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第六話 一匹狼
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グラジオラスに追放を言い渡した翌日、イオーネらは彼の代役となる女性をギルドハウスで待っていた。
ティーガンとイオーネは目の下にクマができており、モチはずっと欠伸をしている。
時計の針がカチカチと鳴り響くのがよくわかるほどの静けさ。
昔からご近所で互いをよく知っている三人からすれば、この静寂さは気まずいものではなく、寧ろ心地良い部類の空気である。
グラジオラスが来る以前はこんな感じだったのだ。
イオーネは待ち合わせ時刻が魔法で刻印された手紙を見つめる。
「もうそろそろ来るはずだけど」
そう呟いた瞬間、ギルドハウスの扉が開く。
「やあ先輩、お久しぶりっすね!」
ハツラツとした声で顔を見せたのは、中性的な顔立ちをしたスポーツが得意そうな女性だった。
髪は短く、跡がはっきりとわかるぐらいに日に焼けていた。
「この子が助っ人?」
ティーガンは会釈をし、イオーネに問う。
「そう。ありがとう、よく来てくれたわね。早速で悪いけど、軽く自己紹介してくれる?」
そう言われると、女性は白く綺麗な歯を見せて笑い、三人の前に立った。
「『ストーリー』のみなさん、初めまして。ロナーって言います。イオーネ先輩の後輩で、助太刀に来ました」
ロナー、それが彼女の名。
彼女はイオーネの後輩のようだが、知らない者から見ればロナーの方が先輩に見えるかもしれない。
それぐらい彼女はしっかりとしていそうな雰囲気を漂わせていた。
「うい~よろしく~。あたしはモチ、サポーターね」
「初めましてロナーちゃん。ティーガンよ、後衛でヒーラーをしているわ」
モチとティーガンも自己紹介をし、握手を交わした。
「よろしくっす。あぁ、そうそう。一応メインアタッカーの枠ってことで来たんですけど、普段はギルドにも所属せずに一人で旅してるんで、全職兼任なんすよね。だからあんまりメインアタッカーっぽく動けないかもしれないですねど、そこはご容赦を」
ロナーは苦笑いをしながら、そう語る。
基本的にはパーティを組み、ギルドに登録して活動を行う冒険者が多いこの地で、パーティを組まないどころかギルドにも所属していない冒険者は相当珍しい部類の存在だ。
確かに共に行動するにあたって不和が生じることもあるにはあるが、それでも集団で動いた方が何かと都合の良い場面は多い。
にもかかわらず、彼女はその名の通り一匹狼を選んだのだ。
「いいのよ、ありがとう。ロナーちゃんは女の子で一人旅してるのねぇ、危なくないかしら?」
案ずるティーガンに、イオーネは手を顔の前で横に振りながら否定する。
「ないない。大丈夫よ、この子逃げ足だけは誰よりも速いから!」
「ちょっと先輩! ……まぁ事実なんですけど。逃げるが勝ちってことで」
彼女が一人でもやっていけている秘訣は、どうやらイオーネも認める逃げ足にあるようだ。
仮にもメインアタッカーの代役であるのに、逃げるのが得意とは些か心配は残る要素ではあるが。
「大丈夫なの~? とは言えグラグラが来る前ってあたしらも逃げてばっかだったから丁度いいか」
モチは眠そうな目を半ば瞑りながら、ソファに溶けるように腰掛ける。
それとは反対に、ロナーはモチの言葉に反応し目を輝かせた。
「グラグラ? ……って! 『氷蝕のグラジオラス』のことっすか! 一回生で見てみたいなぁ~! ねぇ、先輩! 紹介してくださいよー」
「いや、無理よ」
ロナーはイオーネに詰め寄る。
どうやらここ『ストーリー』にグラジオラスが在籍していることは彼女も知っているらしい。
「なんでですか! あのクール以上に凍えるレベルの雰囲気、一度でいいから味わってみたいんっすよ。せんぱーい、会わせてくださいよ~!」
お菓子をねだる子供のように、ロナーはイオーネの腕を引っ張る。
「だから無理だって! 引っ張んな!」
ロナーとイオーネが攻防を繰り広げる傍らで、ティーガンとモチはあることを思いだしていた。
「グラくんがクール……そういえばグラくんって初めて会った時と随分印象変わったわよねぇ。私は今の方が好きね。……可愛いし」
紅くなった頬を手で押さえるティーガン。
「だね、最初とかなんか妙に話しかけづらかったし。イオイオはずーっと話しかけてたけど」
モチはジトっとした目つきでイオーネに視線を送る。
「しょ、しょうがないでしょ。アイツ全然自分のこと喋ろうとしないんだから。だからって根掘り葉掘り聞けるほどデリカシーは失ってないつもりよ」
彼女だけでなく、三人ともグラジオラスに対しては教えたいことや知って欲しいことについてはたくさん話をしてきたが、必要以上のことは聞かないでいた。
それは以前に所属していたギルドに関することも当てはまる。
「へぇ、ますます今の『氷蝕のグラジオラス』が気になってきましたよ!」
「いつかは会わせてあげてもいいけど、当分は無理よ。てかそのグラジオラス様の代打としてアンタを呼んだんだから」
イオーネの言葉を聞いた瞬間、彼女の腕を引っ張っていたロナーの力が一気に弱くなる。
「えー!? あの超人の代わりなんて無理っすよそんな。てっきり先輩ぐらいの生意気な女の子の代わりかと思ってましたもん」
ロナーは手をあちこちへ動かしながら、あたふたとする。
「完全に代わりになる人なんていやしないわ、それっぽくやってちょうだい。急場しのぎでもメインアタッカーは必要なの。あとさりげなく私のこと殴るのやめて」
イオーネとロナーは先輩後輩の関係ではあるが、旧知の仲でもあり、どこか姉妹のような距離感があった。
「しょうがないっすねぇ……じゃあ頑張りますけど、終わったら絶対に会わせてもらいますからね」
そう確約を取ると、ロナーはニッコリと笑う。
しっかり者に見えていた彼女は、実のところそうでもなく、ちょっと子供っぽい可愛げのある後輩だったのだ。
慌ただしくなってしまったが、とりあえずは彼を追放してできてしまった席を埋めることができた。
こうして、なかなかどうして不完全な新生『ストーリー(仮)』は結成されたのである。
ティーガンとイオーネは目の下にクマができており、モチはずっと欠伸をしている。
時計の針がカチカチと鳴り響くのがよくわかるほどの静けさ。
昔からご近所で互いをよく知っている三人からすれば、この静寂さは気まずいものではなく、寧ろ心地良い部類の空気である。
グラジオラスが来る以前はこんな感じだったのだ。
イオーネは待ち合わせ時刻が魔法で刻印された手紙を見つめる。
「もうそろそろ来るはずだけど」
そう呟いた瞬間、ギルドハウスの扉が開く。
「やあ先輩、お久しぶりっすね!」
ハツラツとした声で顔を見せたのは、中性的な顔立ちをしたスポーツが得意そうな女性だった。
髪は短く、跡がはっきりとわかるぐらいに日に焼けていた。
「この子が助っ人?」
ティーガンは会釈をし、イオーネに問う。
「そう。ありがとう、よく来てくれたわね。早速で悪いけど、軽く自己紹介してくれる?」
そう言われると、女性は白く綺麗な歯を見せて笑い、三人の前に立った。
「『ストーリー』のみなさん、初めまして。ロナーって言います。イオーネ先輩の後輩で、助太刀に来ました」
ロナー、それが彼女の名。
彼女はイオーネの後輩のようだが、知らない者から見ればロナーの方が先輩に見えるかもしれない。
それぐらい彼女はしっかりとしていそうな雰囲気を漂わせていた。
「うい~よろしく~。あたしはモチ、サポーターね」
「初めましてロナーちゃん。ティーガンよ、後衛でヒーラーをしているわ」
モチとティーガンも自己紹介をし、握手を交わした。
「よろしくっす。あぁ、そうそう。一応メインアタッカーの枠ってことで来たんですけど、普段はギルドにも所属せずに一人で旅してるんで、全職兼任なんすよね。だからあんまりメインアタッカーっぽく動けないかもしれないですねど、そこはご容赦を」
ロナーは苦笑いをしながら、そう語る。
基本的にはパーティを組み、ギルドに登録して活動を行う冒険者が多いこの地で、パーティを組まないどころかギルドにも所属していない冒険者は相当珍しい部類の存在だ。
確かに共に行動するにあたって不和が生じることもあるにはあるが、それでも集団で動いた方が何かと都合の良い場面は多い。
にもかかわらず、彼女はその名の通り一匹狼を選んだのだ。
「いいのよ、ありがとう。ロナーちゃんは女の子で一人旅してるのねぇ、危なくないかしら?」
案ずるティーガンに、イオーネは手を顔の前で横に振りながら否定する。
「ないない。大丈夫よ、この子逃げ足だけは誰よりも速いから!」
「ちょっと先輩! ……まぁ事実なんですけど。逃げるが勝ちってことで」
彼女が一人でもやっていけている秘訣は、どうやらイオーネも認める逃げ足にあるようだ。
仮にもメインアタッカーの代役であるのに、逃げるのが得意とは些か心配は残る要素ではあるが。
「大丈夫なの~? とは言えグラグラが来る前ってあたしらも逃げてばっかだったから丁度いいか」
モチは眠そうな目を半ば瞑りながら、ソファに溶けるように腰掛ける。
それとは反対に、ロナーはモチの言葉に反応し目を輝かせた。
「グラグラ? ……って! 『氷蝕のグラジオラス』のことっすか! 一回生で見てみたいなぁ~! ねぇ、先輩! 紹介してくださいよー」
「いや、無理よ」
ロナーはイオーネに詰め寄る。
どうやらここ『ストーリー』にグラジオラスが在籍していることは彼女も知っているらしい。
「なんでですか! あのクール以上に凍えるレベルの雰囲気、一度でいいから味わってみたいんっすよ。せんぱーい、会わせてくださいよ~!」
お菓子をねだる子供のように、ロナーはイオーネの腕を引っ張る。
「だから無理だって! 引っ張んな!」
ロナーとイオーネが攻防を繰り広げる傍らで、ティーガンとモチはあることを思いだしていた。
「グラくんがクール……そういえばグラくんって初めて会った時と随分印象変わったわよねぇ。私は今の方が好きね。……可愛いし」
紅くなった頬を手で押さえるティーガン。
「だね、最初とかなんか妙に話しかけづらかったし。イオイオはずーっと話しかけてたけど」
モチはジトっとした目つきでイオーネに視線を送る。
「しょ、しょうがないでしょ。アイツ全然自分のこと喋ろうとしないんだから。だからって根掘り葉掘り聞けるほどデリカシーは失ってないつもりよ」
彼女だけでなく、三人ともグラジオラスに対しては教えたいことや知って欲しいことについてはたくさん話をしてきたが、必要以上のことは聞かないでいた。
それは以前に所属していたギルドに関することも当てはまる。
「へぇ、ますます今の『氷蝕のグラジオラス』が気になってきましたよ!」
「いつかは会わせてあげてもいいけど、当分は無理よ。てかそのグラジオラス様の代打としてアンタを呼んだんだから」
イオーネの言葉を聞いた瞬間、彼女の腕を引っ張っていたロナーの力が一気に弱くなる。
「えー!? あの超人の代わりなんて無理っすよそんな。てっきり先輩ぐらいの生意気な女の子の代わりかと思ってましたもん」
ロナーは手をあちこちへ動かしながら、あたふたとする。
「完全に代わりになる人なんていやしないわ、それっぽくやってちょうだい。急場しのぎでもメインアタッカーは必要なの。あとさりげなく私のこと殴るのやめて」
イオーネとロナーは先輩後輩の関係ではあるが、旧知の仲でもあり、どこか姉妹のような距離感があった。
「しょうがないっすねぇ……じゃあ頑張りますけど、終わったら絶対に会わせてもらいますからね」
そう確約を取ると、ロナーはニッコリと笑う。
しっかり者に見えていた彼女は、実のところそうでもなく、ちょっと子供っぽい可愛げのある後輩だったのだ。
慌ただしくなってしまったが、とりあえずは彼を追放してできてしまった席を埋めることができた。
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