【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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公爵令嬢の婚約事情

建国際の前に

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 ローデウェイクとの対決後、ナディアはマティアスに呼び止められた。


「ナディア嬢、少しいいですか?」

「はい、何でしょう?」


 立ち止まって振り返ったナディアは、マティアスに向き直って笑みを浮かべる。


「サーシス第一王子との対決が終わったのでしたら、今度は私との時間を取っていただきたい」

「それは…」


 マティアスの申し出にナディアが首をかしげる。


「お茶をする、とかでよろしいのでしょうか?それともローデウェイク殿下のように私と勝負なさいます?」

「いや、勝負はやめておくよ。君に勝つには相当運がよくないと無理だろうし」

「そんな事はありませんよ」


 ナディアがクスクスと笑う。
 その様子を眩しそうにマティアスが眺めていたが、それを遮るようにエラディオが二人の間に割って入ってきた。


「ナディが勝負事に強かろうが弱かろうが、ナディは俺の正式な婚約者だ。いくらコルト国大公のカイラモ殿であっても、横恋慕はやめてもらおうか」

「エディ様…?」


 突然割り込んできたエラディオに驚いたらしく、ナディアは目を丸くしてこちらを見ている。その様子が可愛いと不謹慎にも思ったエラディオだったが、表情を崩すことなくマティアスを見据えた。


「サーシス第一王子は許すのに、ですか?」


 マティアスは困ったように微笑みを浮かべてエラディオに問う。が、エラディオは鼻で笑うかのようにその問いに答える。


「ナディの弟の友人で、ナディとも文通していた仲だったからな。本来ならあの勝負もさせてねぇよ」

「では私との事も大目に見ていただきたいですね。貴方はナディア嬢を領地まで追いかけて彼女を捕まえたようですが、我々にはその時間すら与えてもらえていないのです。少々不公平では?」

「あんたはナディが言い寄ればなびく女だとでも思ってるのか?コイツは例え相手が国王であっても、自分が嫌なら嫌だと言える女だ。俺達のように地位のある男にフラフラと近付くそこらの令嬢と一緒にすんな」

「…それはそれは。随分と自信満々なお言葉ですね。ならば余計に私との時間を取っても問題ないでしょう」

「それとこれとは別問題だ。ナディの印象を社交界で悪くしたいのなら別だが、俺と言う婚約者がいるのにカイラモ大公と一緒にいれば、不本意な噂の餌を蒔くようなものだ。カイラモ大公ともあろう人がそれに気付かないはずがないだろう」


 要はナディアの立場を考えての申し出だと告げるが、それをマティアスは一蹴するように笑い飛ばした。


「ハハハハ、そのように必死になるとは余程自信がないと見えますね。ナディア嬢のように素晴らしいご令嬢が、少々のスキャンダルで失脚するとでもお思いですか?」

「社交界から締め出される事もあるって言ってんだ。あんたも相当性格悪い奴だな」

「締め出されるようなら我が国に連れて帰りますよ。私が大切に彼女を保護しますので」

「うわ、ヤバイぞナディ。こいつかなり危ない思考してるぜ」

「エディ様…」


 嫌悪感を隠そうともせず、エラディオが引き攣った顔でナディアに呟く。
 それを困ったように見ていたナディアだったが、フッと口元に笑みを浮かべてマティアスを見つめた。


「そこまで仰るのならお時間を取りましょう。ですが、二人きりは承諾できませんので、私の護衛と侍女は連れて行きますがよろしいでしょうか?」

「それで構いませんよ」

「それで、いつお時間を作ればよろしいのですか?」

「それは…」


 言いかけてマティアスがエラディオをチラリと見る。
 その視線を受けてエラディオが訝し気にマティアスを眺めると、少しだけ勝ち誇ったように口元を歪めて笑みを浮かべ、すぐに表情を変えてナディアを見つめた。


「建国祭でのパーティーで、私のエスコートを受けていただきたい」

「「え」」


 とんでもない申し出にナディアとエラディオが同時に声を上げる。
 そしてお互いの顔を見合わせ、同じタイミングで二人はマティアスに視線を戻した。


「それは無理ですわ」


 ナディアがスッと表情を消して答える。
 これは自分に対してだけでなく、エラディオに対しても随分と失礼な申し出だからだ。
 だがその返事は想定内だったのか、マティアスは苦笑をしているだけだ。


「残念です。言ってみただけだったのですが」

「そういう冗談は笑えませんのでやめてください」

「わかりました。ではパーティーで私とも踊っていただけませんか?」

「…そのくらいなら」


 まだ何か企んでいるのかと勘繰るが、さすがにダンスを断るのはどうかと思い、一応は承諾する。
 するとマティアスが嬉しそうに破顔し、ナディアの手をそっと取りその甲に口づけを落とした。


「おいっ」


 思わずエラディオがその手を払いのけ、ナディアを自分の方へと引き寄せる。
 それを余裕の笑みで眺めていたマティアスは、ナディアに向かって優雅にお辞儀をした。


「ではナディア嬢、また後日お会いしましょう」

「…ええ」


 そう言ってマティアスは侍従を連れ、城の中へと戻って行った。
 それを見ていたエラディオは不機嫌そうにつぶやく。


「気に入らねぇな」

「本当ですね」

「え」



 即座に同意したナディアにエラディオは思わず驚きの声を出してしまい、それに驚いたナディアはエラディオを不思議そうに見つめる。


「何かおかしいですか?」

「いや、お前も気に入らないと思ったのか?」

「はい」


 キョトンとした顔で、それでも即答するナディアをエラディオがマジマジと眺める。
 ナディアはナディアで何がそんなに不思議なのかといった表情だ。


「あの、エディ様はカイラモ大公殿下が気に入らないのでしょう?」

「あ?ああ、まぁな」

「私も同じ気持ちですよ」

「そうなのか?」

「勿論です。ご自分の顔と立場を理解し、最大限に利用して女性を虜にしてきた方のようですが、私にもそれが通用すると思っている所が気に入りませんわ」


 不本意だと言わんばかりのナディアの様子に、ようやくエラディオが納得する。
 つまり自分に絶対の自信を持っているマティアスの態度を見て、ナディアの事も軽く見ていると捉えたのだろう。


「ああいう自信過剰な男は一度挫折を味わった方がいいな」

「奇遇ですね、私もそう思ってました」


 エラディオの言葉にナディアは同意し、そして少し意地悪な笑みを浮かべる。


「安心してください。すでに手は打ってありますので」

「そりゃあ頼もしいな」

「ウフフフ、やはり行いに対してのブーメランは必要ですもの。カイラモ大公殿下も頭を打つ時が来たと理解されるでしょうね」

「何をする気だ?」



 自信満々のナディアにエラディオも楽しそうに問いかける。だがナディアはクスリと悪戯っぽく笑い、そして唇の前に人差し指を立てて


「ナイショですわ」


 とだけ呟いた。




 そして。

 その翌日、ドルフィーニ国の王宮にコルト国の国王と王妃が到着したとの連絡がナディアの元に入ったのだった。



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