【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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公爵令嬢の婚約事情

女性を甘く見ると痛い目を見る1

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 コルト国の国王王妃両陛下が到着した翌日、ナディアはドルフィーニ国の王妃からお茶会に誘われ、王宮へと訪れていた。
 すでに待っていた両国の王妃と、その隣には美しい女性がナディアを見て微笑んでいる。


「よく来たわね、ナディア。こちらはコルト国の王妃で私の友人のリンダナよ」

「リンダナ・ヘイル・コルトよ。そして…」


   コルト国王妃が隣に控えていた女性に目配せをした。すると女性は恭しくお辞儀をする。


「お初にお目にかかります。コルト国モンセン伯爵が娘、キャンディスと申します。よろしくお願いします」

「こちらこそ、ドルフィー二国サルトレッティ公爵家ナディアと申します。以後お見知り置きくださいませ」


 お互いが美しいカーテシーをし、そして顔を上げて目を合わせる。
 なるほど、マティアスが長く寵愛していただけあり、キャンディス・D・モンセン伯爵令嬢は息をのむ程美しかった。


「とても綺麗な方ですわ…」

「えっ」


 ポツリと呟いたのはキャンディスの方だった。
 ナディアは無自覚だが、ナディア自身も相当の美女だ。
 そしてそんな二人を見ていたドルフィーニ国の王妃であるメルセデスは、コルト国のリンダナ王妃と目を合わせて微笑んだ。


「二人とも座りなさい。さあ、一緒にお茶をしましょう」

「キャンディス、こちらへ」


 両王妃に言われ、二人はおずおずと着席する。
 そしてしばらくは和やかに歓談していたが、ある程度お茶を楽しんだタイミングでナディアがキャンディスに切り出した。


「モンセン伯爵令嬢、ご無礼を承知でお手紙を送りまして申し訳ございませんでした」

「い、いえ!サルトレッティ公爵令嬢が謝るような事は何もありませんっ」

「ですが不躾だったのではと、少し後悔していましたの。メルセデス王妃陛下は大丈夫だと仰ってくださったんですが、リンダナ王妃陛下にもご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」

「あら、私は少しわくわくしているわよ?あのマティアスを懲らしめる絶好の機会をサルトレッティ公爵令嬢がくださったのですもの。キャンディスの為にも、そしてマティアスの為にも必要な事だと思っているわ」

「そう仰っていただけると助かりますわ。それで、モンセン伯爵令嬢の方は…」


 少し心配そうに様子を伺うが、キャンディスは苦笑しながらも首を振る。


「キャンディスで構いませんわ」

「それでしたら私の事もナディアと」

「わかりました、ナディア様」

「ありがとうございます、キャンディス様」


 堅苦しくお互いに家名で呼び合うのは無粋だと、名前で呼び合う事にする。
 そしてお互いの近況を報告しあい、来る建国祭のパーティーに備えることにしたのだった。




   ***



「サルトレッティ公爵令嬢はどうだった?キャンディス」


 ナディアとのお茶会の後、キャンディスはリンダナ王妃の部屋で王妃と向かい合って座らされていた。
 一応は話し相手コンパニオンとして着いて来ているので、特におかしな事は何もないのだが、如何せんキャンディスにすれば緊張の連続だ。
 そしてこの王妃の質問に、キャンディス自身が下を向き小さな声で答えた。


「想像していたよりもずっと、美しくて素敵な方でした」

「そうね。ある意味婚約破棄をしでかしたジョバンニ王子を疑うくらいにね」

「はい」


 王妃は内心この2人を引き合わせた時のキャンディスの心情を心配していたが、キャンディスは初めのような憎しみを持つことはなかった。


「あのような方でしたらマティアス様が夢中になるのがわかる気がします」

「あらあら。貴女だって彼女に負けず劣らず素敵な女性よ?」

「いえ、私は嫉妬で回りが見えなくなっていましたから」

「今はもう吹っ切れたのかしら?」


 意地悪な笑みを浮かべて問いかける王妃にキャンディスは苦笑しながらも首を横に振る。


「吹っ切れた訳ではありませんが、今は…」

「ブラスタ侯爵が随分と貴女を慰めていたものねぇ」

「…!そ、それは…っ」

「いいじゃないの、新しい恋。マティアスをいつまでも追いかけるよりもずっといいわ」


 あの日、ガブリエルとキャンディスを引き合わせてから、ガブリエルは随分とキャンディスに対して努力して接していた。
 頑なになっていたキャンディスの警戒心を解く程に、ガブリエルはキャンディスに誠実だった。
 すぐに体の関係を要求したマティアスとは違い、心と心の繋がりを大切にしたいと言われ、キャンディスも少しずつガブリエルに絆されていったのだ。


「ガブリエル様は…どうして私のような者にあんなに親切にしてくださるのでしょうか」

「好きだからでしょう?最初に言われていたじゃないの」

「そ、そうですけど…私は捨てられた女ですので…」

「自分をそんな風に言うものではないわ。それに捨てられたのではなく、のよ。そこを間違えてはダメよ」

「で、ですがマティアス様はナディア様をお慕いしているのですよ?今更元愛人がのこのこと顔を出したからと言って、執着するような事はないと思います」

「だからこそのブラスタ侯爵でしょう?」


 それはそうなのだが。
 キャンディスもガブリエルの事を少なからず好ましいと思い始めている事もあり、彼をだしに使うやり方に疑問を持ち出したのだ。
 このまま当て馬のような役割を、あの優しい人にさせてしまってもいいのだろうかと。
 それを考えるとどうしても尻込みしてしまう自分に嫌気がさしていた。


「今更だとは思ってます。ですが、ガブリエル様を利用してマティアス様を…そんな事をすると私もマティアス様と同じになってしまいそうで…」

「うふふふ、貴女随分とおとなしくなってしまったのね。あんなにサルトレッティ公爵令嬢を憎んでいたのに、今では全く何も感じていない。それどころかブラスタ侯爵の事を考えて、今の状況を心苦しく思っている」

「…」

「素敵じゃないの。男は好きな女に多少振り回される事なんて何とも思わないわ。それどころか喜ぶ方だから」

「そんなものなのでしょうか?」

「そんなものよ」


 楽しそうに微笑むリンダナ王妃を複雑な気持ちで眺めていたキャンディスだったが、この国に同行すると決めた時にはガブリエルを利用する事を了承してもらっている。
 むしろガブリエルにすれば、キャンディスに利用されると分かっていても、この役目を他の男に譲るつもりはないと、きっぱりとキャンディスに告げていた。


「パーティーは二日後と聞いているわ。貴女のドレスもブラスタ侯爵が用意してくれているし、何も心配しなくてもいいのよ」

「それこそ申し訳ないですわ…」

「好きな女性にドレスの一つや二つプレゼントするくらい、ブラスタ侯爵にとってはどうって事はないわ。それよりも甲斐性なしだと思われる方が心外なんだから、何も言わずに受け取ってあげなさい」

「はい…」


 ドレスは正直うれしかったのだ。
 用意してくれたものは、キャンディスにとても似合っていた。
 色合いもデザインもガブリエルの服装と合わせた物らしい。


(マティアス様を完全に忘れた訳ではないと思うけど…)


 ただ色褪せて来ているのは確かだった。
 そして今鮮やかに色付いているのは、ガブリエルとの時間だ。

 ガブリエルとは健全な付き合いだし、マティアスの時のようなスキンシップもない。
 けれど穏やかに過ぎるガブリエルとの時間はキャンディスにとって大切で、今ではなくてはならない存在になりつつあった。


(どちらにしても、マティアス様に会えばこの気持ちに終止符を打てるわ)


 最初は絶対にあきらめない、ナディアなんて蹴落としてやると思っていた。
 けれど今はそんな気持ちは綺麗に消えてしまっている。

 一度捨てられてしまったのだ。恋心が再燃する事は難しいだろう。


 そんな想いを胸に、キャンディスは来る建国祭に向けて、自分の気持ちの整理をする事にしたのだった。



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