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公爵令嬢の婚約事情
まだまだ作戦会議中
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楽しそうなナディアが少し可愛いと思ったエラディオだったが、話している内容は全然可愛いものではない。だがこれも惚れた弱みなのか、全くの不快感はなかった。
そして思いだしたようにエラディオが口を開く。
「カイラモ大公は元恋人をけしかけるとして、サーシス第一王子はどうするんだ?」
「ローデウェイク王子殿下は多分自滅しますわね」
「は?」
「ふふふっ、あの気性で地元の女性にも厳しかったとか。ですがそれでも屈しない女性はいると言う事を知らないのでしょう」
「どういう事だ?」
いまいちピンと来ないエラディオに対し、ナディアはオルガに向かい何かを持ってくるよう指示した。
そしてすぐに戻ってきたオルガは、束になった紙をナディアに渡した。
「これはエルシオンにいる執事のクエントからの報告書ですわ。お渡ししますので後で見てください」
「いいのか?」
「はい。おもに私への求婚者の素行調査証ですので」
「…それはまさか俺の事も書いてあるって事か?」
「勿論ですわ」
それを聞いてエラディオの表情が強張る。
何も悪い事はしていないし、女性関係に関してもマティアスのような事は何一つしていない。
エラディオは態度こそ横柄だが、本当に兄である国王に忠誠を誓っていたし、生涯独身を貫くと言うだけあり、女性関係は潔白だった。
「エディ様は完璧でしたので胸を張ってくださって大丈夫です」
「…その励まし方はどうかと思うぞ」
「見た目は遊んでそうに見えるのに残念です」
「おいチャド、ちょくちょく入って来るな」
「チャド、もう部屋の外で待機していて」
「申し訳ありません」
とうとう部屋から追い出されたが、チャドは清々した表情でエラディオを見てから退室した。
エラディオにすればこの報告書、これはこれで自尊心を抉る。
「…どう思った?」
「はい?」
突然そんな質問をされ、ナディアが首を傾げる。
エラディオはと言えば、若干気まずそうに視線を逸らしていた。
「あの、先程も申しましたがエディ様は完璧でしたよ?」
「だが、男として…この歳で一度も誰とも関係がないのは、アレだろ…?」
「まあ」
そう言われてナディアは目を瞠る。そして今度はナディアの方からエラディオの隣に移動し、そっと手を重ねた。
「男性からの評価は分かりませんが、私個人としては嬉しく思いますわ」
「…かっこ悪いだろ」
「まさか。女性を知ってるからと言って優れた男性である証にはなりません。それよりもエディ様はザクセン王家の事を考え、直径の血筋を重んじる為に万が一にでも子供ができるような事をなさらなかったのです。娼館に言って情を交わす事もできましたのに、それすら禁じたのは素晴らしいですよ」
「…王家の種をそこら辺にまき散らす訳にはいかねぇからな。いらん火種を俺が作るなんてもっての外だし、一度でも快楽を知ったら抜けられなくなるかもしれねぇだろ。そうならない為にも女を知らないままがいいと判断したんだよ」
「そこまでご自分を律する事ができるのは素晴らしいですよ。むしろ経験豊富な男性よりも素敵です」
実際にジョバンニは側近候補達と一緒に娼館に何度か足を運んでいた。
将来の為の勉強だとか言っていたが、ナディアにすれば汚らわしい行いだと思う。
娼婦を馬鹿にするつもりはないが、それでも夫婦になった時に一緒に経験するのではダメなのかと思っていたから。
そもそも婚約者にそれを言うのはどうかとも思ったし、サブリナには必死に隠していた事もムカついた。
まあ結局の所、サブリナの方が上を行く悪女だったのだが。
「エディ様」
「何だ?」
「私、エディ様に惚れ直しました」
「は?」
唐突に告げられエラディオが目を丸くする。
それを愛しそうにナディアが見つめ、そしてもう一度自分の気持ちをエラディオに告げた。
「お慕いしております、エディ様。貴方に選んでいただいて幸せです」
「ナディ…」
「大好きですわ」
「お、おい…」
ぎゅっとエラディオにしがみつくように抱き着く。
気付けば気を利かせたのかオルガをはじめとする使用人達は部屋から出ていた。
「ですから、どんな私を見ても、嫌いにならないでください」
「それはどういう意味だ?」
「フフフ、私が今からしようとしてる事は、決してあのお二人にとって喜ばしい事ではありませんわ。ですが、多分罪悪感なくしてしまうと思いますので」
「何だ、そんな事か。それなら全く問題ねぇよ」
フッと笑ってナディアの髪を撫でる。それが心地よくてナディアも嬉しそうに目を細めた。
「ありがとうございます、そう仰っていただいて勇気がでました」
ニッコリと微笑むナディアを見てエラディオは不思議そうに首をかしげる。
まだ何か企んでいそうな顔をしていたからだ。
「何を考えてる?」
「勿論エディ様の事です、と言いたい所ですが」
「そこは嘘でも俺の事と言って欲しかったぜ。それで、考えてるのはサーシス第一王子の事か?」
「正確にはサーシス第一王子ではなく、レイナードですわ」
「ナディの弟か?」
「ええ」
レイナードはローデウェイクの友人だ。隣国で同じ学び舎で学んでいた仲間である。
つまり、彼の周囲について一番近くで見て来たと言う、ナディアにとっては役に立つ存在だ。
ナディアは王都に戻ってからレイナードにローデウェイクの事を聞いていた。
ローデウェイクはサルトレッティ公爵家に数日間滞在した時にナディアを気に入り、自国に戻ってからもずっとナディアに定期的に手紙を送っていた。
手紙の内容は当たり障りのないものだったのもあり、ナディアも丁寧に返事を書いていたのだが、婚約破棄以降は領都に戻ったり各地を転々としていた事もあって、手紙のやり取りはぱったりと止まっていた。
「手紙ってどんな内容だったんだ?」
「今どんな勉強をしているとか、最近食べた物で美味しかったのは何だとか、そういった事でしたわ」
「本当に普通の手紙か」
「ええ。ですが時々ほのめかすような事も書かれていましたが、内容をチェックされてもギリギリ引っ掛からない程度でしたわ。私も今思えばあれはそういう意味だったのかと納得しますが、その時はまさか自分に気があると思ってませんでしたので…」
「だが頻繁に手紙が来るのはおかしいだろう?」
「レイナードにその事を手紙で質問したんですけど、殿下には気心の知れた友人が少ないから、きっと姉上に気を許して甘えているんでしょうねと書いてました」
「こっちもギリギリのラインだな」
エラディオが溜息をつき、ナディアも苦笑を漏らす。
「ですが私にはジョバンニ殿下がいましたし、それをローデウェイク殿下も知っていましたので、深く勘繰る事はしませんでした。せいぜい弟の友人が私を姉のように慕っているくらいにしか思わなかったんです」
「まあ、ありがちだからな」
「はい」
あの時はよく突っかかって来ていたが、結局の所寂しいのかもしれないと思っていたのだ。
だからこそ根気よく付き合っていたのだ。そうでなければ部屋に引っ込んで顔を見せるなんて事はしなかっただろう。
「それで、レイナードには何を聞いたんだ?」
「勿論女性関係ですわ。クエントの報告では派手な交友関係はなかったようですが、友人目線でレイナードから報告してもらったんです」
「それで、何か出て来たか?」
「ふふふふ、彼自身は潔白でしたが面白い事を教えてもらいましたわ」
ナディアが楽しそうに微笑む。
「ローデウェイク殿下はサーシス国の学園で、殿下に言い寄る女性にこう言ったそうです。
『俺との勝負に勝てない奴に俺の隣に立つ資格はない』と」
「はあ?勝負って、そりゃあ…」
「私とした勝負と同じ内容だそうですわ。チェス、狩り、ダンス。この三つで殿下を負かした女性にしか自分の妃の座は渡さないと言ったとかどうとか」
「完全にナディを意識してるじゃねぇか」
「本当ですわね。ですので今度は私からローデウェイク殿下に勝負を挑もうと思っております」
「は?一体何を…」
ナディアがとんでもない事を言い出したので、エラディオが目を丸くして驚く。
そして焦った様子でナディアを止めた。
「やめとけ。ナディが負けると思ってる訳じゃねぇが、万が一負けでもしたらどうするんだ?」
「負けた場合は相手の言う事を一つ聞く、これは以前と同じルールでしようと思ってます」
「婚約を持ちかけられたらどうするんだ!」
「その時は奪い返してくださいまし」
「え」
じっと真剣な目でエラディオを見つめ、ナディアがキッパリと告げる。
「チェスはいいですが狩りは王都でできません。ですので弓で的当ての勝負をしたいと思います。そして最後のダンスですが、私がローデウェイク殿下と踊るのではなく、お互いにダンスパートナーを選び、より優れたダンスを踊った方が勝利するという内容にしたいと思ってますわ」
「だがサーシス第一王子は相手なんていねぇだろ?」
「ええ。ですのでサーシス国からお一人、ローデウェイク殿下が選んだ女性にお越しいただくんですよ」
「…まさか、それが目的か?」
勝負を預けられる程の信頼できる相手なんて、そうそういないだろう。
けれどダンス勝負ともなれば、パートナーがいないと成り立たない。
ナディアはここでパートナーを連れて来なければコチラが不戦勝にするつもりなのだ。
勿論チェスと弓でどちらも勝利すれば、ダンス対決は無くなる。が、一勝一敗の場合勝敗を決めるのはダンスだ。
こちらは建国祭の際に参加した人達に見てもらい、より多くの拍手をもらった方が勝ちになる。
「パートナー選びは助言を貰ってもいい事にしますので、きっと殿下はレイナードに相談するでしょう。何しろサーシス国の女性と条件を付けますので。レイナードには色んな意味でローデウェイク殿下のパートナーに相応しいご令嬢を指名してもらうつもりです。サーシス国王夫妻もお越しになられますので、負けた後の事も視野に入れてのお相手選びになると思いますわ」
つまりナディアはローデウェイクのお妃候補になりうるご令嬢を指名させ、外堀から固めようと言っているのだ。
「だが、お前が負ければ意味がない」
「ご心配には及びません。負けるとしてもきっと弓の勝負でしょう。チェスは絶対に負けませんので」
「そこまで言うなら信じるが、それならダンスパートナーは…」
「勿論エディ様がしてくださるでしょう?」
「!」
当然申し出るつもりだったが、当たり前のように言われたエラディオは、ナディアが全面的に自分を信じてくれていると感じ、嬉しさに震えそうになる。
そして当然だと頷き、ナディアをそっと抱きしめた。
「こんな茶番馬鹿らしいが、ナディを諦めてもらう為にも付き合ってやるよ」
「ええ。絶対に負けませんわ。それに…」
「…何だ?」
「負けても大丈夫なように、事前準備はしっかりしておきますので」
「?」
ナディアの言葉に不思議そうにしているエラディオに向かって、ナディアは悪戯っぽく笑ってみせたのだった。
そして思いだしたようにエラディオが口を開く。
「カイラモ大公は元恋人をけしかけるとして、サーシス第一王子はどうするんだ?」
「ローデウェイク王子殿下は多分自滅しますわね」
「は?」
「ふふふっ、あの気性で地元の女性にも厳しかったとか。ですがそれでも屈しない女性はいると言う事を知らないのでしょう」
「どういう事だ?」
いまいちピンと来ないエラディオに対し、ナディアはオルガに向かい何かを持ってくるよう指示した。
そしてすぐに戻ってきたオルガは、束になった紙をナディアに渡した。
「これはエルシオンにいる執事のクエントからの報告書ですわ。お渡ししますので後で見てください」
「いいのか?」
「はい。おもに私への求婚者の素行調査証ですので」
「…それはまさか俺の事も書いてあるって事か?」
「勿論ですわ」
それを聞いてエラディオの表情が強張る。
何も悪い事はしていないし、女性関係に関してもマティアスのような事は何一つしていない。
エラディオは態度こそ横柄だが、本当に兄である国王に忠誠を誓っていたし、生涯独身を貫くと言うだけあり、女性関係は潔白だった。
「エディ様は完璧でしたので胸を張ってくださって大丈夫です」
「…その励まし方はどうかと思うぞ」
「見た目は遊んでそうに見えるのに残念です」
「おいチャド、ちょくちょく入って来るな」
「チャド、もう部屋の外で待機していて」
「申し訳ありません」
とうとう部屋から追い出されたが、チャドは清々した表情でエラディオを見てから退室した。
エラディオにすればこの報告書、これはこれで自尊心を抉る。
「…どう思った?」
「はい?」
突然そんな質問をされ、ナディアが首を傾げる。
エラディオはと言えば、若干気まずそうに視線を逸らしていた。
「あの、先程も申しましたがエディ様は完璧でしたよ?」
「だが、男として…この歳で一度も誰とも関係がないのは、アレだろ…?」
「まあ」
そう言われてナディアは目を瞠る。そして今度はナディアの方からエラディオの隣に移動し、そっと手を重ねた。
「男性からの評価は分かりませんが、私個人としては嬉しく思いますわ」
「…かっこ悪いだろ」
「まさか。女性を知ってるからと言って優れた男性である証にはなりません。それよりもエディ様はザクセン王家の事を考え、直径の血筋を重んじる為に万が一にでも子供ができるような事をなさらなかったのです。娼館に言って情を交わす事もできましたのに、それすら禁じたのは素晴らしいですよ」
「…王家の種をそこら辺にまき散らす訳にはいかねぇからな。いらん火種を俺が作るなんてもっての外だし、一度でも快楽を知ったら抜けられなくなるかもしれねぇだろ。そうならない為にも女を知らないままがいいと判断したんだよ」
「そこまでご自分を律する事ができるのは素晴らしいですよ。むしろ経験豊富な男性よりも素敵です」
実際にジョバンニは側近候補達と一緒に娼館に何度か足を運んでいた。
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娼婦を馬鹿にするつもりはないが、それでも夫婦になった時に一緒に経験するのではダメなのかと思っていたから。
そもそも婚約者にそれを言うのはどうかとも思ったし、サブリナには必死に隠していた事もムカついた。
まあ結局の所、サブリナの方が上を行く悪女だったのだが。
「エディ様」
「何だ?」
「私、エディ様に惚れ直しました」
「は?」
唐突に告げられエラディオが目を丸くする。
それを愛しそうにナディアが見つめ、そしてもう一度自分の気持ちをエラディオに告げた。
「お慕いしております、エディ様。貴方に選んでいただいて幸せです」
「ナディ…」
「大好きですわ」
「お、おい…」
ぎゅっとエラディオにしがみつくように抱き着く。
気付けば気を利かせたのかオルガをはじめとする使用人達は部屋から出ていた。
「ですから、どんな私を見ても、嫌いにならないでください」
「それはどういう意味だ?」
「フフフ、私が今からしようとしてる事は、決してあのお二人にとって喜ばしい事ではありませんわ。ですが、多分罪悪感なくしてしまうと思いますので」
「何だ、そんな事か。それなら全く問題ねぇよ」
フッと笑ってナディアの髪を撫でる。それが心地よくてナディアも嬉しそうに目を細めた。
「ありがとうございます、そう仰っていただいて勇気がでました」
ニッコリと微笑むナディアを見てエラディオは不思議そうに首をかしげる。
まだ何か企んでいそうな顔をしていたからだ。
「何を考えてる?」
「勿論エディ様の事です、と言いたい所ですが」
「そこは嘘でも俺の事と言って欲しかったぜ。それで、考えてるのはサーシス第一王子の事か?」
「正確にはサーシス第一王子ではなく、レイナードですわ」
「ナディの弟か?」
「ええ」
レイナードはローデウェイクの友人だ。隣国で同じ学び舎で学んでいた仲間である。
つまり、彼の周囲について一番近くで見て来たと言う、ナディアにとっては役に立つ存在だ。
ナディアは王都に戻ってからレイナードにローデウェイクの事を聞いていた。
ローデウェイクはサルトレッティ公爵家に数日間滞在した時にナディアを気に入り、自国に戻ってからもずっとナディアに定期的に手紙を送っていた。
手紙の内容は当たり障りのないものだったのもあり、ナディアも丁寧に返事を書いていたのだが、婚約破棄以降は領都に戻ったり各地を転々としていた事もあって、手紙のやり取りはぱったりと止まっていた。
「手紙ってどんな内容だったんだ?」
「今どんな勉強をしているとか、最近食べた物で美味しかったのは何だとか、そういった事でしたわ」
「本当に普通の手紙か」
「ええ。ですが時々ほのめかすような事も書かれていましたが、内容をチェックされてもギリギリ引っ掛からない程度でしたわ。私も今思えばあれはそういう意味だったのかと納得しますが、その時はまさか自分に気があると思ってませんでしたので…」
「だが頻繁に手紙が来るのはおかしいだろう?」
「レイナードにその事を手紙で質問したんですけど、殿下には気心の知れた友人が少ないから、きっと姉上に気を許して甘えているんでしょうねと書いてました」
「こっちもギリギリのラインだな」
エラディオが溜息をつき、ナディアも苦笑を漏らす。
「ですが私にはジョバンニ殿下がいましたし、それをローデウェイク殿下も知っていましたので、深く勘繰る事はしませんでした。せいぜい弟の友人が私を姉のように慕っているくらいにしか思わなかったんです」
「まあ、ありがちだからな」
「はい」
あの時はよく突っかかって来ていたが、結局の所寂しいのかもしれないと思っていたのだ。
だからこそ根気よく付き合っていたのだ。そうでなければ部屋に引っ込んで顔を見せるなんて事はしなかっただろう。
「それで、レイナードには何を聞いたんだ?」
「勿論女性関係ですわ。クエントの報告では派手な交友関係はなかったようですが、友人目線でレイナードから報告してもらったんです」
「それで、何か出て来たか?」
「ふふふふ、彼自身は潔白でしたが面白い事を教えてもらいましたわ」
ナディアが楽しそうに微笑む。
「ローデウェイク殿下はサーシス国の学園で、殿下に言い寄る女性にこう言ったそうです。
『俺との勝負に勝てない奴に俺の隣に立つ資格はない』と」
「はあ?勝負って、そりゃあ…」
「私とした勝負と同じ内容だそうですわ。チェス、狩り、ダンス。この三つで殿下を負かした女性にしか自分の妃の座は渡さないと言ったとかどうとか」
「完全にナディを意識してるじゃねぇか」
「本当ですわね。ですので今度は私からローデウェイク殿下に勝負を挑もうと思っております」
「は?一体何を…」
ナディアがとんでもない事を言い出したので、エラディオが目を丸くして驚く。
そして焦った様子でナディアを止めた。
「やめとけ。ナディが負けると思ってる訳じゃねぇが、万が一負けでもしたらどうするんだ?」
「負けた場合は相手の言う事を一つ聞く、これは以前と同じルールでしようと思ってます」
「婚約を持ちかけられたらどうするんだ!」
「その時は奪い返してくださいまし」
「え」
じっと真剣な目でエラディオを見つめ、ナディアがキッパリと告げる。
「チェスはいいですが狩りは王都でできません。ですので弓で的当ての勝負をしたいと思います。そして最後のダンスですが、私がローデウェイク殿下と踊るのではなく、お互いにダンスパートナーを選び、より優れたダンスを踊った方が勝利するという内容にしたいと思ってますわ」
「だがサーシス第一王子は相手なんていねぇだろ?」
「ええ。ですのでサーシス国からお一人、ローデウェイク殿下が選んだ女性にお越しいただくんですよ」
「…まさか、それが目的か?」
勝負を預けられる程の信頼できる相手なんて、そうそういないだろう。
けれどダンス勝負ともなれば、パートナーがいないと成り立たない。
ナディアはここでパートナーを連れて来なければコチラが不戦勝にするつもりなのだ。
勿論チェスと弓でどちらも勝利すれば、ダンス対決は無くなる。が、一勝一敗の場合勝敗を決めるのはダンスだ。
こちらは建国祭の際に参加した人達に見てもらい、より多くの拍手をもらった方が勝ちになる。
「パートナー選びは助言を貰ってもいい事にしますので、きっと殿下はレイナードに相談するでしょう。何しろサーシス国の女性と条件を付けますので。レイナードには色んな意味でローデウェイク殿下のパートナーに相応しいご令嬢を指名してもらうつもりです。サーシス国王夫妻もお越しになられますので、負けた後の事も視野に入れてのお相手選びになると思いますわ」
つまりナディアはローデウェイクのお妃候補になりうるご令嬢を指名させ、外堀から固めようと言っているのだ。
「だが、お前が負ければ意味がない」
「ご心配には及びません。負けるとしてもきっと弓の勝負でしょう。チェスは絶対に負けませんので」
「そこまで言うなら信じるが、それならダンスパートナーは…」
「勿論エディ様がしてくださるでしょう?」
「!」
当然申し出るつもりだったが、当たり前のように言われたエラディオは、ナディアが全面的に自分を信じてくれていると感じ、嬉しさに震えそうになる。
そして当然だと頷き、ナディアをそっと抱きしめた。
「こんな茶番馬鹿らしいが、ナディを諦めてもらう為にも付き合ってやるよ」
「ええ。絶対に負けませんわ。それに…」
「…何だ?」
「負けても大丈夫なように、事前準備はしっかりしておきますので」
「?」
ナディアの言葉に不思議そうにしているエラディオに向かって、ナディアは悪戯っぽく笑ってみせたのだった。
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