過保護なギルドメンバーは故に彼を追放する

佐橋博打

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第九話 舞い戻りし銀世界

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「ん……」

 目を瞑ってから、確かに死ぬであろう時間が経った。
 だが、痛みも苦しみも感じない。

 イオーネにはただ、冷たさだけが伝わった
 それは死が訪れた合図ではなく、どこか心地の良いもの。
 そして、冷たさと同時に懐かしいぬくもりも感じた。

 彼女はもう二度と開くことのないと確信していた目をそっと開く。

「グラジオラス……」

 冷気を纏い、大きな背中で彼女を守る嘗ての『氷蝕のグラジオラス』がそこにはいた。
 彼の足元にはモチのものらしき魔法陣が浮かび上がっている。
 イオーネはぼやける瞳で彼を見上げたが、そこにあったのは彼女らと共に戦っていた時に見せていた彼のかおではなかった。

「ただいま」

 彼はそう言うと、イオーネを傷つけた骸鳥らに向けて冷ややかな視線を送る。
 つがいの骸鳥らは呼応し、飛び立とうと羽を大きく動かし始めた。

 だが、彼は許さなかった。

「逃がさない」

 グラジオラスが手をかざすと、地を冷気が伝いそれぞれの骸鳥の翼に纏わりつく。

 そして握りつぶすような仕草をとると双方の翼は勢いよく凍り、間を開けずに粉々に砕け散った。
 翼を砕かれた二羽はバランスを大きく崩し、地面に打ちつけられる。

「グラグラぁ~……」

「グラくん!!」

 グラジオラスの登場に唖然としていたモチとティーガンは泣きそうになりながら、彼の元へ駆ける。

「蒸気が出てないうちにこっちへ!」

 グラジオラスはイオーネを担ぎながら、二人を安全な場所へ誘導する。

 すると、彼の視界の隅から見慣れない顔が覗く。

「あ、あの……」

 いきなり現れたグラジオラスに緊張している様子のロナーは、汗をダラダラ流し居たたまれないような表情を浮かべていた。
 彼も同じく驚いていたが、彼女の身体のあちこちついた傷で、すぐさま状況を把握する。

「君もこっちに来て!」

 グラジオラスはロナーの手を引く。

「ふぁい!!」

 素っ頓狂な声を思わず上げてしまったロナーは、彼と共にモチとティーガンの元へ走る。

「モチちゃんはバフを……できる分だけでいい。あと、ティーガンさんは二人の回復を」

 彼の指示に驚きの表情を見せた二人だったが、すぐにその指示に従った。

 グラジオラスはゆっくりと地面にイオーネを降ろす。
 ティーガンの回復魔法によって、じわりじわりと傷は塞がっていった。
 同じく傷がたくさんできていたロナーも治癒を受ける。

 回復したイオーネは目を覚ます。

「イオーネ、大丈夫か?」

 至近距離に飛び込んだ彼の顔に対し、目をかっぴらいて茹で蛸のような顔色になる。

「うん……ありがとう」

 イオーネは辛うじて、消え入りそうな声で返事をした。
 無事を確認し、ホッとしたグラジオラスはいつも見せていた笑顔を見せる。

「えっと……」

 二人の側でモジモジとしているロナー。
 まだグラジオラスは彼女の名を聞いておらず、人付き合いが得意でない彼はどう切り出すかを迷っていた。

「ロ、ロナーです!!」

 彼女は言葉に詰まりながらも、大きな声で名を伝える。
 グラジオラスは頷き、二人にも指示を出す。

「イオーネ、ロナー。二人はあの鳥から出てる蒸気を斬撃で吹き飛ばすことだけに専念してほしい。本丸は俺が叩く」

 あの厄介な蒸気はクールダウンを経て、また使用してくるだろう。
 流石のグラジオラスでも近づくことができなければ決定打を与えることができない。
 何しろあれは骸鳥、既にこの世に存在しない者である。
 存在を消し去るには、直接それぞれの動力となる核を壊す必要があるのだ。

「グラジオラス、もう……大丈夫なの?」

 イオーネは心配そうに伺う。
 彼のスランプについてのことであろうが、グラジオラスの表情からはもう迷いは無かった。

「あぁ」

 彼はそう告げると、再び冷気を纏う。

「蒸気が来るぞ! 斬り裂け!」

 グラジオラスの声に合わせて、イオーネは蒸気を斬り裂く。

「はぁッ!!」

 斬り裂かれた蒸気は左右に分かれ、霧散した。
 その隙にグラジオラスはメスの骸鳥に駆け上がり、その頭上へ跳ぶ。

「まずは……一匹目!」

 そう言うと、彼は骸鳥の頭部を凍らせて、かかと落としで粉砕した。
 頭部を失った骸鳥はフラフラと地を揺らしながら蠢いた後、足元から来る冷気によって凍結、そして粉砕された。

「やっ、べぇ……」

 ロナーは間近で見る『氷蝕のグラジオラス』の立ち回りを受け、思わず口をあんぐりと開ける。

 その時、大地を震わせるような雄叫びと共にオスの骸鳥が突進してきた。

「くるぞ! 俺の後ろに隠れろ!」

 グラジオラスは冷気を操り、骸鳥の脚を止めようとする。
 だが、の魔獣は執念で冷気のくさびを振り切った。

 衝突することを免れないと察したグラジオラスは、冷気を凝縮し氷の盾を出す。

「モチちゃん、強化を!」

「おっけーい!!」

 モチから僅かではあるが与えられた強化魔法によって、氷の盾は強固なものとなる。

「グッ……!!」

 巨大な骸鳥の脚が、彼らを押しつぶさんと圧し掛かる。
 いかに強固な盾とてその弩級の重さには耐えきれず、氷はメシメシと音を立て、今にも盾が砕かれようとしていた。

「私も良いとこ見せたいんすよ!!」

 ロナーは叫ぶと、グラジオラスと共に盾に手を添える。
 すると、盾の強度がみるみるうちに上昇した。

「これは……」

 彼女の意外な才能に驚きつつ、力を更に込める。
 やがて骸鳥の体力が先に尽きたのか、押さえつけられる力が弱まった。

「ハァあああ!! セイッ!!」

 グラジオラスはロナーと力を合わせると、なんと盾で巨大な骸鳥を押し返した。
 骸鳥は体力が減っていることもあり、後退しながら大木にぶつかる。

「手の回復お願いしますティーガンさん」

「まかせて!」

 彼はティーガンに治癒を要請する。
 いかに人並外れたグラジオラスでも、所詮は人間。
 その手は酷く圧迫された影響で青黒くなっていた。

 彼の手が回復した頃、時同じくして骸鳥も体勢を立て直す。
 そして荒々しく身体を揺らしながら、再びこちらに対し殺意を向ける。

「もう一度来るぞ!」

 グラジオラスの声が響くと同時に、骸鳥の全身から蒸気が噴き出す。
 明らかに威力の弱まっている蒸気からは、もう骸鳥の力は底を尽きかけていることを意味していた。

 イオーネとロナーは再び蒸気を斬り裂く。

「セイっ!!」

 蒸気は分散し、本体があらわになる。

「そのまま双方から回り込んでくれ!」

 二人は右と左、それぞれから大回りをして位置取る。
 そんな二人には目もくれず、オスの骸鳥は怒りを燃やしながらその爪をグラジオラスに立てようとした。

「まぁこっちが気になるよな」

 グラジオラスは挑発するように、手を広げて構える。

「そこだァっ!」

 イオーネの声が響く。

 その瞬間、骸鳥は顔から地面にぶつかった。
 周囲をみると、それぞれの脚部が千切れていたのだ。

「よくやった!」

 グラジオラスは吠える。

 そう、これはイオーネとロナーの功績だ。
 彼女らはそれぞれの剣にグラジオラスの冷気を纏い、彼に注意が集まっている隙を狙って、イオーネが右脚をロナーが左脚を攻撃し破壊したのである。

 グラジオラスは骸鳥へ向けて跳躍する。
 蒸気も動きも無くなった骸鳥に、もう打開するすべは無かった。

「せやあああぁアアあッ!!」

 彼の剣は上空から骸鳥を真っ二つに切り砕く。
 その肉塊は、弾ける寸前で全て氷に覆われて結晶となった。

 彼女ら『ストーリー』と出会ったあの頃と同じように、山頂は一面銀世界へと色を変える。
 グラジオラスは手に積もった結晶を眺め、そっとてのひらを握った。

「やったぁ~! 勝った勝ったぁ~」

「おかえりなさい、グラくん!」

 モチとティーガンが駆け寄る。
 ティーガンは目を腫らすほど涙を零していた。

「大袈裟ですよ。でも、ありがとうございます」

 彼女の涙を拭い、差し出してきたモチの頭をフードごと優しく撫でる。

「めっちゃくちゃカッコよかったっす!! グラジオラスさん!」

 ロナーは未だに興奮を抑えきれないのか、鼻息を荒くしている。

「いきなりだったのによく合わせてくれたね。助かったよ、ロナー」

 彼の言葉に、ロナーは飛び回った。

 実際、その場に居合わせただけであそこまでグラジオラスに合わせることができるのは特異である。
 長い間付き添ってきたイオーネですらやっとであった。
 それは恐らく、ロナーは『氷蝕のグラジオラス』についてよく研究していたからであろう。
『ストーリー』に来る前、彼本来の動きを熟知していたからこそできた動きなのだ。

「吹っ切れたみたいね、良かったわ」

 グラジオラスの表情が明るくなったのと同じように、イオーネも明るい表情を浮かべていた。

「あぁ、いい機会になった。追放してくれてありがとう、なんて」

「やめなさいよ。二度と追放なんてしてあげないんだから」

 彼の冗談に以前のようにムッとしながらも、イオーネは帰ってきた彼がいる喜びをそっと噛み締めた。
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