る恐る手紙を見つめる。
「今ここで読みなさい」
「え」
「読み終わるまで待っています」
「は、はい」
意味が分からずに手紙を開封する。と言っても一度検分されているようで、封は開いていた。王妃を経由して送ってくると言う事はそういう事なので、キャンディスも特に何も思わずに手紙に目を通した。
「…!え、これは…!」
差出人を見てキャンディスは絶句する。
それもそのはず、マティアスが求婚していると言う、隣国の憎き公爵令嬢だったからだ。
差出人を確認したキャンディスは、王妃が見ているのも忘れて食い入るように手紙を読み進める。
そして全て読んだ後、手紙を封筒にしまい、そして王妃に視線を向けた。
「…読み終わりました」
「そう」
スッと目を細めて王妃が扇子で口元を隠す。
その視線が自分を値踏みしているようで、とてつもなく居心地が悪かった。
「そなた、マティアスと関係があったのね」
「…っ、も、申し訳ございません…!」
「責めているのではないわ。それで、いつからでしたの?」
「…わ、私の成人の儀からです…」
つまり4年間もの間、マティアスとそういう関係だったと言う事だ。
「少し調べたのだけど、そなたはマティアスと結婚できるとお友達に言っていたそうね」
「…!」
「そして、マティアスに捨てられた後、マティアスがドルフィーニ国のご令嬢に求婚していると知った」
「…は、はい…」
ダラダラと嫌な汗をかく。
何も悪い事はしていないが、咎められるような発言は何度もしている自覚がある。
だがそんなキャンディスの思惑とは別に、王妃がニッコリと微笑んだ。
「他国から婚約者を連れて帰って来たら、その女性を殺してやるとまで言っていたそうね」
「そ、それは…!た、確かに言いました…けど!でも本当にそうするつもりは…」
「わかってるわ」
「え…」
キャンディスがキョトンとすると、王妃はクスクスと笑い出した。
「ねぇモンセン伯爵令嬢。マティアスに仕返ししたいと思わない?」
「仕返し…」
実はナディアの手紙にも同じような事が書かれていた。
自分は大使として訪問したカイラモ大公殿下のホストをしただけで、婚約を申し込まれるような覚えはない。
よく知らない相手なので、失礼ながら大公殿下の事を調べてみる事にしたと。
そうしたら長年恋人として過ごしてきたご令嬢に一方的に別れを告げた事を知り、一方的に婚約破棄をされた自分と重なってしまったと言うのだ。
「…マティアス様は社交界でエスコートは決してしてくださいませんでした。王太子殿下が成人し、婚約者の方と婚姻するまでは自分は誰とも添うつもりがないからだと。けれど王太子殿下がご結婚されれば、その後は自由だと仰っていたので、待っていれば自分を選んでくださると信じてました…」
「言いにくい事を聞くけれど、体の関係はあったの?」
その質問には無言で頷く。
キャンディスの様子を見て王妃は深く溜息をついた。
「王族と閨を共にすると言う事は、婚姻が前提と言う事になっています。勿論例外はありますよ?例えば相手が娼婦だった場合など。ですがそなたは伯爵家のご令嬢です。マティアスが悪いのは分かっていますが、そなたも少々軽はずみだったと理解してますか?」
「も、申し訳ありません!ですが…私はマティアス様を心から愛しておりました!だから彼の一時の恋人でも構わないと、思い出が欲しいと欲深い事を…」
「その気持ちを知ってそなたと関係を持ったのなら、マティアスは質が悪いわ。いいですか、キャンディス・D・モンセン伯爵令嬢。私は何もそなただけを責める気はありません」
「え…」
驚いて顔を上げると、王妃が再び侍従に何かを手渡す。
そしてソレをキャンディスに差し出した。
「こ、これは…」
「間もなくドルフィーニ国で行われる建国祭のパーティーの招待状よ」
「え」
「今回は私と陛下と、それに付き添う私の話し相手を急遽募集しているのよねぇ…」
チラリとわざとらしくキャンディスを見る。
キャンディスは震える手で招待状を握りしめ、意を決して王妃に進言した。
「で、では!その募集に応募させてください!勿論きちんと務めを果たしますので!」
「いいでしょう。では、エスコート役もこちらで用意させてもらうわ」
「エスコート…?で、ですが…」
困惑した様子のキャンディスに王妃はニンマリと笑みを浮かべて見せる。
「マティアスが逃がした魚は大きいと思わす必要があるのよ。それと確認だけど…」
「は、はい」
「そなたはまだマティアスを好いているのかしら?」
「えっ…そ、それは…」
驚いて目を瞠るキャンディスを王妃はじーっと見つめる。
その視線に観念したのか、キャンディスは視線を下げて白状した。
「…はい、まだ大公殿下を愛しております…。生半可な気持ちで全てを捧げた訳ではございませんので…」
「そう、それを聞いて安心したわ。もういいわ、入ってらっしゃい」
「えっ」
急に王妃がそう告げると、謁見の間に一人の男性が入ってきた。
その人物を見てキャンディスが目を瞠る。
「あ、貴方は…」
「こうして会うのは初めてですね。ガブリエル・ホセ・ブラスタです」
「あ、キャンディス・D・モンセンです…」
「フフフ、ブラフタ侯爵とは面識はないのかしら?」
「そ、それは当然です!だってブラスタ侯爵は…」
「マティアスのライバルですものね」
「ライバルだなんておこがましい。ですが…そうですね、そう言ってもらえるお陰で麗しのご令嬢を紹介していただけるのは幸運だと思ってますが」
「え?え、と、王妃陛下…あの、一体どういう…」
目の前に現れたのはコルト国の若き侯爵、ガブリエル・ホセ・ブラスタだった。
ガブリエルはマティアスと同じ年齢で、社交界で人気を集めている人物だ。
その理由はまず彼の見た目。
マティアスが妖艶な魅力溢れる男性とすると、ガブリエルは対極を行く男性的な容姿だ。
ガブリエルはコルト国の第三騎士団の騎士団長を務めていて、男性からの人気もすこぶる高い。
騎士団長と言う事もあり、体は筋肉質で背も高く、そして短く切りそろえた髪は男らしさを強調している。
顔つきも精悍で、キリッとした目で見つめられると、マティアスと違った意味で心臓を撃ち抜かれる。
そんなコルト国でも二大美男と言われるガブリエルがキャンディスの目の前にいて、自分を見て微笑んでいるのだ。
「モンセン伯爵令嬢。そなたのエスコート役はこのブラスタ侯爵に頼んだわ。そなたもブラスタ侯爵に見劣りする事なく美しく磨き上げて、完璧な状態でマティアスと対峙するがいいでしょう」
「え…で、ですがそれではブラスタ侯爵に申し訳ないです!侯爵様の本来のお相手の方が嫌な気分になるかと…」
「俺に決まった相手はいませんよ。それにこの件に関しては、王妃陛下からお話があった時に喜んでお受けしたので」
「え?」
「麗しのモンセン伯爵令嬢の手を取れる絶好の機会を、みすみす逃すはずもありませんよ」
「え…!」
そっとキャンディスの手を取りガブリエルが膝をつく。そしてその手の甲に静かに口づけを落とした。
「!!!!」
「できるならドルフィーニ国へ行くまでの間、できる限り俺との時間を取っていただきたい。そして、貴女の頭の中からカイラモ大公殿下を追い出して、俺でいっぱいにしてもらうよう努力しよう」
「ええええええ」
「モンセン伯爵令嬢、少し落ち着きなさい」
まるで告白のようなセリフにキャンディスの顔が一気に真っ赤になる。それもそのはず、キャンディスは今の今までマティアス一筋だったのだ。他の男性の付け入る隙等全く作らず、何も言ってくれないマティアスにただひたすら尽くして来た。
そこへ来て突然の別れと絶望。
持て余した気持ちの行方をどうする事もできずにくすぶらせていたのだ。
「そ、そんな事を仰られても、急には無理です!それに私は侯爵様を利用して、マティアス様を取り戻したいと思ってるんですのよ!?」
「それでも構わない。このチャンスを逃さないように努力するのは俺なのだから」
「う…いえ…そう言われましても…」
「ブラスタ侯爵、浮足立つのは分かりますけど貴方も少し落ち着きなさい」
「申し訳ございません、少し気が急いてしまいました」
「モンセン伯爵令嬢、そなたもですよ」
「は、はい…」
ようやく手を放してもらったキャンディスは、少しだけガブリエルから距離を取って姿勢を正す。その姿を微笑ましそうに見つめ、そしてガブリエルも王妃に向き直った。
王妃は二人の様子に頷き、そして笑みを浮かべる。
「マティアスはもう少し自分への評価を落とすべきね。この件に関しては陛下にも許可をいただいております。モンセン伯爵令嬢、そなたはただ美しく自身を磨き、そして最高のパートナーを伴ってパーティーに出ればいいのです。そして、マティアスに会ったらただ微笑んであげなさい。少しも貴方に未練はないと、今はもう次の人と楽しんでいると思わせるようにね」
「…わかりました」
「その時にマティアスがそなたを追いかけるか無関心なのかは分かりませんが、パートナーがブラスタ侯爵であれば内心穏やかではないでしょう」
「あの、それは何故なのでしょう…?」
キャンディスは自分がガブリエルと共にパーティーに出たからと言って、マティアスがこちらを気にするとは思えないのだ。
だからこそ、この二人のやろうとしている事が理解できない。
するとガブリエルが王妃に対して進言した。
「王妃陛下、俺から説明してもよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ」
コクリと頷くと、ガブリエルは再びキャンディスに向き直った。
「モンセン伯爵令嬢、貴女が成人した時のデビュタントで貴女に一目ぼれした男性は数多くいました」
「え」
「その中の一人が俺です」
「え」
まさかのガブリエルの告白に、キャンディスはただ目を丸くして彼を凝視したのだった。
12
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる