【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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公爵令嬢の婚約事情

ローデウェイク、悩む

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 ナディアからの手紙によりサーシス国第一王子であるローデウェイクは、ナディアとの勝負の為に自国の令嬢を選ばないといけない事に頭を悩ませていた。
 ローデウェイクとて馬鹿ではない。ここで誰を選ぶかによっては、次期王子妃候補として名があがる事を懸念しなければならないからだ。


「どうしたものか…」


 ポツリと呟くと、ローデウェイクに呼び出されていたレイナードが呆れた目を向ける。


「勝負なんてしなければいいだろ?」

「そんな訳にはいかない!これに勝てれば俺を選んでもらえるかもしれないだろう!」

「絶対そんな事ないと思うけど。あの姉上が自分の不利になるような勝負を持ちかけるとは思えないし」

「なら、ザクセン国王弟殿下に断る為の口実に…」

「絶対違う」


 そんな訳あるかとレイナードが考える。
 そもそも家でのナディアとエラディオを見ていないからそんな事が言えるのだ。


「先に言っておくけど、もしもロイが勝負に勝ったとしても、多分婚約は望めないと思うよ」

「そんな事はないだろう。では何のためにこんな勝負を持ちかけるんだ?それに勝った方は一つだけ相手に要求ができるんだぞ?こんな条件での勝負を持ちかけて来たと言う事は、勝てば婚約してくれると言う事に違いない」

「だったらそう手紙に書いてくるだろ。でも書いてる内容は曖昧だった。僕は姉上の味方だけど、ロイの事もそれなりに大切に思ってるから言うけど、絶対に勝負の褒美に婚約はないと思うね」

「…それでも、可能性があるなら」


 本当にあきらめが悪いと思う。そしてそこまで姉に気持ちがある事にレイナード自身首を傾げてしまうのだ。


「ねえ、姉上のどこがそんなにいいの?」

「どこって…こういう事は理屈じゃないだろう」

「まあ、とも言うしね。でもロイじゃあ姉上の相手は務まらないよ」

「俺が劣ると言いたいのか?」

「違うって、単に相性の問題だよ。弟の僕が言う事でもないけど、姉上って結構性格悪いからなぁ」


 しみじみと告げるとローデウェイクは首を横に振る。


「性格が悪いんじゃない。アレは悪戯好きなだけだろ」

「ああ、なるほど。そうとも言うね」

「本当に性格が悪いのなら、公爵家の使用人にあんなに好かれないさ」

「それもそうか」

「それに、弟のお前もナディア嬢を慕ってるだろ?俺はお前がサーシスの学園で女に対する態度を散々見てるんだ。嫌な性格の女に容赦しない事を知ってるが、ナディア嬢にはそんな事しないじゃないか」

「…まあ、姉だからね」


 それを言われると何だかシスコンだと言われているようで反論したくなるが、実際に姉であるナディアの事は慕っているので否定できない。
 ナディアは曲がった事が嫌いだ。そして、それを絶対に許さない。
 貴族の世界では正しい事だけを叫んでいられない事も、ナディアはちゃんと理解している。
 けれどその中でも、最低限守らないといけない事をしない輩は絶対に許さないのだ。


「それにしても、何でこんな勝負を…」


 ナディアからの手紙にはこう書いてあった。


『ローデウェイク王子殿下。久しぶりに勝負をしませんか?
 以前のように、負けた方は勝った方の言う事を一つきくと言う条件で。
 勿論この勝負によってお互いが不利益を被るような内容ではなく、ただ昔なじみのよしみで楽しみたいと思っております。
 私は負けるつもりは全くありませんが、万が一にも負けた場合はできる限りローデウェイク王子殿下の望みをかなえたいと思っております。
 くれぐれも常識的な内容でお願いしますね』


 と言うような内容を書いてあったのだ。
    ポイントとしては、願い事を「常識的な内容」でお願いしている所だ。それと「昔なじみのよしみで楽しみたい」と言っている所。
    この二つの文言は、ナディアが暗に「お遊びの範疇ですよ」と言っている事を示している。それなのにローデウェイクが真剣に取ってしまうと、負けた時に恥をかくのではないかとレイナードは危惧しているのだ。


「それで、ダンスパートナーだが…」

「下手に身分のあるご令嬢だと婚約者として選ばれたと思うかもしれないし、かと言って身分の低いご令嬢だとダンスやマナーに不安があるね」

「そこなんだよ…」

「もしかしたら姉上はこの状況を楽しんでるのかもね。性格悪いから」

「くそ、そこは否定できないな…」


 ローデウェイクはナディアに勝負を受けると返事をしていない。
 負けるつもりは毛頭ないが、万が一と言う事もある。それに勝負の為にダンスパートナーとしてわざわざ他国に来てくれる人なんているはずもない。
 色んな事を想定して考えた時に、あまりにも自分に不利な状況だと判断したのだ。


「じゃあ断るの?」

「それは何だか癪に障るが…」

「いっそ王妃様に頼んでみたら?」

「勝負の為に母上と踊るとか何の拷問だよ。嫌に決まってるだろ」

「なら今回のパーティーに参加する人の中で年齢の近いご令嬢はいないのか?」

「いない事もない」


 王妃付きの専属侍女ならいる。彼女達は伯爵家以上のご令嬢達だ。だが、ある意味で母である王妃のお気に入りの令嬢達なので、どの女性に声をかけてもまずい事にしかならないだろう。


「はぁ…どうするか…」

「まあチェスと的当て両方勝てばダンス対決しなくていいんだけど」

「…そうか、それもそうだな」

「気付いてなかったの?どっちも勝てば三戦目する必要もないし、引き分けの場合だけダンス対決がいる訳だから…ロイがどうしても嫌なら誰か器用なヤツにでも女装してもらうとか…」

「う…そ、それは最後の手段にしておく…」


 結局ダンスパートナーを決める事なく勝負を受ける事にしたローデウェイクだったが、それを見ていたレイナードは困ったように溜息をついていた。

 ローデウェイクの性格上、勝負を持ちかけられたら受けないと言う選択肢はない。
 そして負けん気の強さから滅茶苦茶頑張る事が予想された。

 けれど肝心のダンスに関しては、パートナーを決められなかったせいで合わせて練習する事ができない。
 だからこそ、この勝負を受けるにあたって一つだけローデウェイクから条件を持ちかけたのだ。

 その内容は。

 ダンスはパートナーを選ぶ事ができないので、他の内容で勝負したいとの事だった。


「他って、何を選ぶんだ?」

「乗馬」

「はあ?それってロイに随分有利じゃないか」

「だからだよ。そもそもチェスはナディア嬢が有利だろ?それに的当てもそうだ。彼女は投擲武器全般得意じゃないか。なら一つくらい俺の得意なものでもいいだろ」

「限りなくずるい気もするけど、まあ仕方ないのか…」


 呆れたようにレイナードがローデウェイクを眺めるが、ローデウェイクは平然としている。


「何でもかんでも向こうの言う通りにしないといけない理由はない。それにナディア嬢もだけなんだったら、反対する理由もないだろう?」

「…まあ、そうだけど」


 姑息な事を考えるな、とレイナードが心の中で呟く。
 そうまでして勝ちたいのだろうが、何度も言うが絶対にこの勝負に勝っても婚約者にはなれない気がするのだ。
 何かが引っ掛かるが、それが何なのか思いつかない。
 けれど目の前の学友であるローデウェイクは嬉々としてナディアに返事の手紙を書いていた。


「…よし、これでいい。レイナード、悪いがこの手紙をナディア嬢に渡してもらえるか?」

「はいはい、全く…。はしゃぐのはいいけどあまり期待しない方がいいよ?」

「分かってる。だが、絶対に勝って振り向いてもらう」

「これに勝っても振り向かないと思うけどね」

「友達がいのない奴だな。勝負を始める前からやる気をそぐような事を言うなよ」

「友人だと思ってるから言ってるんだよ。絶対に勝負に勝っても婚約者にはなれないと思っていた方がいいって」

「そこは何とかするさ」


 お気楽な返事にレイナードが諦めたような顔をする。
 そして手渡された手紙を持って帰路につく。


「姉上は?」

「自室にいらっしゃいます」


 家令が返答すると、レイナードはその足でナディアの部屋に向かった。
 ノックをすると返事が聞こえてきたのでドアを開ける。

 ナディアの部屋に入ると、満面の笑みを浮かべたナディアがレイナードを迎えた。


「レイナードじゃない。何か用?」

「ロイから手紙を預かって来た。はい、これ」

「あら、ありがとう」


 ナディアは手紙を受け取ると、すぐに開封して中を確認する。
 一通り目を通すと手紙を封筒になおし、レイナードに向かってニッコリと微笑んだ。


「乗馬で勝負ね、いいわよ。受けて立つと伝えておいてくれる?」

「本当に乗馬で勝負するんですか?危ないし、負けるかもしれないですよ?」

「そうねぇ、その時はその時じゃないかしら。エディ様とダンスで応戦したかったけど、ダンスは普通に踊ればいいから諦めるわ」

「そういう問題じゃないでしょう…、一体何を考えてるんですか」

「あら、勝負と言えば楽しむ事しかないわよ。それに、どうせ勝負するなら何かを賭けた方が楽しいし」


 そう言って悪戯っぽく笑うナディアを恐ろしい物でも見るような目でレイナードが眺める。
 そしてわざとらしく盛大に溜息をついてみせ、首を横に振って頭を押さえた。


「姉上、頼みますからロイを弄ばないでくださいよ。アイツはアレで本気で姉上が好きなんです。姉上がロイの気持ちに応える気がないのなら、こんなまどろっこしい事をせずに直接振ってやってください」


 そう言われてナディアが目を丸くする。


「あら、もう言ったけどそれでも諦めないと言われたのだからどうしようもないわよ。それにこの勝負はそういう意図じゃないもの」

「ならどういう…」

「ねえレイナード。普通に考えて婚約の件を賭け事で決めると思う?そんな事を考えているのなら、その考えを改めてもらわないといけないわ」

「…やっぱり」


 思った通りだ。
 ローデウェイクはこの勝負に勝ってナディアとの婚姻を固めたいと思っているが、ナディアの方はそんな気は全くない。


(はぁ…ロイ、お前絶対後悔するぞ…)


 レイナードは天井を見上げながら、この場にいない友人を案じずにはいられなかった。






    
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