【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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王弟殿下と公爵令嬢

予定と違ってしまった2

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 怒りなのか恐怖なのか、ルシアとアイリスの二人は顔面蒼白でこちらを見ている。


「な、何の事か分かりかねますわ。私達はたまたまこの場に居合わせただけですし」

「そ、そうですわ。それよりもサルトレッティ公爵令嬢が心配ですわ。このような…」

「このような、何です?」


 すうっと目を細めて二人を見据える。


「このような場所で、数人の男性と密会だなんて…」

「数人の男性と密会ですか」

「そうですわ!一体何をされていたのか…ねぇ、アイリス様?」

「ええ、ルシア様」


 ニヤニヤと笑いながら物陰から出て来た二人だったが、それを平然と見ていたナディアはフッと笑みを浮かべる。


「おかしいですわね。密会なんてしてませんけど」


 そう尋ねるとアイリスが勝ち誇ったようにナディアを指摘する。


「嘘よ!サルトレッティ公爵令嬢がそこの休憩室に男性に抱きかかえられて入って行ったのを、私達は見ましたもの!」

「そうよ!その後数人男性が入っていったのもね!」

「まあ」


 アイリスの後にルシアも得意げに声を上げる。
 するとエラディオが地を這うような声で二人に問いかけた。


「…つまり、俺の婚約者であるナディが複数人の男に襲われそうになっているのを知っていて、お前達二人はそこで見ていただけだったって事だな」

「えっ」

「そしてご丁寧にドアの前に見張りを立たせ、誰も入れなくした」

「い、いえっ、私達はそんな事は…!」

「と言いますか、こんな穴だらけな計画をよく王妃陛下のお茶会で決行しましたわね。ドン引きですわ」

「リシュア様!?な、何故…」


 突然現れたリシュアにルシアとアイリスが目を瞠る。
 が、リシュアは手に持った扇子をパシンパシンと掌に打ち付けながら、周囲の様子をぐるりと見渡し溜息をついた。


「大方サルトレッティ公爵令嬢が何度招待してもお茶会に来なかったからでしょうけど、この程度の計画性しかないなんて…」

「なっ、そ、早々に王弟殿下を諦めたリシュア様に言われたくありませんわ!」

「そ、そうよ!」

「わたくしは諦めたのではなく、見極めたのですわ。このまま殿下を追いかけても利がない事は明白ですもの。
 それよりもよりによってこのわたくしの目の前で薬入りのお菓子を食べさすなんて、余程自信があるのかと思ったらこの体たらく…情けないですわね」

「「なっ!!」」


 リシュアに呆れたような目を向けられ、ルシアとアイリスは怒りで顔を真っ赤にした。


「そんなもの!この女が純潔でなくなればどうとでもなるわ!!」

「そうよ!もうすでに手遅れですのよ!?」

「手遅れ?さっき違うとサルトレッティ公爵令嬢が言ってましたけど」

「そんなの強がりに決まってるわ!」

「だそうですわよ?本当の所はどうなのです?」


 疲れたようにリシュアがナディアに問いかける。
 

「まあ。私の姿を見てもまだそんな疑いをもたれるなんて」


 そう言いながらナディアはクルリとその場で回って見せた。


「貴女の姿がどう…!」


 言いかけてアイリスが口籠る。
 ナディアの姿は少しの乱れもなく、お茶会でいた時のままだった。
 襲われたと言うのなら、髪や服が乱れていてもおかしくない。
 だがナディアの髪もドレスも美しい形状を保ったままだ。


「う…うそよ…」

「そんなバカな…」


 がっくりと項垂れる二人の前にエラディオが立つ。
 そして射貫くような視線で二人を睨んだ。


「もういいか?いい加減俺も我慢の限界だぜ」

「ひっ」

「ち、違うんです!これには深い訳が…!」

「ああそうだろうなぁ。何しろ俺の唯一の愛しい婚約者に一服盛った挙句、男を宛がったんだ。海よりも深い事情をきっちりと話してもらうぜ。おい、こいつらを連れて行け」

「はっ」

「い、いやああっ!!違うんですっ!助けてください!!」

「エラディオ様ぁ!!誤解ですわ!!」

「勝手に名を呼ぶな。次に俺の名を口にしたら二度と喋れないようにしてやる」

「!!!!」


 射殺すかのような鋭い視線に、二人は言葉を失う。
 そしてバルテルが連れて来た城の衛兵に拘束され、二人はどこかへ連れて行かれてしまった。


「全く、こんな手荒な真似を選ばなくても…」


 リシュアが残念そうにつぶやく。
 それに同意するようにナディアも頷いた。


「本当ですねぇ。無駄な事をして余計にエディに嫌われてしまうなんて」

「貴女ね…」


 あっけらかんとしているナディアを前にリシュアも呆れ果てる。
 そして同情するような視線をエラディオに向けた。


「王弟殿下もご苦労されますわね。婚約者の方がこのように破天荒な方でしたら、心労は尽きませんでしょうし」

「…今回ばかりは違うとは言い難いが、それでもまあこれがナディだ」

「あまり甘やかさない方がよろしいかと」

「甘やかしてるつもりはねぇんだがなぁ…」


 遠い目をして呟くエラディオだったが、ふとある事に気付く。


「そう言えばナディ、お前一服盛られたのは大丈夫なのか?」

「平気ですよ」

「…本当に何ともねぇんだな」

「そうですね。アレを口にしてどうにかなった事はないので。ですが、一応オルガが解毒剤を持ってますので、後で飲んでおきます」

「解毒剤があるのなら今飲め!」


 さらっと大事な事を告げられ、エラディオが声を上げる。
 仕方なくナディアはオルガに目配せし、オルガも水を取りに行ってしまった。

 そこへ優雅な足取りで王妃が現れた。


「終わった?ナディアちゃん」

「はい、つつがなく」


 ニッコリと微笑むアステリアにナディアも微笑み返す。
 そして何やら聞き捨てならないセリフにエラディオの表情が強張った。


「義姉上、今『終わった』かと聞いてたが、ひょっとして知ってたのか!?」

「むしろ知らないと思う方が可笑しいわよ。だからこそ席を外したのよ」

「はあ!?」


 エラディオが驚きの声を上げるが、アステリアは平然としている。
 何とも言い難い表情を浮かべているエラディオに、ナディアはそっと近づきその腕に手を添えた。


「エディ、怒らないでね。アステリア様には事前に色々とご協力していただいたの」

「協力だと?」

「ええ。オルガが屋根裏部屋から援護できるように手配してくださったり、使える休憩室をここだけにしてくださったり、暗部の方を監視役に貸してくださったり、伯爵令嬢と侯爵令嬢の行動を監視してくださったり」

「おい」


 思ってた以上に色々と協力しているようで、思わずエラディオは突っ込みを入れる。
 それに対してクスリと笑みを零したナディアは、アステリアに向かって丁寧にお辞儀をした。


「アステリア様、ご協力感謝致しますわ」

「あら、構わないわよ?ナディアちゃんの敵を潰す絶好の機会でしたもの。あの二人、これからどんな言い訳をするのか楽しみだわぁ」

「大体想像はつきますが」

「でもミナージュ伯爵やシルバーバーグ侯爵はどうするのかしらね?まさか王弟の婚約者に薬を盛って男性をけしかけた娘を、そのままにしておくなんて事はないでしょうけど」


 意味深に目を細めて呟くアステリアに、リシュアも小さく息を吐く。

 ある意味早々にエラディオを諦めて良かったと、つくづく実感したのだ。


「…だから言ったのに」


 思わず呟くとナディアが苦笑を漏らす。


「そうは言ってもご自分に自信がある方達でしたから、私さえ排除できればどうとでもなると思ってらっしゃったのでしょうね」

「それはバカの発想よ。現にエラ…王弟殿下は貴女にぞっこんですもの。相手が貴女でなければ婚姻も考えなかったのだから、その時点で気付くべきだわ」

「まあ、そんなセリフがゴメス公爵令嬢から聞けるなんて」

「…分かってるわよ、完全にブーメランだって事くらい」


 リシュアも最初は自分が婚約者だとナディアに食って掛かって行ったのだ。
 今のセリフは完全に自分に返ってくるモノだったが、今では考えを改めている。
 何かをしでかしてしまう前に気付けて良かったと、本気で思っているのだ。


「まあ、私は特に公にするつもりはないのですけどね」

「はあ?ダメに決まってるだろ!ナディにこんな事をしでかして、無罪放免なんて絶対に許さねぇからな」

「そうですねぇ…アステリア様はどう思います?」

「わたくし?」

「はい」


 クルリと振り返りアステリアに意見を求めると、アステリアがニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「ナディアちゃんがこちらに全権を譲ってくれるのなら、色々とやりたい事があるのよねぇ」

「あ、ではそのようにお願いします」

「おい」

「ちょっと」


 今度はエラディオだけじゃなく、思わずリシュアも声を上げる。
 そんな二人にアステリアとナディアはきょとんとした顔で振り返り、そして何気なく顔を見合わせる。
 そしてふふふふと二人が不気味に笑い出し、そんな二人をリシュアは若干引き気味に眺め、エラディオはやれやれと言った様子で頭をかいた。


「あの、何をなさる気でしょうか?」


 おずおずとリシュアが尋ねると、アステリアはパチリと片目をつぶり、「秘密よ」とだけ呟く。
 どうやらシルバーバーグ侯爵家とミナージュ伯爵家は大変なお灸をすえられる事になりそうだ。



 
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