グラサン幼女の異世界とらべるっ! ~最強の【魔眼】を宿す転生幼女は、もふかわ神獣を連れてスローライフな旅路を楽しみます~

空戯ケイ

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第1章 始まりの街『グリィト』

第18話  感動の絶景

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 小型犬のサイズから、元の大きなサイズに戻ったモッフィ。
 そんなモッフィのもふもふ背中に跨がって、わたしたちは森の獣道を進んでいた。
 グリィトの街のすぐ近くにある森をあてもなく進む。
 わたしはモッフィの背中でゆさゆさと揺られながら、ネモさんから受け取った依頼書を眺めた。

「改めて確認するけど、今回わたしたちが受けたクエストは薬草採取。採ってくる薬草はペロナ草が十本と、ヒールフラワーが三輪か。依頼書の地図だと……森をちょっと進まないといけないみたい」

 薬草採取の依頼書には、大まかな地図も記載されていた。
 グリィトの街と森の全体像が簡易的に描かれていて、薬草の採取スポットが森のやや内側にある。

「ただ、地味~に距離感覚が掴みにくいんだよね。ネモさんとかギルドの受付嬢さんにも聞いてみたから何となくは分かるんだけど……」

 それでも、わたしはまだ異世界で目覚めてまもない幼女。
 やはりちょっぴり不安はあるかも。
 と思っていると、わたしはピコーン! と名案を思い付いた。

「そうだ! モッフィってフェンリルなんだから、こういう薬草の場所とか分かったりしないの?」
「そんな草など分かるものか。『魔草』や『霊草』の類いならばともかく、ただの薬草など我にとってはそこらに生える雑草と何ら変わらぬ」
「……さいですか。ちなみに、『魔草』と『霊草』ってなに?」
「魔力や霊力が詰まった草花のことじゃ。この森の中にも仄かに気配はするが、まあ珍しいモノであるがゆえ一般人がそう目にするものではなかろう」

 モッフィはつまらなさそうに言う。
『魔草』とか『霊草』は、薬草の上位互換みたいな感じかな。
 でも、今回のクエストの目的は薬草採取なので、再度依頼書に視線を落とす。

「ううむ。やっぱりベルドさんたちに着いてきてもらった方が良かったかなぁ? セリエーヌちゃんの知識があれば森の場所とかはどうにかなるかと思ってわたしたちだけで出てきちゃったけど」

 山奥の粗末な小屋からこのグリィトの街までの経路は、セリエーヌちゃんの知識を使っておおよそイメージできた。
 でも、よくよく考えると詳細な土地勘があるってほどでもない。
 なんとなく、大まかな場所と位置関係が頭に入ってる程度だ。

 だけど、モッフィはぷいっと顔を背けた。

「あやつらなど不要じゃ。大所帯になっても邪魔なだけじゃからな」

 それよりも、とモッフィが鋭い視線をわたしに向ける。

「アイリよ。くろわっさんはちゃんとあるんじゃろうな?」

 はあ……、とため息を吐いて、わたしは肩から下げたマジックバッグをポンッと叩いた。

「あるよ。さっき街を出る前にモッフィがうるさいから買っといたでしょ。今はわたしのマジックバッグの中にちゃんと収まってるよ」
「そ、そうか。ならば良い」
「でも、薬草採取を終えるまでクロワッサンは禁止だからね。さっきベルドさん家で朝食もいただいたし、腹ごしらえは済んでるんだから。まずは薬草採取を完遂させることを第一に動くよ」 
「な、なんじゃと!?」

 ガーン! とショックを受けた顔でわたしに振り向くモッフィ。
 もふもふの尻尾がへなへなとしおれた。

「当然でしょ! わたしたちはピクニックしに来たわけじゃないんだから! 早くクロワッサンを食べたかったら、薬草をささっと見つけることだね!」
「むぐぐ……かくなる上は!」

 モッフィが顔と尻尾をシャキーン! と上げた。
 フンス、と鼻息を荒くして吠える。

「我があの山の頂まで連れていってやる! かすかに『魔草』の匂いが漂ってくるがゆえ、きっと薬草ごときわんさか生えまくっておることであろうて!」
「え! ちょ、ちょちょ、モッフィ!?」
「とっとと行くぞアイリ! 全ては、くろわっさんのために!!」
「ま、待って! そんなに張り切ったらまた凄いスピードでぇ――――うわぁぁあああああああああっ!?」

 ガクンッ! と体が傾く。
 凄まじい初速。有無を言わさぬ圧倒的スピード!
 ビュオオオオオ!! と猛烈な空気抵抗を幼女の小さな全身で感じながら。
 モッフィはわたしの悲鳴を無視し、爆速で森の斜面を駆け上がっていくのだった――。



 ■  ■  ■



 モッフィによる地獄の爆走コースを体験させられた後、わたしは疲弊しきったようにうっすらと草が生える地面に倒れていた。

「はあ、はあ、はあ……と、とんでもない目にあった」

 モッフィが魔力で落下しないように固定してくれたけど、それでも精神力はごっそり削られた気分だ。
 安全バー無しでジェットコースター乗ってるみたいなモンだからね、これ。
 こんな絶叫体験、ごめんこうむる。

 泣き言を言うわたしをモッフィは軟弱者を目で見下ろした。

「なんじゃ、これくらいの運動で情けない。もっと体を鍛えた方が良いのではないか? これでもだいぶ手加減して走ったのじゃぞ?」
「ただの幼女を神獣と同じ基準で測らないでよ!?」

 ガバッと起き上がり、抗議の声を上げる。
 ていうか、幼女とか関係なくフェンリルの背中に乗って山中を爆走されたら誰だってビビるでしょ!
 チビらなかっただけ褒めて欲しいくらいだ!

 ……とはいえ、こんなことをモッフィに言っても仕方ない。
 ガックリと肩を落としたわたしは、少し回復できたので気を取り直して周りを見渡した。

「で、ここは……?」

 わたしはどこにいるんだ?
 モッフィが止まってわたしを下ろしたってことは、ここが山頂? 
 標高が上がっているからか、グリィトの街にいた時よりも少し涼しい風が吹いていた。

「あ、あっちに広い空間がある」

 立ち上がり、てくてくと歩みを進める。

 そこは、山頂の一角に形成された崖のような場所だった。
 わたしはその崖の上を歩き、山頂からの景色を見下ろす。  
 そして、思わず息を飲んだ。 

「うわぁ……!! すっごい絶景だぁ――っ!!」

 晴れ渡る空と、若葉色がうねる木々の樹冠。
 鬱蒼と生い茂る森の稜線。
 一面、晴天と森林がどこまでも視界を埋め尽くす。
 遠くでは、竜ともコウモリともつかない謎の鳥が数羽はばたいているのが見えた。
 時間の流れが酷くゆっくりに感じ、新鮮な空気が肺を満たして体中に巡っていく。
 わたしは、じんわり、と心が澄みわたるような感覚に襲われた。

 これは紛うことなき、異世界の絶景――!!

「こんな綺麗な景色、見たことない……! スゴすぎるよ……!!」

 前世は社畜OLで、残業続き。
 たまの休日だって上司からかかってくる電話一本で出社したことも何度もあるし、そもそも基本的に仕事を家に持ち帰ってるから完全プライベートの自分の時間なんて取れたものじゃなかった。
 当然、旅行なんてもってのほか。
 行ってみたい場所はいくつかあったけど、どれも"いつか行ってみたい"止まりで、ずっと会社のプレッシャーと上司の嫌みと資料作成に向き合い続ける人生だった。

 そんな灰色の人生を送って、抑圧に抑圧を重ねてきた人生だからこそ、わたしは初めてちゃんと実感した気がした。
 これが、『感動』なのだと!!

 ――ただ、一つ。
 惜しむらくがあるとするならば。

「……このグラサンか。せっかくの絶景だっていうのに、こんな黒いレンズ越しだと感動も半減だよ。うぅ、味気ない……!」

 やっぱり、生の景色を見たい!
 サングラスのレンズの端からこぼれる世界じゃなく、色彩あふれる異世界の絶景を自分の目で味わいたい!

 ちょっとくらいなら、大丈夫だよね?
 わたしは思いきって、『神のサングラス』を外してみた。
 瞬間、ドバッ! と洪水のような鮮やかな色彩が網膜に流れ込む。
 わたしは目を見開き、歓喜に心を震わせた。

「わあ! すごい! やっぱり生の景色は格別だぁー!!」

 両手を広げ、森を見渡した。
 体を吹き抜ける風が心地よく、ゆるふわの金髪が優雅に揺れる。

 異世界の森と全身が同化するような一体感。
 背中に生えた翼でこのまま青空に羽ばたいていけるんじゃないかと錯覚してしまいそうな万能感。

 だんだん心臓の鼓動が高まる。
 爛々と意識が覚醒していく。
 まさに最高のリラクゼーション!
 その心地よい体験に身を任せて、押し寄せる『感動』をありのまま味わい、噛み締める。

 ――だから、気付くのが遅れた。

 代謝が促進されるように魔力がぐんぐんと全身を駆け巡り、わたしの『両目』が滾り出していることを。
 赤と青のオッドアイ。
 宝石のような瞳が煌めく。
 深紅に染まる右目は熱を帯び、パチパチッと火花が散った。
 透き通るような青色に染まる左目はシャバシャバと涙腺が緩み、視界が水分で滲んだ。

 ようやく異変に気付く。
 こ、この感覚は!?

「……はっ! や、やば――」


 ――――ドガガァァアアアアアアアアアン!!


 森林の一角からとてつもない大きさの火柱が出現し、大爆発を起こした。
 同時に、ビシャシャーッ! と、とぐろを巻くように回転する水の渦がドリルのように木々を削り取り、爆散するように弾けた。
 隣り合うように二ヶ所に放たれた、炎と水の大魔法。
 天変地異のような災害に、森中がざわめき、鳥類型の魔物たちが「ギャアギャア!!」と半狂乱になりながら一斉に散り散りに飛び立っていく。

 これが、『虹の魔眼』の暴発。
 遅れて爆風がわたしの元まで届き、ズォオオオオ! と猛烈な風がゆるふわ金髪とふりふり衣服をはためかせる。

 しばらくして爆風が止んだところで、ざふっ、と足音が聞こえた。
 わたしの横に並んだモッフィが、アホを見る目でぽつりと言った。

「……お主、何をやっておるのじゃ?」
 
 冷静なツッコミ。
 わたしは両手で顔を隠して、男泣きするしかなかった。
 プルプルと体を震わせながら、わたしは心の中でぶちギレ絶叫した。

 クッソー!!
 やっぱグラサンがないと生きてけないのか、わたしはーーっ!!

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